冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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穢れた魂

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当初は十二人前にしてもかなり多いように見えたが、具も米も海苔も残らなかった。ふぅっと息を吐き腹を撫でているシュカを見ればその理由は明らかだ。

「お腹いっぱい食べられて幸せです」

「アンタお腹いっぱいとかあったんだ」

皿を片付けながら、軽口を叩くハルの楽しげな声を聞く。

「ありますよそりゃ」

「お腹撫でてるのとか妊娠感あって興奮する」

「キモ……」

「男は妊娠しませんよ、水月」

「…………えっ? あっ、声出てた? き、聞かなかったことにしてくれ、頼む」

ハルにドン引きされてしまった。最終日の約束が反故にされかねない。早急に記憶から消してもらわねば。

「せんぱいそういうフェチあるんすか?」

「……実は女の子の方がいいとか言わないよね? 水月くん」

「な訳ないでしょネザメさん。レイ……当たらずとも遠からずって感じだ。この世の全てのフェチは俺に当てはまる、特別好きという訳ではないんだが男性妊娠もフェチの内というか抜けるネタってだけっていうか」

「首絞めとかしたかったら俺だけに……」

「暴力的なのは除外しての話だセイカぁあーっ!」

「……! не удивляй мою принцессу」

ビシッと指を差して大声で否定するとセイカはビクッと身体を跳ねさせ、アキに何やら文句を言われた。怯えさせようと思ってやったんじゃないのに弟からの心象がどんどん下がっていく。

「首絞めやったら俺もして欲しい。独り占めはアカンでせーか」

「して欲しいんなら譲るよ……他のヤツ嫌がるだろうから引き受けただけで」

「そーなん。ほな水月、首絞めは俺だけで……」

「しねぇんだってば!」

必死に否定していると首にたくましい腕が絡みついた。視界の下端に見えたその腕はペールオレンジではなく、緑がかった黒色で、その黒は波のような模様を描いていた。

「サン」

「水月、片付け終わった? 早く部屋行こっ」

皿洗いはまだまだ途中だ。悪いけれど少し待っていてもらおうと口を開くと、声を出す前にミフユが言った。

「もうほとんど終わっている、サン殿と楽しんで来るがいい」

「……ありがとうございます」

「行こ行こっ」

ミフユを主とした他の彼氏達に深い感謝を述べ、上機嫌なサンと共に彼の寝室へ向かう。

「フユちゃんは優しいねぇ、お皿洗い任されてくれてさ」

「片付け終わってないの気付いてたの?」

「音で分かるよ。ちょっと性格悪かったかな? 嫌に思わないでね、ボク水月と早く二人になりたかったんだよ」

「……いいよ、それくらい。正直に言ってもみんな許してくれそうだし、何より可愛い」

「可愛い……? 水月的にはそうなの? ボクには水月の方が可愛く思えるけどな」

寝室の扉に手をかけたちょうどその時、サンの腕が腰に回った。

「さっきの誤解されちゃって大声上げてる水月とかすごく可愛かった。暴力的なのはナシってね、ふふふ」

「忘れてよぉ……情けなかったんだから」

「やーだ」

たくましい腕にグイッと引き寄せられ、部屋の中に連れ込まれる。これじゃ俺が今から抱かれるみたいだとサンの高身長とガタイの良さを改めて実感した。

(まぁでも身長差カップルは低い方が攻めなのが多数派ですよな? もちろんデカい攻めが受けを覆い隠すように種付けプレスるのもいいのですが……デカい攻めに持ち上げられてガンガン突き上げられるのもいいのですが! でもやっぱ、歳上とデカい人は受けというカプのが大手でしょう)

まぁ、俺とサンの身長差は十センチだけなのだが……と身長差カップルと言うには物足りない身長差に思いを馳せる。

(…………レイどのの元カレ、身長えげつねぇんですよな。レイどのと四十センチくらい差あったんじゃ……? レイどの、ご無事でよかったでそ)

種族が違ったり人間の身長が幅広い作品だったりしてリアルではありえないレベルの身長差があるカプでデカい方が攻めで巨根だと、受けの腹を破る気かお前が受けやれよ! と言いたくなってしまうんだよな。

「水月は暴力的なのは嫌いなんだね。ボクは自分の趣味よく分かんなくてね~、ほらボク初恋が水月じゃん?」

「あ、うん。光栄だよ」

おっと、考えごとに夢中になってしまった。せっかくの二人きりなのだから楽しまなくては。

「で、やったセックスも親父に言われて半ば無理矢理だろ? やる気なくてボーッとしてるボクのを無理矢理しゃぶって勃たせて跨って……あの娘達にとってもひっどい時間だったろうね、悪いことしたよ、トラウマになったかも。演技でももうちょいやる気出してあげればよかった」

