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小動物の抱き方
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サキヒコが二枚目には写らなかったからか、彼氏達の緊張や恐怖は薄れたようだった。
「記念撮影は終わりだ。各自、時間までに荷造りを終えること。では車到着まで自由時間とする」
引率の先生みたい。そんな感想を抱いたのは俺だけではないはずだ。
「み、くん。しゃし……撮らせ、て」
「ん? あぁ、ぷぅ太ちゃん抱っこしていいんだっけ。どう抱っこすればいいんだ?」
ウサギを抱いた写真を撮りたいとカンナは昨日から言っていた。俺はソファに座り、膝にウサギを乗せてもらった。
「も、ちょと……きゅ、て」
「きゅっ? こう……か?」
小さく、柔らかく、温かく、動くもの。生き物を飼った経験がない俺にはそれは恐ろしいものだ。毛皮はまだいい、その下の柔らかい肉を強く掴んで傷付けてしまわないかが怖い。肉の更に下にある骨なんて、少し力の入れる方向を間違えただけで折れたり外れたりしてしまいそうで、骨の存在を知覚しただけで手が動かなくなる。
「だっ、こ……したく、な……?」
ウサギを膝に乗せたまま軽く腕で包んでいると、スマホを構えたカンナが首を傾げた。
「あ、いや、ウサギ嫌いとかじゃなくて……なんか、その……小さい生き物って怖いんだよな、怪我させちゃったりしないかなとか考えちゃって」
生き物はそんなに脆くない。分かっている。でも、怖い。
「だ、じょぶ……だよ? みーく……優し、から……ぎゅ、しても……そ、な、強く……な、もん」
俺が思うほど俺は腕に力を入れられていないと言いたいのだろうか。
「……うん」
そんなこと言ってもらったって、怖いものは怖いのだ。犬ならまだしもウサギなんて脆い生き物を強く抱き締めるなんて俺には出来ない。
「…………カンナ?」
頭を撫でられて見上げてみると、カンナはとても優しい笑顔を浮かべていた。眼差しもきっと優しいのだろう、見たかったな。
「みぃ、くんの……そ、ゆ……とこ、すき」
そういうとこ? どういうところだ、度胸がないところか? 変わった趣味だな。
「え、そっか? よく分かんないけど……ありがとう」
「かめ、ら……見て」
「あぁ……」
スマホのカメラを見つめて表情を作る。シャッター音と光が何度か続いた後、カンナはスマホを下ろした。
「ぁ……りが、と。かわい……の、撮れた」
「そっか、よかったな」
「ぅん。ありが、と。帰る……支度、してくる」
カンナはウサギを抱え、パタパタと可愛らしい足音を立てて階段を駆け上がって行った。
「……なぁリュウ、サキヒコくんとちょっと話したいんだけどさ、なんか……あの、交信? 的な何か、知らない? コックリさんとかやったらいいかな」
「絶対やったアカンよ!? 何回も言うけど俺ホンマに知らんのよ。まだ神さんの方やったら色々分かるけど幽霊の方はホンマになんも分からん」
「神様と幽霊ってそんな違うのか? 上位互換みたいなもんじゃないの?」
「全然ちゃうわアホ」
「えー……だって目に見えないし、死んだ人祀ったら神様なんだろ? 徳川家康の神社とかあるじゃん」
「…………面倒臭いこと言うてくるやん。御霊信仰祖霊信仰アミニズムシャーマニズム全部ちゃんと一から説明したろか?」
「ちょっと興味あるけど今はいいや」
苛立っているように見える。幽霊と神を同じにするのは神社生まれのリュウにとってよくないことだったようだ。
(わたくしオタクなので宗教とかオカルトとかにも割と造形が深いのですが、作品によって設定違うしフィクションの神霊とリアルの神霊はやっぱ生態違いそうだなーって思った訳で、一番詳しそうなリュウどのにサキヒコたんとの交信方法を教えていただきたかったのですが……知らないんじゃ仕方ありませんな)
わざと転んで頭でもぶつけて気絶すれば昨晩のように夢の中で会えるだろうか。
「……あ、そうだリュウ、昨日夢の中でサキヒコくんに会ったんだけどさ、アレただの夢? サキヒコくんが夢に入ってきたの?」
