1,193 / 2,014
まずはご家族にご挨拶
しおりを挟む
玄関扉を越えた後は、襖に障子など紙で出来た仕切りばかりで硬い扉は見られなかった。トイレや風呂の扉は流石に硬く分厚くあって欲しいと少し不安に思いながら、案外と空調の効きがいい広い和室に通された。
「……! にーに!」
リュウが襖を開けて中に入るとまず一番にアキが声を上げた。俺は駆け寄ったアキを宥めつつ、部屋をさっと見回す。中年と男性と女性が一人ずつ、多分リュウの両親。座椅子に腰を下ろしている老人はリュウの祖父だろうか。
「にーにぃ、大丈夫するです? にぃにぃ」
「大丈夫大丈夫、ちょっと静かにするんだぞ……お邪魔しています。鳴雷 水月と言います。高校では天正くんと仲良くさせていただいています、いつもお世話になっていて本当にありがたい限りで……今回も彼の提案に甘えさせていただくことになり、しばらく厄介になります」
「あぁ……こらご丁寧にどうも。センの父です」
「…………」
「……おかん、おいおかん、何ポーっとしとんねん」
「…………はっ、ぁ、母ですぅ……いやぁー……すっごいイケメン、何この……えぇー、こんな人間居るんや……」
「ごっついべっぴんさんやけどなぁ、息子の同級生に見惚れるやなんてなぁ、何考えてんねんこん浮気もん」
「なに拗ねてんの。ちょっとびっくりしてもうただけやないの、見惚れてなんてないわいな男の嫉妬は見苦しいわぁ」
夫婦仲は良さそうだ。
「えっと、おじ様おば様ちょっといいですかね……」
「あ、はい。なんでっしゃろ」
「この二人の紹介はもう……受けられましたかね?」
「あぁ、えーと、そっちがアキくんでこっちがセイカくんやろ。聞いたで」
「名前だけですか?」
「ぉん……せやけど」
アキと俺は顔が似ている。今は部屋が明るいからかアキがサングラスをかけていて分かっていないようだが、後々バレるだろうから先に言っておくべきだ。
「アキは俺の弟です。ちょっとややこしい話なんですけど、俺の母が友人に卵子を提供しまして、海外の男性と結ばれて産まれた子なんです。なので両親ともに違うんですけど血は半分繋がってるんです」
「ほー……?」
「……おとん分かってへんやろ」
「わ、分かっとるわい! とにかく兄弟なんやろ? 韓ドラみたいな感じの……」
「卵子提供とかほんまにあるんやねぇ」
ご理解いただけただろうか? 正直に話さず適当に親戚の子とか言っといた方が楽だったかな。
「それでですねぇ、アキはちょっと色素がない子でして……太陽の下に出る時はご覧の通りの日光対策が必要でして、アキが薄着をしてる時なんかは窓を開ける時にはアキに一声いただけると幸いですー」
「…………日ぃ当たれへんからなまっ白いんとちゃうん?」
「水月、おとんアホやねん。堪忍な」
「セン! 親に向かってアホとはなんやアホとは!」
リュウって家ではセンって呼ばれてるんだ……家族に他にもリュウ何とかが居るのかな?
「白子やろ? ウサギとか蛇とかによぉ居るヤツ」
「水月、おかんは口が悪いねん。堪忍な」
「……白い子ぉは昔っから神さんの使いやてよぉ言いよる。めでたいやないの、大事にしぃたりや」
座ったまま眠っているのかと思っていたが、ちゃんと起きていたようだ。リュウの祖父は優しい眼差しをアキに向けてくれている。
「ありがとうございます、大事にしてます。後ですね、アキは日本語あんまり分からないので、アキに何か伝える時はゆっくり話すかセイカに通訳を頼んでいただきたいです」
「注意事項の多い子やねぇ」
「すいません厄介な弟で……力は強いので色々とお手伝いは出来ると思いますので」
「あぁええんよええんよお客様やねんからでーんとしとってくれたら」
でーんとする……とは?
