冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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観光デートはこれで終わり

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出汁の香り、旨みに思わず吐息が漏れる。ツルツルと啜ったうどんのコシに舌鼓を打つ。半熟卵を割って麺に絡ませ、一口目とは違った味わいを楽しむ。

「美味し……痛っ、何……うわ」

指にチクッと微かな痛みを覚え、視線をやれば割り箸のささくれが刺さっていた。血は出ていないし、抜いてしまえばどこが痛かったのかすら分からなくなったけれど、楽しい食事を邪魔されたような不快感は残る。

「カカカッ……これに懲りたら嘘をつかないことじゃ」

「……コンちゃんの仕業?」

「嘘をついた報いじゃ。何が起こるかはワシにも分かっとらんかった、そう怖い顔をせんでくれ。ワシを謀ったヌシが悪いのじゃ、反省せぃ」

嘘だの謀りだのと言われても納得は出来ないけれど、まぁ、ミタマの気が晴れたのならこのモヤモヤも先程の痛みも大した問題ではない。

「やっぱもち米ドーナツ最強~、買ってよかったっしょせーか」

「うん……もちもちしてる。勧めてくれてありがと、霞染」

「気に入った~? よかったぁ~、なぁにもぉアンタ素直にしてりゃ割と可愛いじゃーん」

ハルとセイカはそれなりに打ち解けたようだな。

《カリフラワーって肉汁吸わせてもソースに沈めてもカリフラワーだよな、我の強い野菜だぜ》

アキはカリフラワーやコーンなど付け合わせから食べているようだ。肉を食べた時の顔が見たいのに、焦らしてくれるじゃないか。

「久方ぶりのあぶらげ……! 輝いておるようじゃ……!」

ミタマはきつねうどんの油揚げを箸で持ち上げ、うっとりと眺めている。

「……! 中クリーム入ってる」

「知らずに買ったの? サプライズじゃ~ん」

「うん……美味しい」

甘い物を食べると人は自然と笑顔になるものだ。ハルもセイカもいい笑顔を浮かべている、撮っておきたいな。

《日本のステーキは柔らかいな。まぁ美味いからいいけど》

とうとうアキが肉を食べ始めた。予想よりも表情が硬いが口角が上がっているのは伺える、可愛い、こっちも撮りたい。

「手が震える…………はむっ、んっ……んんん……!」

震える手で油揚げを口に運んだミタマは、甲高くくぐもった声を上げて目を見開いた。胡散臭い系美人の糸目キャラが食事如きで開眼するな。

「神じゃ、あぶらげは神じゃ……」

「……神は君だろ?」

思いもよらぬ今風の感想に思わず小声でツッコんでしまった。

「ワシはただの下っ端じゃぞ」

「そうなの……?」

「はぅん……あぶらげの甘みが僅かに移った麺もええのぅ」

食事中一番表情が豊かなのはミタマで確定、と。彼を撮るのなら静止画ではなく動画が相応しいな。



昼食の後は再びショッピングモールを回り、涼しく買い物を楽しんだ。チェーン店ばかりだったがそれでもやはり東京とは雰囲気が違い、京都らしさを味わえたと思う。

「みっつん今日帰るんだっけ?」

「あぁ、夜中にゆっくりな。寝台列車って憧れあったんだよ」

「あ~、分かる~! ちょっと憧れあるよね~……あれ、京都にあったっけ?」

「一回大阪に戻るんだ。日付変わる頃に乗って、寝て……起きたら東京! いいだろ~」

「大阪からこっち来たのに戻るの~? あははっ、りゅーと俺逆にすればよかったのに~。ふふ……そっかぁ、みっつん帰っちゃうんだ……明日は会えないんだね」

笑顔で話してくれていたハルが表情を曇らせる。

「……ま! 俺もそろそろ東京帰るし、そしたらまたデートしよっ。ぁ、そろそろ家だ。もう見えてるしここまででいいよ。ばいばーい!」

しかしすぐに笑顔に戻り、手を振って走っていった。俺も笑顔で手を振り返したが、ハルの姿が小さく見えなくなっていくと寂しさが湧き出て胸が苦しくなった。

「また何日か会えないな……ゃ、東京帰ったらまずレイと先輩とシュカとネザメさんミフユさん──」

近畿旅行は楽しかったけれど、それによって会えなかった彼氏も多い。今のうちに彼らと予定を共有し、東京に帰ったらすぐに彼らに会わなければ。

「……お前夏休みの課題は?」

「ゔっ……セイカ、言葉はナイフなんだぞ」

「それもっと酷い悪口とかの時に言うべきことだろ……」

「何じゃ、みっちゃん困り事か? きつねうどんを貢ぐのならワシが解決してやってもよいぞ」

ミタマが俺の顔を覗き込み、胡散臭い笑みを浮かべた。

「うどんで宿題肩代わり……!?」

「ダメだぞ! 課題は自分でやらなきゃ意味ないんだ」

「セイカぁ、珍しく大声出したと思ったらそんな堅物な……コンちゃんがいいって言ってるんだからいいじゃないかぁ!」

「ダ! メ! お前課題関連になると途端に倫理観失うんだな……」

学業関連になると途端に真面目さを出してくるなぁ……

「まぁ、やれるところまでやってみるよ。セイカに教えを乞うことにはなるだろうけどそれは許してくれるか?」

「課題って基本復習だろ……大丈夫かよお前」

「彼氏達と一緒に進級はしていきたい……いや待てよ、留年すれば歳下の男の子達に囲まれるのか」

「お前の顔なら留年しなくても囲まれるから安心しろ。それよりホテル着いたけど……えっと、分野わけの? どこまで着いてくるんだお前」

カラスの声が響く夕暮れの空、赤や紫が不気味な空を背景にミタマはにっこりと微笑む。目も口も閉じて、胡散臭いを通り越して気味が悪い。生物としての本能が目の前の彼を同種ではないと即断し警鐘を鳴らしている。

「みっちゃんが離れとうないと言うたでの。のぅ? みっちゃん、ワシを傍に置いておきたいんじゃろう?」

首を傾げるミタマの足元から伸びる影に、三本の尾が揺れて見える。

「うん、ずっと傍に居て欲しいけど……ホテルは三人で予約取ってるから、難しいなぁって……」

「…………そうか、そうか。カカカッ! 安心せい、ヒトが作った決まりなんぞで未来の旦那様を嘘つきにはせぬぞ。一生一緒じゃ、また後での、だぁりん」

口の端を吊り上げて不気味に笑い、ミタマは俺達に手を振った。黄昏時にとうとう本領を発揮したとでも言えばいいのか、ミタマの放つ奇妙な圧力に俺達はろくな挨拶も発せずに、弱々しく手を振り返してホテルへと戻っていった。
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