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楽しいお風呂の時間
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太陽が傾き始めた。まだ空の色も変わらないうちに俺は彼氏達に声をかけ、海から上がらせた。もっと泳ぎたいと文句を言う者も少なくなかったが、逆らう者は居なかった。
「荷物持ったなー? 帰るぞ!」
坂道を上っていく彼氏達を見上げ、水着の裾から覗く太腿などに口角を上げる。殿を務める役得に鼻歌を歌いながら帰路に着いた。
「さっさとお風呂入りた~い、みっつん見てきて~」
「はいはい」
今日も先に帰ったカンナが風呂に入っているはずだ。俺は彼氏達を待たせて一人で風呂に向かった。
「……! みぃくん」
カンナは既に脱衣所に居た。火傷跡の乾燥防止のためなのか保湿クリームを頭などに塗っている。
「やぁカンナ、可愛いな」
バスタオルでカンナの胸から下を包むようにして引き寄せ、身体を拭いてやる。
「俯かないで俺を見てくれよ。いつも隠してる可愛い目、こんな機会くらいはじっくり見たいんだ」
照れて俯いてしまったカンナにそう語りかけながら、彼の小さな顎に手を添える。力づくで顔を上げさせたりはせず、あくまでも促す程度に指に力を込めると、カンナはそっと顔を上げた。
「……うん、可愛い。綺麗な目だな」
火傷跡は保湿クリームを塗っていたから舐めない方がいいだろう。ガラス玉のような大きく丸く可愛らしい瞳だけを今は構おう。
(こうして見るとやっぱりカミアたまと双子だなって感じしますな、生き写しでそ)
本来ならば眉の形も髪質も同じで、親しくならなければ見分けなんてつかないような美少年達に成長していたのだろう。
「みぃ、く……もぉ、むり。ぼく……顔、あつい」
あの忌まわしい事件さえなければ、硫酸をかけた異常者さえ居なければ、カンナはみんなと一緒に風呂に入って、カツラが取れる心配もせず激しい遊びにも参加して、何の憂いもなく日々を幸福に過ごせていただろう。
「……みぃ、くん?」
憎い。顔も知らない犯人が。とうの昔に檻の中だろう男が、憎い。カンナと揃いの爛れた皮を剥がしてやりたい。
「みぃくんっ」
「……ん? なんだ? カンナ」
「も、離して……みぃくん、かっこ、よくて……ぼく、照れちゃ……顔、あつい。早く、出て……みんなに、お風呂……ゆずら、なきゃ……だし」
「あぁ……そうだな、ごめんごめん」
つい考え込んでしまった。俺はカンナを離し、バスローブを羽織りタオルを頭に被せて鏡で顔が見えないか確認するカンナを眺めた。
「また、ね。みぃくん」
タオルで頭と顔を隠したカンナはぱたぱたと階段を駆け上がり、寝室へと戻った。俺は彼氏達を連れて風呂に入った。みんなの裸を眺められる最高の時間だ。
「ハルちゃん髪ほどいて~」
「メープル、おすわり」
「とりりーん、そっちシャンプーない~?」
各々の声が浴場に響く。俺へのものではない呼びかけを聞くのもまた乙なものだ。
「ねーねーアキくん、あの後さぁ、みっつんに乗せてもらったんだけどさぁ、すぐ沈んじゃったんだよね~。なんでアキくん人一人乗せたまんまスイスイ泳げんの?」
ハルがセイカを抱っこしているアキの前に腰を下ろした。
《知らね》
「……し、知らないって」
「えぇ~?」
「ぁ……でも、普段から俺、秋風に言われて腕立て伏せの時とかに背中に乗って重りになってるから……慣れてるのかも?」
「なるほど~……? だからアンタあんなブレずに乗ってられたんだ、体幹ヤバ~いってこのめんと話してたんだよね~」
片足立ちもままならないくせに、座った状態での体幹はいいのか……とセイカとハルの会話を盗み聞きしながら思う。じゃあ騎乗位とかも得意になってきているのか? と妄想を膨らませる。
「秋風はウェットスーツだから掴むところあるけど、鳴雷じゃ上何も着てないから持つとこなくて辛くないか?」
「それ以前の問題だったけど~、確かに~」
「ずっと胴体挟んでなきゃいけないから、太腿結構痛くなるぞ。今も結構辛いし……」
《なんだスェカーチカ足痛いのか? マッサージしてやるよ》
セイカがため息をつきながら太腿をさすると、すかさずアキが泡まみれの手で彼の太腿を揉みしだく。
「ひぁっ……!? やめろバカっ!」
《痛ぇ》
突然の接触に驚きながらもセイカはアキの手をぺちんと叩いた。大した痛みはなかっただろうに、アキはぷらぷらと手を揺らしてのアピールを欠かさない。
「ぁ……わ、悪い、話してる最中に」
「や、俺は別にいいけどさ~……なんか、みっつんみを感じる~。俺にはあんまやんないけど、何かあるとしぐしぐのお尻とか触っててさ~……あ、でもしぐしぐ嫌がんないから~、どっちかってーと今のっぽいのはしゅーかな?」
