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ホイップクリームとフルーツ山盛りのケーキ
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全員プレゼントを渡し終わった。よほど嬉しかったのかアキは身に付けられる物を全て身に付けている。サウナハットにネックレス、シャツに手袋……これ以上なく奇妙な出で立ちだ。
「はは、可愛いなぁ。でも全部一気に身に付けちゃ変だぞ?」
人差し指だけですりすりと頬を撫でてやる。アキは口角を上げて嬉しそうな顔をしてくれているが、サングラスをかけたままなので瞳の表情までは分からない。
「そろそろケーキ食べるか?」
《秋風、そろそろケーキどうだ?》
《ケーキ? あぁ、そうだな。いい具合に腹空いてきた頃だぜ》
「食べるってさ」
昼間、ミフユと共に作ったケーキを取りに彼と共にキッチンに向かう。
《今のうちに脱いどけよお前》
他の彼氏達にも皿やフォーク運びを手伝ってもらう傍らアキの様子を見ると、彼は身に付けた誕生日プレゼントを脱ぎ、外していた。
《ほら、これ元の服》
黒く薄い長袖のシャツを着直し、四文字熟語Tシャツを畳む。サウナハットをその上に乗せ、ネックレスは箱に戻した。サングラスも外し、その美しい赤い瞳を晒した。
《……ミサンガはいいのか?》
《邪魔じゃねぇし、眩しくも重くもないからな。服に合わねぇってこともねぇだろ?》
セイカから贈られたミサンガはそのままにするようだ。長袖に隠れてしまわないよう服の上に移動させている。
(まぁミサンガって外すもんじゃありませんからな)
そもそも外せないんじゃないだろうか、とアキの方を見ているとミフユに背をつつかれた。
「鳴雷一年生、ほら、持っていけ」
「あ、はい」
十二人分の大きなケーキを持たされ、緊張の中そろそろと歩を進める。ゆっくりと机に置き、楕円形のプレートのチョコにチョコペンで書いた「с днем рождения」の文字がアキに見えるようにケーキを回す。
「これ俺が膨らませた風船と同じ言葉か?」
「はい。お誕生日おめでとう、です」
「ほー。いやー……読める気がしないな、英語ならまだちょっとは分かるんだが」
ボヤく歌見を横目に1と5の形をしたロウソクをケーキに挿す。シャンパンを持ってきているミフユを待ち、ロウソクに火を灯し、電灯を消す。
《歌い終わったら火吹き消すんだぞ、分かってるな?》
《ドラマだったか映画だったかで見たことあるから大丈夫だぜ》
手拍子を交えて誕生日を祝う歌を歌う。リズムに上手く乗れず音程もあやふやな、俺には聞き取れない言葉で歌っているのはセイカだろうか。英語の分からないアキのためにロシア語に翻訳しながら歌ってくれているのだろう。リズムも音程もめちゃくちゃで、歌になっているかは怪しいところだけれど。
歌い終わり、ぼんやりと輝いていた火が消える。歓声と拍手が部屋を包み、電灯がまた点けられた。何度か瞬きをして明るさに目を慣れさせると、アキがぎゅっと目を閉じている様子が見えた。
「ね~、写真撮っていい?」
「俺も撮ろうかな。いいよな? アキ」
頷き、薄目を開け、また閉じ、何度も瞬きをしたアキはようやく普通に目を開いた。明るさに慣れるのに時間がかかるものなんだなとアキの体質の不便さを再認識した。
「いいよ~フユさん、切っちゃって~」
「うむ。秋風はいいのか? 撮らなくて」
「……後で送ってくれって言ってる」
「りょーかいりょーかい、送りま~す」
アキのスマホからピコンッと音がした。ハルが送ったのなら俺はもういいかな。
「よし、等分できた……様々なフルーツを使っているから、苦手な物がある者は各々交換、譲渡などをすることだ。では配っていくぞ」
ケーキが一切れずつ配られていく。アキの皿には事前に避けられた誕生日おめでとうメッセージのチョコプレートと、ネコの形をした砂糖人形も乗せられている。
