冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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忘れっぽい理由は……?

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何とか泣き止んで席に着いた俺の前には、白米と焼き鮭、ほうれん草のおひたしと、ワカメと豆腐の味噌汁が並んでいる。和風の朝食には馴染みがない、ワクワクしながら手を合わせた。

「んんっ……! 美味し……!」

「兄貴が水月泣かせたせいでちょっと冷めちゃったけどね」

「ガキみたいなこと言って泣いてごめん……あの、フタさんって……何でそんなに忘れっぽいんですか? いくら何でも昨日のことパッと出てこないのは……日常生活に支障きたしません?」

ずっと気になっていたけれど、直接聞くのははばかられたことをとうとう口に出してしまった。フタはすぐに忘れてしまうだろうと確信が持てたからこそ言えたことだ。

「師匠……? そんなの居ないけど……」

「スマホのアラームとメモ機能があれば日常生活は何とかなるんだよ。ボクのパシリとか水月とのデートとか非日常ぶっ込むとアレだけど」

科学の進歩様々だな。運転も自動ブレーキがなければ何度事故を起こしていたか分からない。

「失礼を承知で聞きますけど……何か、記憶障害とかあるんですか? 若年性の認知症とか」

シュカの母親の話を思い出しつつ、サンにそっと尋ねてみた。

「さぁ……? 調べたことない、よね?」

「分かんない」

「……脳に腫瘍があるとかだったらどうするんですか」

「人間ドックはたまに行ってるよね。ボスも何も言わないし、少なくとも治療が必要だったり手帳もらえたりするレベルじゃないんだろ」

健康に問題がないならいいが……フタは本当に忘れっぽいのだと俺もこの二日で心底理解したつもりだし、さっきみたいに「忘れられた! フタさんは俺のこと好きじゃないんだ!」なんて面倒臭い泣き方もうしないつもりだから、日常生活を送れているのなら他に問題はない。多分。

「手帳便利だよ~? 博物館美術館フリーパス! 他にも割引とかが色々。まぁボク見て楽しむ系のもの好きじゃないからあんまり活用出来てないけど、セイくんも持ってるんじゃない? 使えるもんは使いなよ、夏休みの間に色々行っとけば?」

「あぁ……うん、伝えとく。その…………知り合いの親が、認知症でさ……大変そうだから、そういうのだったら早めにお医者さんに相談するべきかなーって思って。大丈夫ならいいんだ、忘れっぽいところも可愛いし」

「泣かされたくせに」

「……反省してるよ。あの泣き方は流石にガキっぽ過ぎる……すいません、フタさん」

口いっぱいに米を含んでいたフタはもぐもぐと口を動かしながら首を傾げる。

「ふふっ……可愛い。いいんだ、本当に……その時を楽しもうって付き合い方なら思い出忘れられてもそんなに傷付かずに済みそうだし、そうするよ」

「それがいい。思い出話は他の子としなよ」

「……俺ハブるって話ぃ?」

「違っ、う……けど、近いですね……ごめんなさい。でもよく分からない話するより、楽しいことしてた方が楽しいでしょう?」

「うん」

「そういう話です」

「じゃあいいや」

この笑顔だ。この笑顔が見られればそれでいい。そう思おう。



フタとの付き合い方をようやく決めた俺は食事を終え皿洗いを手伝った後、フタと二人でリビングで同じ時を過ごした。サンは絵を描きに二階に向かった、俺とフタの話を聞いていて何かインスピレーションが湧いたらしい。

「名前長ぇからヒコちゃんて呼んでいい? え、サキちゃんがいいの? あぁそう……んじゃサキちゃん」

喉が渇いたりトイレだったりで席を外すと、フタはサキヒコと話した。

「あ、みつき。おかえりぃ~」

「ただいま。ジュース入れてきましたよ」

「あんがと。ん? サキちゃんも飲みたいの?」

「俺の飲んでいいよ、サキヒコくん」

サキヒコが飲んだ後のオレンジジュースは水を半分混ぜたような味の薄さだった。

「…………俺もサキヒコくんと話したいなぁ」

「あ、ごめんね俺ばっか話して。どうぞ」

「え……ぁ、いや、俺サキヒコくん見えないし声聞こえないんです」

「へっ? なんで? サキちゃん……あっサキちゃん死んでんだった!」

サキヒコと話せるのは羨ましいが、ここまで生者と死者の区別が付かないのはあんまり羨ましくないな。

「そっかぁ……みつきの彼氏なのに話せねぇんだ。え? 夢? 夢ん中なら話せんの? へー、じゃあ昨日も夢デートしたんだ。してねぇの? みつきが疲れてて夢見てなかった……? ふーん……」

遊園地デートで体力を使い果たしてしまっていたのかな。今後は疲れ過ぎないように気を付けなければ。

「そういえば確か今日がお盆終わる日だけど……サキヒコくん、何か消えかかってたりしない?」

「……別に何ともないってさ」

「そっか、よかった……何かないのかなぁ、サキヒコくんと話す方法。塩とか線香とかはダメだもんね、逆効果のならいっぱい聞いたことあるんだけど、幽霊の力を強めるってなると……みんなそんな情報欲しがらないし、出回らないよね……こっくりさんとかでイケるかなぁ、でもサキヒコくん以外の幽霊に割り込まれたら怖いしなぁ……」

「ん……? こくり……? さん? はだめ? ってサキちゃん言ってる」

「やっぱり? 分かってるよ、やらない。それはそうとフタさん、酷吏じゃ酷い役人さんですよ、もぉ……ふふっ」

キョトンとしているフタはとても可愛らしい。キスをして、雰囲気がよければそのまま押し倒してしまおう。ソファの上でというのもオツなものだ。なんて考えながらフタの頬に触れ、ゆっくりと顔を近付けていった俺のポケットの中でスマホが震えた。

「ん……? すいません、ちょっと……」

メッセージアプリの通知のようだ。一度くらいなら無視してフタとのイチャつきを続行したが、こう何度もピロピロ鳴られては集中出来ない。アプリを開かず通知欄から内容を確認して、大した用事ではなさそうだったら音を消してしまおう。

「…………は?」

通知欄には「みっつんまたバズってる!」というハルからのメッセージが最初に表示されていた。
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