「呼びました?」
「わ、しゅー。何、うわ泡まみれ」
「天正さんと木芽さんにじゃんけんで負けてシャワー使用権が後回しになりまして」
そちらの様子ももちろん俺は見ていた。同時に身体を洗い終えた三人は同時にシャワーに手を伸ばし、じゃんけんをし、シュカは負けていた。負けを煽ったリュウの頭を叩いていた。
「あっそぉ。えっとね、今アキくんがせーかの足揉んで怒られてたから、みっつんみを感じるな~って話してた。しゅーよくみっつんに痴漢されて殴ってるじゃん?」
「あぁ……」
シュカはチラリと俺を見た。
「そういえば以前は集まると私に手マンして欲しがって擦り寄ってきてましたが、今回の旅行ではまだ来ていませんね。水月似のあなたが悶える顔はいつでも見たいので、いつでも来て構いませんよ?」
《腹痛ぇからケツイキしたくねぇんだよな、適当に誤魔化しといてくれ》
「えーっと……ちょっと、尻の調子が悪いから……いいって」
「おや、そうなんですか。通りで……水月レベルの性豪のあなたが水月に一度も抱かれに行かないのはおかしいと思ってたんですよ。切れちゃいましたか?」
「まぁ、そんなとこ。治るまでは……って感じ」
そうだったのか……だから全然俺にじゃれに来ない、むしろ避けているような……なんだ、嫌われた訳じゃなかったんだな。
《適当に誤魔化せって頼んだけどさ、何つったの? 何かめっちゃ納得してるじゃん》
《尻切れたって言ってみた》
《は……!? いやっ……それは、カッコ悪いだろ、他のんなかったのかよ》
《咄嗟に思い付くのなんかこれくらいだ。それともアザ白状した方がよかったか?》
《……いや、戦闘で傷を負ったなんて不名誉知られるくらいなら、ケツで遊び過ぎたって汚名を着た方がまだマシだ》
抱き締めているセイカの肩に顎を乗せ、アキはズーンと暗い雲を背負ったように落ち込んでいる。
「どしたのアキくん、なんか……落ち込んでない?」
「……ムラムラするから話振らないで欲しかったとか……聞かれたから言っちゃったけど尻のこと知られたくなかったとか」
「あ~……ごめんね? ほらしゅー、しゅーも謝る」
「えぇ……? ごめんなさい」
納得がいっていなさそうな表情ながら謝るシュカ、推せる。
「えっちなことなんか頭から吹っ飛ばせるように~、夜はいっぱい遊ぼ~ねっ。俺とゲームしよゲームっ。しゅーもしよ~?」
「眠くなければ」
俺はそのゲーム大会には参加出来ないな、とネザメの様子を見る。ネザメは泡を使って犬の毛を立て、ハリネズミのようにして遊んでいた。
「荷物持ったなー? 帰るぞ!」
坂道を上っていく彼氏達を見上げ、水着の裾から覗く太腿などに口角を上げる。殿を務める役得に鼻歌を歌いながら帰路に着いた。
「さっさとお風呂入りた~い、みっつん見てきて~」
「はいはい」
今日も先に帰ったカンナが風呂に入っているはずだ。俺は彼氏達を待たせて一人で風呂に向かった。
「……! みぃくん」
カンナは既に脱衣所に居た。火傷跡の乾燥防止のためなのか保湿クリームを頭などに塗っている。
「やぁカンナ、可愛いな」
バスタオルでカンナの胸から下を包むようにして引き寄せ、身体を拭いてやる。
「俯かないで俺を見てくれよ。いつも隠してる可愛い目、こんな機会くらいはじっくり見たいんだ」
照れて俯いてしまったカンナにそう語りかけながら、彼の小さな顎に手を添える。力づくで顔を上げさせたりはせず、あくまでも促す程度に指に力を込めると、カンナはそっと顔を上げた。
「……うん、可愛い。綺麗な目だな」
火傷跡は保湿クリームを塗っていたから舐めない方がいいだろう。ガラス玉のような大きく丸く可愛らしい瞳だけを今は構おう。
(こうして見るとやっぱりカミアたまと双子だなって感じしますな、生き写しでそ)
本来ならば眉の形も髪質も同じで、親しくならなければ見分けなんてつかないような美少年達に成長していたのだろう。
「みぃ、く……もぉ、むり。ぼく……顔、あつい」
あの忌まわしい事件さえなければ、硫酸をかけた異常者さえ居なければ、カンナはみんなと一緒に風呂に入って、カツラが取れる心配もせず激しい遊びにも参加して、何の憂いもなく日々を幸福に過ごせていただろう。
「……みぃ、くん?」
憎い。顔も知らない犯人が。とうの昔に檻の中だろう男が、憎い。カンナと揃いの爛れた皮を剥がしてやりたい。
「みぃくんっ」
「……ん? なんだ? カンナ」
「も、離して……みぃくん、かっこ、よくて……ぼく、照れちゃ……顔、あつい。早く、出て……みんなに、お風呂……ゆずら、なきゃ……だし」
「あぁ……そうだな、ごめんごめん」
