1,005 / 2,013
前途多難な御曹司様
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幸せな団欒の後、今食事を始めた犬の横を通り抜け、俺はネザメの肩をつついた。
「……ネザメさん、いつ部屋に行けばいいですか?」
「え、あっ……じゃ、じゃあ、今からでいいかい? ぁ……で、でもっ、水月くんは少し後から来てもらってもいいかな」
「分かりました」
「ありがとう……ミフユ、ミフユ! 来て……!」
ネザメはミフユを連れて部屋へ戻った。今のやり取りで彼氏達の多くは俺の今夜の相手は彼だと悟ったようで、呆れたような諦めたようなため息や笑いが聞こえてきた。
「しゅー、アキくん、UNOやろUNO。俺取ってくるね~」
「いいですよ……って返事くらい聞きなさい」
「歌見せんぱいっ、対戦しましょーっす」
「いいぞ、何のゲームだ?」
「ボクちょっと一服してくる」
「ぼく……ぷぅ太、見てくる」
「あ、俺も行ってええ? ぷぅ太くんまた撫でたいわぁ」
ハルとカンナとリュウが寝室へ、レイと歌見がゲーム機を持ち、サンが葉巻やライターを持って庭に出る。
「鳴雷、美味しい軽食は?」
「え?」
「……約束、昼間したじゃん。忘れた?」
「あぁ、忘れてないけど、今じゃないだろ? 晩ご飯食べてすぐだし……また夜中かなって思ってたんだけど」
「紅葉とするんだろ?」
「出来たらいいなぁって感じだな。そんな何時間も部屋にこもったり、そのまま寝たりしないよ。夜中にこっち戻ってチャチャッと作ってやるからさ、今日も夜更かしして待っててくれ」
「んー……眠くならなかったら」
セイカとの約束の軽食は夕飯中に冷蔵庫を見て考えた。工程も頭の中で組み立ててあるから、作るのは手際よく出来るだろう。セイカが起きて待っていてくれたらきっと食べさせてやれるはずだ。
《兄貴と何話してんだ? スェカーチカ。また泣かされるぜ》
《泣かされねぇよ……》
「アキ」
退屈した子供のようにセイカに抱きついたアキの頭を撫でようと手を伸ばすも、パシッと弾かれてしまった。手には全く痛みはないのだが、胸が痛い。
「……ぇ」
《ムラムラするから触んな。つーか顔も見たくねぇぜ。早く腹治んねぇかな……クソ》
「あ、鳴雷……えっと、その……あの、あのな、なんかこう、え、えろい……感じのこと、しないんなら、触んないで欲しい……って、感じで、別に秋風怒ってるとか不機嫌とかじゃないからっ」
そういえば風呂で尻を怪我しているとか話していたっけ? 俺はそんなヘマした覚えはないから、自慰で失敗したのかな。治ったら自慰の必要もないくらい頻繁に抱いてやらなければ。
《秋風、あんな嫌がり方したら鳴雷にお前が鳴雷のこと嫌いになったとか勘違いされちゃうって、気を付けろよお前!》
《うるせぇなぁ禁欲何日目だと思ってんだよ、んな気ぃ回るかよ。どうせスェカーチカが誤解解いてくれるんだろ? 勘違いしたままだとしても、兄貴のことだから夜這いでもしてやりゃ機嫌直すだろうしな》
《そんなにイライラするのか? 何日かしないだけで……? やっぱりお前ら兄弟性欲異常だよ……そんな態度取るくらいイライラするなら、俺……また、口でしたりしてやるから、な?》
《ちんぽいくら抜いてもケツにはあんま関係ねぇんだよ~! 分かるだろ!? ケツイキしたい……でも腹痛ぇ。顔めっちゃ殴られて口ん中ズタズタだけどしょっぱいもん食いたいみたいな感じなんだよ、分かんねぇ?》
《俺口の中ズタズタだった時期味覚死んでたから分かんねぇ。汗かいたから拭きたいけど背中火傷してるから拭いたら痛いって感じか?》
《いや背中火傷したことねぇから分かんねぇ》
アキとセイカは見つめ合って真剣な顔で話していたかと思えば、唐突にへへへへと笑い合った。何なんだ……?
