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シメは雑炊
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フグを食べていると幸せな気持ちになるけれど、サン達兄弟の仲の悪さを肌で感じてしまうから悲しい気持ちも湧いてきた。
《なんであの兄弟俺のことかたわって呼ぶんだろ……》
《日本のあだ名はよく分かんねぇな》
アキとセイカを眺めていれば癒されるかな? 何を話しているかは全く分からないけれど。
《あだ名っぽくはないんだよなぁ。っていうかロシア生まれにそれ言われたくないな、ロシア文学を断念するヤツの八割くらいは愛称覚えられないのが原因だと思うぞ》
《日本語学びたい外国人がまずぶつかるのは漢字の存在だぜ。アルファベットはだいたいどの国も二十後半から三十文字だってのに、日本語は四十ちょいある上に平仮名と片仮名とかいう意味の分かんねぇバージョン違いを作りやがって》
《……大文字と小文字みたいなもんだよ》
《んで漢字何文字だ? 二千?》
《そんなにあったかなぁ……あるかぁ……》
《で、漢字は一文字につき複数の発音があり文章によってそれを使い分けなくてはならなくて、大抵の漢字は二種類以上の発音があって、一文字一文字に意味が……何なの? 何この言語》
《も、元は中国だから……そっちに文句言ってくれ》
《平仮名作ったんだったら漢字捨てろよ!》
アキが怒っている? どうしたんだ。
《ロシア語だってなぁ! ШとЩの見分けつかねぇよ!》
セイカも怒った。険悪なのはサン達兄弟だけで十分だというのに。
《シとツ! いとリとソとン! あとお! めとぬ! れとね! その他漢字多数!》
「喧嘩やめろよアキ、セイカ。どうしたんだよ急に……セイカ、何の話か俺に聞かせてくれ」
「……日本語とロシア語、どっちが難しいかみたいな話。あだ名分かんないとか、漢字多過ぎてムカつくとか、文法どうなってんだとか、見分けつかない文字あるとか」
「なんだぁ……そんなことかよ。別に喧嘩でもないんだな? あんな剣幕で言い合うなよなぁ、勘違いしちゃったよ」
「ごめん……」
「あぁ、いいよいいよ。楽しく話してるとこ邪魔して悪かったな」
くだらない内容でよかった。喧嘩のように見えてしまったが、単なる異文化コミュニケーションだったんだな。リュウとシュカが互いの出身地の治安の悪さを言い合うようなもの、いや、アレよりもよっぽど健全だ。
「美味しいフグの絵は問題なく描けそうだけど、フグの危険な魅力みたいなのがまだ分かんないな……兄貴、フグで肝試ししない?」
「死ねと?」
「病院すぐ連れてったげるよ。毒の症状を肌で感じたい」
「だったら自分で毒を受ければいいでしょう」
「意識ハッキリしていられるならそれでもいいんだけどね~」
サンがまた横暴なこと言ってる……アレは流石におふざけだよな? そうであって欲しい。
「にーに! おかわりー……です」
「ん、貸して」
皿を受け取り、野菜もフグも満遍なく入れてやる。アキは好き嫌いがなくて助かる。
「ありがとー、です! にーに」
何度入れてやっても満面の笑顔で礼を言ってくれる。俺の弟が可愛過ぎる。
「……あなた達もあれくらいの可愛げが欲しいですね」
「ヒト兄ぃおかわり~」
「てめぇ俺の話聞いてんのか!」
そう言いつつもヒトは皿を受け取る。サンはともかくフタは自分で入れさせてもいいと思うのだが。
「フタさん、入れてもらったらありがとうって言わないとですよ」
「ん? ヒト兄ぃに?」
「はい、何かしてもらったらお礼言わないと」
「言わなくていいよ兄貴。水月も余計なこと言わないで」
「…………そんな」
なんでそんなに仲が悪いんだ? そりゃヒトはフタに暴力を振るっていて、フタと仲のいいサンにとっては憎い相手かもしれないが……そうやってヒトに嫌がらせをしてストレスを溜めさせればフタへの暴力に繋がる。悪いがサンのやり方には賛成出来ない。
「え……え~…………どうしよヒト兄ぃ、どっちにしたらいい?」
「……知りませんよ」
