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殴られるフリの練習
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アキに俺達の作戦を説明すると彼は手を叩いて大笑いし、了承してくれた。
《殴られるフリねぇ、あのババアが気にするたぁあんま思えねぇけど、面白そうだ。ちょっと練習してみようぜ。兄貴頼む》
ノヴェムをソファに座らせたアキは俺の前に立ち、俺にパンチのフォームを教えた。俺の右手に拳を握らせ、自身の頬にぽんと当てた。
《これをもっと速くだ、殴るつもりでやれよ? じゃなきゃリアリティが出ねぇ。心配しなくても兄貴のヘロヘロパンチが当たる俺じゃねぇ、安心してぶん殴りな》
「誰のパンチが弱いって? 俺は隔日でボクササイズしてるんだぞ、豪華声優のトレーナーさんに指導されながらなぁ……!」
「ゲームだろ」
指示されたのは右フックだ。遠慮なくやれと言われたとはいえ弟を殴るつもりで腕を振るなんて出来ない、当たっても痛くないくらいのスピードで腕を振った。するとアキは俺の拳が頬に触れる寸前、衝撃を受けたように横によろけ、倒れた。
《……ちょっと派手過ぎたかな? あんまりわざとらしくてもダメだし、次はもうちょい地味にやるか》
あまりにもアキが倒れるのが上手いから、当たっていないよなと右の拳に左手で触れて感触がなかったことを思い出していると、太腿をぽこんと叩かれた。ノヴェムだ、俺の足をぽこぽこ叩いている。
《おとーとになんてことするのぉ! ごめんなさいしなさい!》
「……ふふっ、鳴雷、弟になんてことするんだ謝れ、だってよ」
「えっ? ぇ、あ、違う、違うんだよノヴェムくん、セイカ説明してくれよぉ!」
《ノヴェム、演技だ演技。フリ。この二人、ぁー……今度学校で劇するから、その練習してたんだ》
《え……?》
セイカに説明を受けたノヴェムはきょとんとし、アキに駆け寄って頬に触れ、痛くないかと尋ねた。
《……勘違いしちまうほど俺の演技は良かったかい、騎士様》
ノヴェムは顔を真っ赤にして俺に向かってトボトボと歩いてくると、俺の太腿を撫で始めた。
《ごめんなさい……ごめんなさいお兄ちゃん、ノヴェム、えんぎ分かんなかったのぉ……嫌わないでぇえええ! うぇえええんっ!》
「あー! 大丈夫、お兄ちゃん大丈夫だから! 全然痛くなかったからあんなの!」
《ごべんだだいぃいいぃっ!》
ソファに戻り、泣いてしまったノヴェムを膝に乗せて慰める。アキも歳上としての自覚が出てきたのか、ノヴェムを可愛く思い始めたのか、俺の隣に座ってノヴェムの頭を撫でている。
「よしよし……」
《泣き止んできたか? ハハッ、ギャン泣き声は癪に障るが、俺を守りに兄貴にかかっていったのは評価するぜ。なかなか可愛いじゃねぇか》
《……俺も本当に秋風が殴られたら秋風守りに行く》
《おう……? ガチん時は邪魔んならねぇよう下がってろよ? しかし髪くりっくりだなコイツ》
《俺だってパーマ当ててるからくりくりしてる》
そろそろ泣き止んだようだ。そっとアキの右太腿の上に乗せるとアキはノヴェムにちゃんと右腕を巻き、ノヴェムはアキにもたれた。すっかり仲良くなったようだ。
《……っと、おい、スェカーチカ?》
セイカがアキの左太腿に座った。アキはグラつく彼を慌てて支え、アキは両手に花の状態となった。いや、ノヴェムはまだ蕾かな?
