冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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出社しろ!

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舌と舌を絡ませ合っていると互いの境界線が失われていくような錯覚に陥る。フタはすっかり俺とのキスが気に入ったらしく、積極的に俺の頭を抱き締めて舌を動かしてくる。

「んっ……ん、ん……」

太腿にぐりぐりと硬いものが擦り付けられている。また兜合わせを、いや、フェラをしてやろうかな、後孔の開発に手を出してもいいだろうか、悩む俺の耳に着信音が届いた。

「んっ、ぷは……フタさん、フタさんっ、スマホ鳴ってます」

「……んぇー? いいとこだったのに……もしもーし」

『フタぁあっ! てめぇどこで油売ってやがる! 今日は休みじゃねぇぞてめぇっ、昨日無理言って休みやがった分しっかりキリキリ働けアホが!』

薄らと怒鳴り声が聞こえてきた。内容までは分からなかった。スピーカー機能をONにして欲しいけれど、流石に厚かましいかな?

「あぁ……? あぁ、ヒト兄ぃ? どったの、もっかい言って」

『今すぐ出社しろ、猫捨てるぞ』

「ヒトさんですか?」

「なんかとんでもねぇこと言ってる……」

『仕事しに来いつってんだよ!』

「すぐ行くぅ~……はぁ……仕事だってぇ、忘れてた……」

ヒトからの出社要請だったのか。

「またね、みつきぃ」

「あ、待ってください。俺も行っていいですか?」

「えー……? まぁいいや、おいで」

何時始業かは知らないが、大遅刻に間違いはない。またフタがヒトに殴られてしまう、酷いアザのある腹を更に殴られたらフタはどれだけ痛がるだろう、想像もしたくない。どうにか庇わなくては。

「ただいまぁー」

まず仕事着に着替えるだろうから、最上階の私室に帰るのかな。それともまずはヒトに謝罪しに行くのかな。そんなことを考えながらフタの後に着いて事務所に入り、倒れ込んできたフタに潰された。

「痛た……フ、フタさんっ?」

「……っ、てぇ……んぁ? みつきぃ、ごめん、大丈夫?」

どうやらヒトは事務所の玄関で待ち構えていたらしい。見慣れたスーツ姿の彼は、昨日はタオルを被せていて見えなかった髪をビシッとワックスで固めてオールバックにし、フタを殴った拳をぷらぷらと揺らしていた。

「フタぁ……てめぇいい加減にしろよっ!」

尻もちをついたままのフタの足を踏み付ける。革靴を履いた足で、何度も何度も力一杯。

「やっ、やめてください!」

フタの下からやっとの思いで這い出した俺はヒトの足に抱きつきながら叫んだ。

「…………鳴雷さん、どうされました? ここは大人の仕事場です、部外者があまり好き勝手に出入りしていい場所じゃありませんよ。それとも、仕事のご依頼で? もしそうなら応接室にご案内いたしますが」

フタに向けていたのとは違う整った声色。それは大人らしく相手を見て態度を変えている訳でも、誤魔化そうとしている訳でもない、ただの煽りだ。表情で分かる。

「やめてくださいって、言ってるんですよ」

呼吸を整えて立ち上がる。真正面から睨み上げるとヒトは嘲笑うような表情をやめた。

「遅刻は確かに悪いことですよ、電話しなきゃ仕事あるの忘れてて行かなかっただろうってのも酷い話です。でも、だからって人をこんなふうに殴っていい訳ない! それも弟を!」

「……正義感ですか?」

「全っ然違いますよ。俺の恋人にこれ以上手ぇ出させねぇって話です」

「…………恋人、ね」

「頼みますよ、フタさん酷い怪我してるんですよ。アンタがやったんだろ、腹の酷いアザ。指の骨折。顔と腕の引っ掻き傷は……猫ですか?」

「引っ掻いた覚えはないですね」

「じゃあそれはいい。後で猫に言います」

視線を感じる。社員達だ。騒ぎを聞きつけて奥から出てきたらしい。

「何何? フタさんのカレくん? どしたの?」
「ヒトさんと揉めてるっぽい……」
「フタさん殴られたのかな、左ほっぺた赤い」
「え、それでヒトさんに噛み付いてんのあの子」
「意外と度胸あるなぁ……綺麗な顔してるのに」

「……仕事に戻れクズ共!」

「やべっ」
「さーせん!」
「戻りゃっす」
「っす」
「フタさん手当するからおいで~」

呼ばれたフタは俺とヒトに視線を向けることもなく小走りで自分を呼んだ社員の元へ向かった。

「…………自分を庇った恋人ほっぽって行きましたよ?」

「それが何だよ」

「あのバカは一度に一つのことしか頭に入りません、呼ばれた瞬間にあなたと私がすっぽり抜け落ちたんですよ。そんなののために私に食ってかかるの、馬鹿らしいと思いません?」

「思わない」

「……そうですか。で? 何がしたいんです?」

「フタさんをもう殴らないで欲しいんです、蹴るのならいいのかなんて屁理屈はやめてください。自分の弟に暴力を振るうなってだけの話は、頭の良さそうなあなたには難しくありませんよね」

「そうですね、理解だけなら」

「暴力、やめてくれますか?」

「……あなたの要求を飲む理由はありません」

勝ち誇った笑顔でそう言われ、爪が手のひらに刺さるくらいに拳を握り締める。確かに、ない。脅す材料も、暴力をやめるメリットも、何も提示出来ない。力のない自分が、何も思い付かない馬鹿な自分が情けなくて、視界が滲んできた。

「………………げ、た……じゃん」

「聞こえませんよ、もっと大きな声でどうぞ」

「……っ、ラプトル! あげたじゃんっ」

「…………」

「高かったんだぞぉっ、アレぇっ! アンタ喜ばせたらっ、フタさんに酷いことしなくなるかなってぇっ! だから買ってきたのにぃ……」

まさかの駄々を捏ねるクソガキにヒトは目を丸くした。

「はぁ……予想外ですよ。サンに言い付けるとか、ボスに言い付けるとか、そういうこと言い出すと思ってたんですが……ラプトル、ね。確かにいただきましたよ、いい品です」

「フタさんに、ヒトさん爬虫類好きって聞いたから、恐竜も好きかなって……酷い人ってイメージしかなかったけど生き物愛でられる人なんだって分かって、嬉しかったのに……俺、話合う人居ないからっ、嬉しかったのにぃ……」

ヒトは困ったようにため息をつき、頭をガリガリと引っ掻いた。

「殴りかかってくるとか、誰かにチクるとか、そういうので来てくださいよ…… あぁもう…………一旦落ち着いてください。ちょっと話しましょう、私の部屋にどうぞ」

「……? フタさん殴らないでくれるぅ? いい人なんですフタさん、俺フタさん大好きなの……痛がる顔見たくないぃ……アザ見ると、辛いんですぅ……」

「あぁもう鬱陶しい……いいから来てください」

手首を掴まれ引っ張られ、エレベーターに乗せられた。目を擦り、鼻をすすり、深呼吸をし、ため息をついた。

(なんか……わたくし、最近涙腺緩くないですか? カンナたんやアキきゅんならともかく、わたくしが泣いて通る要求なんかある訳ないでそ、しかもヒトさんに……いや今回はちょっとうるっと来ただけで泣いてはいませんがな!?)

なんで俺、ヒトの部屋に連れて行かれるんだろう。殴られるのかな。フタの分を減らせるなら、それでもいいかな。
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