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ちちち違うわぁ!
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電車に揺られて京都に着き、予約していたホテルに向かった。
「あんまり京都感ないなぁこの辺」
「お前大阪着いた時も同じこと言ってたぞ」
「大阪って言ったらやっぱり通天閣とかデカいカニとかあるイメージだし……京都って言ったら木造家屋の平屋が並んでるイメージだし」
「一部だけだろんなもん……」
ホテルではルームサービスを頼んで夕飯を済ませた。大きくてよく弾むベッドが楽しいのか、アキはずっとベッドで遊んでいる。
「なぁセイカ、微笑ましく見てたけどさ……大の字でうつぶせに寝転がって、ベッドをトランポリンみたいにして跳ねて遊ぶって、姿勢は変わらずって……どこの筋肉をどう使ったらいいか分からなくないか?」
「秋風そういうことよくするからあんま違和感なかった」
確かに違和感はない、再現は出来ないけれど。
「マット傷まないかな?」
「うーん……そこまで跳ねてる訳じゃないし、立ってトランポリンやってるクソガキも来てるだろうし……あのくらいいいんじゃないか?」
「そっか、あのさ、この冷蔵庫の中のってサービス? 飲んでいいの?」
「冷蔵庫から取ったら金取られるシステム」
「へー……」
「タオルとか歯ブラシとか、アメニティは使っていいからな」
「あめにてぃ……」
セイカはこういったホテルに不慣れなようだ。俺? 俺も初めて。でも知識はある。
「ラブホじゃないからセックスはお預けだな~……残念。俺ちょっとコンビニ行ってくるけど、欲しいもんある?」
「別に……ないかな。行ってらっしゃい。そんなデカい鞄持ってくのか?」
「あぁ、うん、持ってく。行ってきます」
イヤホンを片耳にはめて外に出る、音楽もラジオも流さず静かな廊下を歩く。
「サキヒコくん、居る?」
「ここに。ミツキは名残惜しかったかもしれんが、あの家をさっさと離れてくれて助かった……あのご老人がずっと気を張っている様子でな、ちゃんと隠れていたのだが気配は感じられていたというか何というか……とにかく怖かった」
疲れた声が頭の少し下から聞こえた。隣で共に歩いているのだろうか?
「京都も神社多いから気を付けなよ?」
「分かっている。ハル……というのは確か、あの女か男かよく分からん者だな? 仕事でもなく異性装を気軽に出来るような時代なんだな……」
「気軽……うーん、まぁ、気軽かなぁ……それなりの覚悟はいると思うけど」
身体が重くない、頭が痛くない、寒くない、サキヒコが傍に居るのに健康そのものだ。リュウの人形はすごい、肌身離さず持っているべきかと今も鞄の中に押し込んである。
「……ねぇ、サキヒコくんにはこれがどう見えるの?」
鞄の中から身代わり人形を取り出す。
「む? ミツキにそっくりだな! すごくよく出来ている……見分けが付かん、瞬きをしていないからこっちが人形……なのか?」
「…………幽霊の視覚って意味分かんないな」
人型に切った布を縫い合わせ、へのへのもへじで顔を描いて胴に「水月」と書いただけの人形が俺にそっくりに見える幽霊の視覚は不思議だ。
「な、なんなのだ……私はおかしいのか?」
「いや俺には似てるように見えないから」
「鏡の見過ぎだ、些細な粗も気になってしまうのだろう」
サキヒコちゃんと俺の顔分かってるのかな……なんか不安になってきたぞ。
「……サキヒコくん俺の顔どう思う?」
「人間には到達出来ないはずの美の極地に至った造形をしていると思うぞ、ミツキの母君どのもな」
しっかり分かっているみたいだ。
「なんか好きなジュースとかお菓子買ってあげるよ」
「……ミツキは案外おだてられると弱いのだな」
コンビニに着いて数分後、サキヒコが選んだのは全体の九割以上が生クリームで構成されたロールケーキだった。
(…………サキヒコくんは幽霊だから誰にも見えていない訳で、サキヒコくんが食べた物も味が薄くなるだけで消えたりはしないので……金払わずに勝手に食べても万引きにはならないのでわ?)
