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懲りない人

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俺の彼氏の中では一番幼いアキすらも凌ぐ、純粋さを持つ最年長のフタ。彼の真っ直ぐな視線が嬉しくて、俺は俺のために屈んでくれた彼の頭を抱き締めた。

「みつきぃ……へへへ、俺も好き~……俺のせいで泣いてんじゃないの?」

「うん……」

「んじゃ誰のせい?」

口を噤んで顔を上げると、もうそこにヒトの姿はなかった。喚き、フタと抱き合っていた目立つ俺の近くに居たくなかっただとか、どうせそんな理由だろう。

「水月~? 聞こえてたよ、ヒト兄貴に泣かされちゃったねぇ」

リュウに導かれながら狭い店内を器用に抜けてサンが現れた。腕の中にあったフタの頭が持ち上がる。

「みつきヒト兄ぃに泣かされたの!? なんてことすんだよヒト兄ぃ~……みつきぃ、どこ痛いの? どこ叩かれたぁ?」

「叩かれたんじゃなくて、やなこと言われたんだよ。ね、水月」

「えぇ~? みつきぃ……酷いなぁヒト兄ぃ。何言われたか知らないけど、気にしなくていいって。な、みつきぃ」

「フタ兄貴の悪口だよ」

「俺の? ふーん……じゃあみつきが泣くことないじゃん」

ぽんぽんと俺の頭を撫でると、フタは俺の腕を優しくほどいて立ち上がった。にっこりと優しく微笑んで、また俺の頭を撫でる。

「ね、みつき。泣かなくていいんだよ」

俺自身に何か言われるよりも、恋人の悪口を言われた方が辛い。でも、いつまでも落ち込んでいたって困るのはその恋人達の方だ。ヒトじゃない。

「フタさん……」

「ん~?」

「……愛してる」

「え~、俺も俺も~。んふふ、みつきかわいいねぇ」

これでフタは俺が怒ったことも泣いたことも、落ち込んでいたことも全て忘れただろう。俺を撫でて幸せそうに笑っている。

「フタさん、何か欲しい物あります? 雑貨屋さんみたいですから猫ちゃん達のオモチャもあるかも」

「オモチャかぁ~、気に入るのあるかなぁ」

そういえば、猫達の世話は誰に任せているのだろう。旅行に同行なんてヒトが許すとは思えない。弟分の誰かだろうか。

《見ろよスェカーチカ、ドクロだぜ》

《部屋にいっぱいあるだろ……せめてもっとご当地感あるのにしろよ》

《ご当地感ねぇ。このたこ焼きの被り物してる猫のキーホルダーとかか?》

《お、いいじゃん可愛いじゃん》

横目で確認したアキとセイカは楽しげにお土産を物色している。二人だけの世界って感じだ。

「サンちゃんこれとかどない?」

「何~? うわ、あははははっ! 何これ変な感触~!」

サンはリュウにスクイーズを渡されて大笑いしている。そんなに面白いかな、アレ。

「触って遊ぶもんやで。ご当地土産感はあんましないけど」

「あはっ、これ、ふふ、やば、手ぇ気持ちいいけど気持ち悪い」

ドハマりしている……

「サンちゃん楽しそ~。りょこー来てよかったなぁ、みつき居たし。えーっとぉ、どこだっけここ」

「大阪?」

「それそれ、いや覚えてた覚えてた……へへへっ」

フタは楽しそうなサンを見て満足気に目を細めて笑っている。その慈愛に満ちた表情を独り占めしてきたサンに少し嫉妬すると同時に、こんな表情が自然に出来るくらいサンを愛せているかと自分の愛情の強さが不安になった。

(まぁ、恋人と兄弟じゃ違うとは思いますけど……フタさんほどサンさんのこと愛せてるんでしょうか、わたくし。二十何年分の愛にポンと届こうって方がバカなんでしょうか)

