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仲直りのコツ

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ピンチョスはどれも一口サイズだったからか、あまり好きではない野菜も美味しく食べられた。他のみんなもそうだろう、野菜だけ余るなんてことはなかった。

「多めに作ったのに完食されてしまったな。残ったら夕飯の一品にしようと思っていたのだが」

「美味しかったです」

「うむ、貴様が居るのに残るなどと考えていた自分が甘かった」

食べやすいからついつい食べ過ぎてしまった。多めに作ったのに残らなかったのはシュカの無限の胃袋だけでなく、俺の食い意地が原因でもあるだろう。と腹を撫でながら考える。

「足りなかった者は居ないな?」

みんなが手を合わせ、声を揃えて「ごちそうさま」と言った。ミフユは満足そうに微笑んでいる。

「うむ! おそまつさまでした。では各々好きに遊ぶといい、あまり沖に行くなよ」

保護者って感じだ。

「ミフユ、ミフユ、行こう、ミフユ」

「分かりましたから少し待ってください」

「うん、待つよ…………まだかい?」

ランチボックスや保冷バッグを片付けているミフユにネザメは話しかけ続けている。やはりネザメは手のかかる弟、いや、バカで可愛い犬か?

「……おい鳴雷一年生、今何か無礼なことを考えなかったか?」

「へっ!? いえ、全くそんなことは!」

相変わらずこの一点だけ極端に勘のいい人だ。俺は首をぶんぶんと振り、慌てて海へと走った。怪しまれなかっただろうか。

「…………おーい、アキ~」

声に手を添えて名前を呼ぶと、波の向こうで短い腕が俺を指す。その腕の主を背負い、黒い塊が俺の元へ。

「にーに?」

「ちょっと頼みがあるんだ。ミフユさんと話したい。二、三分ネザメさんを引き離してくれないかな」

セイカがおそらく俺の言葉をそのまま翻訳してくれるのを待つ。相変わらず不思議な響きの言語だ。

《別にいいけどよ、そんなちょっとでいいのか? 早漏だな》

「条件がある。また何か美味いの作ってくれ、デザート系がいい」

「デザートな、分かった。アイス系がいいとか焼き菓子系がいいとかあるか?」

「……鳴雷の、自由……あー、お楽しみで」

「分かった。考えとく。じゃあ頼むぞ、アキ」

《お礼はデザートだってさ》

《マジ? やりぃ、あのボンボンにも媚び売って今後も美味いもんとか楽しい旅行に連れ出してもらわなきゃな~》

アキはセイカを背負ったまま楽しげに海から上がっていった。俺もその後を着いていく。

「もみじ~!」

「わ……あ、秋風くん?」

セイカの太腿に添えていた手をパッと離し、セイカを落としながらネザメに抱きついた。

「あっづぅっ!?」

砂浜は太陽によって熱くなっている。アキはウェットスーツを着込んでいるから熱が足の裏でしっかりと感じられなかったのだろう、熱がりながらブルーシートの上に転がり移ったセイカを見て驚いた顔をしていた。

《スェカーチカ?》

《い、いや、大丈夫……》

《そうか?》

数秒セイカを心配すると、アキはすぐに立ち上がってネザメの方を向いた。

「もみじ、もみじぃ、んー……遊ぶするです?」

「秋風くん……! 僕と遊んでくれるのかい? あぁ……! 君の顔が見られないのは残念だけれど、隠された美というのも素晴らしい。そんな君と海で遊ぶだなんて……あぁ、夢のようだね。ミフユ! 行こう!」

「すいません、ミフユさん、ちょっといいですか?」

すかさず俺はミフユに話しかけた。今来たばかりでネザメ達の会話は聞いていなかったように振る舞う。

「おや、水月くんはミフユにご用事かい? それじゃあミフユは彼の方へ。僕は秋風くんと遊んでいるよ。シャチだけおくれ」

狙い通りネザメはミフユと離れる選択をした。ミフユはシャチ型フロートをネザメに渡しながら怪訝な顔で秋風を見つめた後、セイカを見下ろした。

「……ネザメ様の安全を守れるのか?」

「秋風は俺の面倒完璧に見てるんだ、生命を守ることに関してはこの中で随一だと思うぞ」

「貴様、先程落とされたばかりではないか」

「秋風は怪我しない範囲で雑だ。でもまぁ、紅葉は俺と違って一人で泳げるし歩けるだろ?」

「……まぁ、そうだな。では頼むぞ、秋風」

ミフユがアキの居た方へと視線を移すも、既にアキは居ない。シャチ型フロートを持ったネザメと共に海に入っていた。

「置いてかれた……」

「…………鳴雷一年生、用事とは何だ?」

 深いため息をついたミフユは表情を整えてから俺を見つめた。

「大したことじゃないんです。ネザメさんとミフユさん、すっかり元通りって感じだから……どんなふうに仲直りしたのかなって。今後誰かと喧嘩することもあるだろうし、仲直りのコツがあるならぜひ聞かせて欲しいです」

「そう言われてもな……貴様がネザメ様を運び、自分はネザメ様と共に寝た。そして目覚めて、起きて……ネザメ様は自分に泣いて抱きついたのだ。昨日はすまなかった、大好きだ、見限らないで欲しいと仰って……そも、ミフユの叱り過ぎが原因。ミフユからも謝罪等を伝えたまでだ。だからそうだな、コツは素直に謝り合うことだな」

「……ですよね! ちゃんと非を認めないと……コツなんて言って、俺はダメですね」

「誰かと意見の相違があるのか?」

「あ、いえ……今のところは別に。将来のためです」

そうか、と優しい表情になるミフユを見て、彼の善良性を深く感じた。胸の奥が温かくなる、きゅんとするような鋭いものではなくもっと鈍い、丸に近い温かさだ。

「……でも、今ちょっとアキに避けられてて。あんまり長時間話してくれないし、スキンシップも嫌がるんです」

「ふむ……」

「今ちょっと怪我してて、セックス出来ないから……らしいんですけど、それだけであんなに避けられるなんて」

「性的ではない接触や会話はしてもいいのではないか、ということだな」

俺は深く頷いた。

「そうなんですよ。兄弟だし恋人なのに、セックス出来なかったら軽い会話だけなんて……寂しいじゃないですか」

「うむ。もっと心の繋がりがあるべきだな。しかし鳴雷一年生、秋風はまだ若い、そういった欲が我々よりも旺盛なのではないか?」

アキは俺とは一歳差、ミフユとは二歳差、若いとかそういう話ではないだろう。まぁアキは性欲旺盛ではあるが。

「確かに俺も出来ない状況でベタベタされておちんちん辛くなったことはありますけど」

「う、うむ……」

「でも俺はスキンシップを続けますよ!」

「そうか……だが、鳴雷一年生、秋風はそうではないのだ。心を繋ぎ、ただのスキンシップや会話も楽しみたいという気持ちは分かるし、ミフユも恋人とはそうあるべきだと思うが、性欲は消せんし溜まれば辛い。貴様と秋風は同じ考えを持つ同じ人間という訳ではないのだ。兄ならば、恋人ならば、汲んでやれ」

「……です、ね」

アキの気持ちを尊重し、アキから来てくれるのを待つ。それは俺がとっくに出していた結論ではあったが、ミフユに諭されてようやく形になった気がする。今は待とう、セイカに預けておいてやろう。

「置いてきやがって……なんだよ、ちくしょう……」

おっと、今はセイカも待ちぼうけを食らっている側だったな。
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