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腹違いの兄弟の絆
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フタとのデートに向けて、彼と出かける際の注意事項を説明するというサンに強引に同じ車に乗せられた。後部座席には熾烈なジャンケンを勝ち抜いたリュウが座っている。
「出発します」
車が発進する。離れていくサービスエリアを振り返り、土産に視線を落とす。母は喜んでくれるだろうか。
「……で、サン。注意事項って何?」
そんなものがあるとは思えない。全盲のサンならともかく、フタは手足が揃っているし目も耳も機能している。もしかしたらサンが俺と同じ車に乗りたいがために嘘をついたのかもしれない。
「まず、フタ兄貴は待ち合わせの時間には必ず遅れる」
「初めに会った時に言ってたね。大丈夫だよそれくらい」
「ボクと歩いてる時は気ぃ張ってくれてるみたいだけど、一人とか部下とかだとボーッとしちゃうから、すぐ信号無視して轢かれかける」
「……え?」
「っていうか子供の頃から何回も撥ねられてるらしいよ。水月がボク枠に入ればいいけど、入らなかったらボーッとしてるから気を付けてあげてね」
いくらボーッとしているからと言って車に轢かれるものだろうか、単に彼が住む町の治安が悪いのでは?
「話聞いてなかったり言ったこと忘れたりよそ見してたりボーッとしてたりしても、つまんないとか興味ないとかじゃないから大目に見てあげてね」
「う、うん? まぁ、そのくらいで怒ったりしないよ俺」
「喋ってない時は何も考えてないだけで、眠いとか怒ってるとか考え込んでるとかじゃない、ずっと黙ってても気ぃ遣わなくていいよ。考えてること全部口に出すから、嫌なこと言うかもだけど悪気はないから大目に見てあげて欲しいな」
「素直な人なんだね、そういう人すごく好きだよ」
「あと一番重要なのが……」
大したことのない短所、いや、むしろチャームポイントの羅列にサンは本当に兄のことが好きなんだなぁとほっこりしながら聞いていたが、慌てて気を引き締める。
「一番重要……な、何?」
「兄貴、この季節ならまず間違いなく上着着ずにタンクトップか半袖で来るから、薄手の上着渡してあげてくれる? ボクが用意しとくからさ。刺青丸出しじゃ遊びにくいだろ」
「めっちゃ重要な情報。ありがとう」
デート先はテーマパークだったよな? そんなところに刺青丸出しで行ったら最悪入り口で「入場は御遠慮ください」って頭下げられるんじゃないか? 誰かに盗撮されて「ヤクザ入園拒否されてて草」とか呟かれてバズったりしてしまうのでは?
「こんなもんかな。あぁ、後……フタ兄貴はよく怪我してるから、触ったりとかは場所気を付けて」
「もちろん。そのくらいの気遣いは人間として標準装備だよ」
「……いいね、目明連中は。ボク触るまで怪我してるかどうか分かんないんだよね」
「あ……ご、ごめんっ、そんなつもりじゃ……」
「気にしないで。ただ、いいなって思っただけ。目が見える連中のこと羨ましく思うこと、あんまりないからさ……そう、そうだね、アンタらは目で怪我が分かるんだ。それは……いいなぁ。出血が多ければ匂いで分かるんだけど、打撲は匂いも音もしないから……いつも、触っちゃって、痛がらせちゃって」
サンは指を擦り合わせている。目の見える俺の感覚で言えば、手のひらを見つめているだとかそんな感じの仕草なのだろうか。
「………………お兄ちゃん」
ぎゅ、と拳を握り、俯く。長い髪の下に整った顔が完全に隠れてしまう。
「……フタ兄貴と一週間も離れ離れなんて、なかなかないんだ。だからすごく心配。怪我してないかな、お腹空かせてないかなって……二十後半のいい大人にする心配じゃないって、水月は言うよね。ふふ、その通りだと思うよ。でも……心配なんだ、お兄ちゃ……兄貴のこと」
「そっ……か。ちょっぴり嫉妬しちゃうなぁ、サンにそんなに想われるなんて」
深い兄弟の絆を見せ付けられて、自分とアキとの関係を自然と思い返してしまって、卑屈になった。それを悟られないよう茶化して笑って誤魔化した。
「サンちゃんの兄さんてあの外ハネえげつない刺青すごい人やんな」
「多分そう。アンタ会ったこと……あったか」