「ミツキ……? ダメか? 高いか……?」
「……ん、いや、アキ達にも何か買って行こうかなって」
よくない考えを振り払い、俺はスイーツを三つ買って部屋に戻った。
「別にいいって言ったのに……ありがと、鳴雷」
《美味そ~! ありがと兄貴! 半分こしようぜスェカーチカ!》
《ん、割ってくれ》
セイカにはクレープを、アキにはエクレアを渡したが、セイカはクレープをアキに渡した。交換するのかなと眺めているとアキは二つのスイーツを二つに割り、片割れをセイカに渡した。
「俺の弟と恋人可愛過ぎないか……?」
「仲が良くて何よりだ。んんっ……! 甘い! 美味い……! たまらない……!」
《クレープの中身生チョコクリームだぜ、美味ぇ》
《ほんとだ、美味しい》
「喜んでくれてよかったよ」
俺はサキヒコが食べ終えるのを待ってロールケーキを食べ始めた。
(味薄っ……)
身代わり人形の効果は俺の体調不良を軽減させることだけで、サキヒコが食べた物の味が薄くなる謎現象を失くすことは出来ないようだ。まぁ初めからそんな期待はしていなかったけれど。俺は味の薄いロールケーキを食べ終えた後、ジュースを飲んで気持ちを誤魔化した。
「ごちそうさま……美味しかった、ありがとう鳴雷」
「ん……あぁ、いいよ。リュウとヒトさんのおかげで旅費かなり浮いてるし」
「そうなんだ……ぁ、なぁ、鳴雷、サンの兄弟……三人居るって聞いてたけどさ、あんな感じの人とは思わなかった」
「そうなのか? そういえばセイカはヒトさんに会ったことないよな」
「うん……フタって方は確か、秋風が椅子で殴ってた」
「そんなこともあったなぁ……凶器攻撃はダメだぞ?」
頬についたクリームを指ですくいとって舐めていたアキは首を傾げる。
「可愛いからいっかぁ!」
「しっかり怒れよ……まぁ、うん、そう、フタさん……あの人な、案外大人しいよな」
「いや、めっちゃフラフラするから手ぇ繋いどくの結構大変だったけど」
「お疲れ。そういう意味じゃなくてさ、喧嘩っ早くないんだなって」
「あぁ……そうだな、仕事モードなのかな、そういうのは」
学校の前で待ち伏せされた時は本当に怖かった。リュウは何も聞かずフタを受け入れてくれたが、ハルやカンナは怖がるだろうなぁ……いや、ハルは帰る門が別だからあの時はフタを見ていないんだっけ?
「……かみ、鳴雷、鳴雷!」
「んっ、あぁ、ごめん、何だ?」
「何ボーっとしてんだよ……ヒトって人、一番上だっけ。まぁ流石にしっかりしてたよな、下二人がマイペース過ぎるから苦労してそうだった。なんか親近感あるよ……」
ため息をつくセイカの視線はアキに向いている。
「ヒトさんは確かにギャップあったなぁ」
「へぇ、鳴雷が感じたギャップ聞きたいな」
「白ピク食わせる戦法取ってそうだと思ってたけど、実は一匹でも食われたら慌ててゲキニガ使うタイプの人なんだろうなぁって感じ」
「…………そっか」
「意外と冷たい人じゃないって意味な。可愛い人だったよ、寂しがりでさ」
「何、口説いたの?」
「なななななんでそうなるんだよ違うよ!」
「な、何焦ってんだよ……可愛いとか言うから、お前のことだし……また増やしたのかと」
「ちちちち違う違う違う違う!」
「そ、そうか……? そんな焦って否定しなくてもいいのに……」
俺達の関係は秘密にして欲しいと今朝頼まれたばかりなのに、危うくもうバレるところだった。セイカは勘がよくて困る。
《絶対口説いたわコイツ……既婚者とか言ってなかったかあのおっさん。ったく見境ねぇんだから》
《何、兄貴また男増やしたの?》
《認めねぇけど、そうだと思うんだよな……ま、そのうち腹括って紹介してくんだろ。知らないフリしてようぜ》
《りょ~》
秘密を守ったことに安堵した俺はため息をつきながら額の汗を拭った。
