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質問に答えず質問をし返すと……
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仕事関係の愚痴や、夫婦生活の愚痴ならいくらでも聞く。ペットの話や映画の話なら喜んで。でも、フタを蔑むような話をするのは嫌だ。俺はそうヒトにハッキリと伝えた。
「…………そうですか」
「はい……大切な恋人なので、そういう話には付き合えません」
「……そんなにフタが好きですか?」
「はい」
「………………どうして」
ヒトは一瞬酷く傷付いたような表情になったが、すぐにただ不快そうな顔へと変わり、深いため息をついた。
「……一つ聞かせてください」
「何ですか?」
「私がフタを悪く言うのと、フタがあなたが気に入ったぬいぐるみを気持ち悪がるの……どう違うんですか?」
「……あなたはフタさんと別れるのを勧めるようなことばっかり言いますけど、フタさんは気持ち悪がっても俺に買うなとか言いませんでした。そりゃ可愛いぬいぐるみをキモいとか言われたらちょっとムカつきますし残念には思いますけど、趣味が合わないのは仕方ないんですよ」
ヒトは納得がいっていないのか複雑な面持ちで人差し指を立て「もう一つ」と呟いた。俺は頷いて質問を受け入れた。
「趣味が合う人を恋人にしようとは思わないんですか?」
恋人がたくさん居て、その中には趣味の合う者も居る。だから構わない。という回答が簡単だが俺がハーレムを築いているということをまず伝えなくてはならない。
「……とても趣味の合う、フタと似た顔と背格好の男……居るでしょう?」
俺は約半年前までキモオタなんて呼ばれていた人間だから、趣味が合う人間とリアルで語り合うなんてそもそも願望としては弱いのだ。SNSでアニメの感想を呟いて、他の人の呟きを眺めて……俺にとって趣味の合う人間との交流なんてのはそんなものでいい。趣味を一緒に楽しめる人を恋人に、なんてタイプじゃないんだ。俺は。
「フタじゃないと嫌って訳じゃありませんよね?」
何を言えば「趣味が合う人を恋人にしようとは思わないのか」という質問の答えになるのか、それもヒトが納得する答えになるのか、分からない。
「…………逆に、聞いてもいいですか」
「え……? ええ、どうぞ」
「どうしてフタさんと付き合ってることにそんなに口出ししてくるんですか?」
「…………」
「フタさんのことそんなに嫌いなんですか? 少しも幸せを得て欲しくないほど? ヒトさん、前フタさんのこと素直で善良だって言ってたじゃないですか……あの言葉は、芯から不幸を願ってたら出てこない言葉だと思います。兄弟の情が全くないって訳じゃないんでしょう?」
「………………」
「気に入らないのは俺の方ですか? イライラさせられるけどやっぱり可愛い弟だから、その恋人が男で歳下なのが嫌なんですか?」
「…………………………違います」
「じゃあ、どうして」
「…………敏感なんだか鈍感なんだかどっちなんですか、あなたは」
「……どういう意味ですか?」
「うるさい……もう、いい。もういい…………また、弟に……クソっ」
俺がヒトの質問に答えることも、ヒトが俺の質問に答えることもなく、会話は終わった。ヒトが終わらせた、拗ねた子供のように棚の向こうへ行ってしまった。
「…………はぁ」
気になる。でも、わざわざ追いかけるような義理はないし、そこまで気になる訳じゃない。俺の恋人はフタとサンの方だ、ヒトじゃない。他にも三人の彼氏がこの場に居る。ヒトにばかり構っていたら旅行を楽しめない。
「……お~い、リュウ~」
俺はヒトが隠れた棚に背を向け、リュウ達の方へ足を向かわせた。
一時間ほど狭い店内を物色し、俺達はそれぞれ土産を買った。
「サンは結局それ買うんだ?」
「うん、ぶにぶにして面白いんだよこれ」
「俺これ~」
フタの手にはリアルなサイズ感のネズミのぬいぐるみがある。猫用のオモチャらしい。ヒトのペットの蛇がネズミを食べていたのを思い出し、少し気分が悪くなった。
