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おくすり飲もうね

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普段であれば皿洗いは俺の仕事なのだが、俺の顔色が非常に悪いからか今日は免除された。

「水月、アンタも風邪薬飲んどく?」

アキが義母と共に母の寝室に行った後、母はセイカの前に風邪薬を一つ投げながら俺に尋ねた。

「風邪じゃないと思うんですよな……」

「しんどさどんな感じよ、医者じゃないし薬剤師の資格とかもないけど、結構分かるわよ私」

「うーん、そんな体調悪いって感じじゃないんですよ。強いて言うならちょっとダルいかなってだけでそ」

「その顔色の悪さで?」

サキヒコが取り憑いているのが原因なのに、その症状を詳しく話しても俺が飲むべき薬なんて決められないはずだし、病院に連れて行かれたらとても困る。俺は顔色が悪いだけで体調には特に問題がないことにした。

「はい」

「そう……ならいいけど、明日だったわよね出発。行けそう? 行ってもらわないと困るのよね、アキとロシア男が鉢合わせちゃう」

「ロシア男て……大丈夫でそ、体調に問題はないので予定通り出発しまそ。わたくしよりセイカ様の方が心配ですな」

チラリと親子揃ってセイカの方を見ると、彼はビクッと身体を跳ねさせた。

「あら、まだ飲んでなかったのね。セイカくんオクスリノメールとかないと飲めないタイプ?」

「え……何ですかそれ」

「ゼリーよ。薬包んで飲みやすくするヤツ」

「セイカ様いつも平気で錠剤飲んでるじゃありゃーせんか」

「カゼニキークは粉薬なのよ。苦いの苦手なのかなって」

「……バカみたいな名前した薬ですなぁ。そうなんですかセイカ様、でしたらわたくしコンビニまでひとっ走り買ってきまっそ」

「あ、いや……あの、抗うつ薬もう飲んじゃったから、薬ってほら、重ねて飲んじゃダメって聞いたから」

なるほど。何時間か空けたら大丈夫なのかな? 胃が空だとよくないとも聞くから、夜食を作ってやるべきかな。

「抗うつ薬と風邪薬は飲み合わせ大丈夫だから飲んでいいわよ」

「マジですかママ上」

「ええ、一応成分表見たけど大丈夫だったわ。でなきゃ渡さないわよ……水月、このモグリ君に教えてやってくれる? 私がどこに務めてるのか」

「セイカ様、ママ上は超有名製薬会社の専務であらせられますぞ! 薬に関しては信頼していいかと」

「ちょっと水月、他では信頼ならないみたいな言い方じゃないのよ」

「すいません……素人が、変に疑って……飲みます」

セイカは素直に薬を飲み、その苦味に顔を顰めた。コップの水を全て飲みきり、深く息を吐いたセイカの頭を母が撫でる。

「全部飲んだわね、えらいえらい」

「……っ、あ、ぁり……がとう、ございます」

不意打ち的に頭を撫でられるのはやはり苦手なようで、その声は震えていた。

「後でご褒美にプリンあげるわ」

「えっ」

「薬飲んだら三十分くらいはやっぱり食べない方がいいのよ」

「ぁ、いや、後でってとこにびっくりしたんじゃなくて、その……そんな、プリンとか」

「あら、ヨーグルトの方が好き?」

「え、ち、ちがっ……あの、俺……俺には、そんな」

「ちゃんとお薬飲めたんだから、ご褒美はいるでしょ? 子供のくせに遠慮しないの」

根気強く頭を撫でくり回され、セイカはようやく首を縦に振った。母は達成感を噛み締めるようにふんっと鼻を鳴らして微笑んだ。

「ママ上、わたくしもやっぱりお薬飲みますのでドデカプリンくだされ」

「薬は無理に飲むもんじゃないの」

「げほっげほっ、あー咳が~、めまいがー、喉がぁああ」

「尻から飲むタイプのもあるわよ」

「お尻は出口でそ! ってかそれ解熱剤でわ!? わたくし熱上がってるんじゃなくて下がってるんですけどぉ!」

「お前これまで何人のケツを出入口にしてきたと思ってんだよ」

「そこ怒るとこぉ!? えっと、抱いてなくても指入れたらもうカウントしていいよな? フタさんのケツにはまだ手ぇ出せてないから十二人……あーでも俺がケツを教えた訳じゃない子も居るから、えっと」

「真面目に答えるなよ聞きたくねぇよそんなこと」

苦いものを飲んだからご機嫌斜めなのか? 母との会話の緊張が解けた反動で口が止まらないのか? どちらにしても可愛いからいいけど。

「ふふ……お皿洗ってくるわね」

「あ、すいませんママ上……」

「いいのよたまには。ゆっくりしてなさい」

「……わたくしはゆっくりよりしっぽりがいいですなぁ」

手をわきわきさせながらセイカに迫る。

「風邪気味だから近寄るなって言っただろ! うつるぞ!」

「くっ……」

旅行を明日に控えた今は風邪を引く訳にはいかない。

「……風邪のウイルスとは口などから出るもの、つまり太腿ペロペロふくらはぎはむはむ足の指しゃぶしゃぶには問題ないということでよろしいですかな?」

「何一つよろしくない」

アキが居ない今、ペッティング……いや、スキンシップはセイカとするしかないのだ。サキヒコとは会話は出来るが触れない。

「セイカ、俺は病気なんだ。一定時間以上美少年に触れないと死んでしまう病と言ってな」

「じゃあお前この歳まで生きてねぇだろ」

「……最近発症したんだい!」

「そもそもその病気は俺に触ったところでどうしようも……ぁ、ほら、秋風帰ってきたぞ」

アキと、ついでに義母がダイニングに戻ってきた。

「はぁ……ただいまぁ」

《よっす兄貴ぃ、スェカーチカ、恋しかったぜ~》

義母はため息をつきながら崩れ落ちるように椅子に座り、アキは俺に抱きついて頬擦りをしてくれた。

「なんちゃら病は治ったな」

「……美少年二人に触れられないと死ぬ病だったかもしれん」

まぁ、実際はアキのもちふわスベスベほっぺの感触が良過ぎて死にそうなんだが。

「アキ、お母さんと何してたんだ?」

「お父さんと話してたのよねー、アキぃー」

「え、そうなんですか?」

「そうなのよ、近いうちに日本に来るってんでね。アキに「お父さん行くぞー」って連絡だったの」

いざ異国の地に来てみたらアキは旅行中で居ないんだから、怒るだろうなぁアキの父親。でも、悪いのはDVをやらかした父親自身だからな。

「水月くん、アキのこと逃がしてくれるのよね? ありがとうねホント……」

「いえいえ……」

でもアキの旅費とか世話代とか言ってお小遣い渡してくれたりはしないんだよな、この人。
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