「いただきまーす」
「いたー……だき、まーす?」
アキは見よう見まねで手を合わせ、拙い発音でいただきますと呟いた。可愛い、可愛過ぎる、涙が出てきた。
「ん~……! やっぱりケーキ美味いっすね~」
「酒好きって甘いの好きじゃないイメージがあるんだが」
「俺飲んでるのチューハイばっかっすからね。俺は効率よく酔いたいだけで酒の味わいとかそういうの気にしてないんで」
「一番危ない酒飲みの思考じゃないか。そういや……俺のプレゼント選んでくれたのお父さんなんだよな、アキくん。アキくんのお父さんはどういう感じの酒飲みなんだ? コイツとはやっぱ違うんだろ?」
名前を呼ばれて話しかけられていると気付いたらしいアキはもぐもぐと口を動かしながらセイカの方を向いた。セイカの翻訳を聞き、セイカに何かを伝え、二人揃って歌見を見つめる。
「酔い潰れるまでに如何に高濃度の酒を多く飲むかの個人記録に挑戦し続けてる感じ、だってさ」
「お前の進化系だな」
「……酒飲みってそういうもんなんすかね?」
「そんな酒飲みばっかなら酒の種類増えないだろ! 味を重視するヤツが多数派だから増えたんだ」
「俺だって出来れば美味しい方が嬉しいっすよ!」
なんでケーキを食べている時に酒の話で口喧嘩が始まるんだ?
「アキ、美味しいか? ホイップクリームとチョコクリームどっちがいいか俺分かんなくて、ホイップクリームにしたんだけど……どうかな?」
歌見が話しかけた時と同じようにアキはまずセイカの方を向いて翻訳を待った。今度はセイカと二人ではなく、アキだけが俺の方を向いた。
「おいしー、です! ほいぷー? で、せーかい、です! おいしー、です」
「ホイップでよかったのかぁ~そうかぁ~! 可愛いのぅ可愛いのぅ」
隣に座っているアキの肩を抱き、もう片方の手で頭を撫で回す。アキは俺の手を剥がして押し返した。
「食べるー、する、しない、です!」
「た、食べにくいって言いたいのかな? ごめんな?」
「くっつくする、あとー、です」
「後でくっついてもいいのぉ!? ワァ……!」
長らく放って置かれた分、解禁された喜びが強い。これが焦らしプレイなのかと心で理解した。
「はは、可愛いなぁ。でも全部一気に身に付けちゃ変だぞ?」
人差し指だけですりすりと頬を撫でてやる。アキは口角を上げて嬉しそうな顔をしてくれているが、サングラスをかけたままなので瞳の表情までは分からない。
「そろそろケーキ食べるか?」
《秋風、そろそろケーキどうだ?》
《ケーキ? あぁ、そうだな。いい具合に腹空いてきた頃だぜ》
「食べるってさ」
昼間、ミフユと共に作ったケーキを取りに彼と共にキッチンに向かう。
《今のうちに脱いどけよお前》
他の彼氏達にも皿やフォーク運びを手伝ってもらう傍らアキの様子を見ると、彼は身に付けた誕生日プレゼントを脱ぎ、外していた。
《ほら、これ元の服》
黒く薄い長袖のシャツを着直し、四文字熟語Tシャツを畳む。サウナハットをその上に乗せ、ネックレスは箱に戻した。サングラスも外し、その美しい赤い瞳を晒した。
《……ミサンガはいいのか?》
《邪魔じゃねぇし、眩しくも重くもないからな。服に合わねぇってこともねぇだろ?》
セイカから贈られたミサンガはそのままにするようだ。長袖に隠れてしまわないよう服の上に移動させている。
(まぁミサンガって外すもんじゃありませんからな)
そもそも外せないんじゃないだろうか、とアキの方を見ているとミフユに背をつつかれた。
「鳴雷一年生、ほら、持っていけ」
「あ、はい」
十二人分の大きなケーキを持たされ、緊張の中そろそろと歩を進める。ゆっくりと机に置き、楕円形のプレートのチョコにチョコペンで書いた「с днем рождения」の文字がアキに見えるようにケーキを回す。
「これ俺が膨らませた風船と同じ言葉か?」
「はい。お誕生日おめでとう、です」
