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絶叫と

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駅構内に響く絶叫、悲鳴とも雄叫びともつかない痛々しい声。アキの声だ。

《よーしアキ、怒ったな。さぁ来い!》

アキを蹴り飛ばし、歌見を転ばせ、セイカを殴った不審な外国人らしき男は楽しげにアキに呼びかけている。

「せんぱい……」

突然転ばされ受け身が取れなかったらしく、背中を強打した歌見は起き上がれないでいる。

「せぇかぁ……」

セイカは男に胸ぐらを掴まれたままぐったりとしている、多分意識がない。俺がどうにかしなければ。

「お、おいっ! お前っ……!」

《ん? お前アキに似て……いや、あぁ、あの女に似てるのか。俺の嫁の友達、すっげぇイイ女……あの女の子供だな? つまり……秋風のだぁい好きなお兄たまだ》

男が動く。俺は咄嗟に腕を交差させて首を守った。男の丸太のような足で腕ごと首を蹴られ、吹っ飛んだ。

(いっ……でぇえええっ! 腕折れたんじゃね!? 肘擦りむいたっ、やべぇでそ……ギリギリ意識喪失だけは回避しましたが、腕がしばらく使い物にならなさそうでそ……)

痛い。痛い。でも頭も足も無事だ、立てる。

《ん……? 今ガードしたかお前、よく分かったなぁ顎狙うって! 素質あるぞ、鍛えてやろうか?》

よろよろと立ち上がった俺に男は嬉しげに語りかける、先程まで全く興味がなさそうな顔をしていたのに。あの冷たい瞳は、アキの目線によく似ていた。

《……っと、今はこっちだな》

血まみれの顔をそのままに、立ち上がったアキが男に飛びかかる。

「ア、アキ……!」

よく見るとアキの顔の血は、切符売り場のどこかに顔をぶつけて瞼を切ったなんて生易しいものではなかった。かけていたサングラスが割れて破片が刺さっているのだ。

「ま、待って! 待てよ! やめてくださっ……うわっ!」

気絶しているセイカを投げ付けられ、受け止め切れずに尻もちをつく。転んでる場合じゃない、このままじゃアキが……! 立ち上がる足に力を込め、セイカをどうするか悩み、俺よりも先にフラフラと立ち上がった歌見を止めるか悩み……思考がぐちゃぐちゃになる俺の耳に鈴の音が届いた。

「考えるのはたった一つ……ヌシがどうしたいかじゃ」

ポン、と頭に手が置かれた。

「願え、祈れ、縋れ、一心に。さすれば森羅万象は応えよう、ヌシの願いは届くじゃろう」

ひた、ひた、と顔に冷たい手が触れる。獣臭さが背後から漂ってくる。

「さぁ……呪え、呪うのじゃ、恨め、抱け敵意を!」

俺は目を閉じ、あの乱暴な外国人の男がもう俺の彼氏達を傷付けないようにと強く願った。その瞬間、台風もかくやと言うような突風が吹き、どこからともなく飛んできた一斗缶が男の頭を直撃した。

「え……?」

「ほぅ! えらい偶然もあるもんじゃのぅ、突風がこんな物を運んでこやつの凶行を止めるとは! なんての……はぁ、弱っとるのぅワシ。みっちゃん、後であぶらげいっぱい買っとくれ」

「えっ、ぁ……コン、ちゃん? 今のは、君がっ」

ドタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。警察がやっと到着したらしい。姿を現していたミタマはまたすぅっと消え、一斗缶がぶつかってフラフラしていた男は慌てて逃げ出した。



俺達は警察に保護された。病院に運ばれ、治療を受け、軽い事情聴取を受けた。

「脳が揺れて意識失ってただけで、後遺症はなさそうだってさ。アザもないし……何らかの武道の達人の仕業だなって警察の人話してた」

「転ばされた時に頭打ったから俺も一応精密検査を受けさせられたよ。何ともなかったけどな」

「……秋風、瞼とか目の周りにサングラスの破片刺さってたって……眼球に傷は付いてないけど、深く切ってるところもあるからそこは縫うって……まだ、戻ってきてない」

「そう、か……」

「水月は大丈夫なのか?」

「あ、わたくしは……腕に打撲と、肘擦りむいただけでそ」

事情聴取が終わった後、俺達は集まって互いの怪我の状況を話した。ため息をつき、先程買った缶ジュースを飲み干すと、母と義母が個室から出てきた。

「母さん……」

「水月! あぁ……水月、大丈夫だった?」

彼女達は警察に俺達が巻き込まれた事件の説明と、あの外国人に心当たりがないかなどの聴取を受けていたようだ。

「……すみません、俺が着いていながら」

「いいのよ歌見くん気にしないで……歌見くん、今日は私の家に泊まっていきなさい。一人暮らしでしょう? 物騒だから……ね?」

「…………はい、お世話になります」

「ねぇ、アキ……アキは? 居ないんだけど……」

「ぁ……秋風は、サングラスが割れて刺さっちゃって……俺達より重い怪我なので、少し時間がかかってます」

「そんなぁ……! アキぃ……」

「…………手当てが終わるのを待ちましょうか。一階のコンビニ、開いてるわよね。何か……飲み物とか食べ物、買いましょうか。落ち着きたいわ」

母に連れられてコンビニへ。義母だけはアキの処置が終わるのを部屋の前で待つことにしたので、四人での買い物だ。

「あの……あの男は、一体」

「……見知らぬ不審者、酔っ払った外国人か何かが通りがかりのアンタ達にたまたま目をつけた。ってことになってるわ、今のところはね」

「今のところ……?」

「色々とね、面倒臭いのよ……連れ去りとかもあって……だからアイツの素性は警察には話さなかった。滞在は水月達が旅行中の間に終わるはずだったのに……嘘ついてやがったわね、あの男っ……多分アイツの逃げ足ならすぐには捕まらないだろうから、その前に手ぇ打ってやるわ、警察なんかに渡してたまるか、今度は再起不能にしてやる、私の息子達に怪我させたこと地獄で後悔させてやるわよ……!」

ちょうど手に取っていた菓子パンが母の手の中でぐちゃぐちゃに潰れている。

「あら…………ちゃ、ちゃんと買うわよ。買い取るわよ、私食べるから……そんな目でお母さんを見ないの!」

般若面のような形相をコロリといつもの笑顔に変えて、母は人数分のジュースとお菓子などをカゴに入れてレジに向かった。
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