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子供だけの時間
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イチゴはノヴェムの物であることを説明すると、普段からたまに俺のおかずを盗んでいるくせにアキは落ち込んだ。
《こんなちっちぇえガキの飯取っちゃった……》
その様子をキッチンから見ていた母はため息をつき、ノヴェムの器にイチゴを一粒追加し、アキ以外の皿にイチゴを二粒ずつ追加した。アキの皿に追加されたのは一粒だ。
「土日に作るタルト用に取っておこうと思ったんだけどねー」
なんて言いながら、空になったイチゴのパックをゴミ箱に捨てた。
「葉子起こしてくるから先食べといて」
俺は母を待とうかとも思ったが、アキとセイカは素直に食べ始めたので俺もそうした。ノヴェムもイチゴを食べている、もきゅもきゅ動く口元とほっぺが可愛い、小動物っぽい。
「ぷぅ太ちゃんの食事シーンを思い出すなぁ……」
ほどなくして義母を連れた母が戻ってくる。
「おはよーみんなぁ」
「おはようございます」
「……おはようございます」
《アキ、おはよ》
《起きなくていいのに》
アキに挨拶をした直後、義母はしゅんと落ち込んだ。今の会話を理解出来ていたはずのセイカの方を見ると彼は困ったような顔で首を横に振った。
「はぁ……反抗期…………あれ? ノヴェムちゃん? えっえっなんで? ネイさん来てるの? やだ寝癖まだ直してないのにぃ~!」
「ネイさんはノヴェムくん預けて出社しましたけど……」
「ぁ……そうなの……早いのね」
「夜も結構遅いみたいね、昨日私かなり時間潰して合流したのよ」
「九時出勤十七時退勤の唯乃がおかしいのよ……どうしてそれで一戸建て買って、子供一人で育てられてるの? 水月くん高い学校行ってるし……」
「有能だからよ」
顔だけじゃなく、その有能さも遺伝して欲しかったな。
「九時から午後五時なら八時間労働で普通なんじゃないんですか?」
「社会はそんなに甘くないのよセイカくん、サビ残とか色々あるの」
「バイトもまともに出来たことない葉子が言ってもね」
「か、体動かすのが苦手なだけで、頭脳労働ならきっと出来るの!」
義母はあまり頭が良さそうには見えないけれど、これでも母と同じ大学を卒業してはいるんだよな。案外本当に座り仕事なら出来るのかもしれない。
「っていうか私上がるの十六時半よ。昼休憩も一時間半くらいだし、八時間も働いてないわよ。水月が幼稚園行ってたくらいの頃はクソブラック勤めてて会社泊まったり何ヶ月も休み取らなかったりもしたけど、今は完全週休二日制だし」
「母さんすごいよね。ごちそうさま」
食事を終え、皿を流し台に運ぶ。皿洗いを始めるのは全員分集まってからでいいだろう。
それからしばらくして母が出社し、更にしばらくすると面接を受けるため義母が出ていった。いつもなら性の乱れた空間になるところだけれど、今回はノヴェムという幼い子供が居るので健全なままだ。
「母さん居るのに平気でネイさんにアピるし、ネイさん居なくてもやってたし……アレ母さん結構イラついてるだろうな~……部下とかに当たってなきゃいいけど」
息子として母親の不機嫌には緊張してしまうので、義母にはもう少し一途でいて欲しかったな。
「……あの人がお前のママ上と別れてネイって人と再婚とかしたら、秋風どうなるのかな……向こうの家行っちゃうのかな?」
「え……? うーん、ネイさん迷惑そうだったし靡かないと思うけど。ネイさん多分ああいう媚び媚びした感じ苦手だろうし」
「でも、あんまりアピールすごいとお前のママ上愛想尽かしちゃわないかな?」
「…………や、やめようよこの話……なんか怖くなってきた」
「しないとダメだろこの話! 対策しとかないと秋風がどっか行っちゃうかもしれないんだぞ、仲悪いとはいえ俺みたいに痛いことされる訳じゃないんだから、お前のママ上が秋風だけ残せって言うかなんて分かんないし……あの人秋風に失望してるけど執着はしてるから、秋風連れてくって言うだろうし」