「あんまり京都感ないなぁこの辺」
「お前大阪着いた時も同じこと言ってたぞ」
「大阪って言ったらやっぱり通天閣とかデカいカニとかあるイメージだし……京都って言ったら木造家屋の平屋が並んでるイメージだし」
「一部だけだろんなもん……」
ホテルではルームサービスを頼んで夕飯を済ませた。大きくてよく弾むベッドが楽しいのか、アキはずっとベッドで遊んでいる。
「なぁセイカ、微笑ましく見てたけどさ……大の字でうつぶせに寝転がって、ベッドをトランポリンみたいにして跳ねて遊ぶって、姿勢は変わらずって……どこの筋肉をどう使ったらいいか分からなくないか?」
「秋風そういうことよくするからあんま違和感なかった」
確かに違和感はない、再現は出来ないけれど。
「マット傷まないかな?」
「うーん……そこまで跳ねてる訳じゃないし、立ってトランポリンやってるクソガキも来てるだろうし……あのくらいいいんじゃないか?」
「そっか、あのさ、この冷蔵庫の中のってサービス? 飲んでいいの?」
「冷蔵庫から取ったら金取られるシステム」
「へー……」
「タオルとか歯ブラシとか、アメニティは使っていいからな」
「あめにてぃ……」
セイカはこういったホテルに不慣れなようだ。俺? 俺も初めて。でも知識はある。
「ラブホじゃないからセックスはお預けだな~……残念。俺ちょっとコンビニ行ってくるけど、欲しいもんある?」
「別に……ないかな。行ってらっしゃい。そんなデカい鞄持ってくのか?」
「あぁ、うん、持ってく。行ってきます」
イヤホンを片耳にはめて外に出る、音楽もラジオも流さず静かな廊下を歩く。
「サキヒコくん、居る?」
「ここに。ミツキは名残惜しかったかもしれんが、あの家をさっさと離れてくれて助かった……あのご老人がずっと気を張っている様子でな、ちゃんと隠れていたのだが気配は感じられていたというか何というか……とにかく怖かった」
疲れた声が頭の少し下から聞こえた。隣で共に歩いているのだろうか?
「京都も神社多いから気を付けなよ?」
「分かっている。ハル……というのは確か、あの女か男かよく分からん者だな? 仕事でもなく異性装を気軽に出来るような時代なんだな……」
「気軽……うーん、まぁ、気軽かなぁ……それなりの覚悟はいると思うけど」
身体が重くない、頭が痛くない、寒くない、サキヒコが傍に居るのに健康そのものだ。リュウの人形はすごい、肌身離さず持っているべきかと今も鞄の中に押し込んである。
「……ねぇ、サキヒコくんにはこれがどう見えるの?」
鞄の中から身代わり人形を取り出す。
「む? ミツキにそっくりだな! すごくよく出来ている……見分けが付かん、瞬きをしていないからこっちが人形……なのか?」
「…………幽霊の視覚って意味分かんないな」
人型に切った布を縫い合わせ、へのへのもへじで顔を描いて胴に「水月」と書いただけの人形が俺にそっくりに見える幽霊の視覚は不思議だ。
「な、なんなのだ……私はおかしいのか?」
「いや俺には似てるように見えないから」
「鏡の見過ぎだ、些細な粗も気になってしまうのだろう」
サキヒコちゃんと俺の顔分かってるのかな……なんか不安になってきたぞ。
「……サキヒコくん俺の顔どう思う?」
「人間には到達出来ないはずの美の極地に至った造形をしていると思うぞ、ミツキの母君どのもな」
しっかり分かっているみたいだ。
「なんか好きなジュースとかお菓子買ってあげるよ」
「……ミツキは案外おだてられると弱いのだな」
コンビニに着いて数分後、サキヒコが選んだのは全体の九割以上が生クリームで構成されたロールケーキだった。
(…………サキヒコくんは幽霊だから誰にも見えていない訳で、サキヒコくんが食べた物も味が薄くなるだけで消えたりはしないので……金払わずに勝手に食べても万引きにはならないのでわ?)