つい考え込んでしまった。俺はカンナを離し、バスローブを羽織りタオルを頭に被せて鏡で顔が見えないか確認するカンナを眺めた。
「また、ね。みぃくん」
タオルで頭と顔を隠したカンナはぱたぱたと階段を駆け上がり、寝室へと戻った。俺は彼氏達を連れて風呂に入った。みんなの裸を眺められる最高の時間だ。
「ハルちゃん髪ほどいて~」
「メープル、おすわり」
「とりりーん、そっちシャンプーない~?」
各々の声が浴場に響く。俺へのものではない呼びかけを聞くのもまた乙なものだ。
「ねーねーアキくん、あの後さぁ、みっつんに乗せてもらったんだけどさぁ、すぐ沈んじゃったんだよね~。なんでアキくん人一人乗せたまんまスイスイ泳げんの?」
ハルがセイカを抱っこしているアキの前に腰を下ろした。
《知らね》
「……し、知らないって」
「えぇ~?」
「ぁ……でも、普段から俺、秋風に言われて腕立て伏せの時とかに背中に乗って重りになってるから……慣れてるのかも?」
「なるほど~……? だからアンタあんなブレずに乗ってられたんだ、体幹ヤバ~いってこのめんと話してたんだよね~」
片足立ちもままならないくせに、座った状態での体幹はいいのか……とセイカとハルの会話を盗み聞きしながら思う。じゃあ騎乗位とかも得意になってきているのか? と妄想を膨らませる。
「秋風はウェットスーツだから掴むところあるけど、鳴雷じゃ上何も着てないから持つとこなくて辛くないか?」
「それ以前の問題だったけど~、確かに~」
「ずっと胴体挟んでなきゃいけないから、太腿結構痛くなるぞ。今も結構辛いし……」
《なんだスェカーチカ足痛いのか? マッサージしてやるよ》
セイカがため息をつきながら太腿をさすると、すかさずアキが泡まみれの手で彼の太腿を揉みしだく。
「ひぁっ……!? やめろバカっ!」
《痛ぇ》
突然の接触に驚きながらもセイカはアキの手をぺちんと叩いた。大した痛みはなかっただろうに、アキはぷらぷらと手を揺らしてのアピールを欠かさない。
「ぁ……わ、悪い、話してる最中に」
「や、俺は別にいいけどさ~……なんか、みっつんみを感じる~。俺にはあんまやんないけど、何かあるとしぐしぐのお尻とか触っててさ~……あ、でもしぐしぐ嫌がんないから~、どっちかってーと今のっぽいのはしゅーかな?」
「呼びました?」
「わ、しゅー。何、うわ泡まみれ」
「天正さんと木芽さんにじゃんけんで負けてシャワー使用権が後回しになりまして」
そちらの様子ももちろん俺は見ていた。同時に身体を洗い終えた三人は同時にシャワーに手を伸ばし、じゃんけんをし、シュカは負けていた。負けを煽ったリュウの頭を叩いていた。
「あっそぉ。えっとね、今アキくんがせーかの足揉んで怒られてたから、みっつんみを感じるな~って話してた。しゅーよくみっつんに痴漢されて殴ってるじゃん?」
「あぁ……」
シュカはチラリと俺を見た。
「そういえば以前は集まると私に手マンして欲しがって擦り寄ってきてましたが、今回の旅行ではまだ来ていませんね。水月似のあなたが悶える顔はいつでも見たいので、いつでも来て構いませんよ?」
《腹痛ぇからケツイキしたくねぇんだよな、適当に誤魔化しといてくれ》
「えーっと……ちょっと、尻の調子が悪いから……いいって」
「おや、そうなんですか。通りで……水月レベルの性豪のあなたが水月に一度も抱かれに行かないのはおかしいと思ってたんですよ。切れちゃいましたか?」
「まぁ、そんなとこ。治るまでは……って感じ」
そうだったのか……だから全然俺にじゃれに来ない、むしろ避けているような……なんだ、嫌われた訳じゃなかったんだな。
《適当に誤魔化せって頼んだけどさ、何つったの? 何かめっちゃ納得してるじゃん》
《尻切れたって言ってみた》
《は……!? いやっ……それは、カッコ悪いだろ、他のんなかったのかよ》
《咄嗟に思い付くのなんかこれくらいだ。それともアザ白状した方がよかったか?》
《……いや、戦闘で傷を負ったなんて不名誉知られるくらいなら、ケツで遊び過ぎたって汚名を着た方がまだマシだ》
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「どしたのアキくん、なんか……落ち込んでない?」
「……ムラムラするから話振らないで欲しかったとか……聞かれたから言っちゃったけど尻のこと知られたくなかったとか」
「あ~……ごめんね? ほらしゅー、しゅーも謝る」
「えぇ……? ごめんなさい」
納得がいっていなさそうな表情ながら謝るシュカ、推せる。
「えっちなことなんか頭から吹っ飛ばせるように~、夜はいっぱい遊ぼ~ねっ。俺とゲームしよゲームっ。しゅーもしよ~?」
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