冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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小さな稲荷にお参りを

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神社に行きたいと言ってみたら、ハルがスマホで近場の神社を調べてくれることになった。パッと思い付いた京都の名所が無数の鳥居による幻想的な風景だったと言うだけで、俺は別に神社マニアでもないのだが……昨日の昼まで神社に居たし。

「ここ近くない? 行ってみよ」

「あぁ……ぁ、ごめん、母さんから電話だ。ちょっと待っててくれるか?」

「OK~、道確認しとくね~」

ハルはスマホ片手に周囲を歩き回り、道の確認を始めた。俺はハルから少し離れてスリープモードのスマホを耳に当て、口を開いた。

「サキヒコくん、居る?」

「もちろんだ、水月。今日の相手は可愛らしいお嬢さんだな」

「分かってると思うけど男だからね」

「もちろん分かっているとも、彼は以前にも見た。それで? 用事は何だ?」

「……これから神社行くから、気を付けなよって言いたくて。神主さんとかに見つかって祓われちゃったら大変だからさ、あんまり近寄っちゃダメだよ」

「そのくらい言われなくとも大丈夫だ。しかし……ミツキが私を心配してくれたのはとても嬉しい。ミツキ、気を付けて……行ってらっしゃい」

ちゅ、と頬の辺りで音がした。感触はなかったけれどキスをされたのだろう。サキヒコの姿を見たいし、触れたい。どうにかサキヒコを出会った時のような強力な霊にする方法はないだろうか。

「ハル、ごめんごめん」

「いーよっ。何話してたの~?」

「ちょっとした状況確認、アキちゃんと紫外線対策してるかとかセイカ薬飲んでるかとか。デート中って言ったらすぐ切ってくれたよ」

「ふ~ん、行こ行こ~っ」

着物姿のハルに腕を組まれ、幸福感に浸りながら歩いていく。スマホで地図を確認しながらのハルが転んだり何かにぶつかったりしないよう、サンと歩いている時のように細心の注意を払った。

「次右~」

「なんか……人気、なくなってくね。あんまり賑わってる神社じゃなさそう?」

「ゆっくりお参り出来るじゃん」

「うーん……でもなんか、人いっぱい来てる神社の方が神様のパワー強そうじゃないか?」

「同接何万人の配信者より同接三人くらいの配信者のが、コメントした時反応いいじゃん。神様のパワー強くてもその分人が多くちゃご利益も薄まっちゃいそうじゃない? あんまり人来ないとこの方が張り切ってご利益くれるよ~」

そんな打算的な考えで神社に行っていいのだろうか。配信者と神を重ねて話していいのだろうか。色々と考えることはあるが、今更「人気なさそうだから行かない」なんて失礼過ぎる。俺達は参拝客が一人も居ない寂れた神社に足を踏み入れた。

「ちっちゃいけど~、木がいっぱいで空気綺麗な気がするね~」

「……そうだな」

サキヒコはちゃんと離れたかな? 姿が見えないから不安だ。

「手水舎の水冷たくて気持ち~……さ、お参りしよっ」

「あぁ、ところでここの神社ってどういうご利益とかあるんだろうな」

「……さぁ?」

まぁいいか。幽霊が彼氏に居る以上、神や仏にあまり深く関わるべきではないだろう。参拝ではなく観光として入らせてもらおう。

「あれ……? みっつんみっつん! こっちにもある~!」

お参りを終え、おみくじを引いたりお守りを買ったりする場所はないみたいだなと辺りを見回していると、ハルが大声を上げて俺を神社の裏手に呼んだ。

「見てほら、ちっちゃい社」

「ホントだ」

裏手にある小さな社の前には狛犬のように狐の像が置かれているが、肝心の頭がない。尻尾で何とか狐だと分かる。

「狐……? お稲荷さんかな」

「その通りや、嬢ちゃん坊ちゃん」

後ろから声をかけられ、驚いて振り向くと宮司と思しき男性が竹箒を持って立っていた。

「やぁ若い参拝さんは久しぶりやわ、お稲荷さんまでちゃんと見てもうて」

「はぁ……あの、この像はこういう形の像……ではないんですよね?」

「あぁ……こないだ夜中になぁ、なんやタチの悪い連中入り込んだみたいでなぁ、境内ゴミだらけやわ、参道に「参上!」とか書いとるわ、お稲荷さんの首折ってどっかやってまうやとか、ひっどいことしよったんや」

「えぇー、本当に酷い……警察とかに言いました?」

「言いた言うた、捕まりよった。せやけど酔っとったから覚えてへん言うてなぁ、首見つかれへんねん。新しい像作ってもらう余裕もないしなぁ……」

宮司のため息に引っ張られて俺達も暗い気分になる。

「…………あぁ、すんませんなぁ、こないな話するつもりなかったんですけど……ぁ、せや、ここのお稲荷さんはねぇ、縁切り得意なんよ。アベックさんには無用やろうけど」

「ア、アベックってぇ……恋人ってこと~?」

「そうそう……最近はもうアベック言わんのでしたっけ」

「えへへへっ、アベックだってみっつんアベックだってぇ~」

ちゃんと恋人同士に見えているのが嬉しいのか、ハルは緩んだ笑顔を浮かべて俺の腕にしがみつき、俺の腕をぶんぶん揺らした。

「ふふ、可愛い…………縁切りかぁ」

セイカとその母親とか、アキとその父親とか、レイと元カレとか、ハルとその父親とか、俺の縁ではないけれど切りたい縁は山ほどある。お願いしておこうかな。

「縁切りはやだ~。縁結びがいいなぁ、みっつんともっとぎゅーって、ね~?」

「……そうだな」

ハルが思い付いていないのなら父親の話はしないでおこう、連想させそうなアキやセイカの親の話もやめておこう。

「でもレイと元カレは切っといてもらおうかな」

「もう綺麗に別れたんじゃなかった?」

「念入りに切っときたい……」

「あははっ、そうだね~。でも本人が来なきゃダメじゃない?」

「それもそうかぁ」

俺自身には切って欲しい縁はないので何も頼まず、宮司に挨拶をして神社を後にした。
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