「そんなぁ~……」
「何も言わなくていいよ、兄貴」
俺とサンの意見の対立にフタは酷く困っているようだ。ほら、とヒトに皿を渡されるとフタは困った顔のままヒトの顔をじっと見つめる。
「…………ありがと~?」
「……どういたしまして」
「………………ふん」
困惑しながらも礼を言ったフタにヒトは一瞬目を見開いた後、顔を逸らして返事をした。サンは「面白くない」と顔に書いてヒレ酒をあおった。
鍋を食べ終えた。鍋に浮かんでいるのはもう、拾い切れない野菜や豆腐の欠片ばかりだ。汁を飲んでしまいたいが、流石にはしたない。自宅でしか出来ない。
《はぁー……美味かった、けどもうちょい食いたいな》
「鳴雷、秋風がもう少し食べたいって」
「えぇ? もうないぞ」
「雑炊すんで。好きなだけ食べやぁアキくん」
「ぞうすい……って何?」
翻訳に迷ったのかセイカはリュウにそう尋ねた。俺に聞いてくれてもいいのに……
「鍋の残り汁にご飯と卵ぶち込んで煮込んだもん」
「お粥みたいな感じ?」
「断然美味いで。今日はフグ鍋やし。フグ鍋とカニ鍋の雑炊は絶品やねんな~。鍋持ってきぃ」
リュウは家族で使っていた土鍋を持って台所へ向かった。俺も土鍋を持ち、彼の後を着いていく。後ろからの足音に振り向けばヒトが着いてきていた、調理中にリュウとイチャつきたかったけれど我慢しよう。
「ご飯いっぱい炊いとってくれたみたいやから好きなだけ食うてええで。水月どんくらい食べる?」
カロリーを考えて調整しなければならないのだが、フグなんてなかなか食べられるものではない、その出汁を使った雑炊なんて絶対美味い。いっぱい食べたい。
「……お茶碗三杯くらい」
「おっ、行くなぁ。アキくんよぉ食べるから四杯くらいやろか。せーかは少食やから一杯ちょいくらいで計算しとこかな」
俺達が使っていた土鍋にぼちゃぼちゃと米が落とされていく。
「ヒトさんらはどのくらい食べはります?」
「……一人、二杯くらいで」
「分かりましたわ。煮えるまでちょお待っといたってくださいね」
リュウは俺達の分を先に作ってくれるらしい。しかし待ち時間は数分ある、リュウが調理に集中している間は気まずくなりそうだな。
《なんであの兄弟俺のことかたわって呼ぶんだろ……》
《日本のあだ名はよく分かんねぇな》
アキとセイカを眺めていれば癒されるかな? 何を話しているかは全く分からないけれど。
《あだ名っぽくはないんだよなぁ。っていうかロシア生まれにそれ言われたくないな、ロシア文学を断念するヤツの八割くらいは愛称覚えられないのが原因だと思うぞ》
《日本語学びたい外国人がまずぶつかるのは漢字の存在だぜ。アルファベットはだいたいどの国も二十後半から三十文字だってのに、日本語は四十ちょいある上に平仮名と片仮名とかいう意味の分かんねぇバージョン違いを作りやがって》
《……大文字と小文字みたいなもんだよ》
《んで漢字何文字だ? 二千?》
《そんなにあったかなぁ……あるかぁ……》
《で、漢字は一文字につき複数の発音があり文章によってそれを使い分けなくてはならなくて、大抵の漢字は二種類以上の発音があって、一文字一文字に意味が……何なの? 何この言語》
《も、元は中国だから……そっちに文句言ってくれ》
《平仮名作ったんだったら漢字捨てろよ!》
アキが怒っている? どうしたんだ。
《ロシア語だってなぁ! ШとЩの見分けつかねぇよ!》
セイカも怒った。険悪なのはサン達兄弟だけで十分だというのに。
《シとツ! いとリとソとン! あとお! めとぬ! れとね! その他漢字多数!》
「喧嘩やめろよアキ、セイカ。どうしたんだよ急に……セイカ、何の話か俺に聞かせてくれ」
「……日本語とロシア語、どっちが難しいかみたいな話。あだ名分かんないとか、漢字多過ぎてムカつくとか、文法どうなってんだとか、見分けつかない文字あるとか」
「なんだぁ……そんなことかよ。別に喧嘩でもないんだな? あんな剣幕で言い合うなよなぁ、勘違いしちゃったよ」
「ごめん……」
「あぁ、いいよいいよ。楽しく話してるとこ邪魔して悪かったな」
