上 下
1,015 / 2,014

キス&キス&キス

しおりを挟む
ダイニングに戻り、席に着く。いわゆるお誕生日席だ、全員の顔がよく見える。セイカは椅子ではなくアキの膝の上に居るけれど、幸い俺の方を向いて座っているので緩んだ顔が見られる。

(シュカたまは表情変えてくれませんな)

不良時代が長かったせいで弱みを見せない癖でもついているのか、シュカは会話中以外で表情を変えることがあまりない。そもそも嘲笑以外の笑顔を浮かべることが少ない。美味しいかと尋ねればちゃんと美味しい顔をして感想を言ってくれるのだが。

「鳴雷一年生、オレガノは使っていないのか?」

「オレガノ……?」

「ハナハッカだよみっつん。確かに合いそうだけど~、ま、俺的には別になくてもいいかな~」

「ハナハッカ……」

聞いたことがあるようなないような。

「回復薬っすよね」

「んー……あっ、姿現しでバラけたときに使ってたヤツか」

「それだ! 思い出した。ありがと、レイ、先輩。ハナハッカエキスな、魔法薬、聞いたことあると思ったんだ……えっアレ現実にあるの?」

「香辛料だ。バジルの近くに置いてあったはずだが」

「あぁ……なんか、よく分かんない葉っぱっぽいの色々ありました」

ミフユは頭に手を当てて頭を軽く振った。手厳しい人だ、料理を齧った程度ですらない一般家庭の男子高校生がハーブに詳しい訳ないだろう。

「ハーブ結構揃ってるの? いいね、ボク好きだよハーブ」

「サンさんっ……いや、サンが言うとなんか怖いな」

「やだな~、合法ハーブの話だよ」

「その言い方はもうダメだろ!」

「でも歌見せんぱい、ハナハッカもバジルも合法っすよ」

合法という言葉には一切悪い意味はない。法律に違反していないことなのだから、身体に悪影響のないバジル等はもちろん法で禁止されていないハーブだし、それを合法ハーブと呼称するのに何の問題もないはずなのだが……

「いやだって合法ハーブは脱法ハーブの別名だろ」

……そこなんだよなぁ。

「でもバジルは違法じゃないんすから合法ハーブじゃないすか」

「んんん……言葉の意味の問題じゃなくてな? 隠語とカチ合ってることが問題でな?」

そのうち違法になる脱法のものを合法と最初に呼称したヤツが悪い。

「そもそも合法ハーブとか脱法ハーブって素人が作った粗悪品なことが多いから、ちゃんとした違法ハーブ買った方がマシだと思うよ」

「え、そうなの?」

「捌くルート確立してればわざわざ法の抜け道くぐったヤク作んなくても売れるもん。脱法しなきゃいけないのはルート確保出来てない素人、本職だとしても落ち目だね。健康面で言うならちゃんとした大麻が一番マシかな? 臭いけど」

「へー……」

「水月はどんなのもやっちゃダメだよ」

「やらないよ!」

「大麻は口臭がドブ以下になるからね~……キスしたくなくなりそう」

なんで中毒者の口臭知ってるんだよ怖いよ。

「……サンちゃんがさっき吸ってた葉巻さぁ~……何の葉っぱ?」

「タバコだよ。普通のお店で買ってるから安心して。穂張組は先代で薬局も花屋もやめさせられたからね~、今はボスから回される仕事以外は至って健全な建築業……ゃ、キリトリ屋くらいはやってるんだっけ? 離れて随分経つから分かんないな~」

「葉巻ってやっぱり普通の煙草より高いのか?」

「シガレット? それの相場知らないけど、サイズからして違うし高いんじゃない?」

「さっき吸ってたのっていくらくらいするんだ?」

歌見は葉巻に興味を持っているようだ。成人したばかりだし、そういうのに手を出してみたいと思っているのかな?

「ボクが買ってるのは一万ちょっとのヤツだね」

「一万……一箱? ダース?」

「えぇ? ふふっ、一本だよ」

「高っ……!?」

「たま~にしか吸わないし、そんなもんだよ。随分気にするねぇ、興味あるの?」

「あ……まぁ、吸える歳になったから、少しな」

「一本あげようか」

「一万を……!? いっ、いい、大丈夫、いらない……やめとく。健康に生きるよ」

立ち上がり、忍び寄り、くすくすと笑っているサンの髪を一束持ち上げ、その匂いを嗅ぐ。シャンプーの香りしかしない。煙草の煙が染み付いていないのは喜ぶべきことなのだろうか。

「髪触ってるのはだぁれ?」

「俺だよ、分かってたろ?」

足音を殺したつもりだったけれど、サンは俺が立ち上がった瞬間俺の席に顔を向けていた。音で気付いていたくせにと言いながら、彼の顎に手を添えて唇を重ねる。

「ん…………煙草の匂い、やっぱりしないね」

「そんなの嗅ぎたかったの?」

「嗅ぎたかったって言うか……吸った後だったらするのかなーって気になっただけ、かな」

「ふぅん? 味も匂いも変わんない? よかった、もし水月の嫌な匂いさせちゃったら二度と吸えないもんね」

「……あんまり吸わないで欲しいな」

ただでさえ歳が離れているのだから、寿命を縮ませるような不健康なことはしないで欲しい。そんな添い遂げるつもり満々の言葉を口にするのは怖くて、キスで誤魔化した。

「んっ……ふぅ…………レイは煙草はやらないんだよな?」

「俺は酒だけっすね。くーちゃんの煙草こっそり吸ったことあるんすけど、クッソ不味かったんで合わないなーって分かったんす」

「酒もほどほどにな。先輩は? 吸うんですか?」

「いや、やめとく。結構金かかりそうだし……お前がしょっちゅうキスしてくるからな」

口寂しさが誤魔化される? 俺に煙草の成分を僅かでも移してしまうのが嫌? 俺に口が臭いと思われるのが嫌? 一体どれなんだ。どれでもいい。キスをしよう。

「んっ…………誘ったつもりじゃなかったんだが。ふふ……」

嬉しそうな顔をしてくれた歌見の頬にキスをし、一旦自分の席に戻った。まだリュウもカンナも降りてこない、来る気はないのだろうか。

「そういえばさ~、みっつんしぐしぐ達呼びに行ったんじゃなかったの~?」

俺が扉の方を見ていたからか、ハルがそう尋ねてきた。

「あぁ、一応声はかけたよ。リュウは寝てたけどカンナはぷぅ太ちゃんの世話しててな……来ないかもしれないな」

「そっかぁ。ぷぅ太ちゃん……メープルちゃんの上で寝るとか、メープルちゃんの顎置きにされるとか、そういう激カワ写真撮れないかちょっと期待してたんだけどな~……しぐしぐ超過保護だもんね~」

「まぁ、繊細な動物だからな」

俺もハルと同様の期待はあったが、安全第一だ。飼い主がダメだと判断したのならそれに従う以外の選択肢はない。

「あ、そーだみっつん、人狼のルール分かる~? みっつんもやろっ」

今日の夜更かしは賑やかだ、昨日よりもより深い時間まで起きていることになるかもしれない。
しおりを挟む
感想 450

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...