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ちょっと荷物見せてもらっていいかな
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どうやらイチ、ニィ、ミィというのはフタが昔に飼っていて、寿命を迎えた猫のようだ。ヒト、フタ、サンの兄弟からのヨン、イツではなく、猫は猫でナンバリングがされていたのか。
(お父様譲りのネーミングセンス……)
雑に思えてしまう名付け方だが、死後も寄り添っているということは懐いているという判断で、フタがとても可愛がっていたという考えでいいのだろうか。
「なんか何年か前からイチとニィはじわじわ尻尾裂けてきたんだよなぁ、痛くないんかなぁ、幽霊は病院行けねぇしなぁ~」
猫又ってヤツかなぁ。
「飯食わねぇのになんかデカくなってきたし」
妖怪じゃねぇか。
「だからさぁ、俺ぇ、生き物って死ぬと元気になると思っててぇ」
新しい概念だ。
「猫とか人とか死んでも悲しがれなくてさぁ~……みんなに嫌われる……」
「そう……なんですね」
「……だからさぁ、見えてはねぇみたいだけど、みつきが幽霊彼氏にしててぇ、なんか嬉しい。みつき俺が幽霊と話してても、誰か死んだけど泣かなくても、嫌わねぇもんな?」
「はい」
「へへへ……いいダーリン見つけちゃった、俺運いい~……ん? あぁうん、サンちゃんが先に気に入ってぇ、彼氏にしててぇ、俺も~……って言ったんだっけ? 合ってる?」
「あ、はい」
サキヒコに馴れ初めでも聞かれているのかな……? 話せる相手なんて初めてだから、サキヒコはフタに話しかけまくるんだろうな。デート、ちゃんと出来るかなぁ……そう不安に思っているとフタのスマホが鳴った。
「アラームですか?」
フタはアラームを止めると冷蔵庫を開け、菓子パンを取り出して食べ始めた。
「……フタさん?」
「朝メシ」
「そ、そうですか……さっきのアラームは……? 消し忘れ……?」
「朝メシのアラーム」
「……そうですか」
食事の時間細かく決めてるタイプなのか。意外だな、と思っているとフタのスマホはまたアラームを鳴らした。
「お……みつき、デート行こ。ヨン~、イツ~、ほれ」
出発のアラームだったかな? フタはポケットに入れていた小さなボールを部屋の隅に向かって投げる。すると物陰に隠れていた猫達が飛び出してきた。
「みつき! 急いで!」
走って部屋の外に出たフタにならって俺も慌てて部屋を出た。
「…………よし」
「あの……もしかして猫達よく部屋を出ようとする感じですか?」
「ん? うん。ヨンはそうでもないんだけどイツがね~、やべぇの」
来た時に怒鳴られたのはそれが理由か。
「車で行くんですか?」
「うん」
フタは菓子パンを食べながら俺を駐車場まで案内した。高級車だろうにフタは躊躇なく運転席で菓子パンを貪り、食べカスをシートに落とす。
(……降りる時に掃除してあげまそ。そのままにしてたら絶対ヒトさんに殴られまそ)
忘れっぽく、あまり頭もよろしくなさそうなフタに運転が出来るのだろうか。いや、失礼かな。免許を取れたということは運転が出来るということだ。それにフタは忘れっぽくて言葉を知らないだけで、バカという訳では──!?
「……っ、フ、フタさん? なんか今車ピーッて言いましたけど?」
「ね、なんだろーね」
ナビに従ってフタが車を走らせる中、時々車からピーッだのビーッだのと危険を知らせていそうな音が聞こえた。
(な、何回か聞いて分かりましたぞこれ……自動ブレーキの音でそ!)