「ほー。いやー……読める気がしないな、英語ならまだちょっとは分かるんだが」
ボヤく歌見を横目に1と5の形をしたロウソクをケーキに挿す。シャンパンを持ってきているミフユを待ち、ロウソクに火を灯し、電灯を消す。
《歌い終わったら火吹き消すんだぞ、分かってるな?》
《ドラマだったか映画だったかで見たことあるから大丈夫だぜ》
手拍子を交えて誕生日を祝う歌を歌う。リズムに上手く乗れず音程もあやふやな、俺には聞き取れない言葉で歌っているのはセイカだろうか。英語の分からないアキのためにロシア語に翻訳しながら歌ってくれているのだろう。リズムも音程もめちゃくちゃで、歌になっているかは怪しいところだけれど。
歌い終わり、ぼんやりと輝いていた火が消える。歓声と拍手が部屋を包み、電灯がまた点けられた。何度か瞬きをして明るさに目を慣れさせると、アキがぎゅっと目を閉じている様子が見えた。
「ね~、写真撮っていい?」
「俺も撮ろうかな。いいよな? アキ」
頷き、薄目を開け、また閉じ、何度も瞬きをしたアキはようやく普通に目を開いた。明るさに慣れるのに時間がかかるものなんだなとアキの体質の不便さを再認識した。
「いいよ~フユさん、切っちゃって~」
「うむ。秋風はいいのか? 撮らなくて」
「……後で送ってくれって言ってる」
「りょーかいりょーかい、送りま~す」
アキのスマホからピコンッと音がした。ハルが送ったのなら俺はもういいかな。
「よし、等分できた……様々なフルーツを使っているから、苦手な物がある者は各々交換、譲渡などをすることだ。では配っていくぞ」
ケーキが一切れずつ配られていく。アキの皿には事前に避けられた誕生日おめでとうメッセージのチョコプレートと、ネコの形をした砂糖人形も乗せられている。
「いただきまーす」
「いたー……だき、まーす?」
アキは見よう見まねで手を合わせ、拙い発音でいただきますと呟いた。可愛い、可愛過ぎる、涙が出てきた。
「ん~……! やっぱりケーキ美味いっすね~」
「酒好きって甘いの好きじゃないイメージがあるんだが」
「俺飲んでるのチューハイばっかっすからね。俺は効率よく酔いたいだけで酒の味わいとかそういうの気にしてないんで」
「一番危ない酒飲みの思考じゃないか。そういや……俺のプレゼント選んでくれたのお父さんなんだよな、アキくん。アキくんのお父さんはどういう感じの酒飲みなんだ? コイツとはやっぱ違うんだろ?」
名前を呼ばれて話しかけられていると気付いたらしいアキはもぐもぐと口を動かしながらセイカの方を向いた。セイカの翻訳を聞き、セイカに何かを伝え、二人揃って歌見を見つめる。
「酔い潰れるまでに如何に高濃度の酒を多く飲むかの個人記録に挑戦し続けてる感じ、だってさ」
「お前の進化系だな」
「……酒飲みってそういうもんなんすかね?」
「そんな酒飲みばっかなら酒の種類増えないだろ! 味を重視するヤツが多数派だから増えたんだ」
「俺だって出来れば美味しい方が嬉しいっすよ!」
なんでケーキを食べている時に酒の話で口喧嘩が始まるんだ?
「アキ、美味しいか? ホイップクリームとチョコクリームどっちがいいか俺分かんなくて、ホイップクリームにしたんだけど……どうかな?」
歌見が話しかけた時と同じようにアキはまずセイカの方を向いて翻訳を待った。今度はセイカと二人ではなく、アキだけが俺の方を向いた。
「おいしー、です! ほいぷー? で、せーかい、です! おいしー、です」
「ホイップでよかったのかぁ~そうかぁ~! 可愛いのぅ可愛いのぅ」
隣に座っているアキの肩を抱き、もう片方の手で頭を撫で回す。アキは俺の手を剥がして押し返した。
「食べるー、する、しない、です!」
「た、食べにくいって言いたいのかな? ごめんな?」
「くっつくする、あとー、です」
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