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真に恐ろしいのは

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尿道ブジーが栓となり溜まっていた数発分の射精を吐き出し、身体を仰け反らせて叫び尽くしたリュウはぐったりと全身の力を抜き、縄に身を任せた。

「驚いたぁ……大きな声だったねぇ、眠ってしまいそうだったけれど、目が覚めたよ」

ネザメが起き上がり、リュウの顔を覗き込む。口は半開きのままで、瞬きもほとんどなく、目玉はぐるんと上を向いている。

「……うーん見事なアヘ顔」

可愛い。

「少し足と腰が震えるけれど僕は一人でも大丈夫だから、天正くんの面倒を見てあげて。縄のほどき方は分かるね?」

「はい、分かります。ありがとうございます、すいません本当ならネザメさんもちゃんと俺が身体洗ったりしてあげなきゃいけないんですけど」

「いいよいいよ、僕は元々道具の使い方を教えるだけのつもりだったし……なのに君に可愛がってもらえて嬉しかった。じゃあ、僕は身体を流してから行くよ」

ネザメはゆっくりと立ち上がるとシャワーの方へ向かった。俺はリュウを縛る麻縄をほどいてローションや精液を洗い流した。



リュウの身体を清め終える頃には浴場にネザメの姿はなく、俺は意識はあるものの話せはしないリュウを抱えて脱衣所に出た。

「リュウ~……立てないのか?」

「……ぅ」

自力で立てもしないリュウの身体をバスタオルに包み、身体を拭いていく。

「ひっ、ん……んぅっ、あ……」

絶頂を重ね続けた身体は相当敏感になっているようで、拭う度にピクピクと跳ねて可愛らしかった。

「……あれ、もうみんな寝たのか」

リュウを抱えてダイニングに向かったが、誰も居なかった。俺はソファにリュウを寝かせてコーンポタージュを作り、机に置き、椅子を引いておいた。

「約束通り作ったから食べてね、ミサキくん」

虚空に向かってそう呟くと、窓は開いていないのに風が吹いて頬を撫でられた。

「……居るの?」

辺りを見回すもミサキの姿はない。

「明日の朝にはこれ片付けるからね。ねぇ、ミサキくん……俺、君のことが好きだよ。大好き。彼氏になって欲しいなぁ。成仏しちゃうんだったらどうしようもないけど……もししないんだったら、俺と付き合ってよ。俺、滝行でも何でもして霊感鍛えて、ミサキくんと生きてる人間同士みたいに触れ合えるようになるから!」

「……ツキ」

「ミサキくんっ? ミサキくん……どこに居るんだろ。この辺? この辺かな」

何もない空間に手を漂わせてみると、ひんやりと冷たい空気を感じる場所があった。

「…………変なとこ触るな」

「あっ声聞こえた! うっすら聞こえた! えっ俺どこ触った? ごめんね?」

返事がない。怒って黙ってしまったのか、俺の霊感では怒って力強く言った時くらいしか聞こえないのか、どっちなんだろう。

「んん……水月ぃ? 誰と話しとるん……」

ソファで寝かせていたリュウが目を覚ました。まだ下腹に力を込めるのは難しいようで、身体を起こすのに苦労していた。

「あ、リュウ! リュウ、ミサキくん来てるっぽいんだけど、どこに居るかな」

「せやから俺見えへんねんて」

「ミサキくん、彼はリュウ、俺の彼氏の一人。あ、俺彼氏十……えっと、フタさん入れたら……十三人か、ミサキくん十四人目にならない? っていうかミサキくん、名前沙希彦なんだよね? もぉ~間違えて聞き取っちゃった時に訂正してよぉ、今からサキヒコくんって呼ぶね? それでいい?」