音はフタが赤信号で進もうとしたり、前の車が止まろうとしているのにアクセルを踏み込んだ時などに鳴っている。そして車は止まっている。
(……この車がテクノロジーの塊でなければ、わたくし何回死んでたんでしょう)
車は高速道路に乗った。自動ブレーキが防ぐ事故はその車が突っ込む形のものだけで、突っ込まれる形での事故はどうにもならない。全ての車が自動ブレーキを搭載している訳ではないし、フタの無茶苦茶な運転では周りの反感を買って煽り運転だとかに遭遇することも多いのではないだろうか、事故の確率は高まっていくのでは……なんて俺の心配は杞憂に終わった。
(割と混んでるのにすっげぇスイスイ進みますな)
フタが和彫りで埋め尽くされた腕を窓から外に出しているからだろうなぁ、みんな避けてく。
「……あの、フタさん。手出してるの危ないですよ」
「そなの?」
「車が何かの近く通ったら腕吹っ飛んじゃいますよ」
「こわ」
窓を閉めてくれたけれど、窓は当然透明なのでフタの刺青は周りからよく見えている。快適な高速道路だった。
「行き先ぃ?遊園地。ジュラ村ってとこ~」
高速道路を降りてすぐ、白バイに止められた。職質ってヤツだ。
「そっちの子、いくつ? 高校生? 関係は?」
「えーっとねぇ、みつきいくつだっけぇ」
「高校一年生です! いとこで、夏休みなので遊園地連れてってーってワガママ言っちゃって……あはは」
「ふーん……お兄さんご職業は?」
「誤植……魚?」
「お仕事ですお仕事!」
「あぁ仕事ぉ? 穴掘ったりぃ、なんか切ったりぃ、なんかヴィーってしたりする」
「フタお兄ちゃんは大工さんなんです!」
「はいはい……ちょっと荷物見せてもらっていいかな?」
怪しい物があるかどうかは俺には分からない。ありませんようにと祈りながら、俺は警察がトランクなどを開けるのを見守った。
「お兄さん、何これ」
真空パックに入った彩度の低い茶色の小さな粒が見つかった。絶対ヤクじゃん俺の人生まで終わったわ。
「……? 何それ」
「お兄さんの車でしょ?」
「うん、ヒト兄ぃの車。金出したのはサンちゃん。運転すんのは俺かヒト兄ぃ」
「家族で使ってるのね、だからこれは分かりませんと?」
「うん」
「……一粒取らせてもらうよ」
警察は手袋をはめて粒を一つ取ると何やら検査を始めた。紙とかが赤や青に変わる時が俺の人生が終わる時だ、テレビでこういうの見た。
「もしもしヒト兄ぃ? なんかぁ、車に入ってるぅ、ちっちゃいつぶつぶ何? うん……うん、なんかぁ、白いバイク乗ってる人にめっちゃなんか聞かれてぇ……あっ警察なのこの人」
なんで警察かどうか分かってないのに車漁らせて平気なんだこの人。
「特に問題ないですねぇ……」
「ホ、ホントですか?」
「なんで君が疑ってんの」
「あ、いや……気のいい親戚のお兄さんとはいえ、ちょっとあの、そっち方面の信頼はアレというか」
余計なことを言ってしまったかもしれない。
「な、何? もっかい……れお? れおぱ……エサ? れおぱーど、げっこ……げこ? あぁ、ゲコゲコ。カエルね。ヒト兄ぃカエル飼ってんもんね、カエルのエサ? え、トカゲ? とかげもどき……? トカゲじゃねぇの? ヤモリ? トカゲじゃん。うわ、何、怒んないでよ~……だからぁ、トカゲなんだろ?」
「……レオパードゲッコー、ヒョウモントカゲモドキですね。ヤモリのエサだそうです」
「へぇー……虫とかじゃないんだね」
虫嫌いな俺としてはペレットタイプのエサは嬉しい。今度エサをやるところを見せてもらえたりはしないかな。
「他はなんか絵筆とか絵の具とかだし怪しいのはないかな……後ろにも画板とか紙とかあったけど、アレは君のかな?」
「あ、はい。夏休みの課題で、遊園地のどこかでスケッチしようかなーって」
