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両手に花、大きめの花

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風呂から上がったばかりのフタに頼み、俺は彼が髪を乾かしている間スマホのメモに記した内容を見せてもらった。

「…………嘘だろ」

俺が話した内容がメモとして残されている。プテラノドンの浅い雑学、俺の好きな恐竜、昼食中に軽く話した食べ物の好みなどなど……俺は髪や服を褒めると喜ぶことも、俺の笑った顔がとても可愛いなんて感想までもが今日の分のメモになっていた。

「マジか……」

とりあえず、フタが俺の話に興味がないというのは誤解だった。それどころか興味津々でメモまで残していた。なんて可愛い人だろう、大切にしたい、しなければ。

「みつきぃ、俺のスマホ知らねぇ?」

「あ、俺が借りてました。どうぞ」

「ん」

俺にスマホを渡して、それを忘れて、なのに何故渡していたかは気にならないのか。

「風呂の後って何すんの?」

「えっ? ぁ……」

スマホが機械音声で話し始める。なんだ、俺に聞いた訳じゃなかったのか。



スマホに残したメモを読み上げる機械音声に従い、フタは入浴後の自分の手入れを済ませた。見た目に頓着がなさそうな彼が化粧水などを使っていたのは意外だった。あのメモはフタが書いたものではないだろう、文章がしっかりし過ぎていた。

(メモに従って日常生活を送っている、ということは……わたくしがメモを増やせば常識改変モノみたいなことが出来るってことですか!?)

俺に会ったらまずべろちゅー、とか。俺と話す時は胸か尻を必ず揉ませる、とか。出会い頭にまず一発、とか!?

(……いや流石に罪悪感やべぇですな。人前とかでも平気でやりそうですし、やっぱりやめときまそ)

じっとフタの顔を見つめながら考え込んでいると、俺の視線に気付いたフタに笑いかけられた。不意打ちの笑顔にときめき、心臓が騒ぎ出し顔が熱くなる。

「へへへ……みつきぃ」

抱き締められて照れが加速する。しかし寝間着の襟首から覗くフタの首周りに刺青が見えたことで少しだけ冷静になれた。まだ俺は刺青に、特に和彫りに慣れていない。恐怖で少し体温が下がってしまう。

「みつきぃ~」

フタの方からキスしてくれるのかとじっと待っていると、フタは機嫌良さげに俺の名前を呼びながら俺の頭に頬や顎の裏を擦り寄せ始めた。

(キスじゃないんですか……ゃ、でもこれはこれでかわゆい。何なんでしょうこのスキンシップ、超かわゆいでそ)

頬擦りくらいなら俺もしたことがあるし、他の彼氏にされたこともある。でもフタのは頬擦りというより顔擦りだ、鼻などの引っかかりやすそうな部位以外の全てで俺の頭を擦っている。

「水月、兄貴、そろそろ寝室行こ」

「あ、うん。フタさん、行きましょ」

「んー」

顔を擦り付けるのをやめ、ぽてぽてと俺に着いてくる。寝室にあるのは大きなベッドだが、二メートルに届かんとする大男二人が寝転べばもう俺に許された隙間は僅かなものだろう。

(雄っぱいに挟まれることが出来るのでわ!?)

ワクワクして二人が寝転がるのを待つ。いや、二人の隙間に身体をねじ込むよりも先に寝ておいて、後から二人に押し潰される方がイイか? いやいや……しかし……うーん、迷う。

「ボク真ん中ね」

当然のように俺が真ん中で眠ると妄想していたが、そうか、そういう可能性もあったな……フタは「いいよぉ」と了承するだろうし、今回はサンの雄っぱいだけで満足しておくか。

「えぇ~……やだ」

おっ?

「……なんで? ボク水月の隣がいいし、兄貴とも隣がいい」

「みつき俺の彼氏だもん、水月隣がいい~」

「水月はボクの彼氏でもあるよ」

「俺の彼氏もみつきだよ」

「ふ、二人とも喧嘩しないで。じゃあさっ、俺真ん中にしてよ!」

「喧嘩はしてねぇけど」

「うーん……まぁいいか、兄貴よりは水月の隣がいいし」

俺は強く拳を握って突き上げた。大声で叫びたい気持ちは堪えて、ベッドの真ん中に飛び込んだ。すぐに二人が俺の左右に寝転がる。

「フタさん、サン、落ちないようにもっとこっちおいで」

「背中ギリギリ~」

「水月苦しくない?」

「大丈夫大丈夫!」

ずりずりと少しずつ身体を下にズラしていき、俺を気にしつつ距離を詰める二人の胸に顔を挟んでもらった。

「ふぉお……!」

ムチムチの胸筋が俺の顔をぎゅっと挟む。たまらない。最高過ぎる。理想の死に方その二、このまま圧死。

「ふ、二人とも……落ちないように俺が支えておくよ。ちょっと一瞬腰浮かせてもらっていい?」

両手を精一杯伸ばして二人の身体の下を通し、尻を鷲掴みにして引き寄せる。胸筋と同じくムチムチとした尻にも筋肉の気配は濃い。揉みごたえがある。

「ふふっ、水月のえっち。落とさないでね、ボク達のこと」

「うん!」

「すっごいケツ揉むじゃ~ん……そんなイイもん?」

「はい!」

「あははっ、もう寝るんだからそんな大声出さないの」

「元気な返事ぃ~」

大きな手で顔や頭を撫で回され、ほとんど身動きが取れなくなってしまったのに俺は恍惚としていた。

「なんか幸せそうな顔してるね、水月」

「マジ? いいなぁサンちゃん暗くても顔分かって」

「すごく可愛いよ」

「だろうなぁー。写真撮っていい? 一瞬眩しいよ~」

パシャッ、という音と光に思わず目を閉じる。

「あ~……みつき目ぇ閉じちゃった。まぁいいか、これはこれで可愛いしぃ」

「そんなに可愛いの? 水月、眩しい顔して」

「えぇ……今は眩しくないのに」

「えい」

スマホのライト機能をONにしたフタがそのライトを俺の顔に向ける。

「眩しっ!」

「ナイス兄貴~。あはっ、ホントだ可愛い~」

「もぉ~……」

マイペースな二人に振り回される楽しさをこれからも何度でも味わえるのだと思うと、眩しさへの腹立ちが薄れて勝手に口角が持ち上がった。

「水月何かニヤついてる……?」

「撮らせて~…………眩しい顔しか撮れない」

「暗い部屋で撮りゃそりゃそうなりますよ! もぉ~……なんか視界に緑の丸が浮かんで消えないんですけど」

「サンちゃんは暗い部屋で撮っても眩しい顔しないよ? サンちゃんコツ教えたげてよ」

「それはボクの生まれつきの才能だね、眩しさなんて生まれてこの方感じたことないよ」

「サンちゃん流石ぁ、撮るよ~」

「フフン」

フタが見せてくれた撮ったばかりのサンの写真は、この上ないドヤ顔だった。
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