上 下
1,192 / 1,986

隠れて隠して

しおりを挟む
リュウの実家の神社に祀られている神様に『護り』とやらをいただいた。サキヒコに取り憑かれることで起こる体調不良を一日だけ防いでくれるらしい。

「ほな家行こか。サキヒコくんは家のもんに見つからんようにしてな。屋根裏通るとか、床潜るとか、物すり抜けられんねんからどないでも隠れようあるやろ。視界入らんかったら気付かんわ、多分」

「霊能力者って隠れてても感じ取れるから霊能力者なんじゃないのか?」

「神主や、霊能力者とちゃう。穢れ綺麗にしたりすんのが仕事。幽霊退治は仕事とちゃうねん」

「ふぅん……よく分かんないけど、気を付けてるんだよサキヒコくん」

「あぁ、分かっている。今日はあまりミツキの傍に居たくないしちょうどいい。神社に行っただけでこんな気配を感じるとは…………はぁ……幽霊とは、やはり穢れた存在なのだな」

神様の加護というのはまさか本当に虫除けスプレーをかけたようなもので、サキヒコが不快感を覚えて俺から遠ざかるから体調不良がマシになるとか、そういうことなのか? とリュウにこっそり尋ねてみた。

「ちゃうよぉ。水月にかけてもうたんは外付けバッテリーみたいなもん」

「外付けバッテリー……?」

「……ちょお耳貸して」

少し屈むとリュウに耳を手で包まれる。あんなぁ、と関西独特の抑揚から始まった囁き声はとても可愛らしい。

「幽霊に取り憑かれとったら、何や削られていくんよ。だいたいは生気、運気やね。色情霊とか一部のもんやったら精やな……白いアレや」

「……俺は生気吸われてるってこと?」

「吸われとるっちゅうとサキヒコくんがエネルギー使っとるみたいやね、それはちょっとちゃうんよ。幽霊言うんは善悪問わず生者とは相性悪うてなぁ……せやなぁ、雪だるまとカイロが仲良うしたがるようなもんや」

ファンタジーなたとえ話だ。

「生気、運気が削れるんは幽霊への抵抗なんよ。風邪引いた時に熱出るんと一緒。身体が一生懸命ウイルスと戦うてはるから熱出るんやろアレ」

「なるほど……」

「水月が生気の方で抵抗するタイプで良かったわ、生気やったら飯食うたり寝たりで回復するからなぁ。運気やったらヤバいで、運悪なってくから事故に遭う可能性高まってくねん」

「えぇ、怖いな……よかった俺生気タイプで。セイカとかアキは大丈夫なのか? 同じ家に居たんだからアイツらも抵抗ってのしてるんだろ? セイカは昨日風邪気味だったけどアキはそんなことないし、運気タイプなのか?」

「あぁ、あの二人は何ともあらへんわ。取り憑かれてへんもん」

「何ともないのか? よかった……安心したけど、よく分かんないな。幽霊が生きている人間と相性が悪くて、人間が無意識に幽霊への抵抗として生気や運気を使ってるんなら、幽霊の傍に居る者全員がそうなるもんじゃないのか?」

「ホンマに居るとこに肝試し行った後、なんや体調悪なったなぁとか肝試し行ってから不幸続きやわぁみたいなんはそうやねんけど、水月とサキヒコくんの場合はちょっとちゃうねん」

「どう違うんだ?」

「サキヒコくんは水月が面倒見るって水月が決めとるやろ? サキヒコくんも水月に着いてくって決めて惚れ込んどる。せやから水月が責任持って全員分の抵抗力出してんねん、人が多いほど水月はしんどなるはずやで、みんな庇ってんねんから」

俺えらくない? 褒め称えられるべきじゃない? 無意識下でそんな美しい自己犠牲精神を見せるなんて、超絶美形の顔に心が追い付いてきたんじゃない?

「……だからアキとセイカ先に行かせたのか?」

「ん? おぉ、さっき? せやで」

「そっか、ありがとう。外付けバッテリーこと神様の加護ってのは俺の代わりに抵抗してくれる不思議パワーってことなんだな」

「そんな感じそんな感じ。サキヒコカイロに引っ付きたがるアホな雪だるま水月を冷蔵庫に入れたってん」

「……結果、サキヒコカイロとはちょっと離れちゃった訳だ」

「はは……神様の気配っちゅうんは嫌なもんみたいやね、それは俺知らんかってん。堪忍な。せやけど加護は順調に減っとる、削れるはずやった水月の体力の分……幽霊は全然見えへんけど、神さんの力やったらぼんやり見えるんよ、俺」

「幽霊と神様って随分違うんだなぁ……目に見えない不思議な存在で一緒くたにしてたよ今まで。逆にさ、幽霊見える人は神様見えなかったりするの?」

「さぁ……霊能者の知り合い居らんし、分からん」

今度フタに聞いてみるか。

「着いた。ここやよ、俺ん家……っちゅうかじーじぃん家。おとんとおかんと三人で住んどった家は引っ越しん時売ったからなぁ、あっちやったら低いとこでこないに登らんでよかってんけど」

「家の姿見えてから玄関までが遠かったな。塀がどこまで続くのかと思ってたよ、お坊ちゃまだったんだな」

「……こんな町外れの半分山みたいなとこの土地の値打ちなんか知れとるし、何百年と前から受け継いできたもんや。俺自身は何も大したもんとちゃうよ、生まれ育った神社の神さんの声しか聴かれへん、それも不完全で……ほんま、大したもんとちゃう」

明るく快活なリュウらしくない暗い声色が何だか怖くなって、気付けば俺はリュウを抱き締めていた。玄関の引き戸に手をかけようとしていた彼は目を見開いて手を止め、柔く笑って俺の腕の中から抜けた。

「話聞かんやっちゃのぉ、友達の態度で頼む言うたやろ。家でも、ゃ、家でこそ頼むわ」

いつも通りのヘラヘラとした、金髪も相まって軽薄そうな笑顔。その優しい形の瞳はいつもとは違って暗く冷たい。

「俺、水月んこと恋人やて紹介する気ぃサラサラあれへんからな」

からかうような、反撃を待つような、そんな言い方。けれど目は口ほどに物を言う、リュウは家族に俺との真実を話せないことを悲しみ、俺には罪悪感まで抱いている。そんな必要ないのに。

「あぁ、友達な、友達。その代わり場所見つけたら覚えてろよ? お前が俺の愛玩玩具だって身体に刻み込んでやるよ」

ごめんなさいと視線で謝り続けるリュウの気が少しでも楽になるよう、俺はあえて軽薄で下品な返事をした。
しおりを挟む
感想 442

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...