《…………なんだスェカーチカ、さっきから……まさか妬いてんのか?》
《うるさい! そいつのことノヴェンチカとか呼ぶなよ、お前のチカは俺のもんだからな!》
《……あはははっ! かーわいいなぁスェカーチカ、心配しなくても他のヤツにやりゃあしねぇよ》
《せーかお兄ちゃんおっきぃのに、なんでおひざすわってるの?》
《性格悪いから》
《……いいこにならないと、おててもどしてもらえないよ》
《あぁ、善処する》
こうなってくるとまた疎外感と百合を見守り隊の使命との狭間で悩まされるんだよなぁ、と頭を抱える俺を救ったのは窓を叩く音だった。
「ん……? あっ……!」
ダイニングの窓に駆け寄り、カーテンと窓を開ける。
「おはようさん水月ぃ、元気しとった?」
太陽に照らされて眩しいほどに輝く、紛い物の金髪が俺を出迎えた。
「リュウ! もう、来るなら連絡しろって言ったろ? 出かけてるかもしれないし、部屋に居たら分かんないんだからな」
「おぉすまんすまん。居ってんからまぁ今日はええやん」
「今日はいいけどさぁ」
煌めく汗を拭うためのタオルを渡し、暑かっただろう彼に麦茶を与える。
「んっ、ん……ぷはぁーっ! 生き返るわ~。あ、これ手土産」
「わざわざいいのに……アイスか? ありがとう、一旦冷凍庫入れとくよ」
「アキくんらは……あ、居った」
麦茶一杯を飲み切ったリュウはリビングに居るアキ達の元へ駆けていく。
「あっ、リュウ、ちょっと待て」
先にノヴェムの説明をしておこうと思ったけれど、遅かった。金髪の彼らは硬直して見つめ合っている。
「み、水月……とうとうこんっなちっこい子ぉにまで手ぇ出したんか! 信じられへん! 変態や犯罪者や警察に通報やぁ!」
「出してねぇよ近所の子ぉ預かってんだよ!」
「なーんや、そうならそうと言うてくれんと困るわぁ」
「言う前にお前が騒ぎ出したんだろうが……!」
「ボケやんボケ。なははは」
おふざけなら何を言ってもいいという訳ではない。俺はノヴェムに不意打ちでキスをされてからというもの、あの件で手が後ろに回るのではと怖くなってしまっているのだ。
「そういうネタは控えて欲しいな」
「……? おー……なんやそうやって本気で嫌がられるとガチっぽいで水月」
「ならどうしろって言うんだよ……」
やはり俺はいつか逮捕される運命なのだろうか。
《天正 竜潜。あだ名はリュウかな……俺は天正って呼んでるけど。俺達の友達だよ、優しくて良いヤツだから安心しろ》
《……りゅーお兄ちゃん?》
「ん? 今呼んだ? おー、ちっこいのぉ、えろう可愛らしいやんか。いくつぅ? どこの子? 名前なんて言うん」
ノヴェムはリュウに興味を持ったようだったが。目の前に屈まれると驚いたのかアキの胸に顔を押し付けた。
「あらら」
「人懐っこいけど人見知りもする子だから、あんまりグイグイ行くなよ」
「人見知りなん? ほーん」
リュウは俺の彼氏の中でも屈指のコミュ力を誇る。きっとノヴェムとすぐに仲良くなるはずだ。
《殴られるフリねぇ、あのババアが気にするたぁあんま思えねぇけど、面白そうだ。ちょっと練習してみようぜ。兄貴頼む》
ノヴェムをソファに座らせたアキは俺の前に立ち、俺にパンチのフォームを教えた。俺の右手に拳を握らせ、自身の頬にぽんと当てた。
《これをもっと速くだ、殴るつもりでやれよ? じゃなきゃリアリティが出ねぇ。心配しなくても兄貴のヘロヘロパンチが当たる俺じゃねぇ、安心してぶん殴りな》
「誰のパンチが弱いって? 俺は隔日でボクササイズしてるんだぞ、豪華声優のトレーナーさんに指導されながらなぁ……!」
「ゲームだろ」
指示されたのは右フックだ。遠慮なくやれと言われたとはいえ弟を殴るつもりで腕を振るなんて出来ない、当たっても痛くないくらいのスピードで腕を振った。するとアキは俺の拳が頬に触れる寸前、衝撃を受けたように横によろけ、倒れた。
《……ちょっと派手過ぎたかな? あんまりわざとらしくてもダメだし、次はもうちょい地味にやるか》
あまりにもアキが倒れるのが上手いから、当たっていないよなと右の拳に左手で触れて感触がなかったことを思い出していると、太腿をぽこんと叩かれた。ノヴェムだ、俺の足をぽこぽこ叩いている。
《おとーとになんてことするのぉ! ごめんなさいしなさい!》
「……ふふっ、鳴雷、弟になんてことするんだ謝れ、だってよ」
「えっ? ぇ、あ、違う、違うんだよノヴェムくん、セイカ説明してくれよぉ!」
《ノヴェム、演技だ演技。フリ。この二人、ぁー……今度学校で劇するから、その練習してたんだ》
《え……?》
セイカに説明を受けたノヴェムはきょとんとし、アキに駆け寄って頬に触れ、痛くないかと尋ねた。
《……勘違いしちまうほど俺の演技は良かったかい、騎士様》
ノヴェムは顔を真っ赤にして俺に向かってトボトボと歩いてくると、俺の太腿を撫で始めた。
《ごめんなさい……ごめんなさいお兄ちゃん、ノヴェム、えんぎ分かんなかったのぉ……嫌わないでぇえええ! うぇえええんっ!》
「あー! 大丈夫、お兄ちゃん大丈夫だから! 全然痛くなかったからあんなの!」
《ごべんだだいぃいいぃっ!》
ソファに戻り、泣いてしまったノヴェムを膝に乗せて慰める。アキも歳上としての自覚が出てきたのか、ノヴェムを可愛く思い始めたのか、俺の隣に座ってノヴェムの頭を撫でている。
「よしよし……」
《泣き止んできたか? ハハッ、ギャン泣き声は癪に障るが、俺を守りに兄貴にかかっていったのは評価するぜ。なかなか可愛いじゃねぇか》
《……俺も本当に秋風が殴られたら秋風守りに行く》
《おう……? ガチん時は邪魔んならねぇよう下がってろよ? しかし髪くりっくりだなコイツ》
《俺だってパーマ当ててるからくりくりしてる》
そろそろ泣き止んだようだ。そっとアキの右太腿の上に乗せるとアキはノヴェムにちゃんと右腕を巻き、ノヴェムはアキにもたれた。すっかり仲良くなったようだ。
《……っと、おい、スェカーチカ?》
セイカがアキの左太腿に座った。アキはグラつく彼を慌てて支え、アキは両手に花の状態となった。いや、ノヴェムはまだ蕾かな?