「あるある、このめん取り返し記念焼肉ん時。三人兄弟なんやんな、俺いっちゃん上の兄さんまだ見てへんけど。まさか水月が兄弟丸ごといっとるとは……長男もいったん?」
「ないない。既婚者だし、DV野郎は嫌いだもん俺」
ヒトによるフタに対しての理不尽で苛烈な暴力は目に焼き付いている。あの光景を見たから俺はフタに庇護欲を抱き、告白を受け入れた──のかもしれない。自分のことだけれど、よく分からない。
「ふーん……俺はDV好きやで」
「お前が好きなのはSMだろ、英語苦手だからってそこ間違えんな」
「水月やったらどっちでもええもん」
「……お前なぁ」
「りゅーくんは何でそんなに虐められるの好きなの?」
理由があるなら俺も知りたいけれど、性的嗜好の起源なんて本人には分からないものだろう。
「何でて……そんなん、気持ちええからに決まっとるやん。ゾクゾクすんねん」
「ふーん……?」
「興味あるんやったらまずはスパンキングから水月に頼んだええわ」
「何勧めてんだ! サン、気にしなくていいからね」
マゾヒストなのは自由だけれど、布教はしないで欲しい。これ以上Mが増えたら適性がないのにSをやらなくてはいけない俺の負担が大き過ぎる。
「SMね~……激しいのとか優しいのとか、色々あるんだよね、セックスにもさ。ボクまだ自分が好きなプレイ傾向ってヤツ? 分かんないんだよね~……でもSMはないかな」
「嫌がっとるヤツほどハマるっちゅうこともあんで」
「やめろってばリュウ」
「ゃ、痛いのが嫌とかじゃなくてさぁ~……ボク気ぃ短いから叩かれたら殴り返しちゃうんだよね、倍は。水月殴りたくないし……」
十センチの差があり、筋肉量もそこそこのサンに苛立ち紛れに殴り返されたら結構のダメージがあるだろう。シュカの痛いのに跡は残らない程度の苛烈なスキンシップなんてレベルではない気がする、何となくサンは加減が苦手に思える。
「サンちゃん気ぃ長そうやけどなぁ」
「色んなことへの関心が薄いからイラッとくる枠が狭いだけで、浅いよ」
「広いよりはマシかぁ……」
怖い。連続絶頂や焦らしプレイすらサンの希望を聞きながらやるべきだろう。
「出発します」
車が発進する。離れていくサービスエリアを振り返り、土産に視線を落とす。母は喜んでくれるだろうか。
「……で、サン。注意事項って何?」
そんなものがあるとは思えない。全盲のサンならともかく、フタは手足が揃っているし目も耳も機能している。もしかしたらサンが俺と同じ車に乗りたいがために嘘をついたのかもしれない。
「まず、フタ兄貴は待ち合わせの時間には必ず遅れる」
「初めに会った時に言ってたね。大丈夫だよそれくらい」
「ボクと歩いてる時は気ぃ張ってくれてるみたいだけど、一人とか部下とかだとボーッとしちゃうから、すぐ信号無視して轢かれかける」
「……え?」
「っていうか子供の頃から何回も撥ねられてるらしいよ。水月がボク枠に入ればいいけど、入らなかったらボーッとしてるから気を付けてあげてね」
いくらボーッとしているからと言って車に轢かれるものだろうか、単に彼が住む町の治安が悪いのでは?
「話聞いてなかったり言ったこと忘れたりよそ見してたりボーッとしてたりしても、つまんないとか興味ないとかじゃないから大目に見てあげてね」
「う、うん? まぁ、そのくらいで怒ったりしないよ俺」
「喋ってない時は何も考えてないだけで、眠いとか怒ってるとか考え込んでるとかじゃない、ずっと黙ってても気ぃ遣わなくていいよ。考えてること全部口に出すから、嫌なこと言うかもだけど悪気はないから大目に見てあげて欲しいな」
「素直な人なんだね、そういう人すごく好きだよ」
「あと一番重要なのが……」
大したことのない短所、いや、むしろチャームポイントの羅列にサンは本当に兄のことが好きなんだなぁとほっこりしながら聞いていたが、慌てて気を引き締める。
「一番重要……な、何?」
「兄貴、この季節ならまず間違いなく上着着ずにタンクトップか半袖で来るから、薄手の上着渡してあげてくれる? ボクが用意しとくからさ。刺青丸出しじゃ遊びにくいだろ」
「めっちゃ重要な情報。ありがとう」
デート先はテーマパークだったよな? そんなところに刺青丸出しで行ったら最悪入り口で「入場は御遠慮ください」って頭下げられるんじゃないか? 誰かに盗撮されて「ヤクザ入園拒否されてて草」とか呟かれてバズったりしてしまうのでは?