「楽しそう……セイカー? 差し支えなければどんな話して笑ってるのかお兄ちゃんに教えて欲しいなー……」
「昔した怪我の具合が上手く被んなくて話し合わねぇの面白いなって感じの笑い。やっぱり女親と男親じゃ暴力の方向性違うよな」
おいたわしい。
「そ、そうなんだー……」
「鳴雷一年生! ネザメ様の準備が整った、すぐに来い!」
返答に困っているとミフユに呼ばれた。最高のタイミングの助け舟だ。
「すぐ行きます! じゃあなアキ、セイカ、仲良くな」
両手で二人の頭をぽんっと素早く撫でて、ミフユの元へ走る。
《……ムラムラするぅ~!》
《UNOやって紛らわせ。ちょうど霞染戻ってきた》
《数字の1ってちんぽに似てねぇ?》
走らなくてもいいとミフユに軽い注意を受け、彼に先導されてネザメの寝室へ。普段よりも一段階暗い部屋の中、ネザメは寝間着に着替えて俺を待っていた。ベッドに腰掛けていた彼は俺を見て立ち上がり、気まずそうに俯いた。
「水月くんっ……よ、よく……来たね。は……おかしいか。えっと……お待たせ?」
「それは来た俺のセリフじゃないですかね。お待たせしました、ネザメさん」
「あ、いや……そんな」
普段の饒舌さはどこへやら、ネザメは言葉に詰まった挙句黙り込んでしまった。
「……隣、いいですか?」
俯いたまま小さく頷いたネザメの隣に腰を下ろし、彼の腰に腕を回す。
「そんなに緊張しないでください、ネザメさんがしたいことしかしませんから。ね?」
もう片方の手でネザメの顎を支えて顔を上げさせ、無理矢理目を合わせる。亜麻色の髪と同じ、色素の薄い瞳が震え、潤んでいく。
「…………ぉ……が……い……」
「……ネザメさん?」
「顔がっ……いい、よぉ……」
「あ、ありがとうございます……」
「声も、ひぃ……むり……」
ネザメは首の力を抜いてかくんと垂れた。
「早くないですか!? えっ、これ、えっ、ミフユさん?」
「貴様もネザメ様も困ったらミフユミフユと……ネザメ様を寝かせて一旦離れろ」
言われた通りにするとミフユは懐から扇子を取り出してパッと開き、ネザメに膝枕をして彼の顔に風を送り始めた。
「三分ほど待ってくれ」
「は、はぁ……もしかしてこれ繰り返すんですか?」
「……貴様がもっとじわじわしていけばネザメ様も慣れていくかもしれん。いきなり間近で顔を見せるヤツがあるか」
「えぇぇ……」
出会ったばかりの、まだ俺の目を見て饒舌に話せていた頃のネザメが懐かしい。あのミステリアスで歳上の余裕たっぷりの……あの頃に無理にでも手を出しておけばよかったかもしれないな。
「……ネザメさん、いつ部屋に行けばいいですか?」
「え、あっ……じゃ、じゃあ、今からでいいかい? ぁ……で、でもっ、水月くんは少し後から来てもらってもいいかな」
「分かりました」
「ありがとう……ミフユ、ミフユ! 来て……!」
ネザメはミフユを連れて部屋へ戻った。今のやり取りで彼氏達の多くは俺の今夜の相手は彼だと悟ったようで、呆れたような諦めたようなため息や笑いが聞こえてきた。
「しゅー、アキくん、UNOやろUNO。俺取ってくるね~」
「いいですよ……って返事くらい聞きなさい」
「歌見せんぱいっ、対戦しましょーっす」
「いいぞ、何のゲームだ?」
「ボクちょっと一服してくる」
「ぼく……ぷぅ太、見てくる」
「あ、俺も行ってええ? ぷぅ太くんまた撫でたいわぁ」
ハルとカンナとリュウが寝室へ、レイと歌見がゲーム機を持ち、サンが葉巻やライターを持って庭に出る。
「鳴雷、美味しい軽食は?」
「え?」
「……約束、昼間したじゃん。忘れた?」
「あぁ、忘れてないけど、今じゃないだろ? 晩ご飯食べてすぐだし……また夜中かなって思ってたんだけど」
「紅葉とするんだろ?」
「出来たらいいなぁって感じだな。そんな何時間も部屋にこもったり、そのまま寝たりしないよ。夜中にこっち戻ってチャチャッと作ってやるからさ、今日も夜更かしして待っててくれ」
「んー……眠くならなかったら」
セイカとの約束の軽食は夕飯中に冷蔵庫を見て考えた。工程も頭の中で組み立ててあるから、作るのは手際よく出来るだろう。セイカが起きて待っていてくれたらきっと食べさせてやれるはずだ。
《兄貴と何話してんだ? スェカーチカ。また泣かされるぜ》
《泣かされねぇよ……》
「アキ」
退屈した子供のようにセイカに抱きついたアキの頭を撫でようと手を伸ばすも、パシッと弾かれてしまった。手には全く痛みはないのだが、胸が痛い。