「そう、頑張ってね。悪かったね引き止めて」
「いえいえ」
「だからぁ、ヤモリはトカゲじゃん? サメのことフカって呼ぶ感じのぉ……」
「フタさん、行きましょう」
「ん? おぉ……あれ、ポリ公は?」
「ぽりこ……? 警察の方ならもう行きましたよ」
「そっかぁ、んじゃ行こっかぁ」
フタはヒトの怒鳴り声が聞こえているのに通話を切り、車に乗り込んだ。
(……帰ったらわたくしも土下座しませう)
きっとヒトはとても怒っている、またフタが殴られてしまう。俺も一緒に謝ろう、一発二発は減らせるかもしれない。
(お父様譲りのネーミングセンス……)
雑に思えてしまう名付け方だが、死後も寄り添っているということは懐いているという判断で、フタがとても可愛がっていたという考えでいいのだろうか。
「なんか何年か前からイチとニィはじわじわ尻尾裂けてきたんだよなぁ、痛くないんかなぁ、幽霊は病院行けねぇしなぁ~」
猫又ってヤツかなぁ。
「飯食わねぇのになんかデカくなってきたし」
妖怪じゃねぇか。
「だからさぁ、俺ぇ、生き物って死ぬと元気になると思っててぇ」
新しい概念だ。
「猫とか人とか死んでも悲しがれなくてさぁ~……みんなに嫌われる……」
「そう……なんですね」
「……だからさぁ、見えてはねぇみたいだけど、みつきが幽霊彼氏にしててぇ、なんか嬉しい。みつき俺が幽霊と話してても、誰か死んだけど泣かなくても、嫌わねぇもんな?」
「はい」
「へへへ……いいダーリン見つけちゃった、俺運いい~……ん? あぁうん、サンちゃんが先に気に入ってぇ、彼氏にしててぇ、俺も~……って言ったんだっけ? 合ってる?」
「あ、はい」
サキヒコに馴れ初めでも聞かれているのかな……? 話せる相手なんて初めてだから、サキヒコはフタに話しかけまくるんだろうな。デート、ちゃんと出来るかなぁ……そう不安に思っているとフタのスマホが鳴った。
「アラームですか?」
フタはアラームを止めると冷蔵庫を開け、菓子パンを取り出して食べ始めた。
「……フタさん?」
「朝メシ」
「そ、そうですか……さっきのアラームは……? 消し忘れ……?」
「朝メシのアラーム」
「……そうですか」
食事の時間細かく決めてるタイプなのか。意外だな、と思っているとフタのスマホはまたアラームを鳴らした。
「お……みつき、デート行こ。ヨン~、イツ~、ほれ」
出発のアラームだったかな? フタはポケットに入れていた小さなボールを部屋の隅に向かって投げる。すると物陰に隠れていた猫達が飛び出してきた。
「みつき! 急いで!」
走って部屋の外に出たフタにならって俺も慌てて部屋を出た。
「…………よし」
「あの……もしかして猫達よく部屋を出ようとする感じですか?」
「ん? うん。ヨンはそうでもないんだけどイツがね~、やべぇの」
来た時に怒鳴られたのはそれが理由か。
「車で行くんですか?」
「うん」
フタは菓子パンを食べながら俺を駐車場まで案内した。高級車だろうにフタは躊躇なく運転席で菓子パンを貪り、食べカスをシートに落とす。
(……降りる時に掃除してあげまそ。そのままにしてたら絶対ヒトさんに殴られまそ)
忘れっぽく、あまり頭もよろしくなさそうなフタに運転が出来るのだろうか。いや、失礼かな。免許を取れたということは運転が出来るということだ。それにフタは忘れっぽくて言葉を知らないだけで、バカという訳では──!?
「……っ、フ、フタさん? なんか今車ピーッて言いましたけど?」
「ね、なんだろーね」
ナビに従ってフタが車を走らせる中、時々車からピーッだのビーッだのと危険を知らせていそうな音が聞こえた。
(な、何回か聞いて分かりましたぞこれ……自動ブレーキの音でそ!)