くだらない内容でよかった。喧嘩のように見えてしまったが、単なる異文化コミュニケーションだったんだな。リュウとシュカが互いの出身地の治安の悪さを言い合うようなもの、いや、アレよりもよっぽど健全だ。
「美味しいフグの絵は問題なく描けそうだけど、フグの危険な魅力みたいなのがまだ分かんないな……兄貴、フグで肝試ししない?」
「死ねと?」
「病院すぐ連れてったげるよ。毒の症状を肌で感じたい」
「だったら自分で毒を受ければいいでしょう」
「意識ハッキリしていられるならそれでもいいんだけどね~」
サンがまた横暴なこと言ってる……アレは流石におふざけだよな? そうであって欲しい。
「にーに! おかわりー……です」
「ん、貸して」
皿を受け取り、野菜もフグも満遍なく入れてやる。アキは好き嫌いがなくて助かる。
「ありがとー、です! にーに」
何度入れてやっても満面の笑顔で礼を言ってくれる。俺の弟が可愛過ぎる。
「……あなた達もあれくらいの可愛げが欲しいですね」
「ヒト兄ぃおかわり~」
「てめぇ俺の話聞いてんのか!」
そう言いつつもヒトは皿を受け取る。サンはともかくフタは自分で入れさせてもいいと思うのだが。
「フタさん、入れてもらったらありがとうって言わないとですよ」
「ん? ヒト兄ぃに?」
「はい、何かしてもらったらお礼言わないと」
「言わなくていいよ兄貴。水月も余計なこと言わないで」
「…………そんな」
なんでそんなに仲が悪いんだ? そりゃヒトはフタに暴力を振るっていて、フタと仲のいいサンにとっては憎い相手かもしれないが……そうやってヒトに嫌がらせをしてストレスを溜めさせればフタへの暴力に繋がる。悪いがサンのやり方には賛成出来ない。
「え……え~…………どうしよヒト兄ぃ、どっちにしたらいい?」
「……知りませんよ」
「そんなぁ~……」
「何も言わなくていいよ、兄貴」
俺とサンの意見の対立にフタは酷く困っているようだ。ほら、とヒトに皿を渡されるとフタは困った顔のままヒトの顔をじっと見つめる。
「…………ありがと~?」
「……どういたしまして」
「………………ふん」
困惑しながらも礼を言ったフタにヒトは一瞬目を見開いた後、顔を逸らして返事をした。サンは「面白くない」と顔に書いてヒレ酒をあおった。
鍋を食べ終えた。鍋に浮かんでいるのはもう、拾い切れない野菜や豆腐の欠片ばかりだ。汁を飲んでしまいたいが、流石にはしたない。自宅でしか出来ない。
《はぁー……美味かった、けどもうちょい食いたいな》
「鳴雷、秋風がもう少し食べたいって」
「えぇ? もうないぞ」
「雑炊すんで。好きなだけ食べやぁアキくん」
「ぞうすい……って何?」
翻訳に迷ったのかセイカはリュウにそう尋ねた。俺に聞いてくれてもいいのに……
「鍋の残り汁にご飯と卵ぶち込んで煮込んだもん」
「お粥みたいな感じ?」
「断然美味いで。今日はフグ鍋やし。フグ鍋とカニ鍋の雑炊は絶品やねんな~。鍋持ってきぃ」
リュウは家族で使っていた土鍋を持って台所へ向かった。俺も土鍋を持ち、彼の後を着いていく。後ろからの足音に振り向けばヒトが着いてきていた、調理中にリュウとイチャつきたかったけれど我慢しよう。
「ご飯いっぱい炊いとってくれたみたいやから好きなだけ食うてええで。水月どんくらい食べる?」
カロリーを考えて調整しなければならないのだが、フグなんてなかなか食べられるものではない、その出汁を使った雑炊なんて絶対美味い。いっぱい食べたい。
「……お茶碗三杯くらい」
「おっ、行くなぁ。アキくんよぉ食べるから四杯くらいやろか。せーかは少食やから一杯ちょいくらいで計算しとこかな」
俺達が使っていた土鍋にぼちゃぼちゃと米が落とされていく。
「ヒトさんらはどのくらい食べはります?」
「……一人、二杯くらいで」
「分かりましたわ。煮えるまでちょお待っといたってくださいね」
リュウは俺達の分を先に作ってくれるらしい。しかし待ち時間は数分ある、リュウが調理に集中している間は気まずくなりそうだな。
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