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超絶美形に挟まれたら

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俺の顔に見とれて照れて腰砕けになって、くったりとした可愛らしいネザメを抱き締める。微笑みかけたり額や頬にキスをしたり、愛の言葉を囁いたりして、過剰に反応するネザメで遊ぶ。

(ん~、かわゆいゆいですなぁネザメちゃま。わたくしの顔には皆さんもう慣れつつあって、ちょっと変態発言しただけで辛辣な対応されることもある中でのネザメちゃまは効きますわ~)

濡れた髪を撫でながらはむはむと頬を唇で噛み、もう動くことも声を出すこともままならなくなったらしいネザメを愛でていると、背に何かが触れた。

「……っ!? あ、あぁ、アキか。どうした?」

泳いでいたアキが突っ込んできたようだ。

「ぷーる、海、違うするです。目、痛いするです。場所、分かるする、しないです。にーに、ここ居る、分かるする、しないしたです」

プールと違って目を開けられず、波もあって俺や自分の居場所がよく分からず、俺に偶然突っ込んできたということだろうか。

「すぇかーちか、案内、するです。なのにぶつかるした、すぇかーちか、です」

アキに跨っているだけのセイカが周りを見て進行方向をアキに伝えるべきなのに、それを怠ったセイカの責任だと言いたいのだろうか。

「悪い鳴雷、欠伸して目擦ったらめっちゃ痛くてしばらく前見えなかったんだ」

「まぁぶつかってきたのはいいけど……目、大丈夫か? ちょっと赤いぞ。海水は染みるし汚いんだから気を付けろよな」

「大丈夫大丈夫……」

《……? スェカーチカ目赤くね? どったの? 大丈夫?》

《大丈夫》

背を向けていたからかネザメが落ち着きを取り戻し、俺の肩越しにアキを見つけて上機嫌に笑った。

「秋風くん! あぁ、せっかくの君の美しい顔が見られないのは残念だ。地球の全てに恵みを与える、感謝すべき太陽が今だけは憎いよ。けれど黒い衣装を身にまとい外界から切り離されたようにぽつりとシルエットが浮かび上がるのもまた趣がある」

ペラペラと喋りながらアキに寄っていくネザメの腰に腕を回して抱き寄せる。

「どうかその美しい声で僕とお話……わっ、み、水月くんっ? どうしたんだい? あぁ……だ、だめ、ダメだよそんなっ、近くで顔を見せられたら……僕……!」

《──シルエットが浮かび上がるのもまた趣がある……だってよ》

《ほぇー》

「ネザメさんはアキにばっかり構いますよね。ネザメさんの彼氏は俺ですよ? それともアキの方が好きになっちゃいました?」

片腕で簡単に捕まえられるネザメの腰の細さか弱さを味わいつつ、もう片方の手でぷにぷにと頬をつつく。

《長々と褒めてくれてんだからもうちょい愛想良くしろよ》

《長々と褒められたら愛想良くしなきゃいけねぇのか? 初めて聞いたルールだぜ、日本の法律か?》

《……まぁ暗黙の了解ってヤツかもな。褒められたら謙遜しつつありがとうございますって笑うもんだ》

「そっ、そんなことはないよ。僕が愛しているのは水月くんだよ。秋風くんも美しいけれど、美しいからつい関わりたくなってしまうだけで、心底惹かれるのは君だけだから……そんな」

