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海面の手

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喉奥に放たれたサンの精液に噎せることも出来ず、息を止めてサンが腰を上げるのを待つ。

「……っ、く、ふぅゔっ……!? 水月っ、水月ぃっ、抜いてぇっ」

振動の強さを最強に引き上げたローターが入ったままだということに気付き、俺は慌ててコードを引っ張った。

「んぁっ!? あっ、ぁ……ぁあんっ!」

ぬぽんっ、とローターが抜け、ローションがだらだらと後孔から垂れてくる。

「はぁ、はぁ……気持ちよかった。ぅえ……顔、どろどろ……ん? あぁ、すぐどくよ」

太腿をぽんぽんと叩くとサンはすぐに俺の求めを察し、腰を上げて俺の喉を埋めていた陰茎を抜いてくれた。萎えて小さく柔らかくなっているとはいえ、十分に大きな異物に喉の粘膜を逆撫でされるのはとても不快で苦しくて、それでいて、いやだからこそ、気持ちよかった。

「ぉ、えっ……げほっ、けほ、げほっ……」

「大丈夫? 水月」

「大丈夫……」

「そ? よかった、あーもう顔どろどろ」

射精の瞬間、サンは俺の陰茎を咥えていなかった。顔射してしまったのだと気付き、謝りながら涙が滲む目を擦る。

「いいよいいよ、大丈夫。目には入ってないし」

目を開けるとサンが顔についた俺の精液を手で拭っている姿が見えた。白濁液でどろどろにしてしまった罪悪感と興奮で目が離せない。

「お風呂行こ~? 連れてって水月」

「あっ、うん」

今日はこれで終わりかと内心残念がる俺の前で、サンは右目を隠していた髪をかき上げ、俺の精液を使って撫で付けた。

「……!」

サンがずっと隠していた、ヒトが隠させていた、サンの右目。一体どんな理由で隠させたのかと覗き込んでみる。

「なんかまだお尻変な感じする……」

右目はぐりんと外を向いていた。左目は顔が向いている方と同じ方を向いているが、右目は常に外側に向いている。なるほど、斜視か。それも重度の。気味が悪いと思う者も居るだろう、ヒトの判断は間違いではない。

「立てる?」

「それは大丈夫」

立ったサンに肩を掴ませて脱衣所へ。汚れていない後ろ髪は濡らさないようにしようと、バスタオルで包んでまとめた。

「前髪は洗おっか」

「うん。あっ……」

サンは右目を晒していたことにようやく気付いたらしく、手で慌てて目を隠して俺の方を振り向いた。

「…………どんなだった?」

「別に。可愛かったよ」

「ホント? 兄貴は隠せって言ってたけど……」

「俺はサンの全てが可愛いと思ってるからそれも可愛いけど、まぁ隠しておいた方がいいのはいいんじゃない?」

「カンナちゃんみたいな感じ?」

俺は可愛いと思うけれど、気味が悪いと思う他人も居るだろうという点では同じだな。

「ま、いいや。水月もフタ兄貴も何とも思わないんだったら。ヒト兄貴がうるさいから髪型は変えないけど。行こ行こ」

「うん」

サンと共に浴場へ。後ろ髪をまとめ上げたことによって目立つ刺青にやはり惹かれる。

「サン、一人で大丈夫? 俺今日はデザート作る約束してるから作らなきゃ、サンも食べるよね、お風呂上がりなら冷たいのがいいかな」

「そうだね、何か冷たいの……上がったらアイスとか食べたいなーってちょうど思ってたよ。じゃあ作っておいてくれる? 髪濡らしてないし、一人で平気だよ。一人暮らししてるんだし」

「そういえばそうだったね。じゃあ、後でね」

サンを置いていく罪悪感を少し覚えつつ俺は一人脱衣所に出て服を着、ダイニングへ向かった。しかしダイニングは廊下からも分かるほど静かで、誰も居ない。灯りも点いていない。

「あれ……?」

デザートをリクエストしておきながら寝たのかとセイカ達の寝室に向かってみるも、そこにも誰も居ない。他の彼氏達の寝室も見てみたが、誰も居なかった。いや、犬だけは居た。

「あっ、ごめん。起こしちゃった?」

灯りを点けたせいか犬用ベッドで丸まっていた犬が迷惑そうにわぅん……と鳴いた。謝るとふんっと鼻を鳴らしてベッドの縁に顎を乗せて目を閉じた。

「……ミフユさん達どこに居るか知ってる?」

犬は再び目を開けて頭を持ち上げ、ゆっくりと首を横に振った。

「そっかぁ」

ん……? 今俺、犬と会話したか?

「ごめんね、おやすみ」

灯りを消して寝室を出て、もう一度他の寝室やトイレ、ダイニングを調べるも誰も居ない。庭にも居ない。

「んー……?」

脱衣所に入ってみると着替え中のサンが居た。

「水月?」

「あ、うん。俺。サン、みんなどこ行ったか知らない……よね」

「居ないの?」

「うん……寝室にもダイニングにも居なかった」

「庭とかは? 車はある?」

「庭は見た、居なかったよ。車は見てないけど……十人全員でこんな夜中にどっか行くとかある? メープルちゃん知らないって言ってたし」

「ぷぅ太ちゃんは?」

「ぷぅ太はなんか、ベッド掘ってた。一心不乱に」

うーん、と二人で頭を悩ませる。

「もう一周ちょっと見てくるよ。サンはゆっくりしてて、みんな見つけたらアイス作るから」

「分かった、行ってらっしゃい」

まだ前髪を乾かしていないサンを置いて再び家を見て回る。庭を見て、玄関を見て、駐車場を見て、彼氏達の所在不明に首を傾げる。

「靴あるし車もあるし……」

家の中には居ない。ということは、あと可能性があるとすれば海だ。全員で夜の海に出かけた……いや、リュウとミフユが止めるはずだ。止められなかった? いやいや……悩んでいる暇があったら見に行ってみろ、すぐそこじゃないか。

「懐中電灯……借ります、ミフユさん」

玄関に置いてあった懐中電灯を手に取り、真っ暗な坂を駆け下りて砂浜へ。テントは貼られていないし、波の音以外何も聞こえない。

「…………やっぱり考え過ぎか」

徒労にため息をついたその時、微かな音が耳に届いた。波音にかき消されそうな、聞き覚えのない人の声だ。

「……? だ、誰……?」

懐中電灯を片手に周囲を見回す。砂浜には誰も居ない、海にも──いや、居る。波間に人の手が見えた。手しか見えない。誰だ? いや誰でもいい、溺れているんだ、助けないと。

「……っ、すぐ行く!」

俺は下着以外の服を全て砂浜に脱ぎ捨て、懐中電灯を置いて海に飛び込んだ。
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