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二人きりで少しだけ

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両腕を抱かれ、俺は連行されている気分で京都観光を行った。せっかくハルに会いに来たのに、ろくにハルと話せていない。

「そういえば~、水月くんって付き合ってる子居たよね?」
「あ~言ってたね~、もう別れた~?」

「えっ、いや、別れてませんけど」

「え~……その子、私よりいいの~?」
「どんな子~?」

「……あなた達と、少し似てますけど」

「似てる? ファッションとか?」
「性格方面~?」

「一見積極的で明るい子って感じなんですけど、でも実は恥ずかしがり屋で清純で、すごく可愛いんです」

「めっちゃ惚気けるじゃ~ん……」
「私も実は結構恥ずかしがり屋で~……ダメ?」

「その子が傷付いちゃうんで、悪いんですけど……腕離してもらえません?」

「いいじゃん連れてきてる訳じゃないんだし~」
「そうそう、バレないバレない」

目の前なんだけどな、と一見三姉妹と同じように見えてその実清純派なハルの姿を思い浮かべる。

「……離して、ください」

「…………は~い」
「え~……しょうがないな~」

両腕が開放された。風が吹き抜け、湿っていた腕と脇腹に涼しさが与えられる。久しぶりに一人になった気がする。

「ありがとうございます」

「も~、真面目なんだから~」
「別れたら言ってね~?」

抱きつかれなくなっただけで両隣は変わらず長女と次女だ。ハルはアキとセイカの後ろをとぼとぼと着いてきている。さっきまで俺の後ろに居たのにどんどん歩行速度が落ちているようだ。

(どうしましょう……)

道を広がって歩くのは、とか言って姉達を引き離そうか? いや、隣に並ばなくなるだけで彼女達が一番近くに来るのは変えられないだろう。何か他に策を寝らなければ。

(……何かしら漏らせば、嫌われるでしょうか)

捨てるか? 尊厳。

(いやいやいや、まだ出来ることはありまそ! 無策で突っ込むのもまた策でそ!)

俺は踵を返し、来た道を戻った。突然振り返った俺に驚いたセイカの横を抜け、ハルの手を掴む。

「ハル、オススメの店あるって言ってたよな。どこだ? 案内してくれよ」

「……ぇ?」

暗い顔をしていたハルが俺を見上げる。微かに漏れた声は、まるでずっと人と話していないから声が上手く出せなくなっていた引きこもりのような声だった。

「そんな、こと……俺言ったっけ」

「言ったよ。言ったってことにしろ、一緒に行こう? な?」

「…………うん」

ようやく笑ってくれた。でもまだ弱々しい、俺はもっと思いっきりの笑顔が見たい。



まだほんの少しだけれど元気を取り戻したハルは俺を目に付いた店に引っ張った。どうやらつまみ細工で作ったアクセサリーを売っている店のようだ、当然三姉妹も着いてきたし、一応アキとセイカも着いてきている。

「つまみ細工可愛いよね~」

「……俺このくらいなら作れるけど」

「そういや作ってくれるって言ってたね」

「あぁ、今度家来てくれよ、布選んで欲しい。あとデザインも何個か案出すから好きなの選んでくれ」

「オーダーメイドだねっ。じゃあ買うもんないかな~」

「あ、ちょっと待ってくれ。もうちょい見て回りたい、なんかいいインスピレーション湧くかも」

購入することなく今度作るつまみ細工のネタ出しの材料にするなんて、店側はたまったものではないだろう。でも写真は撮っていないし、気に入った物がなくて出て行く者となんら変わりはないはずだ。

「…………ね、みっつん。ちょっと来て」

「ん?」

ハルはきょろきょろと店内を見回すと、俺の手を掴んで引っ張った。

「早く早く……!」

「お、おい? ハル?」

店の外へ引っ張り出すと走り出した、仕方なく俺も足を早める。

「ハル……」

ハルが店内で警戒心たっぷりの顔で辺りを見回していたのは、姉達を撒くためだ。つまみ細工のアクセサリーに惹かれた彼女達は俺から目を離していた、その隙をついて彼は俺を連れ出したのだ。

「……ハル、二人で抜け出すって展開には俺ちょっと憧れあったけどさ……お姉さん達だけならまだしもアキとセイカ置いてくのは、心配かな」

「うん……ごめん」

しゅんと落ち込んだハルはまるで縮んだように見える。

「…………まぁ、アキは一歳下なだけだし、セイカ同い歳だし、あんまり心配すんのも逆に失礼だよな! しばらく二人きりで回ろうか」

暗い顔をしていたハルは花が咲くようにぱぁっと笑顔になり、頷いた。俺達は他人の目など気にせず手を取り合い、指を絡ませ合って歩いた。



しばらく歩くと喉が乾いてきたので、茶屋に入って団子と抹茶を買った。

「にっっがぁ…………なんでこんなもんありがたがって飲んでんだよみんな……」

「みっつん抹茶苦手なの~? お子ちゃまだな~、か~わいい」

三色団子を片手にハルが俺をからかう。俺はみたらし団子を一つ食べ、抹茶に受けた苦味を中和しようとした。あんまり中和されなかった。

「牛乳とか入れたいよ……しかし、喉が乾いたから茶屋で団子……うーん、江戸時代って感じだなぁ。いいなぁ」

「江戸ってみっつん、遡りすぎ~」

「はは……時代劇くらいしか連想するのがなくてさ」

赤い布が被せられた長椅子に腰掛けて、和傘の下で団子を食む。それが今のハル以上に似合う人間など居るのだろうか。もぐもぐと動く口を横から眺めるのはたまらなく楽しい。

「……しかし暑いな」

「夏は蒸し風呂、冬は底冷え、春秋は観光客だらけ。それが京都だよ」

夏暑いなら冬暖かく、冬寒いのなら夏涼しく、それが道理ってもんだろうにそう出来ている土地は少ない。

「みっつん行きたいとことかあるの?」

「あー……神社行きたいな。鳥居が大量にあるの見たい!」

「あーあの神社? こっからだと結構遠いよ~? 今夏休み真っ最中だし、観光客でパンパンで、いい写真なんか撮れないしあんま落ち着いて見られないだろうけど~、それでもい~い?」

人が多いのは苦手だ。誰も居ない無数の鳥居が並ぶ道を歩いていきたいのだ。

「よくない……諦める……」

「そぉ? 人が多くて雰囲気ないって言ってもさ~、直で見りゃなかなかだと思うけど~?」

「うーん……人混み苦手なんだ。やめとく」

「そっかぁ……他にみっつんが喜びそうな神社あるかな~? ちょっと待ってね、調べるから」

ハルはスマホに近所に神社があるかと問いかけた。機械音声と共にマップアプリで検索された近辺の寺社仏閣情報が表示された。
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