「どっちかは判別付けへんけど、幽霊とか神さんはよぉ夢ん中出てきはるもんよ。夢枕に立つ、っちゅうヤツやな」
「あぁ、聞いたことある……じゃあ昨日のはガチヒコくんなのか。あとさ、夢の中でさぁ、シュカの夢とかセイカの夢に移動したんだけど……アレは俺の妄想? サキヒコくんぱわー?」
「んー……夢を繋げたんやなくて、水月とサキヒコくんだけが他の子ぉの夢ん中行ったんやんな? それやったらまぁその辺の幽霊でも出来るんちゃう? 水月がそういう夢見た言う可能性もないこたあらへんけど」
「アレもガチヒコくんなのか……よかった、俺は完全な寝ぼけたバカじゃないんだな」
セイカの悪夢を終わらせたのは真実だった。彼の認識で俺が寝ぼけたバカなのは変わらないけれど、俺は俺のしたいことを出来ていたのだ。そのことにホッと胸を撫で下ろした。
「水月に幽体離脱させて、自分が夢に入るんと同じように他の夢ん入って……うん、せやな、行けるな……水月の頭がおかしなった訳やない」
リュウは小さな声で独り言を呟き、俺に話したことの真偽を改めて確認している。誠実で可愛い。俺は幽体離脱していたのかとか、色々と気になることは出来たけれど今聞きたいほどではない。
「…………なぁ、ガチヒコ、ツッコんで欲しかったんだけど」
「え、あぁ……意味分かるし、ツッコむほどでもないかな思て」
「……そっか」
「うん……」
「…………帰り支度、してくる」
「あ、俺もせな……」
階段を一緒に上って各々の寝室に入るまで、俺達に会話はなかった。
帰り支度と言っても、使った物はちゃんとその都度片付けていたから、さほどやることはない。洗濯を終えた服などをミフユから受け取ったので、それを詰めていくくらいだ。
「……来た時は入っていた荷物が、帰りには上手く入らなくなるのは何故でしょう」
「分かる! 服がなんか膨らんでる気がするよな。アイロンかけてないからかな?」
「まぁ、鞄が閉まらないほどではないのでいいのですが……秋風さん大丈夫ですかね」
「アキ? なんで?」
「誕生日プレゼント、いっぱいもらってたでしょう?」
「…………あー」
自分の支度が終わったらアキの様子を見に行ってやろうかな。
「記念撮影は終わりだ。各自、時間までに荷造りを終えること。では車到着まで自由時間とする」
引率の先生みたい。そんな感想を抱いたのは俺だけではないはずだ。
「み、くん。しゃし……撮らせ、て」
「ん? あぁ、ぷぅ太ちゃん抱っこしていいんだっけ。どう抱っこすればいいんだ?」
ウサギを抱いた写真を撮りたいとカンナは昨日から言っていた。俺はソファに座り、膝にウサギを乗せてもらった。
「も、ちょと……きゅ、て」
「きゅっ? こう……か?」
小さく、柔らかく、温かく、動くもの。生き物を飼った経験がない俺にはそれは恐ろしいものだ。毛皮はまだいい、その下の柔らかい肉を強く掴んで傷付けてしまわないかが怖い。肉の更に下にある骨なんて、少し力の入れる方向を間違えただけで折れたり外れたりしてしまいそうで、骨の存在を知覚しただけで手が動かなくなる。
「だっ、こ……したく、な……?」
ウサギを膝に乗せたまま軽く腕で包んでいると、スマホを構えたカンナが首を傾げた。
「あ、いや、ウサギ嫌いとかじゃなくて……なんか、その……小さい生き物って怖いんだよな、怪我させちゃったりしないかなとか考えちゃって」
生き物はそんなに脆くない。分かっている。でも、怖い。
「だ、じょぶ……だよ? みーく……優し、から……ぎゅ、しても……そ、な、強く……な、もん」
俺が思うほど俺は腕に力を入れられていないと言いたいのだろうか。
「……うん」
そんなこと言ってもらったって、怖いものは怖いのだ。犬ならまだしもウサギなんて脆い生き物を強く抱き締めるなんて俺には出来ない。
「…………カンナ?」
頭を撫でられて見上げてみると、カンナはとても優しい笑顔を浮かべていた。眼差しもきっと優しいのだろう、見たかったな。
「みぃ、くんの……そ、ゆ……とこ、すき」
そういうとこ? どういうところだ、度胸がないところか? 変わった趣味だな。
「え、そっか? よく分かんないけど……ありがとう」