「ミツキ……? ダメか? 高いか……?」
「……ん、いや、アキ達にも何か買って行こうかなって」
よくない考えを振り払い、俺はスイーツを三つ買って部屋に戻った。
「別にいいって言ったのに……ありがと、鳴雷」
《美味そ~! ありがと兄貴! 半分こしようぜスェカーチカ!》
《ん、割ってくれ》
セイカにはクレープを、アキにはエクレアを渡したが、セイカはクレープをアキに渡した。交換するのかなと眺めているとアキは二つのスイーツを二つに割り、片割れをセイカに渡した。
「俺の弟と恋人可愛過ぎないか……?」
「仲が良くて何よりだ。んんっ……! 甘い! 美味い……! たまらない……!」
《クレープの中身生チョコクリームだぜ、美味ぇ》
《ほんとだ、美味しい》
「喜んでくれてよかったよ」
俺はサキヒコが食べ終えるのを待ってロールケーキを食べ始めた。
(味薄っ……)
身代わり人形の効果は俺の体調不良を軽減させることだけで、サキヒコが食べた物の味が薄くなる謎現象を失くすことは出来ないようだ。まぁ初めからそんな期待はしていなかったけれど。俺は味の薄いロールケーキを食べ終えた後、ジュースを飲んで気持ちを誤魔化した。
「ごちそうさま……美味しかった、ありがとう鳴雷」
「ん……あぁ、いいよ。リュウとヒトさんのおかげで旅費かなり浮いてるし」
「そうなんだ……ぁ、なぁ、鳴雷、サンの兄弟……三人居るって聞いてたけどさ、あんな感じの人とは思わなかった」
「そうなのか? そういえばセイカはヒトさんに会ったことないよな」
「うん……フタって方は確か、秋風が椅子で殴ってた」
「そんなこともあったなぁ……凶器攻撃はダメだぞ?」
頬についたクリームを指ですくいとって舐めていたアキは首を傾げる。
「可愛いからいっかぁ!」
「しっかり怒れよ……まぁ、うん、そう、フタさん……あの人な、案外大人しいよな」
「いや、めっちゃフラフラするから手ぇ繋いどくの結構大変だったけど」
「お疲れ。そういう意味じゃなくてさ、喧嘩っ早くないんだなって」
「あぁ……そうだな、仕事モードなのかな、そういうのは」
学校の前で待ち伏せされた時は本当に怖かった。リュウは何も聞かずフタを受け入れてくれたが、ハルやカンナは怖がるだろうなぁ……いや、ハルは帰る門が別だからあの時はフタを見ていないんだっけ?
「……かみ、鳴雷、鳴雷!」
「んっ、あぁ、ごめん、何だ?」
「何ボーっとしてんだよ……ヒトって人、一番上だっけ。まぁ流石にしっかりしてたよな、下二人がマイペース過ぎるから苦労してそうだった。なんか親近感あるよ……」
ため息をつくセイカの視線はアキに向いている。
「ヒトさんは確かにギャップあったなぁ」
「へぇ、鳴雷が感じたギャップ聞きたいな」
「白ピク食わせる戦法取ってそうだと思ってたけど、実は一匹でも食われたら慌ててゲキニガ使うタイプの人なんだろうなぁって感じ」
「…………そっか」
「意外と冷たい人じゃないって意味な。可愛い人だったよ、寂しがりでさ」
「何、口説いたの?」
「なななななんでそうなるんだよ違うよ!」
「な、何焦ってんだよ……可愛いとか言うから、お前のことだし……また増やしたのかと」
「ちちちち違う違う違う違う!」
「そ、そうか……? そんな焦って否定しなくてもいいのに……」
俺達の関係は秘密にして欲しいと今朝頼まれたばかりなのに、危うくもうバレるところだった。セイカは勘がよくて困る。
《絶対口説いたわコイツ……既婚者とか言ってなかったかあのおっさん。ったく見境ねぇんだから》
《何、兄貴また男増やしたの?》
《認めねぇけど、そうだと思うんだよな……ま、そのうち腹括って紹介してくんだろ。知らないフリしてようぜ》
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