冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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早朝の風景

朝日が水平線から顔を出すのと同時に部屋を出た。眠れなかったから数十分でも寝たいというシュカを置いてリュウと二人で部屋を出た。

「……盛り塩、真っ黒んなっとる」

白かったはずの盛り塩はドロっとした黒い塊に変貌していた。一体塩に何をすればこうなるのか、化学に詳しければ分かるのだろうか。

「すぐ身代わりの形代作るわな」

「あぁ、よろしく」

ミフユもまだ起きてきていないダイニングで二人、静かな時を過ごす。リュウは鋏で紙を切り、俺は昨晩から放置していたコーンポタージュを片付ける。

(捨てるのもったいないですな)

レンジで温め直そうと思いつつ、冷めたコーンポタージュの飲み心地に興味が湧いて一口飲んでみた。

「…………?」

味がない。もう一口飲んでみたが、やはり味がない。コーンを奥歯で噛み潰しても、あのコーン特有の甘みが口内に広がらない。水道水よりも無味、長時間噛み続けたガムの方がまだマシだ。

「リュ、リュウ……俺、味覚がなくなったかもしれない」

何かの病気だろうかと怯えながらリュウに相談し、彼にもコーンポタージュを一口飲んでもらった。

「……あぁ、味ないなぁ。しっかり食べはったんやわ、サキヒコくん言うたっけ。あの子が食うた後やから味ないねん」

「…………幽霊って味だけ吸うの?」

「匂いもないやろ?」

「あ、そういえば」

「お供えもんっちゅうんは風味落ちるもんやからな」

それはしばらく放置するからでは? と言いたくなったが我慢してリュウの話の続きを待つ。

「一般的な供えもんは味見程度しかされへんけど、サキヒコくんは全部食うたんやな。ここまで見事に食うてまうっちゅうんは、カレー出してお皿まだ洗ってへんのにまっさらピカピカっちゅうくらいの完食っぷりやで」

「それカレー食ったヤツ絶対皿舐めてるじゃん……」

「……たとえやたとえ」

「はは、分かってるよ。でも、そっか、本当にちゃんと食べてくれたんだな」

こんなことならただ粉末をお湯で溶かすだけのインスタントなポタージュじゃなくて、もっとちゃんとした手の込んだ料理を食べさせてあげたかった。

「身体に戻ったって言ってたな。ちゃんとサキヒコくんだって分かってもらえたかなぁ……天国に行って欲しいけど、やっぱり彼氏になって欲しいしぃ……せめて一発成仏する前にヤらせて欲し……ぁ、四十九日だっけ? なんかそんなのあるんだよな、あれどうなの」

「……もし天国やら地獄やらがほんまにあるんやったら宗教によってちゃうんおかしいやん。どの宗教のどのあの世がどこまで合っとるんか分からんから、成仏とかその辺はよぉ分からんのよ」

「ミサキ……じゃなくて、サキヒコくん。サキヒコくんが……幸せになれたらいいな。成仏しても、出来なくてもさ。本当に酷い死に方して、すごく痛くて苦しくて……なのに死んでもあの傷消えなくて、何十年もずっと痛くて寂しいなんてさ……悲し過ぎるもんな」

「水月ぃ……水月の優しいとこ好きやけど、あんまし幽霊に同情しぃなや? ポンポン取り憑かれて死ぬで」

「……うん。今回は特別。会った時は生きてると思ってたし、すごく可愛い子だったから」

リュウは変わらず呆れ顔だ。今回だけでは終わらないだろうとでも思っているのか? まぁ実際同じように幽霊だと知らず好みの美少年に会ったらまた口説くだろうしな、俺。

「…………せや。水月! 俺盆辺りに故郷くに帰んねんけどな、水月も来ぃや。おじぃに見てもらい。水月は今回は特別や言うけど、そのうちまた変な幽霊引っ掛けてきそうで心配でたまらん。もう目ぇ閉じてまお。霊感消すねん。どない?」

「んなこと出来るのか?」

「おじぃは凄腕らしいで」

「……でもサキヒコくんがもし俺と付き合ってくれる場合、サキヒコくんのこと見えなくなったり聞こえなくなっちゃったら困るんだけど」

「もぉ~……ワガママやのぉ! さっきまでなんや怖いのん聞いとったんやろ?」

確かに、昨晩ずっと扉や窓を叩かれたり彼氏達の声で呼びかけられたりと、ずっと怖かった。気が狂いそうだった。シュカとリュウの体温と、熟睡するリュウの吐息と、眠れないシュカのもぞもぞとした動きが、辛うじて俺の正気を繋ぎ止めていた。

「でも、何も感じなかったら、それはそれで危ないんじゃないのか? 今回みたいに外から呼ばれて出ちゃダメな状況でもさ、お前がいつもそう教えてくれるとは限らないし、うっかりトイレに行こうとしちゃうかもしれない。何も感じなくても取り殺されたりはするんだろ?」

「……俺ちゃんと教えるもん。知らん間に浮遊霊引っ掛けよるよりマシや」

「大丈夫だよ、俺意外とナンパはしないから」

「嘘つけぇ……アホ」

リュウは目に涙を浮かべてソファの上に蹲った。俺はそんな彼を抱き締めて頭を撫で、謝った。

「……ごめんな、心配かけて」

鼻をすする音が聞こえる。申し訳ないのに俺を想って泣いてくれるのが嬉しくて、笑みが零れる。

「部屋、戻る」

「え?」

「朝なったらもう水月は大丈夫やし……着替え、部屋にあるから」

「あぁ、カンナ達の部屋な。分かった、送るよ」

「別にええのに」

目を擦るリュウの腰を抱き、目を擦るのは程々にしておけと注意しつつ、共に階段を上って彼を部屋に送った。どの部屋の中でも彼氏達はまだ眠っているのだろう、起こさないように下に居ようかなと階段に向かおうとしたその時、話し声が聞こえた。

《こんっな朝っぱらに何の用だ》

ボソボソとして上手く聞き取れないその話し声はアキとセイカの部屋から漏れていた。

《お姫様が起きちまうだろ? あぁ、一緒に寝てんだ。チッ……移動する、ちょっと待て》

耳をくっつけてみようとした扉が開き、真っ白い髪に少しの寝癖をつけたアキが現れる。寝起きなのか、別の理由なのか、不機嫌そうに赤い瞳を鋭くしている。

《よぉ兄貴、おはようさん》

「……どぶれうるた」

不機嫌そうだった赤い瞳が見開かれ、それから俺似の美顔が微笑みをたたえる。

《あはっ、発音クソだな兄貴》

彼の母語での挨拶はお気に召していただけたようだ。
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