冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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朝食はバイキング

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腕が痺れた。朝一番の感想はそれだったが、セイカに「ほれ見たことか」みたいな顔をされるのが目に見えていたので黙っていた。

《クソ眠ぃ……》

寝起きに異国の言葉は辛いぜ。おはようと挨拶をしてくれたのだと思おう。

「おはよう、アキ」

「にーにぃ、おはよー……です」

腕を軽く揺らしてセイカを起こし、三人でほぼ同時に伸びをする。起き上がり、朝支度を始める。

「朝はバイキングなんだ、さっさと着替えて行……あぁセイカ、クマは置いてけクマは。な? お留守番させておこう?」

「でも」

「ご飯食べに行くとこに連れてったら汚れちゃうぞ?」

「……置いてく」

「車椅子どうする? 乗ってく?」

「置いてく」

テディベアは渋るくせに車椅子は即決なのか、と車椅子を不憫に思いつつ一階へ。バイキングが行われている広い部屋でまずは席を探す。

「ローストビーフあるな、エビフライも美味そう……何食べるか迷うな~」

「……バイキングって、よく知らないんだけど。秋風も……鳴雷分かる?」

「向こうに色々置いてあるだろ? 食べたいもん取って、この席に戻って食べるんだ。そんな難しいことはないよ。あぁ、列が出来てたらちゃんと順番待ちするんだぞ?」

セイカがアキに説明をするのを待って立ち上がり、皿を数枚乗せたトレーを片手に列に並ぶ。

(何食べましょう、せっかくのご馳走ですしカロリー制限ちょっと無視しちゃいましょうか。後で多めに運動するからきっと太りはしませんぞ!)

自分にそう言い聞かせつつ何気なくセイカとアキの様子を見た俺は、とんでもないことに気が付いた。

(セイカ様、飯取れねぇじゃありませんの!)

左手でトレーを持っているセイカに食事を取る手段はない。早めに気付けてよかった、セイカはこういった絶対他者に頼らなければならないことですら遠慮して黙っていることがある。

「セイカ、欲しいのあったら俺に言うんだぞ。何をどれだけ食べても値段一緒なんだから高いのいっぱい食べなきゃな」

「うん、ありがとう鳴雷」

料理について尋ねるアキに二人で答えつつ、セイカに料理を取り分けてやった。席に戻り、手を合わせる。

「いただきまーす」

セイカの少食は遠慮しがちな性格からではなく、実母によるネグレクトが原因だ。男子高校生にあるまじき胃の縮み具合はトレーの上の料理の量からも読み取れる。

「俺それ取ってないんだよな、どう? 美味しい? 玉ねぎ入ってるタイプ?」

「美味しい。入ってるけど、鳴雷玉ねぎ嫌いだっけ」

「そのタイプの料理に玉ねぎ要らない派なんだよな」

「ふーん……? なぁ、鳴雷、すっごい見られてるけど……いいのか?」

ずっと感じていた視線についてセイカがようやく言及した。それなりに品のあるホテルのため客層も良く、盗撮されたりなどは今のところなさそうだが、視線やヒソヒソとした話し声はある。

「よくはないけど、対策のしようないし」

「……顔がいいのも困りもんだな、お前ら兄弟は日常生活も大変そうだ」

「メリットもデメリットもデカいよ」

デメリットは今も味わっている見知らぬ人間からの視線、噂話、盗撮などなど。

「メリットなんかあるのか?」

「可愛い子を楽に口説ける」

「あぁ……俺はお前がどんな顔でもいいけど、他のヤツらはそうでもないもんな」

「そう言われると傷付く」

「えー……ごめん……いやお前が言ったんだぞ」

「確かに俺には顔以外の魅力ないけどさぁ」

頭はそれほど良くないし、性格も十五股を平気でするような男、超絶美形でなければ誰も俺の誘いになど乗ってくれない。

「……俺は鳴雷の顔がどんなのでもいい。顔以外魅力ないとか言うなよ」

「ありがとう」

セイカは今注目されているのが俺とアキだと思っているようだが、セイカもかなり目立っている。欠損は大きな特徴なのだ、みんな思わず目を引かれては慌てて目を逸らす。

「鳴雷の一番いいとこは性格だ」

「いやいや顔だよ……」

《秋風、鳴雷の一番いいとこって何だ?》

《ちんぽの形とサイズ》

「はっ……」

「セイカ? アキなんて?」

一言ずつの会話の後、セイカは何かを鼻で笑った。

「いや、何でもない」

「え~、気になるなぁ」

《おかわり行ってくるぜ》

立ち上がったアキは空になった皿を乗せたトレーを持ち、料理の方へ向かった。

「もう食べたのか……早いな」

「よく食うなぁ、俺もうこれきりでいいぞ」

「セイカは少食過ぎるよ。毎回ちょっと苦しいかなってくらい食べて胃少しずつ広げていったらどうだ?」

「苦しいのやだな……」

「まぁ、無理はしなくていいけどさ。せっかくだしデザートは食べていこうよ」

セイカは振り返って料理を見回す。

「……デザートなんかないぞ? パンとかのことか?」

「途中で出るんだよ、ホームページに書いてた。フルーツタルトだったかな」

「へー……フルーツタルト」

「混むだろうから取ってきてやるよ、食べるよな?」

「……うん」

はにかんで、小さな声で頷いた。セイカはスイーツが好きだ、これまで食べさせてもらえなかった反動だろうか。そう考えると食べさせたくなる。

「ただいま、です」

「おかえりアキ。俺行ってくるよ」

何となく席に一人にするのは嫌だからアキが帰るのを待ってから席を立った。それからしばらく、二度目の完食を終えた頃タルトが追加された。

「っしゃ行ってくる。アキも食べるよな」

混雑するのは目に見えていたので早めに席を立ってタルトを三つ確保し、席に戻った。

「ありがとー、です。にーにぃ」

「ありがとう、鳴雷」

こんな簡単なことで美少年二人に笑顔を向けられる。勝ち組だ……俺は勝ち組だ、人生の勝利者だ。

「……サキヒコくん、半分どうぞ」

もう一人の美少年からのお礼も聞きたくなった俺は、タルトを半分に割ってそう囁いた。

「いいのか? ありがとうミツキ! ふるーつたると……と言うのか。これも初めて見る菓子だ……」

サキヒコが食べ終えるのを待ってからタルトを食べてみると、二つに割った内の一つは味が薄く、もう一つはおそらく本来の味のままだった。

(……攻略法見つけましたぞ!)

味が薄くなった物を食べなければならないのは変わらないが、そのままの物も食べられる。不意に思い付いた単純な行為が思わぬライフハックを産んだ瞬間だった。
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