《…………なんだスェカーチカ、さっきから……まさか妬いてんのか?》
《うるさい! そいつのことノヴェンチカとか呼ぶなよ、お前のチカは俺のもんだからな!》
《……あはははっ! かーわいいなぁスェカーチカ、心配しなくても他のヤツにやりゃあしねぇよ》
《せーかお兄ちゃんおっきぃのに、なんでおひざすわってるの?》
《性格悪いから》
《……いいこにならないと、おててもどしてもらえないよ》
《あぁ、善処する》
こうなってくるとまた疎外感と百合を見守り隊の使命との狭間で悩まされるんだよなぁ、と頭を抱える俺を救ったのは窓を叩く音だった。
「ん……? あっ……!」
ダイニングの窓に駆け寄り、カーテンと窓を開ける。
「おはようさん水月ぃ、元気しとった?」
太陽に照らされて眩しいほどに輝く、紛い物の金髪が俺を出迎えた。
「リュウ! もう、来るなら連絡しろって言ったろ? 出かけてるかもしれないし、部屋に居たら分かんないんだからな」
「おぉすまんすまん。居ってんからまぁ今日はええやん」
「今日はいいけどさぁ」
煌めく汗を拭うためのタオルを渡し、暑かっただろう彼に麦茶を与える。
「んっ、ん……ぷはぁーっ! 生き返るわ~。あ、これ手土産」
「わざわざいいのに……アイスか? ありがとう、一旦冷凍庫入れとくよ」
「アキくんらは……あ、居った」
麦茶一杯を飲み切ったリュウはリビングに居るアキ達の元へ駆けていく。
「あっ、リュウ、ちょっと待て」
先にノヴェムの説明をしておこうと思ったけれど、遅かった。金髪の彼らは硬直して見つめ合っている。
「み、水月……とうとうこんっなちっこい子ぉにまで手ぇ出したんか! 信じられへん! 変態や犯罪者や警察に通報やぁ!」
「出してねぇよ近所の子ぉ預かってんだよ!」
「なーんや、そうならそうと言うてくれんと困るわぁ」
「言う前にお前が騒ぎ出したんだろうが……!」
「ボケやんボケ。なははは」
おふざけなら何を言ってもいいという訳ではない。俺はノヴェムに不意打ちでキスをされてからというもの、あの件で手が後ろに回るのではと怖くなってしまっているのだ。
「そういうネタは控えて欲しいな」
「……? おー……なんやそうやって本気で嫌がられるとガチっぽいで水月」
「ならどうしろって言うんだよ……」
やはり俺はいつか逮捕される運命なのだろうか。
《天正 竜潜。あだ名はリュウかな……俺は天正って呼んでるけど。俺達の友達だよ、優しくて良いヤツだから安心しろ》
《……りゅーお兄ちゃん?》
「ん? 今呼んだ? おー、ちっこいのぉ、えろう可愛らしいやんか。いくつぅ? どこの子? 名前なんて言うん」
ノヴェムはリュウに興味を持ったようだったが。目の前に屈まれると驚いたのかアキの胸に顔を押し付けた。
「あらら」
「人懐っこいけど人見知りもする子だから、あんまりグイグイ行くなよ」
「人見知りなん? ほーん」
リュウは俺の彼氏の中でも屈指のコミュ力を誇る。きっとノヴェムとすぐに仲良くなるはずだ。
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