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鈍い反応

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職務質問を終え、再び車が動き出す。フタの運転は相変わらず不安だけれど、何とか遊園地に到着した。

「フタさん待って! これ着てください」

「んー? 何?」

「上着です、刺青目立つんで着てください。遊園地は子供が多いですし、ねっ? 暑いですけど、日焼けも防げますし……」

フタはあっさりと上着を羽織った。説得のために考えてきた色んな言葉は必要なかったらしい。

(タンクトップは胸がざっくり開いてますし、パーカーの前閉めてないので刺青結構見えてますが……うーむ、まぁこんくらいなら許容範囲ですよな、前からじっと見なきゃ分かんない訳ですし。ピッチリ閉めたらダサいし暑いし……)

チケットをそれぞれ持ち、受付を通る。村と名付けられているだけあって建物は民家風だ、様々なところに恐竜の像が飾られている。

「デケぇトカゲいっぱい居んねぇ」

恐竜に襲われている村なのか、恐竜が人間のように暮らしている村なのか、どっちなんだろう。家の屋根を齧っているティラノサウルスらしき像もあれば、庭で花を育てている様子のトリケラトプスだろう像もある。

(ここは恐竜の村でティラノが凶悪犯な感じなのか、人間の村だけどトリケラが家奪い取って園芸してるのか……うぅむ)

フタもサキヒコもこういうの気にしてないんだろうなぁ。

「……あれ? フタさん、どうしたんですそのメガネ……UVカットか何かですか?」

ちょっと目を離している隙にフタがメガネをかけている。フレームの太い物だ、フタは美形だから何でも似合う。

「カメラ。色々撮ってくれんの」

「へぇ……」

カメラレンズが付いているからフレームが太いのかな。

「行こ行こ」

フタは受付でもらった地図を広げ、スタスタと歩いていく。フタは地図を読めるのだろうか。

(っていうか速いっ……フタさん早歩きとかしてる訳じゃないのに、わたくし小走りなんですけど!?)

俺よりも背が高いということは、その分足も長いということ。そして俺にはサキヒコが取り憑いているので身体が重だるい。その上フタは気遣いが得意なタイプじゃなさそうだ。要因はこの三つかな。

「こっちー……」

フタは一切振り向かず、地図を見ながら歩いていく。これ本当にデートか? デートって話しながらゆっくり歩くもんじゃないのか?

「ここ……? みつきぃ、ここぉ?」

「はぁ、はぁっ……は、はい。ここですね、フリーフォール……プテラノドンに攫われたけど、途中で足離されて落とされるってコンセプトだそうです」

「めっちゃキャーキャー言ってる……」

「三十分待ちですって、並びましょ」

平日とはいえ夏休みなのに、あまり混んでいない。不人気なのかな。

「フタさんフリーフォールとか絶叫系好きなんですか?」

「……? 何それ」

「遊園地の……高いとこ行ったり、落ちたりする……怖いやつ」

「さぁ……遊園地来んの初めてだから分かんねぇ」

苦手な可能性もあるのか。

「俺も遊園地デートなんて初めてです、すごく楽しみにしてたんですよ」

「ふーん……」

「フタさん、恐竜は好きですか?」

「毛のねぇ生きもんきらーい」

「そ、そうですか……」

爬虫類だとかをそういった理由で嫌うならまだしも、恐竜もその枠に入るのか。確かに毛は生えていないが、生き物……まぁ生き物だけど、とっくに絶滅して空想上の生き物に片足突っ込んでるようなもんだからな。

「でも、羽毛生えてたって説もありますよ?」

「うもー?」

「はい、鳥の羽みたいなのです」

「あー……鳥、つつくからあんま好きじゃねぇ。何考えてんのか分かんねぇし」

自分以外の生物は何を考えているのか分からないものだと思うが。

「恐竜が鳥なんじゃなくて、鳥と同じものが生えてるんですよ。嘴はないからつつきませんよ」

「ふーん……ふこふこしたトカゲかぁ……ヒト兄ぃが池から拾ってきたカメみたいな感じぃ?」

「毛が生えてる亀なんか居たんですか?」

「ちょっと待ってね」

フタはスマホを弄り、一枚の写真を俺に見せた。スーツ姿のヒトが持っているのは苔が生えた亀だ。

「これ毛じゃないです……」

「日記も書いてんだぁ」

写真を上方向にスライドさせるとキャプションに箇条書きで書かれた日記が現れた。変換ミスや言葉の誤用が多いが、何とか読めた。

(……要約すると、サンさんのインスピレーション湧かせるために兄弟三人で公園に行って、ヒトさんが池に入って亀を拾ったと。スーツで池に? さっきの写真スーツびっちゃびちゃでしたし……なんか意外とワンパクですな)

怖いだけの人だと思っていたけれど、案外話せるかもしれない。フタへの暴力をやめるよう説得出来る日は来るだろうか、いや、来させなければならない。

「あ、プテラノドンの像ありますよ」

少しずつ進んでいく列に並んでいると、その道中で像を見つけた。待ち時間を潰す撮影スポットになっているようだ。

「撮りましょ、フタさん」

「いいけどぉー……」

順番を待っていると前に並んでいたカップルに撮影を頼まれた。快諾し、なら俺達の時もと頼み返してみた。

「いいですか? ありがとうございます。フタさん、来て来て」

プテラノドンの翼に包まれるような位置に立ち、写真を撮ってもらった。返ってきたスマホを確認し、よく撮れていたので自然と笑みが零れてしまった。

「見て見てフタさん、よく撮れてますよ。送っておきますね」

「ぉー……」

「プテラノドンって恐竜じゃないんですよ、知ってました?」

「アレ? うん……知ってたっつーか、見たら分かるじゃん。トカゲの形してねぇもんアレ、鳥かなんかっしょ」

「翼竜ですよ。爬虫類なのは爬虫類なんですけどね」

「ほー……」

あんまり興味なさそうだな、もう少し突っ込んだ雑学にしてみるか。

「大きな羽ありますけど、実はあんまり飛べなかったんじゃないかって説ありますよね。高いところに登って、滑空してただけって」

「うん……?」

「羽毛でもふもふした恐竜ってのもアレですし、ろくに飛べないプテラノドンもなんか嫌ですし、ちょっと夢壊れちゃいますよねぇ」

「おー……」

生返事ばかりだ。俺の話が面白くないのが悪いのだが、デートなんだからもう少し気を遣って反応してくれても……いやいや何を考えているんだ俺は、俺が楽しませなきゃいけないんだ、俺がフタに惚れて欲しいんだから。

「えっ、と…………ぁ、フタさんって恐竜の映画とか何か観たことあります?」

「…………」

フタはじっとスマホを弄っており、返事をしてくれなかった。きっと聞こえなかっただけだ、俺の話が面白くないからって無視された訳じゃない。

「……ぁ、列……進みました、行きましょ」

聞こえなかったにしろ無視されたにしろ、俺への興味が薄いということだ。パーカーの袖を引っ張ってフタを進ませながら、俺は俯いて惨めさを噛み締めた。
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