「……はぁ!? おまっ……死んどるもん彼氏にする気ぃか!? 牡丹灯籠知らんのか!」

「ぼたんどーろー……あぁ知ってる知ってる、朝だって騙されて出ちゃうパターンより、おつゆさんと一緒になりたくて出ちゃうパターンのが好き」

「危ないやっちゃのぉ~……サキヒコとやら! 聞いとるんか知らんけど、水月は渡さへんからな! 水月殺したら石に封印して海に沈めたる!」

「…………サキヒコくん十円玉触れそう? 動かせそう? 五十音表用意しようと思ってるんだけど」

「こんドアホがぁ!」

スパァーンッ! と頭を叩かれた。振り向けばリュウがスリッパをその手に持っていた。次の瞬間、パチパチと拍手のような音がした。

「な、なんや、ラップ音っちゅうやつか? 威嚇しとんのか?」

「……これが当代の漫才か、どつき漫才というヤツだな。上方のお笑いは私の時代から優れていたが、なかなかどうして進化している」

「なんか漫才の感想言ってる」

「えっ俺聞こえへん! って漫才ちゃうわ!」

「サキヒコくん今まで話してなかったの? 今までも話してくれてた?」

「食事中は話さないのが礼儀だ」

「あ、スープ飲んでくれた? 全然減ってないけど……お供えってそういうもんだもんね。美味しかった?」

「あぁ、甘い。約束を果たしてくれたこと、深く感謝する」

少しお固い話し方がミフユを思わせる。これは血なのか、それとも年積家の教育方針が変わらないだけなのか。

「よかった! ゃ、そんなことよりサキヒコくん、どう? 海からは解放された?」

「……よく分からない。でも、身体が軽くなった」

「俺に見えなくなったもんね」

「身体が随分遠くにある……身元は判明しただろうか」

「ミフユさんが昔あなたがこの辺りで行方不明になったことちゃんと話したから、後はDNAとかそういうのできっと……」

「…………そうか。あの骨がちゃんと墓にでも収められたら、成仏してしまうのかな。自分ではよく分からない」

「俺の彼氏にはなれなさそう?」

ふ、と微かな笑い声が聞こえる。コーンポタージュを湯船で飲んだ時のような柔らかい表情だろうか、それとももっと深い笑顔? 見たい。視たい。

(第三の目よ開け! とかやっても無駄なんでしょうなぁ)

人差し指で額を軽く引っ掻いてみるも、漫画のキャラクターのように第三の目が開眼することもサキヒコの姿が見えることもない。

「……分からない。成仏出来なければ、よろしく頼む」

「俺が死ぬ時一緒に連れてったげる」

「水月ぃ!」

「数十年後の話だよ。リュウ、もちろんお前も連れてってやるからな~? あ、俺より後に死ねよ? サキヒコくん、みんなが死ぬまで俺みんなに順番に取り憑くから全員死ぬまで待っててくれる? 一番遅いのは多分アキかな~、アキであって欲しいよな~、一歳だけど歳下だし」

「水月……あぁもうめちゃくちゃやコイツ……はぁ、ほんまにもう……」

呆れたように目を閉じて項垂れていたリュウが突然顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回す。

「……見えも聞こえもしないが、危機察知能力は高いようだな。ミツキ、海が来ている。ミツキを連れに。私を取り返しに……私は身体の元へ戻る。また会えたら、その時は何も挟まない接吻……いや、当代では、きす……とか言ったか。キスをしよう」

「俺絶対生きて帰るぅ! リュウ、部屋に逃げようぜ、結界張ってくれたんだろ?」

「お、おぉ……俺ちょっと足ガクガクすんねんけど」

「しょうがねぇなぁ」

俺はリュウをお姫様抱っこで部屋まで運び、扉を閉めてホッと息をついた。次の瞬間、背にした扉がドンドンと叩かれて彼氏達の声で「開けて開けて開けて開けて」と呼びかけられ始めた。

「オッヒョウ」

「水月? な、何ぃその声、なんか聞こえんのん?」

まさかリュウにはこれも聞こえていないのかと羨ましく思ったその時、部屋の灯りが点いて心臓が握り締められたかのように驚いた。まさか部屋の中に霊が入り込んでしまったのではと怯える俺の顔に枕が飛んできた。

「人が気持ちよく寝てんのに勢いよくドア閉めやがって……水月か? 水月だよなぁ? 誰か居るな……黄色っぽい、天正か。なんでこの部屋に居るんだよ……安眠妨害しやがって、殺してやる、二人まとめて殺してちゃる……」

「…………サキヒコくん、俺生きて帰れないかもしれない」

幽霊よりも恐ろしいのは生きた人間、そんな食傷気味のフレーズを使うことになるとは思わなかった。
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