「はは……まぁ、屈辱的だったろうけど、仕方ないよ。サンにはそんな意思なかったんだし逆レイプだよそんなの」

「逆……あはははっ! なぁにそれ、そんな言葉あるんだ? ふふ、初めて聞いた、面白い。逆、逆かぁ、なるほどね~」

俺としては使い古したような言葉なのでそんなに新鮮に驚かれると、それに驚いてしまう。

「…………サンはトラウマになってない?」

「ボク? 別に。嫌々だったし暇だったし気まずいし、最悪の時間だったけどオナホよりは刺激変わって飽きなかったし……何人か居たからね、口も手も使ってくれてたし。多分お店の女の子だったから上手かったんだろうしね」

「俺が心に傷を負いそう……彼氏の女性遍歴聞きたくない」

「水月から聞いてきたくせに。遍歴ってほどでもないし」

「はは……そだね、ごめん。お店のって……その、夜の……?」

「お花屋さんの子。穂張組は昔は花屋も薬局もやっててね、でもボスに目ぇつけられて潰されて、弱体化したのに親父は生活水準下げらんなくて借金して回らなくなった首を吊って死んじゃって」

「え……ボスって、あの、レイの元カレのエロいお兄さんだよね」

「そうそう、エロいおにぃ……あの人エロいの?」

「俺が今まで見てきた男の中で一番色気あると思う。すごかった、もう、見ただけで孕む」

じゃあボクはセーフかぁ、なんてサンの呟きを聞いて、話が脱線していることに気付いた。

「脱線しちゃった。えっと、聞きたかったのはさ、なんであの人がそんな、お花屋さんとか……そんなの潰したの? それで、サンのお父さんが……なんて、そんな、そんなの」

「……? 違法な上に悪質で治安を悪化させる一因だったから、かな?」

「え? なんで? お花屋さんって違法になることあんの?」

「…………あっ、そっか水月……えっとね水月、お花は女の子だよ。花屋ってのは女の子売るとこ、薬局は麻薬売るとこ。ヤク漬けにしたりお金貸したりして、どうにもならなくなった女の子を売ってたの。昔の穂張組は」

思い付きもしなかった隠語に衝撃を受けた。

「サン……どうしよう……」

「何が?」

「萎えちゃった……」

「……今の話で? あっははははははっ! あははっ、あははははっ! あはっ、はははっ、はは、は、ふ、ふっ、ふふふふふ……ふふっ」

「そ、そんなに笑う!? いやだって、萎えるよそんなのっ」

「ボクの相手してたのはヤク漬けじゃない子だよ、ヤク打ってると赤ちゃんに影響出るらしいからね」

そんな情報が気になって萎えた訳ではない。アングラ漫画でしか見ないような悪逆非道な行いに怯えてしまったのだ。

「ちなみに男の人だったら保険金かけて殺したりモツ売ったりしてたらしいよ~、生きてても死んでても女の子ほど需要ないからね」

「萎える通り越して吐きそうなんだけど」

「水月は色んなフェチあるんだろ?」

「モツは二次元限定! リアルヒトモツは無理ですぅ!」

サンは楽しげに笑っている。俺を怯えさせるのは面白いのだろうか、俺を怯えさせるための嘘という可能性……ないか?

「ふっふふふ……水月は本当に可愛いねぇ、ピュアなんだね……あぁ、いいなぁ、綺麗だね。高校生なんだなぁ…………水月、水月、ごめんね水月、ボクはそういう商売に手を出してはいないけど、ボクを育てるために使われた金はそういう稼ぎ方をしたものだ。産まれた時から綺麗な魂じゃないんだよ、それでもいいかな?」

「……何言ってるの。サンは関係ないよ、どんなお金で育てられたかなんてそんなの、サンには選びようがないんだし……産まれた時から汚れてる人なんて居ない。サンは綺麗だよ、すっごく綺麗!」

俺を見つめる焦点の合わない瞳が微かに潤む。この世の数多の醜いものも、微かな美しいものも、何も映してこなかった純な瞳に俺の姿が反射して映る。

「大好きだよ、愛してるよ、だからそんな不安そうな顔しないで……」

白く濁った曇りない瞳が閉ざされて、サンの腕が強く俺を抱き締める。耳元で小さく囁かれた「ありがとう」と言う声は、普段の彼からは想像もつかないほど弱々しかった。
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