こんなことを悩んでいたって仕方ない。俺もサンが気に入りそうな物を見つけよう、リュウに負けていられない。

「……あっ!?」

「ん? みつきぃ、どったの?」

適当に積まれたぬいぐるみ類の中に、特別惹かれる可愛らしい物があった。それを手に取ってフタに見せると彼は顔を顰める。

「え、何それキモ。バケモン? ライオン?」

「キモくないです! 可愛いでしょうがフタさんの不敬者!」

「え~だって目ぇいっぱい変なとこにあるし……それ買うの?」

「え? はい、もちろん……買いますけど」

「ふ~ん……」

ススっ、とフタが俺から離れていく。

「な、なんですか! 可愛いでしょ!? よく見てくださいよ、こんな人懐っこそうにニコニコしてるのに……!」

「どないしたんな騒いで」

フタとサンの長身兄弟の隙間を無理矢理抜けて、リュウがひょっこり顔を覗かせる。リュウなら分かってくれるはずだと俺はぬいぐるみを突き出した。

「どう思う?」

「ん~……愛知の緑のんは普通に可愛かってんけど、塔といい大阪のんはなんか……アレやよね。独特」

「セイカぁーっ! アキぃーっ!」

フタほど酷い言葉は使わなかったが、俺と同意見ではないようなので俺は俺と同じくこのぬいぐるみを可愛いと思う者を探し、叫んだ。

「店であんまり大声出すなよ……」

「セイカ! これ……どう思う?」

「ん? 何……宇宙からの色の擬人化?」

「俺が勧めた本ちゃんと読んでくれてるのめちゃくちゃ嬉しいけど違う」

セイカはこれまで母親に娯楽を許されてこなかっただけで、彼自身はそれらを嫌っている訳ではないので、小説も漫画も勧めれば読んでくれる。オタクと呼べるほどハマりはしないみたいだけれど。

《何これ可愛い、欲しい》

《可愛いか?》

《めっちゃニコニコしてるじゃん》

《目玉の量にビビってたけど、確かに笑顔だな……可愛いかも》

「……アキはなんて?」

「可愛いなーって。買うのか? それ。秋風も欲しがってるんだけど、まだあった? 俺も秋風の部屋に置いて欲しいんだけど……」

「よっしゃあ見たかフタさんリュウ! 2対3で可愛い勢の勝ちだ!」

「いや万博のキャラやからそら可愛い思とる人が大半やろうけど。俺も可愛ないとは思わんし……独特やなぁ言うだけで」

俺は早とちりをしてしまっていたようだな。

「二個目あるか分かんないし、俺の部屋には置くとこないからアキに譲るよ」

ぬいぐるみをアキに渡し、俺は一応二個目がないか先程の雑な陳列棚を漁りに向かう。リュウはサンに言われて別の棚へ向かった。

《お、尻尾にも目あるぜ》

《尻尾……でいいのかな》

その場に留まってぬいぐるみを弄っていたアキとセイカの元にヒトがひょっこり顔を覗かせる。

「あの、鳴雷さんは……おや? それどこにあったんですか? まだあります?」

「ぁ……えっと、今そこで鳴雷が探してます」

「…………そうですか」

俺に視線を寄越したヒトはすぐに目を逸らし、気まずそうに俯いた。

「……あっ、あの、ヒトさん」

このままヒトにとって不愉快なまま俺が関係を終わらせたら元の木阿弥、またフタが虐げられる日々が帰ってくる可能性が高い。俺はヒトにとって都合のいい友人で居なければ。

「さっきは騒いですいませんでした……ついムキになっちゃって。あのっ、ヒトさんもそれ可愛いと思いますか? フタさんにはキモいって言われちゃって……」

「…………私はこのキャラクターとても好きですよ。もっと気の合う人間と付き合ってはいかがです?」

「またそんなこと言う~……」

気まずそうにしていたから反省したのではないかという俺の淡い期待はあっさりと砕かれた。
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