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何も見えない聞こえない
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シャッター音が響く。ミフユがカメラの元へ戻り、カンナとハルは俺の腕を離し、シュカがリュウの腕を払う。結局肩組んでたのかよコイツら。
「ミフユさん、どうでした?」
カメラを確認しているミフユに話しかけると、彼はビクッと身体を跳ねさせた。その反応を不審に思いつつ小さな彼の頭越しにカメラを覗き込む。
「よく撮れてます……よね?」
「……ここを、よく見てみろ」
ミフユは俺の肩を指した。彼氏達ばかり見ていたから気付かなかったが、黒いモヤがある。
「煙などなかった……よな? これは一体……カメラの不具合だろうか」
「砂がレンズについてたとか、近くで巻き上がったのが映り込んだとかそういうのじゃないですか?」
「うぅむ……」
「誰の顔も隠れてないんだし、いいじゃないですか」
「むぅ、しかし撮り直した方が……」
そう言いながらミフユが顔を上げた時には既に、彼氏達は海へと飛び込んだ後だった。ミフユは深いため息をつきながらカメラと三脚を片付け、俺は一人砂浜に残された。
「…………サキヒコくん? サキヒコくん居るの?」
俺の肩にあった黒いモヤ、写真を撮られる寸前の寒気や肩の重さ、それらの正体を俺はつい先日白骨死体を見つけたサキヒコの霊ではないかと推測した。
「身体に帰ったと思ってたんだけど……葬儀とかまだなの? いいの? それとも……サキヒコくんじゃないのかな、別の幽霊とかだったらやだなぁ、本当にただの砂埃かもね」
返事はないし、今は寒気も肩の重さもない。
「……もう、行っちゃったのかな。もし話してくれてたらごめんねっ、霊感なくてさ…………ぁ、もしかしてさ、アキの誕生日パーティにも来てた? 料理なんか味薄かったんだよね、つまみ食いしたでしょ。なーんて…………ケーキは食べた? ケーキ、別に味薄くなかったからさ……ケーキも食べればよかったのに、見慣れないから警戒しちゃった? 和菓子のが好き? ふふ……独り言だなぁ、ずっと」
虚しい。でも、姿も見せられず声も聞かせられず、寂しい思いをしているサキヒコがここに居るかもしれない。俺の一方通行の言葉でもその寂しさが僅かに和らいでいるかもしれない。そう考えると多少の虚しさは俺の言葉が止まる理由にはならなかった。
「…………リュウ! リュウー! ちょっと来てくれ!」
楽しそうに泳いでいたリュウを呼び寄せる。濡れた金髪が顔や首に張り付いていて愛らしい。
「なんや?」
「サキヒコが来てるっぽいんだけど分かるか?」
「サキヒコ? あぁ、幽霊くん? せやから俺分からんねんて……」
「前は声だけは聞こえたんだけどなぁ」
「夜やったからちゃう? おひさん照っとる間はそら幽霊そないに元気出ぇへんで」
そういうことなのだろうか。夜になったらまた話せるのだろうか。
「……海がなんか幽霊のエネルギーの無限の供給源みたいな感じで、そこから切り離したから弱って見えなくなったり聞こえなくなったりしてる訳じゃないの?」
「さぁ……せやから俺そない詳しないねんて。何回言うたら分かってくれるん、俺幽霊専門家ちゃうねん」
「だって他に幽霊の存在信じてる彼氏居ないんだもん!」
「だもんちゃうわ! こんだけおったら一人くらい居るやろ」
その一人がリュウなんじゃないか。そう思いつつもぷりぷり怒って海へ戻っていくリュウをこれ以上呼び止めるつもりにはなれなかった。
「はぁ……ごめんねサキヒコくん、話せなくて…………なんか暗いとこ行ったらOKだったりする?」
返事はもちろん、何の反応もない。ラップ音の一つでも鳴らして欲しいものだ。
「みぃ、くん……泳が、な……の?」
「んっ? あぁカンナ、泳ぐよ。泳ぐ泳ぐ……」
「……みぃくん、後で、ねっ……ぷぅ太、だっこ……して? みぃく……が、だっこ、して……とこ、撮り……ぃ」
「ぷぅ太ちゃん抱っこしてるとこ撮りたい? はは、俺はいいけど、暴れないかなぁ」
「……ぷぅ太、も……みぃくん、すき」
「そうなのか? あんまりそんな感じしないけどな」
犬は尾を振ったり、猫は擦り寄ったりしてくれるのだろう。しかしうさぎは懐いた時どんな反応を見せるのか知らない。
「ぼく、みぃくん……す、き……だから」
「……だからぷぅ太も俺が好き? ふふっ、そっかぁ、なるほどなぁ……そうだといいなぁ」
