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ソース系からのソース系

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たい焼き一つだけでは昼飯には足りない。俺達はリュウの勧めで串カツ屋に入った。

「……小汚ぇ店だな」

ヒトの小さな呟きが聞こえたのは俺だけだろうか。席に着き、メニューを見ながら各々食べたい物を選んでいく。

「おっちゃ~ん! 注文ええ~?」

呼び鈴などはなく、注文の際には大声を上げるシステムのようだ。気の弱い俺には難しい店だ。

「二度漬け禁止やで。せーか、アキくんにも言うといたってな」

《秋風、二度漬け禁止だってさ》

《何に何を?》

「天正、何に何をだ?」

「え……? あぁ、ソースやよ。ソース共用やから、唾とか入れんように一回齧った串カツもっかい漬けたアカンよって話」

「なるほど……」

「フタを見張っておく必要がありそうですね」

確かに。フタは今のリュウの説明を聞いていなかったようだが、たとえ聞いていたとしても次の瞬間には忘れていそうだし、張り紙もあるけれど見ていないだろうし……俺もフタには注意を払っておこう。アキも心配だが、セイカが傍に居るから大丈夫だろう。



予想通りフタは何度も二度漬けをしかけてはヒトや俺に止められた。最後の方はもう俺がソースにたっぷり漬けてやってから渡すようにしていた。

「腹六分目くらいでやめとこか、他の店でも食うし」

「そうなのか?」

「商店街やで? ちょっとずつ色んなもん食うやろ。おっちゃ~ん! お会計~!」

そういうものなのか。レジの方を覗くと電子マネー対応と書いてあったのでスマホをポケットから出した。アキとセイカの食費や交通費にと母から渡された金は電子マネーなのだ、渡されたと言うより送られたと言った方が正しいかな。

「カードで」

支払う準備をしていたのに、ヒトがさっとクレジットカードで済ませてしまった。

「あっ……ヒトさん、あの、俺達の分お渡ししたいんですけど」

「構いませんよ、案内の代金とでも思ってください」

「リュウはそうかもしれませんけど俺達はヒトさん達と同じで観光で来てるだけで……」

「観光先が被った子供三人に奢るくらい、なんてことありませんよ。子供は大人にたかるものですよ」

「たかるって…………何を何本食べたかよく覚えてないですし、今回はありがたく奢られておきます。次、何かお返しさせてくださいね」

「……ええ」

ヒトは彼の第一印象からは考えられないほど穏やかな笑みを俺に見せてくれた。サンやフタに似たその表情に心臓が反応する。

(おわわわ誤作動誤作動。間違えてドキドキしちゃいましたぞ、それもこれも三兄弟全員腹違いのくせに妙に顔が似ているからでそ……ヒトさんは既婚者のノンケですし、フタさんに酷いことした人でそ。わたくしがヒトさんに惹かれるなどありえませんぞ)