背筋が寒くなる。イチゴを食べて唇が赤く染まったノヴェムの口周りをティッシュで拭いてやっているアキを見て、胸が締め付けられる。
「母さん葉子さんラブラブ大作戦、ってコト……!?」
「う、うん……? 多分?」
「…………マムシと、ニンニクと……イモリ?」
「黒魔術?」
セイカには散々オタク話をしてきたが、聞き流さずに頭に入れていてくれたんだな。嬉しい。
「いや、精力がつくってヤツ」
「女の人にも効くのかなそういうの……っていうか、あの人がネイって人に惚れてるのが問題なんだから、その……セックスさせたところで……あんまり」
「母さんのテクに骨抜きに」
「……真面目に考えろよ」
結構真面目に考えたんだけどなぁ。
「ネイって人のこと絵本の王子様みたいで素敵とか言ってたし、秋風の父親がロシア人ってとこからも綺麗な白人男性が好きなのは明らかだ。そこを責めよう、ネイって人に幻滅させればいいんだ」
「……なるほど? でもどうしよう、ネイさんに穴の空いた靴下履いてもらうとか?」
「逆に可愛いって惚れ込むかもしれない。ここはトラウマを刺激しよう。秋風の父親と同じ種類の男だってアピールするんだ。まず、度数の高い酒が好きだって言ってもらう」
確か、アキの父親は酒好きだったな。
「次に子供を殴る要素……ここも協力してもらわないと無理だな、あの人も迷惑してるんなら協力してくれるだろ。俺が殴られるフリをする」
「え……いや、効きそうだけど……セイカはダメだよ、フリったってそんな……俺がやる」
「鳴雷……五体満足でガタイのいいお前を殴るのと、手足欠損薬漬けの俺を殴るの、どっちが印象悪い?」
セイカだろうな。
「……秋風が殴られるのに耐えられなくて日本に逃げてきた訳だから、秋風でもいいけど……殴られるフリ上手そうだし」
「あー……そう、だな」
アキの身体能力ならスタントマンのように殴られたフリをして吹っ飛んだり転んだり出来るかもしれない。
「…………今の、アキに話してみる?」
「あんまり気は進まないけど……秋風もお前と離れたくないだろうし」
ため息をつき、紙コップ三つとサイコロ一つを使ってノヴェムと動体視力ゲームで遊んでいるアキに声をかけた。
《こんなちっちぇえガキの飯取っちゃった……》
その様子をキッチンから見ていた母はため息をつき、ノヴェムの器にイチゴを一粒追加し、アキ以外の皿にイチゴを二粒ずつ追加した。アキの皿に追加されたのは一粒だ。
「土日に作るタルト用に取っておこうと思ったんだけどねー」
なんて言いながら、空になったイチゴのパックをゴミ箱に捨てた。
「葉子起こしてくるから先食べといて」
俺は母を待とうかとも思ったが、アキとセイカは素直に食べ始めたので俺もそうした。ノヴェムもイチゴを食べている、もきゅもきゅ動く口元とほっぺが可愛い、小動物っぽい。
「ぷぅ太ちゃんの食事シーンを思い出すなぁ……」
ほどなくして義母を連れた母が戻ってくる。
「おはよーみんなぁ」
「おはようございます」
「……おはようございます」
《アキ、おはよ》
《起きなくていいのに》
アキに挨拶をした直後、義母はしゅんと落ち込んだ。今の会話を理解出来ていたはずのセイカの方を見ると彼は困ったような顔で首を横に振った。
「はぁ……反抗期…………あれ? ノヴェムちゃん? えっえっなんで? ネイさん来てるの? やだ寝癖まだ直してないのにぃ~!」
「ネイさんはノヴェムくん預けて出社しましたけど……」
「ぁ……そうなの……早いのね」
「夜も結構遅いみたいね、昨日私かなり時間潰して合流したのよ」
「九時出勤十七時退勤の唯乃がおかしいのよ……どうしてそれで一戸建て買って、子供一人で育てられてるの? 水月くん高い学校行ってるし……」
「有能だからよ」
顔だけじゃなく、その有能さも遺伝して欲しかったな。
「九時から午後五時なら八時間労働で普通なんじゃないんですか?」
「社会はそんなに甘くないのよセイカくん、サビ残とか色々あるの」
「バイトもまともに出来たことない葉子が言ってもね」
「か、体動かすのが苦手なだけで、頭脳労働ならきっと出来るの!」