「こんなもんかな。あぁ、後……フタ兄貴はよく怪我してるから、触ったりとかは場所気を付けて」
「もちろん。そのくらいの気遣いは人間として標準装備だよ」
「……いいね、目明連中は。ボク触るまで怪我してるかどうか分かんないんだよね」
「あ……ご、ごめんっ、そんなつもりじゃ……」
「気にしないで。ただ、いいなって思っただけ。目が見える連中のこと羨ましく思うこと、あんまりないからさ……そう、そうだね、アンタらは目で怪我が分かるんだ。それは……いいなぁ。出血が多ければ匂いで分かるんだけど、打撲は匂いも音もしないから……いつも、触っちゃって、痛がらせちゃって」
サンは指を擦り合わせている。目の見える俺の感覚で言えば、手のひらを見つめているだとかそんな感じの仕草なのだろうか。
「………………お兄ちゃん」
ぎゅ、と拳を握り、俯く。長い髪の下に整った顔が完全に隠れてしまう。
「……フタ兄貴と一週間も離れ離れなんて、なかなかないんだ。だからすごく心配。怪我してないかな、お腹空かせてないかなって……二十後半のいい大人にする心配じゃないって、水月は言うよね。ふふ、その通りだと思うよ。でも……心配なんだ、お兄ちゃ……兄貴のこと」
「そっ……か。ちょっぴり嫉妬しちゃうなぁ、サンにそんなに想われるなんて」
深い兄弟の絆を見せ付けられて、自分とアキとの関係を自然と思い返してしまって、卑屈になった。それを悟られないよう茶化して笑って誤魔化した。
「サンちゃんの兄さんてあの外ハネえげつない刺青すごい人やんな」
「多分そう。アンタ会ったこと……あったか」
「あるある、このめん取り返し記念焼肉ん時。三人兄弟なんやんな、俺いっちゃん上の兄さんまだ見てへんけど。まさか水月が兄弟丸ごといっとるとは……長男もいったん?」
「ないない。既婚者だし、DV野郎は嫌いだもん俺」
ヒトによるフタに対しての理不尽で苛烈な暴力は目に焼き付いている。あの光景を見たから俺はフタに庇護欲を抱き、告白を受け入れた──のかもしれない。自分のことだけれど、よく分からない。
「ふーん……俺はDV好きやで」
「お前が好きなのはSMだろ、英語苦手だからってそこ間違えんな」
「水月やったらどっちでもええもん」
「……お前なぁ」
「りゅーくんは何でそんなに虐められるの好きなの?」
理由があるなら俺も知りたいけれど、性的嗜好の起源なんて本人には分からないものだろう。
「何でて……そんなん、気持ちええからに決まっとるやん。ゾクゾクすんねん」
「ふーん……?」
「興味あるんやったらまずはスパンキングから水月に頼んだええわ」
「何勧めてんだ! サン、気にしなくていいからね」
マゾヒストなのは自由だけれど、布教はしないで欲しい。これ以上Mが増えたら適性がないのにSをやらなくてはいけない俺の負担が大き過ぎる。
「SMね~……激しいのとか優しいのとか、色々あるんだよね、セックスにもさ。ボクまだ自分が好きなプレイ傾向ってヤツ? 分かんないんだよね~……でもSMはないかな」
「嫌がっとるヤツほどハマるっちゅうこともあんで」
「やめろってばリュウ」
「ゃ、痛いのが嫌とかじゃなくてさぁ~……ボク気ぃ短いから叩かれたら殴り返しちゃうんだよね、倍は。水月殴りたくないし……」
十センチの差があり、筋肉量もそこそこのサンに苛立ち紛れに殴り返されたら結構のダメージがあるだろう。シュカの痛いのに跡は残らない程度の苛烈なスキンシップなんてレベルではない気がする、何となくサンは加減が苦手に思える。
「サンちゃん気ぃ長そうやけどなぁ」
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