「かめ、ら……見て」
「あぁ……」
スマホのカメラを見つめて表情を作る。シャッター音と光が何度か続いた後、カンナはスマホを下ろした。
「ぁ……りが、と。かわい……の、撮れた」
「そっか、よかったな」
「ぅん。ありが、と。帰る……支度、してくる」
カンナはウサギを抱え、パタパタと可愛らしい足音を立てて階段を駆け上がって行った。
「……なぁリュウ、サキヒコくんとちょっと話したいんだけどさ、なんか……あの、交信? 的な何か、知らない? コックリさんとかやったらいいかな」
「絶対やったアカンよ!? 何回も言うけど俺ホンマに知らんのよ。まだ神さんの方やったら色々分かるけど幽霊の方はホンマになんも分からん」
「神様と幽霊ってそんな違うのか? 上位互換みたいなもんじゃないの?」
「全然ちゃうわアホ」
「えー……だって目に見えないし、死んだ人祀ったら神様なんだろ? 徳川家康の神社とかあるじゃん」
「…………面倒臭いこと言うてくるやん。御霊信仰祖霊信仰アミニズムシャーマニズム全部ちゃんと一から説明したろか?」
「ちょっと興味あるけど今はいいや」
苛立っているように見える。幽霊と神を同じにするのは神社生まれのリュウにとってよくないことだったようだ。
(わたくしオタクなので宗教とかオカルトとかにも割と造形が深いのですが、作品によって設定違うしフィクションの神霊とリアルの神霊はやっぱ生態違いそうだなーって思った訳で、一番詳しそうなリュウどのにサキヒコたんとの交信方法を教えていただきたかったのですが……知らないんじゃ仕方ありませんな)
わざと転んで頭でもぶつけて気絶すれば昨晩のように夢の中で会えるだろうか。
「……あ、そうだリュウ、昨日夢の中でサキヒコくんに会ったんだけどさ、アレただの夢? サキヒコくんが夢に入ってきたの?」
「どっちかは判別付けへんけど、幽霊とか神さんはよぉ夢ん中出てきはるもんよ。夢枕に立つ、っちゅうヤツやな」
「あぁ、聞いたことある……じゃあ昨日のはガチヒコくんなのか。あとさ、夢の中でさぁ、シュカの夢とかセイカの夢に移動したんだけど……アレは俺の妄想? サキヒコくんぱわー?」
「んー……夢を繋げたんやなくて、水月とサキヒコくんだけが他の子ぉの夢ん中行ったんやんな? それやったらまぁその辺の幽霊でも出来るんちゃう? 水月がそういう夢見た言う可能性もないこたあらへんけど」
「アレもガチヒコくんなのか……よかった、俺は完全な寝ぼけたバカじゃないんだな」
セイカの悪夢を終わらせたのは真実だった。彼の認識で俺が寝ぼけたバカなのは変わらないけれど、俺は俺のしたいことを出来ていたのだ。そのことにホッと胸を撫で下ろした。
「水月に幽体離脱させて、自分が夢に入るんと同じように他の夢ん入って……うん、せやな、行けるな……水月の頭がおかしなった訳やない」
リュウは小さな声で独り言を呟き、俺に話したことの真偽を改めて確認している。誠実で可愛い。俺は幽体離脱していたのかとか、色々と気になることは出来たけれど今聞きたいほどではない。
「…………なぁ、ガチヒコ、ツッコんで欲しかったんだけど」
「え、あぁ……意味分かるし、ツッコむほどでもないかな思て」
「……そっか」
「うん……」
「…………帰り支度、してくる」
「あ、俺もせな……」
階段を一緒に上って各々の寝室に入るまで、俺達に会話はなかった。
帰り支度と言っても、使った物はちゃんとその都度片付けていたから、さほどやることはない。洗濯を終えた服などをミフユから受け取ったので、それを詰めていくくらいだ。
「……来た時は入っていた荷物が、帰りには上手く入らなくなるのは何故でしょう」
「分かる! 服がなんか膨らんでる気がするよな。アイロンかけてないからかな?」
「まぁ、鞄が閉まらないほどではないのでいいのですが……秋風さん大丈夫ですかね」
「アキ? なんで?」
「誕生日プレゼント、いっぱいもらってたでしょう?」
「…………あー」
自分の支度が終わったらアキの様子を見に行ってやろうかな。
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