音はフタが赤信号で進もうとしたり、前の車が止まろうとしているのにアクセルを踏み込んだ時などに鳴っている。そして車は止まっている。
(……この車がテクノロジーの塊でなければ、わたくし何回死んでたんでしょう)
車は高速道路に乗った。自動ブレーキが防ぐ事故はその車が突っ込む形のものだけで、突っ込まれる形での事故はどうにもならない。全ての車が自動ブレーキを搭載している訳ではないし、フタの無茶苦茶な運転では周りの反感を買って煽り運転だとかに遭遇することも多いのではないだろうか、事故の確率は高まっていくのでは……なんて俺の心配は杞憂に終わった。
(割と混んでるのにすっげぇスイスイ進みますな)
フタが和彫りで埋め尽くされた腕を窓から外に出しているからだろうなぁ、みんな避けてく。
「……あの、フタさん。手出してるの危ないですよ」
「そなの?」
「車が何かの近く通ったら腕吹っ飛んじゃいますよ」
「こわ」
窓を閉めてくれたけれど、窓は当然透明なのでフタの刺青は周りからよく見えている。快適な高速道路だった。
「行き先ぃ?遊園地。ジュラ村ってとこ~」
高速道路を降りてすぐ、白バイに止められた。職質ってヤツだ。
「そっちの子、いくつ? 高校生? 関係は?」
「えーっとねぇ、みつきいくつだっけぇ」
「高校一年生です! いとこで、夏休みなので遊園地連れてってーってワガママ言っちゃって……あはは」
「ふーん……お兄さんご職業は?」
「誤植……魚?」
「お仕事ですお仕事!」
「あぁ仕事ぉ? 穴掘ったりぃ、なんか切ったりぃ、なんかヴィーってしたりする」
「フタお兄ちゃんは大工さんなんです!」
「はいはい……ちょっと荷物見せてもらっていいかな?」
怪しい物があるかどうかは俺には分からない。ありませんようにと祈りながら、俺は警察がトランクなどを開けるのを見守った。
「お兄さん、何これ」
真空パックに入った彩度の低い茶色の小さな粒が見つかった。絶対ヤクじゃん俺の人生まで終わったわ。
「……? 何それ」
「お兄さんの車でしょ?」
「うん、ヒト兄ぃの車。金出したのはサンちゃん。運転すんのは俺かヒト兄ぃ」
「家族で使ってるのね、だからこれは分かりませんと?」
「うん」
「……一粒取らせてもらうよ」
警察は手袋をはめて粒を一つ取ると何やら検査を始めた。紙とかが赤や青に変わる時が俺の人生が終わる時だ、テレビでこういうの見た。
「もしもしヒト兄ぃ? なんかぁ、車に入ってるぅ、ちっちゃいつぶつぶ何? うん……うん、なんかぁ、白いバイク乗ってる人にめっちゃなんか聞かれてぇ……あっ警察なのこの人」
なんで警察かどうか分かってないのに車漁らせて平気なんだこの人。
「特に問題ないですねぇ……」
「ホ、ホントですか?」
「なんで君が疑ってんの」
「あ、いや……気のいい親戚のお兄さんとはいえ、ちょっとあの、そっち方面の信頼はアレというか」
余計なことを言ってしまったかもしれない。
「な、何? もっかい……れお? れおぱ……エサ? れおぱーど、げっこ……げこ? あぁ、ゲコゲコ。カエルね。ヒト兄ぃカエル飼ってんもんね、カエルのエサ? え、トカゲ? とかげもどき……? トカゲじゃねぇの? ヤモリ? トカゲじゃん。うわ、何、怒んないでよ~……だからぁ、トカゲなんだろ?」
「……レオパードゲッコー、ヒョウモントカゲモドキですね。ヤモリのエサだそうです」
「へぇー……虫とかじゃないんだね」
虫嫌いな俺としてはペレットタイプのエサは嬉しい。今度エサをやるところを見せてもらえたりはしないかな。
「他はなんか絵筆とか絵の具とかだし怪しいのはないかな……後ろにも画板とか紙とかあったけど、アレは君のかな?」
「あ、はい。夏休みの課題で、遊園地のどこかでスケッチしようかなーって」
「そう、頑張ってね。悪かったね引き止めて」
「いえいえ」
「だからぁ、ヤモリはトカゲじゃん? サメのことフカって呼ぶ感じのぉ……」
「フタさん、行きましょう」
「ん? おぉ……あれ、ポリ公は?」
「ぽりこ……? 警察の方ならもう行きましたよ」
「そっかぁ、んじゃ行こっかぁ」
フタはヒトの怒鳴り声が聞こえているのに通話を切り、車に乗り込んだ。
(……帰ったらわたくしも土下座しませう)
きっとヒトはとても怒っている、またフタが殴られてしまう。俺も一緒に謝ろう、一発二発は減らせるかもしれない。
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