ネザメの恋心が俺だけに向けられているのは分かっている、けれどネザメの反論が聞きたくて拗ねたフリをしてしまう。

《はぁ~? 面倒臭ぇ。なんで長々と話してるの聞いてやった上に気ぃ遣って笑ってやんなきゃいけねぇんだよモミジは上官か何かか?》

《……この旅行出来てんのは紅葉のおかげだぞ。別荘貸してくれてるし、食事代とか電気代とか光熱費諸々全部紅葉持ちだろうし》

《あっ……そうだアイツっ、ボンボンだった! 忘れてた、媚びとかなきゃ!》

「……? 嫉妬、してくれているのかい? 僕が秋風くんに構うのを、嫌がるなんて……水月くん、あぁそんな……水月くん」

ヤキモチ焼きな恋人は可愛いものだ。ネザメもそれは変わらないらしい。上手くいってよかったと内心ニヤニヤ笑っていると、アキがネザメの腕に抱きついた。

「もみじー」

「秋風くんっ!? どっ、どうしたんだい? ぁ、だめ、近っ、あぁ二人共近、無理、もうむりぃ……!」

「ネザメさん! 今は俺との時間ですよね?」

「だ、だって、秋風くんから来てっ、来てくれることなんて、あぁ水月くん僕に嫉妬を……!? ダ、ダメ、幸せ過ぎてっ……ひぃ、息が、出来なっ」

口角を上げて目を見開き、喜んでいるのか怯えているのか分からない複雑な表情のネザメを俺の言葉だけで持ち直させるのは無理だと判断した俺はセイカに協力してもらおうと彼を探した。

「もみじ、もみじ、褒めるするありがとうです。ぼく嬉しいするです、もみじー、好きー、です!」

「……っ」

「セイカぁーっ! アキ回収してくれ! ネザメさんが死ぬ! もう声も出てない!」

「俺に言われても」

セイカはアキの背後からひょこっと顔を出した。ずっとアキの背中に張り付いていたのか……海面下だからよく見えなかったが、そういえばアキの腹に腕が巻き付けてあるな。

「今ネザメさん口説いてんだよ、何とか今晩約束取り付けられたとこなんだ。ネザメさんが俺に抱かれる気になってくれるかもしれないって大事な時にアキに突入されるとめちゃくちゃになるんだよ、ネザメさんアキの顔にも弱いから! 助けてくれ、一旦アキ遠ざけてくれ!」

「こんなマイペース魔人を俺がどう出来るって言うんだよ」

「……助けてくれたら昨日のツマミより美味い軽食作ってやる!」

《秋風、いつまで紅葉に構ってるんだよ。もういいだろ? 俺もっと泳ぐお前の背中乗ってたい、それとも俺よりそいつのがいいのか? 俺にはもう飽きたのか?》

《何だよヤキモチかスェカーチカぁ、可愛いぜぇ。スェカーチカが紅葉に愛想良くしろって言ったくせによぉ。ったく仕方ねぇワガママお姫様だぜ》

パッと何の未練もなくネザメを離したアキはデレデレとした声色でセイカに話しかけて、セイカを背に乗せて泳ぎ去っていった。

「美味いの期待してるからなー」

「あ、あぁ、分かってるー」

左手でアキを掴んで短い右腕を振るセイカに俺も手を振る。

「……水月くん」

「ネザメさん、落ち着きました?」

「あぁ……すまないね、君達兄弟はどうにも美し過ぎて」

ぐったりと憔悴して見えるネザメを美顔でからかって遊ぶ気にはなれず、苦笑いを浮かべた顔を見せないように俯いた彼の背後へゆっくりと回る。

「…………ねぇ、水月くん」

俺の気遣いを分かっているのかいないのか、ネザメは俺に背を向けたまま俺にもたれてきた。華奢な身体を抱き支え、言葉の続きを待つ。

「必死に秋風くんを遠ざけようとしていたね」

「……忘れてください」

限界を迎え呼吸もままならなくなっていたくせにちゃんと状況を理解していたのか。

「そんなに僕を独り占めしたかったんだね。ふふ……素直に抱かれることも出来なければ、まともな会話もあまり出来ていないから、君に好かれている自信が実はあまりなかったんだけれど……今日はとても安心出来たよ。ありがとう水月くん、愛してるよ。幸せだ」

自分を抱き締める俺の腕をさすりながら優しい声色で紡ぐ言葉は俺の胸に染み渡った。

「……俺も、同じ気持ちです」

ネザメは他の彼氏ほど俺個人に興味がないんじゃないかと思ってしまっていた。けれど、ちゃんと恋人として愛されていると分かった。彼と俺は本当に同じ気持ちでいるのだ。
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