冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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増大する負荷

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サキヒコの声が聞こえる。別荘を離れてからはすっかり見聞きできなくなった彼の存在を感じる。成仏ならともかく消滅してしまったらどうしようなんて考えて毎日不安だった俺にとって、サキヒコの存在が濃くなるのはとても嬉しいことで、涙腺が緩んだ。

「よがっだよザギビゴぐゔん……」

「な、何故泣く……ミツキ」

「みつき、みつきぃー、ちーん」

四つ折りのティッシュ越しに鼻をつままれる。素直に鼻水を差し出すと頭を撫でてもらえた。

「ぅへへ…………っじゃない! めっちゃ子供扱い……! 俺はっ、俺はもっとこう、頼れる男でありたくてぇ……」

「ミツキ、ミツキ、私の声が聞こえるのか? 本当に聞こえるんだな?」

「サキヒコくんっ、そうだよすごく聞こえる……! ど、どうしたの? なんで……これがフタさんぱぅわなの?」

「俺なんもしてねぇよ?」

霊感のある者の傍に居ると自然と霊感が育っていく、なんて話はよく聞く。そういうことなのだろうか。

「猫達に霊としての生き方を教わったのだ、死んでいるのに生き方というのもおかしいが」

俺の予想は外れたみたいだ。

「猫達って、先代のイチニィミィって子達?」

「そういえば夜中一緒に出かけてたねぇ」

おかっぱ着物ショタのサキヒコが猫三匹と夜の街を探検? なにそれ可愛い。ほのぼのホラー探索ゲームとして四千円くらいで売ってくれ。

「何してたの~?」

「それを話す前に、まず幽霊というものについて一つ知っておいて欲しいことがある。私のように自我を持つ者は少ないということだ、体感八割くらいは残留思念……本人ではないが、強い感情の残像が空間にこびりついているモノだ」

「液晶画面の焼き付き的なこと?」

「何だそれは」

「……?」

何十年も前に生まれ、そして死んだサキヒコは仕方ないにしても、最新機器に囲まれスマホに頼った生活をしているフタには分かって欲しかった。

「そういったモノをこう……鉄板に張り付いてしまった魚の皮や卵を剥がすように、ガリガリっとこそげるんだ」

「あー……?」

フライパンに張り付いた食材を剥がした経験はあるが、空間に焼き付いた感情とかいう訳の分からないファンタジーで概念的な物に対しての説明に使われると、途端に理解が難しくなる。

「で、そういった焦げ付いたモノは主人に出す訳にはいかないが、完全に焦げた訳ではないので作りながら食べるだろう?」

「まぁ……こんがり焼けてて一番美味しいとこだったりするよね、焼きそばとかだと特に」

「そういったことをしてきたんだ」

「…………残留思念を、食べた?」

「そういうことだ」

そういうことだって言われてもなぁ……

「人の形をしてはいるから最初は躊躇するのだが、仕留めると霧散してしまうのでな、食事は香を楽しむようなものだった。食人をしているような酷い絵面ではなかったから、その辺りは安心していいぞ」

「仕留めるって、残留思念に仕留めるとかあるの?」

「焦げ付きも剥がさないと食べられないだろう? 仕留める、というのは焦げ付きで言うところの剥がす作業だ。今回は猫達にやっていただいた。空間から剥離させ残留思念を構成する力をいただく……それが霊の食事だ。食事と言っても生者にとってのものとは違い必須ではないがな。手っ取り早く己を強化したいならそうやって他を喰らう必要があるということだ」

よく分からないが、とにかくサキヒコが消滅の危機を避け俺と会話が可能になったのはめでたいことだ。細かいプロセスなんてどうでもいい。

「これは生者のためにもなる行為なのだぞ。残留思念とはいえ動いたり話したりするからな、気味の悪い幻聴が聞こえる道として嫌われたり、車で走っていたら突然現れて驚いて事故を起こしてしまったり……残留思念があって生者にとっていいことなど一つもないからな」

「へぇー……」

「…………まぁ、今話したことは全て師匠の受け売りなのだが」

姿は見えないため表情は分からないが、照れているような声色だった。可愛い。

「師匠って猫達? すごいね……流石妖怪に片足突っ込んでるだけあるよ、人間の幽霊の強化も出来ちゃうんだもんね」

「途中からなんか聞いてなかったんだけどさ~……サキちゃんパワーアップしたんだよね? よかったね~……俺には全然そんなふうには見えないけど」

「なんかシュインシュイン鳴ってたりオーラまとってたりしないんですか?」

「……? いつも通りのサキちゃんだけど……」

初めから生きた人間と同じように見えているフタにとって、多少のパワーアップは微々たる差のようだ。

「そういうものなんですね……ま、とにかくサキヒコくんと話せるようになってよかったよ」

「私も嬉しい」

「明日から大阪に旅行行くんだ、一緒に来るよね? 姿も見えるようになりたいけど……師匠に教えを受けるのはまた今度ってことでどうかな?」

「大阪……生前も行った経験はない、楽しみだ」

「みつき大阪行くの~? なんかちょっと前に似たようなこと聞いたような気がするなぁ……ま、いいや。行ってらっしゃ~い」

ブンブンと大きく手を振られた。今から行く訳ではないのだがと思いつつ手を振り返すと、フタはハッとしたように白猫を抱えた。

「ばいばいみつきぃ」

「あ……はい! さようなら、フタさん。サキヒコくん、行こ」

もう少しフタとイチャついていたかったけれど、そろそろ夕飯の時間だし、話の流れでもう帰ることになったのはちょうどいいんだと自分に言い聞かせた。

「うん」

「……っ!?」

ズン、と肩に重さが戻る。高熱が出る前のようなゾクゾクとする寒さも宿り、胃の内容物がせり上がってくる。

「ミツキ?」

「……サ、サキヒコくんさ、今どんな感じで着いてきてるの? ほら、俺姿見えないから……教えて欲しいな」

「ミツキの右斜め後ろに立っているぞ。浮くことも出来るが何となく地に足を付けていたいんだ」

「歩いて着いてきてるの?」

「あぁ、浮いて移動するのはまだ少し慣れない」

俺の肩に乗っている訳ではないのか。この重さ寒さは単純に、俺に憑いているというだけで与えられる負荷なのか。フタはこれに耐えていたのか? それとも霊感の強い人間は抵抗力も高いのか?

「ミツキ? 顔色が悪いようだが……」

「だ、大丈夫大丈夫。ちょっとお腹すいてるだけ。行こ、サキヒコくん」

俺はニッコリと笑ってみせた。サキヒコが俺の笑顔で安心してくれたかどうか、彼の表情で測りたい。あのどこかミフユに似た可愛い顔が見たい。姿が見られるようになったら俺への負荷は強くなるのだろうか、これ以上酷くなったら俺はもう歩くことすらままならないだろう。それでも俺は、彼氏の顔が見たい。
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