根拠に乏しいけれど、カンナはこういうところがいいところだ。
「…………話変わるんだけどさ、カンナ幽霊って信じるか?」
「ゆ、れ……? 分かん、な……見た、こ……ない、し…………でも、こわ……から、やだ」
「……そうだな」
怖がりなカンナにはあまり幽霊の話はしない方がいいだろう。さて、神社生まれのリュウが見えないとなれば、あと幽霊が見えそうなのは──
「サン! ちょっといい?」
──光を失った目こそ本質を見る、なんてのは数多の創作で見た話だ。
「幽霊って信じる?」
「んなもん居ないよ」
創作は創作だったみたいだ。
「でも、幽霊を見る人の心は好きだよ。少しの暗がりで見えないものを無理矢理見ようとして、理由のない恐怖に理由をつけたくて、頭の中で作り出す訳だろ? 死んだ人に会いたい……とかもあり? 本能的な創作、人間の想像力の象徴だよね、幽霊は」
「う、うん……?」
よく分からない。流石は芸術家だ、と思考停止してしまおう。リュウもサンもダメとなれば、後はもう……あぁそうだ、死にかけると霊感が目覚めるとかどこかで聞いたことがあるぞ。
「シュカ、お前幽霊って信じるか?」
「は?」
「セイカ、幽霊信じてないか?」
「え? いや……」
ダメだった。
「…………ごめん、サキヒコくん。ダメっぽい」
カンナをハルに任せて戻ってきた砂浜で俺は深く謝罪した。波打ち際に座り込んで落ち込んでいると、白と黒の犬が走ってきた。
「っと、メープルちゃん。ふふ……どうしたの?」
頭のいい子だから俺が落ち込んでいるのに気付いたのかな、なんて顔を舐められながら思った。
わふ……わんわんっ
犬は不意に俺の顔を舐めるのをやめ、俺の背後をじっと見つめて吠えた。警戒している様子はない、ハッハッと舌を出して尻尾を振っている。
「……サキヒコくん?」
目を閉じて、耳を倒して、まるで誰かに撫でられているような反応……まさかサキヒコが犬を愛でているのか? 犬猫などの動物は人間よりも勘が鋭く、霊的なものにもよく反応するというのはよく聞く話だ、リュウも魔除になるとか言ってたし。
「………………わ、わんわん」
俺も犬になりきればサキヒコが見えるのでは? サキヒコに頭や顎を撫でてもらえるのでは? そんな考えで犬と同じ座り方をして鳴き真似をしてみたが、何も見えなかったし何かに触れられた感覚もなかった。
「ミフユさん、どうでした?」
カメラを確認しているミフユに話しかけると、彼はビクッと身体を跳ねさせた。その反応を不審に思いつつ小さな彼の頭越しにカメラを覗き込む。
「よく撮れてます……よね?」
「……ここを、よく見てみろ」
ミフユは俺の肩を指した。彼氏達ばかり見ていたから気付かなかったが、黒いモヤがある。
「煙などなかった……よな? これは一体……カメラの不具合だろうか」
「砂がレンズについてたとか、近くで巻き上がったのが映り込んだとかそういうのじゃないですか?」
「うぅむ……」
「誰の顔も隠れてないんだし、いいじゃないですか」
「むぅ、しかし撮り直した方が……」
そう言いながらミフユが顔を上げた時には既に、彼氏達は海へと飛び込んだ後だった。ミフユは深いため息をつきながらカメラと三脚を片付け、俺は一人砂浜に残された。
「…………サキヒコくん? サキヒコくん居るの?」
俺の肩にあった黒いモヤ、写真を撮られる寸前の寒気や肩の重さ、それらの正体を俺はつい先日白骨死体を見つけたサキヒコの霊ではないかと推測した。
「身体に帰ったと思ってたんだけど……葬儀とかまだなの? いいの? それとも……サキヒコくんじゃないのかな、別の幽霊とかだったらやだなぁ、本当にただの砂埃かもね」
返事はないし、今は寒気も肩の重さもない。
「……もう、行っちゃったのかな。もし話してくれてたらごめんねっ、霊感なくてさ…………ぁ、もしかしてさ、アキの誕生日パーティにも来てた? 料理なんか味薄かったんだよね、つまみ食いしたでしょ。なーんて…………ケーキは食べた? ケーキ、別に味薄くなかったからさ……ケーキも食べればよかったのに、見慣れないから警戒しちゃった? 和菓子のが好き? ふふ……独り言だなぁ、ずっと」
虚しい。でも、姿も見せられず声も聞かせられず、寂しい思いをしているサキヒコがここに居るかもしれない。俺の一方通行の言葉でもその寂しさが僅かに和らいでいるかもしれない。そう考えると多少の虚しさは俺の言葉が止まる理由にはならなかった。