「二人ともあんまり大阪感ないね……」
「そう言う水月は大阪感あるもの買ったの?」
「うん。塔のフィギュア」
「みつき二号は~……なんかキモいの買ったんだね~」
「俺の弟を二号呼ばわりするのやめてください。あとそれはキモくないです可愛いんです! セイカは何か買ったか?」
セイカはおずおずとたこ焼きの被り物をした猫のキーホルダーを見せてくれた。
「おぉ、仕事を選ばないと噂の白猫パイセン……四十七都道府県であるらしいな、こういうキーホルダー。いっぱい旅行行ってコンプ狙っちゃうか? ふふっ」
「かたわくん猫好き~?」
「セイカです……俺は別に。秋風は好きみたいですけど」
「秋風……? あぁ! いや、覚えてたよ? へへへ……みつきの弟の名前忘れないって。そっかぁ、んじゃ今度俺ん家遊びにおいで。猫いっぱい居るよ、五匹!」
「二匹だろ、兄貴」
「え……? あっ、そうそう二匹二匹……へへへ。ヨンとイツ」
セイカは「飼っている猫の数も覚えていないのか?」と信じられないものを見る目をフタに向けている。フタの目には五匹見えているんだと誤解を解きたいが、話しても信じてもらえるか分からないしやめておこう。
「リュウは何も買ってないのか?」
「一応見てんけどね、まぁええかな思て」
「そうか……」
「暗なってきたし、そろそろ晩飯買いに行こか。サンちゃんら今日は俺ん家来るんやんね?」
「うん、てっちり食べたいてっちり。大阪名物だろ?」
「夏場は鍋あんませんけど……まぁサンちゃんが材料買うてくれるんやから、何でもしたるよ」
リュウとその家族が四人、俺達は三人、サン達も三人、十人で鍋をつつき合うのか……鍋に手が届く位置に座りたいものだな。
「兄貴~! 行くよ~!」
「……そんな大声出さなくても分かりますよ」
「どしたのボスに懇懇と叱られた後みたいな声出して」
「出してませんそんな声!」
俺が怒らせてしまったからかな、いや、自惚れ過ぎか。ヒトの中で俺の存在がそこまで大きいはずが……いやこの人友達居ないしなぁ、やっぱり俺のせいかな。
「…………な、なぁリュウ、今日鍋なんだよな? 何鍋なんだ?」
勝手に一人で気まずくなった俺はリュウに「てっちり」という聞き馴染みのない鍋について詳しく聞くことにした。
「…………そうですか」
「はい……大切な恋人なので、そういう話には付き合えません」
「……そんなにフタが好きですか?」
「はい」
「………………どうして」
ヒトは一瞬酷く傷付いたような表情になったが、すぐにただ不快そうな顔へと変わり、深いため息をついた。
「……一つ聞かせてください」
「何ですか?」
「私がフタを悪く言うのと、フタがあなたが気に入ったぬいぐるみを気持ち悪がるの……どう違うんですか?」
「……あなたはフタさんと別れるのを勧めるようなことばっかり言いますけど、フタさんは気持ち悪がっても俺に買うなとか言いませんでした。そりゃ可愛いぬいぐるみをキモいとか言われたらちょっとムカつきますし残念には思いますけど、趣味が合わないのは仕方ないんですよ」
ヒトは納得がいっていないのか複雑な面持ちで人差し指を立て「もう一つ」と呟いた。俺は頷いて質問を受け入れた。
「趣味が合う人を恋人にしようとは思わないんですか?」
恋人がたくさん居て、その中には趣味の合う者も居る。だから構わない。という回答が簡単だが俺がハーレムを築いているということをまず伝えなくてはならない。
「……とても趣味の合う、フタと似た顔と背格好の男……居るでしょう?」
俺は約半年前までキモオタなんて呼ばれていた人間だから、趣味が合う人間とリアルで語り合うなんてそもそも願望としては弱いのだ。SNSでアニメの感想を呟いて、他の人の呟きを眺めて……俺にとって趣味の合う人間との交流なんてのはそんなものでいい。趣味を一緒に楽しめる人を恋人に、なんてタイプじゃないんだ。俺は。
「フタじゃないと嫌って訳じゃありませんよね?」
何を言えば「趣味が合う人を恋人にしようとは思わないのか」という質問の答えになるのか、それもヒトが納得する答えになるのか、分からない。
「…………逆に、聞いてもいいですか」
「え……? ええ、どうぞ」
