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まずはご家族にご挨拶

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玄関扉を越えた後は、襖に障子など紙で出来た仕切りばかりで硬い扉は見られなかった。トイレや風呂の扉は流石に硬く分厚くあって欲しいと少し不安に思いながら、案外と空調の効きがいい広い和室に通された。

「……! にーに!」

リュウが襖を開けて中に入るとまず一番にアキが声を上げた。俺は駆け寄ったアキを宥めつつ、部屋をさっと見回す。中年と男性と女性が一人ずつ、多分リュウの両親。座椅子に腰を下ろしている老人はリュウの祖父だろうか。

「にーにぃ、大丈夫するです? にぃにぃ」

「大丈夫大丈夫、ちょっと静かにするんだぞ……お邪魔しています。鳴雷 水月と言います。高校では天正くんと仲良くさせていただいています、いつもお世話になっていて本当にありがたい限りで……今回も彼の提案に甘えさせていただくことになり、しばらく厄介になります」

「あぁ……こらご丁寧にどうも。センの父です」

「…………」

「……おかん、おいおかん、何ポーっとしとんねん」

「…………はっ、ぁ、母ですぅ……いやぁー……すっごいイケメン、何この……えぇー、こんな人間居るんや……」

「ごっついべっぴんさんやけどなぁ、息子の同級生に見惚れるやなんてなぁ、何考えてんねんこん浮気もん」

「なに拗ねてんの。ちょっとびっくりしてもうただけやないの、見惚れてなんてないわいな男の嫉妬は見苦しいわぁ」

夫婦仲は良さそうだ。

「えっと、おじ様おば様ちょっといいですかね……」

「あ、はい。なんでっしゃろ」

「この二人の紹介はもう……受けられましたかね?」

「あぁ、えーと、そっちがアキくんでこっちがセイカくんやろ。聞いたで」

「名前だけですか?」

「ぉん……せやけど」

アキと俺は顔が似ている。今は部屋が明るいからかアキがサングラスをかけていて分かっていないようだが、後々バレるだろうから先に言っておくべきだ。

「アキは俺の弟です。ちょっとややこしい話なんですけど、俺の母が友人に卵子を提供しまして、海外の男性と結ばれて産まれた子なんです。なので両親ともに違うんですけど血は半分繋がってるんです」

「ほー……?」

「……おとん分かってへんやろ」

「わ、分かっとるわい! とにかく兄弟なんやろ? 韓ドラみたいな感じの……」

「卵子提供とかほんまにあるんやねぇ」

ご理解いただけただろうか? 正直に話さず適当に親戚の子とか言っといた方が楽だったかな。

「それでですねぇ、アキはちょっと色素がない子でして……太陽の下に出る時はご覧の通りの日光対策が必要でして、アキが薄着をしてる時なんかは窓を開ける時にはアキに一声いただけると幸いですー」

「…………日ぃ当たれへんからなまっ白いんとちゃうん?」

「水月、おとんアホやねん。堪忍な」

「セン! 親に向かってアホとはなんやアホとは!」

リュウって家ではセンって呼ばれてるんだ……家族に他にもリュウ何とかが居るのかな?

「白子やろ? ウサギとか蛇とかによぉ居るヤツ」

「水月、おかんは口が悪いねん。堪忍な」

「……白い子ぉは昔っから神さんの使いやてよぉ言いよる。めでたいやないの、大事にしぃたりや」

座ったまま眠っているのかと思っていたが、ちゃんと起きていたようだ。リュウの祖父は優しい眼差しをアキに向けてくれている。

「ありがとうございます、大事にしてます。後ですね、アキは日本語あんまり分からないので、アキに何か伝える時はゆっくり話すかセイカに通訳を頼んでいただきたいです」

「注意事項の多い子やねぇ」

「すいません厄介な弟で……力は強いので色々とお手伝いは出来ると思いますので」

「あぁええんよええんよお客様やねんからでーんとしとってくれたら」

でーんとする……とは?

「そ、そうですか? ぁ、えっと、次はこっち……セイカなんですけど、俺の親戚です。はちゃめちゃに頭がいいので通訳が出来ます。少し前に事故で片方ずつ手足を失ってしまったので少々動きが鈍いのですが、アキが介助をしているので皆様にご迷惑はかけないかと思います」

「あらぁー……そら災難なこったねぇ」

「……手足一本ずつしかないんか、目ぇは両方ありよんのか」

リュウの祖父がセイカの顔を覗き込む。

「めっ、目は両方ありますけど……」

「……ほうか。まぁ、山は入らん方がええな。山の神さんは一個ずつのもんが好きやねん、隠されてまうかもしれん」

「おとん! 変なこと言うて怖がらせぇな!」

リュウの父が声を荒らげる。

「ごめんなぁ水月くんセイカくん、うちのおとん人怖がらせんの好きやねん。あ、そういう言い伝えはほんまにあるんよ。実際のところは隻腕やの隻脚やので山登りなんやしたら危ないからっちゅうこっちゃろうね、言い伝えっちゅうんは案外合理的なんがあるんよ。せやから山は入らん方がええわ」

「あ……そうですね。山登りはまぁ、しないと思います。ご心配いただいてありがとうございます。自己紹介はこれで終わりです……すいません長々と時間使っちゃって」

リュウの隣に腰を下ろすと俺に抱きついていたアキはセイカの隣に戻った。俺の体調に問題はないと判断したのだろう。

「……おとん、神さんやなんやなんて言うたって信じへんよ最近の子ぉは特に! 変な家や思われたらセンが可哀想やろ、そういうこと言うんやめ!」

リュウの父親はヒソヒソと話しているつもりらしいが、内容は九割方聞こえている。聞こえないフリをしておくけれど。

「自分の言い訳よりマシじゃ。なんや隻腕隻脚には危ないて。んなもん今はええ義手や義足あるし水月くんらが抱えたったらしまいやないか。ほんで隠されたら責任持てるんか自分」

「そ、そんなん言うたかてやなぁ……」

一つ不安なことが出来た俺はリュウにそっと耳打ちする。

「……リュウ、隠されるとか何とかって……神隠しってことか? セイカ、山登ったら神様に攫われるのか?」

「…………そういうこっちゃ。せーか、山のもんに好かれやすい見た目はしとる。まぁ、もう滅多に神隠しなんかあれへんから大丈夫やって」

「この山は……?」

「ウチの神社の神さんの管轄やから大丈夫やよ」

俺は深くため息をついて安堵すると同時に、セイカを連れて山登りなどには絶対に行かないぞと頭に深く刻み込んだ。
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