誤作動を起こした心臓のある位置を服の上から撫で、落ち着かせる。熱くなった頬に手の甲を当てて冷ます。

「鳴雷さん」

「は、はいっ?」

「…………」

「あの……?」

「………………ふふっ」

「……? あはは……」

よく分からないけれど、笑いかけられたので笑い返しておこう。

「みぃーつきぃ~!」

背後からのドンっという重たい衝撃でよろける。フタが抱きついてきたのだ。

「フタさん……もぉ、フタさんおっきいんですからそんなことされたら俺コケちゃいますよ」

背中に当たる引き締まった胸筋の感触を楽しみつつ、身体の前に回された腕を緩く掴んで振り返る。

「……? やだった?」

「全然! フタさん可愛いですぅ……!」

「…………チッ」

「……!? え、えっと……次のお店行きましょっか。リュウ! 次どこ行く?」

ヒトは何故舌打ちをしたのだろう。フタが楽しそうにしているだけで腹が立つとかなら、もうどうしようもない。やっぱり苦手だ、この人。

「たっぷりチーズ入ったパンとかどないです? 生地はパンケーキ感あって美味しいらしいでっせ」

「らしいって食ったことないのか?」

「ない。せやけどテレビん取材めっちゃ来てるから美味い思うで」

「へぇ……」

「でもさっきたい焼き食べたしなぁ~。せっかく大阪来たんだし大阪っぽいのがいい。たこ焼きかお好み焼きがいい」

「……だ、そうです。お代は私が払いますので、値段は気にせず美味しいものをお願いしますね」

「ヒト兄貴自分が奢るみたいに言ってるけどボクのお金だからね」

なるほど。ヒトがサンの希望を全て聞こうとするのも、サンがマイペース過ぎる行動を取ってもあまり怒れないのも、金が理由か。

「たこ焼きかお好み焼き……ちょっとずつ食べやすいたこ焼きにしときます?」

「いいねいいねぇ~」

「何軒かあんねんなぁ、どこにしましょ」

「一番美味しいとこ~」

サンはリュウの腕にぎゅっと抱きつく。俺は俺の首に絡んでいた腕がほどけるのを感じて、慌てて彼の手を握った。

「フタさんっ、どこ行くんですか?」

「ん~? どこって……どこ行くんだっけ?」

「今からたこ焼き屋さん行くんですよ、着いてきてください」

「おっけ~」

辺りを見回して何かを見つけて、そっちに行こうとしたんだろうな。で、俺に声をかけられて何を見つけたのか忘れたと……やはり厄介だな。

「着いたで、何個くらい食うか言うて」

俺含め、各々たこ焼きをいくつ食べるか声に出した。順番に言うでもなく被っていたので俺なら電卓片手に言い直してもらうが、リュウは笑顔で頷いて店に向かった。

「ぁ……みんなぁ、カラシいりはる?」

踵を返し、そう尋ねる。どうやらたこ焼きにかけるマヨネーズにはカラシ入りとナシがあるらしい。

「たこ焼きに? うーん……いいかな、辛いの苦手だし」

「ボク欲しい」

「俺辛いのヤダ~」

「私のはアリで」

「俺達のは半々で」

リュウは再び店に向かった。もう一度個数を尋ねなかったということは、俺達がそれぞれ何個頼んだか覚えていたのか……やっぱり俺とは頭の出来が違うな。



しばらく待つとリュウが紙パックを二つ持って出てきた。

「こっちがカラシ抜き、こっちがありや」

「ありがとう。リュウはどっちなんだ?」

「俺アリ」

「そっか……フタさん、フタさんカラシ抜きですよね。一緒に食べましょっ」

「おー……みつきよく俺が辛いの嫌いだって分かったね~。すごいすごーい」

ぽふぽふと頭を撫でられ、頬が熱くなる。するとフタは俺の頬に手を移し、むにむにと弾力を楽しんだ。

「みつきはかわいいねぇ」

「そ、そんな……もぉ……フタさんの方こそ」

カッコイイと言われたいけれど、可愛がられるとついつい喜んでしまう。そんな俺の反応が面白いのかフタは何度も「かわいい」と俺をからかう。いや、彼自身にはからかっている気なんてないのだろうけど。

《スェカーチカ、あ~ん》

「あっづぁっ!?」

《えっ、大丈夫か? 悪ぃ、わざとじゃねぇんだ……許してくれマイハニー》

《俺は水月のハニーだよバカ》

セイカが悲鳴を上げたような……たこ焼きを冷まし忘れたのかな? まぁ、アキが居るし大丈夫だろう。

「兄貴ほら、あーん」

「熱っ!? てめぇわざとっ……! わざと、でしょう……やめてくださいよね、そういうイタズラ」

サンはヒトの頬にたこ焼きを押し付けて熱がらせて遊んでいた。

「サン、食べ物で遊んじゃダメだよ」

「……水月はほんとヒト兄貴の味方するねぇ」

「当然のこと言ってるだけだってば。危ないし、やめなよね」

一応俺からも注意しておいたが、反省はしていなさそうだ。弟が二人ともこんなにマイペースじゃ、ヒトが短気になってしまうのも仕方ないのかもしれないな。
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