「どうしてフタさんと付き合ってることにそんなに口出ししてくるんですか?」
「…………」
「フタさんのことそんなに嫌いなんですか? 少しも幸せを得て欲しくないほど? ヒトさん、前フタさんのこと素直で善良だって言ってたじゃないですか……あの言葉は、芯から不幸を願ってたら出てこない言葉だと思います。兄弟の情が全くないって訳じゃないんでしょう?」
「………………」
「気に入らないのは俺の方ですか? イライラさせられるけどやっぱり可愛い弟だから、その恋人が男で歳下なのが嫌なんですか?」
「…………………………違います」
「じゃあ、どうして」
「…………敏感なんだか鈍感なんだかどっちなんですか、あなたは」
「……どういう意味ですか?」
「うるさい……もう、いい。もういい…………また、弟に……クソっ」
俺がヒトの質問に答えることも、ヒトが俺の質問に答えることもなく、会話は終わった。ヒトが終わらせた、拗ねた子供のように棚の向こうへ行ってしまった。
「…………はぁ」
気になる。でも、わざわざ追いかけるような義理はないし、そこまで気になる訳じゃない。俺の恋人はフタとサンの方だ、ヒトじゃない。他にも三人の彼氏がこの場に居る。ヒトにばかり構っていたら旅行を楽しめない。
「……お~い、リュウ~」
俺はヒトが隠れた棚に背を向け、リュウ達の方へ足を向かわせた。
一時間ほど狭い店内を物色し、俺達はそれぞれ土産を買った。
「サンは結局それ買うんだ?」
「うん、ぶにぶにして面白いんだよこれ」
「俺これ~」
フタの手にはリアルなサイズ感のネズミのぬいぐるみがある。猫用のオモチャらしい。ヒトのペットの蛇がネズミを食べていたのを思い出し、少し気分が悪くなった。
「二人ともあんまり大阪感ないね……」
「そう言う水月は大阪感あるもの買ったの?」
「うん。塔のフィギュア」
「みつき二号は~……なんかキモいの買ったんだね~」
「俺の弟を二号呼ばわりするのやめてください。あとそれはキモくないです可愛いんです! セイカは何か買ったか?」
セイカはおずおずとたこ焼きの被り物をした猫のキーホルダーを見せてくれた。
「おぉ、仕事を選ばないと噂の白猫パイセン……四十七都道府県であるらしいな、こういうキーホルダー。いっぱい旅行行ってコンプ狙っちゃうか? ふふっ」
「かたわくん猫好き~?」
「セイカです……俺は別に。秋風は好きみたいですけど」
「秋風……? あぁ! いや、覚えてたよ? へへへ……みつきの弟の名前忘れないって。そっかぁ、んじゃ今度俺ん家遊びにおいで。猫いっぱい居るよ、五匹!」
「二匹だろ、兄貴」
「え……? あっ、そうそう二匹二匹……へへへ。ヨンとイツ」
セイカは「飼っている猫の数も覚えていないのか?」と信じられないものを見る目をフタに向けている。フタの目には五匹見えているんだと誤解を解きたいが、話しても信じてもらえるか分からないしやめておこう。
「リュウは何も買ってないのか?」
「一応見てんけどね、まぁええかな思て」
「そうか……」
「暗なってきたし、そろそろ晩飯買いに行こか。サンちゃんら今日は俺ん家来るんやんね?」
「うん、てっちり食べたいてっちり。大阪名物だろ?」
「夏場は鍋あんませんけど……まぁサンちゃんが材料買うてくれるんやから、何でもしたるよ」
リュウとその家族が四人、俺達は三人、サン達も三人、十人で鍋をつつき合うのか……鍋に手が届く位置に座りたいものだな。
「兄貴~! 行くよ~!」
「……そんな大声出さなくても分かりますよ」
「どしたのボスに懇懇と叱られた後みたいな声出して」
「出してませんそんな声!」
俺が怒らせてしまったからかな、いや、自惚れ過ぎか。ヒトの中で俺の存在がそこまで大きいはずが……いやこの人友達居ないしなぁ、やっぱり俺のせいかな。
「…………な、なぁリュウ、今日鍋なんだよな? 何鍋なんだ?」
勝手に一人で気まずくなった俺はリュウに「てっちり」という聞き馴染みのない鍋について詳しく聞くことにした。
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