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美味しいナポリタン

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クレヨンの汚れを落としたサンはエプロンを身に付けると冷蔵庫の野菜室を開けた。

「サン、料理中くらいは髪結んだ方がよくない?」

「じゃあ水月やって。何人居るんだっけ?」

ハルにヘアゴムを借りてサンの髪を結びながら、四人が海に行っていて居ないことを伝えた。

「マイナス四ね。じゃあ数は……んー……」

ピーマンと玉ねぎを数個出し、ベーコンも出して、パスタを茹でる。茹で上がるのを待つ間にピーマンと玉ねぎを一口サイズに切っていく。

「むぅ……いつ見ても不安だ」

手馴れた様子で包丁を使っているけれど、たまに見せる手探りの様子でサンが盲目だと言うことを再認識し、不安が湧く。ミフユも俺と同じ気持ちのようだ。

「ん……そろそろかな」

切り終えた玉ねぎとピーマンをフライパンで炒めながら、茹で上がったパスタを鍋の湯を捨てパスタを大皿に移す。

「…………今、タイマー使ってませんでしたよね」

「見事な体内時計だな」

タイマーを使用せずパスタの茹で上がり時間を完璧に認識していたサンに感嘆する。フライパンにパスタとベーコンを投入し、ケチャップで味付けをしながら炒めていく。

「いい匂いし始めましたねー……」

「うむ」

「こういうのが一番食欲そそるんですよね」

調味料が焼ける匂いほど唾液の分泌を促すものはない。

「めっちゃいい匂~い、何~?」

「ナポリタンか? いいな」

「俺ちょっと焦げ目付くくらいのが好きっす」

「にん、じ……入れ、な……の?」

彼氏達が各々の役目を中断してキッチンにふらふらと近寄ってくる。

「ミフユさん、これ折り紙全部使いますか?」

「いや、半分以上余ると思うが……」

「そうですか、一枚もらいますね。カンナ、赤色くれ」

ナポリタンの出来上がりを待つ間、カンナから受け取った赤色の折り紙で暇を潰した。サンが出来上がりを告げ、ミフユが大量のナポリタンを皿に取り分ける中、暇潰しの作品は完成した。

「ミフユさん」

「配膳を手伝え鳴雷一年生、何をしていたんだ?」

「すいません……ぁ、折り紙です。紅葉……」

赤色の折り紙で折った紅葉を見せると、ミフユは目を丸くした。

「ほぅ……ハサミを使わずに紅葉の形が作れるとは知らなかったな。こんな折り方があるのか、後でぜひ教えてくれ。ネザメ様がご覧になれば喜ばれるだろう、お帰りになったら見せるのだぞ」

「……みぃ、くん……折り紙、たんと……のが、よか、た?」

「いやぁ、俺折り方は結構知ってるけどカンナみたいに丁寧じゃないからなぁ。同じの何個も作るような根気もないし」

「……? おな、じの……作、と、少し……つ、うま……なって、たの、し……よ?」

「なるほど? 俺そのタイプじゃないからなぁ」

カンナの表情が僅かに曇る。半分だけしか顔が見えなくても表情が分かることを誇り、次に理由を考える。

(わたくしと同じタイプじゃない、ということが落ち込みの原因でしょうか)

だとしたら可愛いなと微笑みながらそれとなく理由を聞く。

「…………みぃくん、飽きしょ……かな、て。ぼく……彼氏、してもら……たの、最初……から、ちょっと……」

「……不安になっちゃった?」

小さく頷くカンナを抱き寄せて頬をくすぐるように撫でる。

「俺は飽き性って訳じゃないよ、作った物は取っておくし。色んな物欲しいだけ」

「……そ、だね。みぃくん……色んな、人……つかま、てる……もん、ね」

「捕まえてるって……まぁ、そうか。そうだな。だけどカンナのことも大切に愛してるつもりだよ」

「うん……ごめ、ね。変なこと……言って」

「いいよ、そういうとこも可愛いから」

抱き締める腕の力を強めて、頬を撫でる手を顎に移してクイッと持ち上げる。上を向かせるとカンナはそっと唇を差し出した、きっと目を閉じている。

「ん……」

背後でミフユの大きなため息が聞こえた気がして、配膳を手伝えと言われたのに結局一皿も運んでいないことを思い出したけれど、キスの中断は出来ないので開き直った。

「ご飯の準備ありがとう、みんな」

キスを終え、礼を言う。カンナも少し申し訳なさそうにしながら礼を言い、カンナだけは皆に許された。

「水月皿洗い全部やれよ」

「なんでぇ……」

罪に対して罰が重過ぎると落ち込みながらフォークを持つ。

「ん……! うっま!」

「ちょっと焦げ目ついてて最高っす!」

「美味しい? よかった」

サンはまだ髪を結んだままだ、普段と雰囲気が違う。家庭的に感じる。
 
「玉ねぎくたくたっすね。じゃぎじゃぎするの嫌いだからサンさんの飯、俺超好きっすぅ~!」

「兄貴がネギの食感残ってるの嫌がるから癖になってるんだよね。そう言ってくれて助かるよ、食感好きな子も居るからね」

「聞いていいのか分からんが……見えないのにどうして火の通り具合分かるんだ? 玉ねぎってほら、飴色になるまでとか言うのに」

「片っ端から箸で刺してる」

玉ねぎをよく見てみると、丸い凹みがところどころにあることが分かった。ピーマンにもある。

「な、なるほど……」

「刺して分かんないのは食べてる」

「なるほど……至って普通の解決法、逆に思い付かなかった」

煮込んだじゃがいもだとか、鶏肉だとかは俺も火の通り具合を見るために箸で刺すことがある。俺は他人に出す料理にそういうことは出来ない性格だけれど。

「あと目関係のこと別に聞いてくれていいからね? ボクもアンタらの視界っての興味あるし」

「そうか? 悪いな、なんか気ぃ遣っちゃって」

「一緒に歩く時はこれ以上ないくらい気を遣ってね、それ以外は何も気にしなくていいよ。やーいめくらーとか言ってもいいよ」

「い、いやそれは流石に」

「急に電気消すだけで動きが止まる雑魚が何を言ったところで、ねぇ?」

ハンッ、とこの上なく人を馬鹿にした顔で笑うサンも綺麗だ。腕っ節で上下を決めているところ、裏社会育ち感が伺えて味わい深い。

「…………」

何も言えなくなった歌見を横目に俺はサンの魅力に恍惚としていた。
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