「……ぇ」
《ムラムラするから触んな。つーか顔も見たくねぇぜ。早く腹治んねぇかな……クソ》
「あ、鳴雷……えっと、その……あの、あのな、なんかこう、え、えろい……感じのこと、しないんなら、触んないで欲しい……って、感じで、別に秋風怒ってるとか不機嫌とかじゃないからっ」
そういえば風呂で尻を怪我しているとか話していたっけ? 俺はそんなヘマした覚えはないから、自慰で失敗したのかな。治ったら自慰の必要もないくらい頻繁に抱いてやらなければ。
《秋風、あんな嫌がり方したら鳴雷にお前が鳴雷のこと嫌いになったとか勘違いされちゃうって、気を付けろよお前!》
《うるせぇなぁ禁欲何日目だと思ってんだよ、んな気ぃ回るかよ。どうせスェカーチカが誤解解いてくれるんだろ? 勘違いしたままだとしても、兄貴のことだから夜這いでもしてやりゃ機嫌直すだろうしな》
《そんなにイライラするのか? 何日かしないだけで……? やっぱりお前ら兄弟性欲異常だよ……そんな態度取るくらいイライラするなら、俺……また、口でしたりしてやるから、な?》
《ちんぽいくら抜いてもケツにはあんま関係ねぇんだよ~! 分かるだろ!? ケツイキしたい……でも腹痛ぇ。顔めっちゃ殴られて口ん中ズタズタだけどしょっぱいもん食いたいみたいな感じなんだよ、分かんねぇ?》
《俺口の中ズタズタだった時期味覚死んでたから分かんねぇ。汗かいたから拭きたいけど背中火傷してるから拭いたら痛いって感じか?》
《いや背中火傷したことねぇから分かんねぇ》
アキとセイカは見つめ合って真剣な顔で話していたかと思えば、唐突にへへへへと笑い合った。何なんだ……?
「楽しそう……セイカー? 差し支えなければどんな話して笑ってるのかお兄ちゃんに教えて欲しいなー……」
「昔した怪我の具合が上手く被んなくて話し合わねぇの面白いなって感じの笑い。やっぱり女親と男親じゃ暴力の方向性違うよな」
おいたわしい。
「そ、そうなんだー……」
「鳴雷一年生! ネザメ様の準備が整った、すぐに来い!」
返答に困っているとミフユに呼ばれた。最高のタイミングの助け舟だ。
「すぐ行きます! じゃあなアキ、セイカ、仲良くな」
両手で二人の頭をぽんっと素早く撫でて、ミフユの元へ走る。
《……ムラムラするぅ~!》
《UNOやって紛らわせ。ちょうど霞染戻ってきた》
《数字の1ってちんぽに似てねぇ?》
走らなくてもいいとミフユに軽い注意を受け、彼に先導されてネザメの寝室へ。普段よりも一段階暗い部屋の中、ネザメは寝間着に着替えて俺を待っていた。ベッドに腰掛けていた彼は俺を見て立ち上がり、気まずそうに俯いた。
「水月くんっ……よ、よく……来たね。は……おかしいか。えっと……お待たせ?」
「それは来た俺のセリフじゃないですかね。お待たせしました、ネザメさん」
「あ、いや……そんな」
普段の饒舌さはどこへやら、ネザメは言葉に詰まった挙句黙り込んでしまった。
「……隣、いいですか?」
俯いたまま小さく頷いたネザメの隣に腰を下ろし、彼の腰に腕を回す。
「そんなに緊張しないでください、ネザメさんがしたいことしかしませんから。ね?」
もう片方の手でネザメの顎を支えて顔を上げさせ、無理矢理目を合わせる。亜麻色の髪と同じ、色素の薄い瞳が震え、潤んでいく。
「…………ぉ……が……い……」
「……ネザメさん?」
「顔がっ……いい、よぉ……」
「あ、ありがとうございます……」
「声も、ひぃ……むり……」
ネザメは首の力を抜いてかくんと垂れた。
「早くないですか!? えっ、これ、えっ、ミフユさん?」
「貴様もネザメ様も困ったらミフユミフユと……ネザメ様を寝かせて一旦離れろ」
言われた通りにするとミフユは懐から扇子を取り出してパッと開き、ネザメに膝枕をして彼の顔に風を送り始めた。
「三分ほど待ってくれ」
「は、はぁ……もしかしてこれ繰り返すんですか?」
「……貴様がもっとじわじわしていけばネザメ様も慣れていくかもしれん。いきなり間近で顔を見せるヤツがあるか」
「えぇぇ……」
出会ったばかりの、まだ俺の目を見て饒舌に話せていた頃のネザメが懐かしい。あのミステリアスで歳上の余裕たっぷりの……あの頃に無理にでも手を出しておけばよかったかもしれないな。
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