「…………リュウ! リュウー! ちょっと来てくれ!」
楽しそうに泳いでいたリュウを呼び寄せる。濡れた金髪が顔や首に張り付いていて愛らしい。
「なんや?」
「サキヒコが来てるっぽいんだけど分かるか?」
「サキヒコ? あぁ、幽霊くん? せやから俺分からんねんて……」
「前は声だけは聞こえたんだけどなぁ」
「夜やったからちゃう? おひさん照っとる間はそら幽霊そないに元気出ぇへんで」
そういうことなのだろうか。夜になったらまた話せるのだろうか。
「……海がなんか幽霊のエネルギーの無限の供給源みたいな感じで、そこから切り離したから弱って見えなくなったり聞こえなくなったりしてる訳じゃないの?」
「さぁ……せやから俺そない詳しないねんて。何回言うたら分かってくれるん、俺幽霊専門家ちゃうねん」
「だって他に幽霊の存在信じてる彼氏居ないんだもん!」
「だもんちゃうわ! こんだけおったら一人くらい居るやろ」
その一人がリュウなんじゃないか。そう思いつつもぷりぷり怒って海へ戻っていくリュウをこれ以上呼び止めるつもりにはなれなかった。
「はぁ……ごめんねサキヒコくん、話せなくて…………なんか暗いとこ行ったらOKだったりする?」
返事はもちろん、何の反応もない。ラップ音の一つでも鳴らして欲しいものだ。
「みぃ、くん……泳が、な……の?」
「んっ? あぁカンナ、泳ぐよ。泳ぐ泳ぐ……」
「……みぃくん、後で、ねっ……ぷぅ太、だっこ……して? みぃく……が、だっこ、して……とこ、撮り……ぃ」
「ぷぅ太ちゃん抱っこしてるとこ撮りたい? はは、俺はいいけど、暴れないかなぁ」
「……ぷぅ太、も……みぃくん、すき」
「そうなのか? あんまりそんな感じしないけどな」
犬は尾を振ったり、猫は擦り寄ったりしてくれるのだろう。しかしうさぎは懐いた時どんな反応を見せるのか知らない。
「ぼく、みぃくん……す、き……だから」
「……だからぷぅ太も俺が好き? ふふっ、そっかぁ、なるほどなぁ……そうだといいなぁ」
根拠に乏しいけれど、カンナはこういうところがいいところだ。
「…………話変わるんだけどさ、カンナ幽霊って信じるか?」
「ゆ、れ……? 分かん、な……見た、こ……ない、し…………でも、こわ……から、やだ」
「……そうだな」
怖がりなカンナにはあまり幽霊の話はしない方がいいだろう。さて、神社生まれのリュウが見えないとなれば、あと幽霊が見えそうなのは──
「サン! ちょっといい?」
──光を失った目こそ本質を見る、なんてのは数多の創作で見た話だ。
「幽霊って信じる?」
「んなもん居ないよ」
創作は創作だったみたいだ。
「でも、幽霊を見る人の心は好きだよ。少しの暗がりで見えないものを無理矢理見ようとして、理由のない恐怖に理由をつけたくて、頭の中で作り出す訳だろ? 死んだ人に会いたい……とかもあり? 本能的な創作、人間の想像力の象徴だよね、幽霊は」
「う、うん……?」
よく分からない。流石は芸術家だ、と思考停止してしまおう。リュウもサンもダメとなれば、後はもう……あぁそうだ、死にかけると霊感が目覚めるとかどこかで聞いたことがあるぞ。
「シュカ、お前幽霊って信じるか?」
「は?」
「セイカ、幽霊信じてないか?」
「え? いや……」
ダメだった。
「…………ごめん、サキヒコくん。ダメっぽい」
カンナをハルに任せて戻ってきた砂浜で俺は深く謝罪した。波打ち際に座り込んで落ち込んでいると、白と黒の犬が走ってきた。
「っと、メープルちゃん。ふふ……どうしたの?」
頭のいい子だから俺が落ち込んでいるのに気付いたのかな、なんて顔を舐められながら思った。
わふ……わんわんっ
犬は不意に俺の顔を舐めるのをやめ、俺の背後をじっと見つめて吠えた。警戒している様子はない、ハッハッと舌を出して尻尾を振っている。
「……サキヒコくん?」
目を閉じて、耳を倒して、まるで誰かに撫でられているような反応……まさかサキヒコが犬を愛でているのか? 犬猫などの動物は人間よりも勘が鋭く、霊的なものにもよく反応するというのはよく聞く話だ、リュウも魔除になるとか言ってたし。
「………………わ、わんわん」
俺も犬になりきればサキヒコが見えるのでは? サキヒコに頭や顎を撫でてもらえるのでは? そんな考えで犬と同じ座り方をして鳴き真似をしてみたが、何も見えなかったし何かに触れられた感覚もなかった。
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