「そ、そうですか? ぁ、えっと、次はこっち……セイカなんですけど、俺の親戚です。はちゃめちゃに頭がいいので通訳が出来ます。少し前に事故で片方ずつ手足を失ってしまったので少々動きが鈍いのですが、アキが介助をしているので皆様にご迷惑はかけないかと思います」
「あらぁー……そら災難なこったねぇ」
「……手足一本ずつしかないんか、目ぇは両方ありよんのか」
リュウの祖父がセイカの顔を覗き込む。
「めっ、目は両方ありますけど……」
「……ほうか。まぁ、山は入らん方がええな。山の神さんは一個ずつのもんが好きやねん、隠されてまうかもしれん」
「おとん! 変なこと言うて怖がらせぇな!」
リュウの父が声を荒らげる。
「ごめんなぁ水月くんセイカくん、うちのおとん人怖がらせんの好きやねん。あ、そういう言い伝えはほんまにあるんよ。実際のところは隻腕やの隻脚やので山登りなんやしたら危ないからっちゅうこっちゃろうね、言い伝えっちゅうんは案外合理的なんがあるんよ。せやから山は入らん方がええわ」
「あ……そうですね。山登りはまぁ、しないと思います。ご心配いただいてありがとうございます。自己紹介はこれで終わりです……すいません長々と時間使っちゃって」
リュウの隣に腰を下ろすと俺に抱きついていたアキはセイカの隣に戻った。俺の体調に問題はないと判断したのだろう。
「……おとん、神さんやなんやなんて言うたって信じへんよ最近の子ぉは特に! 変な家や思われたらセンが可哀想やろ、そういうこと言うんやめ!」
リュウの父親はヒソヒソと話しているつもりらしいが、内容は九割方聞こえている。聞こえないフリをしておくけれど。
「自分の言い訳よりマシじゃ。なんや隻腕隻脚には危ないて。んなもん今はええ義手や義足あるし水月くんらが抱えたったらしまいやないか。ほんで隠されたら責任持てるんか自分」
「そ、そんなん言うたかてやなぁ……」
一つ不安なことが出来た俺はリュウにそっと耳打ちする。
「……リュウ、隠されるとか何とかって……神隠しってことか? セイカ、山登ったら神様に攫われるのか?」
「…………そういうこっちゃ。せーか、山のもんに好かれやすい見た目はしとる。まぁ、もう滅多に神隠しなんかあれへんから大丈夫やって」
「この山は……?」
「ウチの神社の神さんの管轄やから大丈夫やよ」
俺は深くため息をついて安堵すると同時に、セイカを連れて山登りなどには絶対に行かないぞと頭に深く刻み込んだ。
「……! にーに!」
リュウが襖を開けて中に入るとまず一番にアキが声を上げた。俺は駆け寄ったアキを宥めつつ、部屋をさっと見回す。中年と男性と女性が一人ずつ、多分リュウの両親。座椅子に腰を下ろしている老人はリュウの祖父だろうか。
「にーにぃ、大丈夫するです? にぃにぃ」
「大丈夫大丈夫、ちょっと静かにするんだぞ……お邪魔しています。鳴雷 水月と言います。高校では天正くんと仲良くさせていただいています、いつもお世話になっていて本当にありがたい限りで……今回も彼の提案に甘えさせていただくことになり、しばらく厄介になります」
「あぁ……こらご丁寧にどうも。センの父です」
「…………」
「……おかん、おいおかん、何ポーっとしとんねん」
「…………はっ、ぁ、母ですぅ……いやぁー……すっごいイケメン、何この……えぇー、こんな人間居るんや……」
「ごっついべっぴんさんやけどなぁ、息子の同級生に見惚れるやなんてなぁ、何考えてんねんこん浮気もん」
「なに拗ねてんの。ちょっとびっくりしてもうただけやないの、見惚れてなんてないわいな男の嫉妬は見苦しいわぁ」
夫婦仲は良さそうだ。
「えっと、おじ様おば様ちょっといいですかね……」
「あ、はい。なんでっしゃろ」
「この二人の紹介はもう……受けられましたかね?」
「あぁ、えーと、そっちがアキくんでこっちがセイカくんやろ。聞いたで」
「名前だけですか?」
「ぉん……せやけど」
アキと俺は顔が似ている。今は部屋が明るいからかアキがサングラスをかけていて分かっていないようだが、後々バレるだろうから先に言っておくべきだ。
「アキは俺の弟です。ちょっとややこしい話なんですけど、俺の母が友人に卵子を提供しまして、海外の男性と結ばれて産まれた子なんです。なので両親ともに違うんですけど血は半分繋がってるんです」
「ほー……?」
「……おとん分かってへんやろ」
「わ、分かっとるわい! とにかく兄弟なんやろ? 韓ドラみたいな感じの……」
「卵子提供とかほんまにあるんやねぇ」
ご理解いただけただろうか? 正直に話さず適当に親戚の子とか言っといた方が楽だったかな。
「それでですねぇ、アキはちょっと色素がない子でして……太陽の下に出る時はご覧の通りの日光対策が必要でして、アキが薄着をしてる時なんかは窓を開ける時にはアキに一声いただけると幸いですー」
「…………日ぃ当たれへんからなまっ白いんとちゃうん?」
「水月、おとんアホやねん。堪忍な」
「セン! 親に向かってアホとはなんやアホとは!」
リュウって家ではセンって呼ばれてるんだ……家族に他にもリュウ何とかが居るのかな?