義母はあまり頭が良さそうには見えないけれど、これでも母と同じ大学を卒業してはいるんだよな。案外本当に座り仕事なら出来るのかもしれない。
「っていうか私上がるの十六時半よ。昼休憩も一時間半くらいだし、八時間も働いてないわよ。水月が幼稚園行ってたくらいの頃はクソブラック勤めてて会社泊まったり何ヶ月も休み取らなかったりもしたけど、今は完全週休二日制だし」
「母さんすごいよね。ごちそうさま」
食事を終え、皿を流し台に運ぶ。皿洗いを始めるのは全員分集まってからでいいだろう。
それからしばらくして母が出社し、更にしばらくすると面接を受けるため義母が出ていった。いつもなら性の乱れた空間になるところだけれど、今回はノヴェムという幼い子供が居るので健全なままだ。
「母さん居るのに平気でネイさんにアピるし、ネイさん居なくてもやってたし……アレ母さん結構イラついてるだろうな~……部下とかに当たってなきゃいいけど」
息子として母親の不機嫌には緊張してしまうので、義母にはもう少し一途でいて欲しかったな。
「……あの人がお前のママ上と別れてネイって人と再婚とかしたら、秋風どうなるのかな……向こうの家行っちゃうのかな?」
「え……? うーん、ネイさん迷惑そうだったし靡かないと思うけど。ネイさん多分ああいう媚び媚びした感じ苦手だろうし」
「でも、あんまりアピールすごいとお前のママ上愛想尽かしちゃわないかな?」
「…………や、やめようよこの話……なんか怖くなってきた」
「しないとダメだろこの話! 対策しとかないと秋風がどっか行っちゃうかもしれないんだぞ、仲悪いとはいえ俺みたいに痛いことされる訳じゃないんだから、お前のママ上が秋風だけ残せって言うかなんて分かんないし……あの人秋風に失望してるけど執着はしてるから、秋風連れてくって言うだろうし」
背筋が寒くなる。イチゴを食べて唇が赤く染まったノヴェムの口周りをティッシュで拭いてやっているアキを見て、胸が締め付けられる。
「母さん葉子さんラブラブ大作戦、ってコト……!?」
「う、うん……? 多分?」
「…………マムシと、ニンニクと……イモリ?」
「黒魔術?」
セイカには散々オタク話をしてきたが、聞き流さずに頭に入れていてくれたんだな。嬉しい。
「いや、精力がつくってヤツ」
「女の人にも効くのかなそういうの……っていうか、あの人がネイって人に惚れてるのが問題なんだから、その……セックスさせたところで……あんまり」
「母さんのテクに骨抜きに」
「……真面目に考えろよ」
結構真面目に考えたんだけどなぁ。
「ネイって人のこと絵本の王子様みたいで素敵とか言ってたし、秋風の父親がロシア人ってとこからも綺麗な白人男性が好きなのは明らかだ。そこを責めよう、ネイって人に幻滅させればいいんだ」
「……なるほど? でもどうしよう、ネイさんに穴の空いた靴下履いてもらうとか?」
「逆に可愛いって惚れ込むかもしれない。ここはトラウマを刺激しよう。秋風の父親と同じ種類の男だってアピールするんだ。まず、度数の高い酒が好きだって言ってもらう」
確か、アキの父親は酒好きだったな。
「次に子供を殴る要素……ここも協力してもらわないと無理だな、あの人も迷惑してるんなら協力してくれるだろ。俺が殴られるフリをする」
「え……いや、効きそうだけど……セイカはダメだよ、フリったってそんな……俺がやる」
「鳴雷……五体満足でガタイのいいお前を殴るのと、手足欠損薬漬けの俺を殴るの、どっちが印象悪い?」
セイカだろうな。
「……秋風が殴られるのに耐えられなくて日本に逃げてきた訳だから、秋風でもいいけど……殴られるフリ上手そうだし」
「あー……そう、だな」
アキの身体能力ならスタントマンのように殴られたフリをして吹っ飛んだり転んだり出来るかもしれない。
「…………今の、アキに話してみる?」
「あんまり気は進まないけど……秋風もお前と離れたくないだろうし」
ため息をつき、紙コップ三つとサイコロ一つを使ってノヴェムと動体視力ゲームで遊んでいるアキに声をかけた。
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