冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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薄幸の美貌

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机にピザを置くとノヴェムが腰に抱きついてきた。

「ノヴェムくん、お父さん来たよ。えっと……パパ? ダディ?」

「ノヴェム」

「だでぃ!」

ネイは駆け寄ってきたノヴェムを抱き上げようと腰を落とし、ノヴェムの脇の下に腕を回し──

「……っ! 危険が危ないデス」

──抱き上げずに立ち上がり、頭を撫でた。

《お父さん? だっこぉ》

「腰を腰痛で痛めそうなのデス、ノヴェム……」

《……? だっこ》

《ギックリ腰になりそうだから勘弁して》

ジュースなどを準備しつつ様子を見ていたが、どうやらネイは腰が心配でノヴェムを抱き上げられないようだ。ここは若さの見せどころだな。

「ノヴェムくん、おいで」

俺は腕を広げたノヴェムの脇の下に手を入れ、抱き上げた。

「ほーら高い高ーい。ふふ、どうだった?」

《……こわい》

ぎゅっと抱きついてきた。可愛い。

「Oh……私より懐いてマス。名誉ダディの名を授けマース」

「よ、よりってこたないでしょ……」

「お待たせ~。水月、準備出来た? アキ~、セイカくーん、ご飯よ~!」

リビングのソファでイチャついていたアキとセイカがやってくる。母の背中から顔を出した義母が目を輝かせてネイを見つめる。

「お久しぶりですネイさんっ、ノヴェムちゃんすっごくいい子にしてましたよ。とても可愛くって、こんな息子が欲しいなぁって思っちゃいました」

いい子にしてたって……アンタ大して子守りしてなかったろ、とは言わず黙って席に着く。

「よかったデス。ご迷惑おかけしてないかとハラハラでした、仕事手につきませんデスよ」

「もう全っ然! 人懐っこくていい子でした~」

流暢に話せるのにカタコトで話すの辛くないのかな……俺には正直に愚痴っていたんだから、今も普通に過ごせばいいのに。

《ピザじゃん、美味そ~。俺この肉いっぱい乗ってるヤツ》

「お子サン、三つ居るデスね。お名前お伺いしても? そちらの百鬼丸ボーイは……」

「…………セイカ、セイカ」

「えっ、俺? あっ、狭雲星火です…………こっちは、秋風です」

既にピザを口に詰め込んでいて話せなくなっていたアキの代わりにセイカがアキを紹介してくれた。

「秋風は私の息子なんです。色々気の付くいい子なんですよ~」

自己紹介すら出来ずセイカにやってもらった直後にそんなこと言っても説得力がないぞ。

《お兄ちゃん、ノヴェムぽてと食べたい》

「ん……? ポテト? 欲しいの? どうぞ」

ポテトと言った気がしたので付け合わせのフライドポテトが入った箱を渡してみると、ノヴェムは「てんきゅー」と俺に可愛い笑顔を見せてくれた。



スネーキーズ親子と囲んだ夕食は楽しく、美味しく、可愛く、幸せであった。難点を上げるとすれば普段の倍以上義母が喋っていて鬱陶しかったくらいだ。

「あいるへるぷゆー」

ピザの空箱を潰して捨てて、コップを洗っていると、ノヴェムが俺の服の裾をくいくいと引っ張った。

「すぐ終わるから大丈夫だよ?」

「ノヴェム、ダメですよ。お邪魔をしちゃ」

小さな肩を優しく引き、ネイが俺からノヴェムを引き離す。

(……絵になりますな~、ガチ金髪親子。リュウどのの金髪とはやっぱちょっと味わいが違いますよな。染髪は染髪で良さがありますが。いやもう腰の位置が高い! その辺の日本人の臍の位置に股がありまっそ。まぁわたくしも同レベルのスタイルしてますけどな、でーっそっそっそ)

目の下にクマがあり、その他にも少々くたびれた様子が散見されるネイ。その優しい眼差しと手つきは全て息子を愛でるのに使われている。

(うん……エロい! 未亡人感といいますか、男やもめはイイですな~、独特な色気がありまそ! お顔はおとぎ話の王子様のようですのに、雰囲気だけは黒い着物が似合いそう……うぅ~ん、フェティッシュ!)

実際着せたら似合わないんだろうなぁと思いつつ、洗い終えたコップを置いて濡れた手を拭いた。

「終わりました?」

「はい」

「ちょっとお話いいですか?」

「え……? は、はい……」

なんだろう、怒られるようなことしたかな。ノヴェムに怪我はさせていないし……よく泣いていたから目が腫れていたりしたのだろうか。

「私、唯乃さんに何か嫌われてるみたいなんですけど……どうしてでしょうか、やっぱり知り合ってすぐに子供を預かってくれなんて無茶なお願いをしてしまったからでしょうか」

「え、母さんが……? そんな」

特に悪辣さの見当たらないネイを母が嫌うなんてありえない、そう否定しようとしたけれど夕飯の間口数が少なく酒の量が多かった母の様子を思い返し、あれはご機嫌斜めの仕草だと思い至った。

「葉子さんの方には好かれたんですが……いやあんまり好いて欲しくないんですけどね、ちょっと鬱陶しい……あ、本人には言わないでくださいね。私天然キャラで通したいので」

「…………葉子さんに好かれてるからかもしれません。嫉妬っていうか……はい、まぁ、そんな感じで」

「……あ、お二人はご夫婦で……夫婦? 婦婦?」

「いや結婚はしてないんですけど、母さんがベタ惚れで葉子さんもまぁ満更ではない感じの」

「Oh……それは、嫌われますよね、私……」

ネイは深いため息をついた。

「ご近所付き合いは良好に保っておきたいのですが……いつもこうです、日本でもアメリカでも、引っ越してしばらくすると奥さんに惚れられてしまって……旦那さんとトラブるのです。日本では殴りかかられる程度で済みましたが、アメリカでは一度銃撃されまして」

ネイはぴらっとシャツを捲り、薄らと割れた腹筋と脇腹に刻まれた銃創を俺に見せてくれた。

「妻が病気で亡くなり、この子の身内は私だけです。根も葉もない不倫疑惑などで殺される訳にはいきません。幼少を過ごしたというのもありますが、この国では銃が流通していないから越してきたのです」

「……そうですか。安心してください、俺はこの街で生まれてこの歳まで過ごしてきましたけど、殺人事件なんて起こってませんから」

「ホッとしますね……水月くんもお気を付けて。今はまだそんな歳ではないでしょうが、その美貌は……きっと人を狂わせる」

筋張った大きな手が頬をするりと撫でる。ネイにそんな気はないのだからと顔の紅潮を抑えようとしても、話の流れを無視して俺の頬は熱くなっていく。

「どうか、健やかに」

「……ぁ、ありがとう……ございます」

照れてしまった俺を見てネイは真面目な顔をやめ、ふっと微笑んだ。

「…………祝福を」

前髪をかき上げられ、額にキスをされた。その後すぐにネイはトイレから戻った義母に絡まれてダイニングへと移動して行ったが、俺はその場から動けないどころか腰を抜かしてへたり込んでしまった。
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