「白子やろ? ウサギとか蛇とかによぉ居るヤツ」
「水月、おかんは口が悪いねん。堪忍な」
「……白い子ぉは昔っから神さんの使いやてよぉ言いよる。めでたいやないの、大事にしぃたりや」
座ったまま眠っているのかと思っていたが、ちゃんと起きていたようだ。リュウの祖父は優しい眼差しをアキに向けてくれている。
「ありがとうございます、大事にしてます。後ですね、アキは日本語あんまり分からないので、アキに何か伝える時はゆっくり話すかセイカに通訳を頼んでいただきたいです」
「注意事項の多い子やねぇ」
「すいません厄介な弟で……力は強いので色々とお手伝いは出来ると思いますので」
「あぁええんよええんよお客様やねんからでーんとしとってくれたら」
でーんとする……とは?
「そ、そうですか? ぁ、えっと、次はこっち……セイカなんですけど、俺の親戚です。はちゃめちゃに頭がいいので通訳が出来ます。少し前に事故で片方ずつ手足を失ってしまったので少々動きが鈍いのですが、アキが介助をしているので皆様にご迷惑はかけないかと思います」
「あらぁー……そら災難なこったねぇ」
「……手足一本ずつしかないんか、目ぇは両方ありよんのか」
リュウの祖父がセイカの顔を覗き込む。
「めっ、目は両方ありますけど……」
「……ほうか。まぁ、山は入らん方がええな。山の神さんは一個ずつのもんが好きやねん、隠されてまうかもしれん」
「おとん! 変なこと言うて怖がらせぇな!」
リュウの父が声を荒らげる。
「ごめんなぁ水月くんセイカくん、うちのおとん人怖がらせんの好きやねん。あ、そういう言い伝えはほんまにあるんよ。実際のところは隻腕やの隻脚やので山登りなんやしたら危ないからっちゅうこっちゃろうね、言い伝えっちゅうんは案外合理的なんがあるんよ。せやから山は入らん方がええわ」
「あ……そうですね。山登りはまぁ、しないと思います。ご心配いただいてありがとうございます。自己紹介はこれで終わりです……すいません長々と時間使っちゃって」
リュウの隣に腰を下ろすと俺に抱きついていたアキはセイカの隣に戻った。俺の体調に問題はないと判断したのだろう。
「……おとん、神さんやなんやなんて言うたって信じへんよ最近の子ぉは特に! 変な家や思われたらセンが可哀想やろ、そういうこと言うんやめ!」
リュウの父親はヒソヒソと話しているつもりらしいが、内容は九割方聞こえている。聞こえないフリをしておくけれど。
「自分の言い訳よりマシじゃ。なんや隻腕隻脚には危ないて。んなもん今はええ義手や義足あるし水月くんらが抱えたったらしまいやないか。ほんで隠されたら責任持てるんか自分」
「そ、そんなん言うたかてやなぁ……」
一つ不安なことが出来た俺はリュウにそっと耳打ちする。
「……リュウ、隠されるとか何とかって……神隠しってことか? セイカ、山登ったら神様に攫われるのか?」
「…………そういうこっちゃ。せーか、山のもんに好かれやすい見た目はしとる。まぁ、もう滅多に神隠しなんかあれへんから大丈夫やって」
「この山は……?」
「ウチの神社の神さんの管轄やから大丈夫やよ」
俺は深くため息をついて安堵すると同時に、セイカを連れて山登りなどには絶対に行かないぞと頭に深く刻み込んだ。
0
お気に入りに追加
1,228
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました
柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!?
しかも男用!?
好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて…
二作目です!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる