冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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順番に悩むプレゼント

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長い時間をかけた夕食が終わった。ステーキや鶏の丸焼きを食べたアキは満腹になったようで、準備してあるケーキのことを話すと「後で食べる」と首を横に振った。

《はぁ~食った食った。腹いっぱいだぜ、ケーキまであるとは本っ当に豪華だな》

《……そろそろ分かったろ? 紅葉に媚びとけって》

《媚びる媚びる》

《…………俺の腰離して媚びに行けよ》

《はいはい媚びる媚びる》

《お前なぁ……ぅわっ!?》

セイカの声に振り向くと、アキが彼を膝に乗せていた。突然持ち上げられて驚いて声を上げたようだ、座る位置を整えた彼は何とも言えない顔でアキを見上げた後、深いため息をついた。



皿を片付けながら俺は横目でアキの様子を伺った。今はサンと話しているようだ。

「この絵はあなたが書いたのか、って言ってる」

「そうだよ~って言っといて」

《……芸術はよく分かんねーけど圧を感じるぜ》

「芸術は分からないけど圧を感じるって」

「みんなそんな感じの感想だね。あ、これは通訳しなくていいや」

アキの視線はサンが描いた絵に注がれている。

《……聖なる炎に抱かれ降臨せし天使、ってとこか?》

「炎に包まれて降りてきた天使か何かかって」

「アキくんの名前から紅葉のイメージ、アンタの目は赤いらしいしね。真ん中の人間のシルエットはアキくんをイメージしてるんだけど、天使みたいって聞いて描いたから……ま、そう感じるならそういうことだね」

セイカによる通訳でサンから絵の説明を聞いたアキはくすくすと笑い、また絵を眺めた。

《天使、ねぇ……》

《お前ちょくちょく天使呼ばわりされてるけど、やっぱり嬉しいのか?》

《……顔が良くて白っぽいからってだけだろ? ちゃーんと意図分かってるから嬉しいぜ。超絶美少年なのは分かってるが、褒めら飽きるこたぁねぇからな》

《ふーん……》

《だけどよ、美人に化けて出てくんのは悪魔だろ? 天使は翼の塊だったり目ん玉と翼しかなかったりすんだぜ? なんで天使が美人のたとえになってんだ?》

《知らね……》

アキとセイカだけで話されては何を話しているのか分からない。盗み聞きを諦めて皿洗いに集中し始めると、ハルが二の腕をつついた。

「みっつんみっつんみっつんつん」

「はいはいどうした?」

「ケーキ後ならさ、プレゼント先でいいよね?」

「あぁ……そうだな、洗い終わったらプレゼントにしようか」

「りょ~! 用意してくるね~」

楽しそうなハルを見送り、皿洗いを続ける。全て終えて冷えた手を揺らしながら部屋の隅に置いたプレゼントを取り、背に隠し、アキの隣に戻る。

「にーに、おつかれさん、です!」

「どうも。リュウで覚えたな? イントネーションが関西だぞ」

「……誰から渡す?」

「やっぱり最後は水月くんがいいんじゃないかな?」

「えっ、ちょ、待ってください俺のしょぼいんでダメです」

プレゼントを背に隠したままアキとセイカ以外の全員で、アキの背後で円陣を組む。

「俺の本当に大したことないんだよ、出来れば最初の方に渡したい」

「最後でも最初でも後から見てしょぼいな~って思われるのは変わんないんだからさ~、いつでもよくない?」

「少しでもしょぼいと思われる時間は減らしたいだろ」

「最初見ていいと思ったけど、後から見るとしょぼいってどうなんすか。落差あるのはよくないと思うんすけど」

「水月くんの意見通りにするとなると、安い順に渡していくということになるのかな。趣味や心意気も買われるだろうからそういうのはあまりよくないと僕は考えるのだけれど、どうだい?」

値段が安い順というのは確かに俺もあまりよくないとは思うけれど、俺のプレゼントが彼氏達のセンスを上回ったものだとは到底思えない。でも一番最初は嫌だ。

「分かった、ジャンケンで決めよう。勝ったヤツから渡していく。セイカの分は俺が左手でやる」

「……まぁええんちゃう? ほな行くで~」

そうやってジャンケンで決めた結果、何の因果か俺が一番手になってしまった。

「グダグダ文句言ったバチが当たったな」

「グダグダ文句ってそんな……」

不安なまま俺は背に隠していたプレゼントをアキに差し出した。

「アキ、誕生日、おめでとう」

ゆっくりと丁寧に伝えるとアキは聞き取れたようでセイカの翻訳を待たず俺に「にーに、ありがとうです!」と微笑んでくれた。アキは一旦プレゼントを机に置き、セイカを隣の椅子に戻してからプレゼントを再び持った。

「にーに、開けるするです」

「あぁ、いいよ。開けな」

最初は丁寧に包装紙を剥がそうとしていたが、途中で破ってしまってからは諦めたのかビリビリと適当に破り始めた。

「水月くんのプレゼントはどんな物かなぁ」

「一応アキの趣味に合いそうなものなんですけど……」

包装紙を剥がし、箱を開ける。中から現れたのは人間の頭蓋骨の形をした金色のマグカップだ。一部の彼氏達から「うわぁ」だの「悪趣味……」だのと声が上がっているが、アキはキラキラと目を輝かせている。

《超! クールじゃねぇか兄貴! 最っ高だぜ!》

「信長の逸話を元にした商品らしいぞ」

《日本の歴史上の人物で人の頭蓋骨で酒飲んだってヤツが居るんだ、それが元ネタだってさ》

《へぇー、日本にもイカれたヤツが居るもんだな》

《数百年前まで割と野蛮だからな》

セイカはしばらくアキと会話した後「とても喜んでいる」と見れば分かることを通訳してくれた。

「ちなみにその信長の話は多分嘘だぞ」

「え~? ホトトギスの話も創作だって言うし……じゃあ逆に信長は何やったんだよ」

「楽市楽座」

「テストの回答じゃん」

「ほな次俺やな」

リュウが小さなプレゼントをアキに渡す。健康祈願と書かれたお守りだ、漢字が読めずお守りの存在を知らないアキの反応は鈍い。

「……アンタのプレゼント全部お守りだよね」

「俺へのは根付だったぞ」

「ハルのんはちゃうのんしたろか?」

「んー……いや、下手にアンタのセンスに任せるよりご利益並よりありそうなお守りのがいい」

ただ単語を翻訳していく普段の通訳とは違い、お守りという宗教が絡んだ文化を分かりやすく説明しなければならないからか、ロシア語を知らない俺が聞いても分かるほどセイカの調子が鈍っている。

「……天正、お守りとロザリオって似た役割かな」

「俺キリスト教分からへんのよ」

《とにかく……アレだ、お前の健康を祈る気持ちが、形になったもんだ》

《へ~》

ようやく説明を終えたのか、セイカはふぅとため息をつきアキはお守りをしばらく眺めた後、リュウに笑顔を見せた。

「ありがとー、です! てんしょー」

「可愛ええのぉ、元気出るわ」

「次は私ですね」

そう言いながらシュカはアキの笑顔に見惚れてぽやぽやしているリュウを押しのけた。
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