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二種類の具材

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今日の昼食はカスクート。 フランスパンにパストラミビーフ、オニオン、トマト、レタス、クレソンなどなどの野菜たっぷり健康的で美味しい食事だ。

「野菜……野菜の味がするっす、野菜ぃ……」

レイはこのカスクートはあまり好みではないようだ。美味しいのになぁ。

「どうした木芽、口に合わないか?」

「なんか、ピリピリする草があるんすけど、それが嫌っす……オニオンも生は嫌いっす。レタスもいっぱいあって青臭いっすぅ」

「クレソンのことか?」

「レイ、そんなに野菜嫌いだったのか? 俺がお前の家に住んでた時とかサラダ何回も出したけど何も言わなかったじゃないか」

放っておいたら野菜を取らないから好きではないのだろうと思ってはいたが、まさか嫌いだったとは。

「せんぱいが作ってくれるサラダ、ツナとかゆで卵とかハムとかクルトンとか入れてくれるから、野菜感薄いんすもん」

「ふむ……他にこのカスクートが口に合わない者は居ないか?」

アキとセイカとカンナ以外の彼氏達はキョロキョロと互いの顔を見合わせる。レイの他に野菜嫌いは居ないようだ。

「え……マジすか」

「おい最年長」

「さっ、最年長はサンさんす! ってか俺の歳の話はしないで欲しいっす! って言うかぁ! みんなそんな野菜平気なんすか……? 最近の子ヤバいっすね」

ハルはサラダしか食べていないこともあった、シュカは食い意地が張っている。

「カンナは大丈夫か?」

今日は俺の隣に座っていないカンナは小さく頷き、ごくんと噛んでいた分を飲んでから「おいしい」と蚊の鳴くような声で教えてくれた。

「リュウは?」

「めっさ美味い」

今日もアキの足に座らされているセイカはゆっくりとではあるが黙々と食べている。彼は多分、嫌いな味でも文句を言わずに食べるタイプだ。アキは肉好きのはずだが、野菜嫌いではないのだろうか。

「アキ、野菜いっぱいなの嫌じゃないか?」

頼まずともセイカが翻訳してアキに尋ねてくれた。

《うめぇ》

「おいしいってさ」

《日本来てから不味いもん食った覚えねぇぜ、やっぱりババアの料理がド下手くそだったんだな。生ゴミ臭のする酸っぱ不味いドロっとしたナニカ……野良犬でももうちょい美味いもん食ってんじゃねぇかと思ったね。ちなみにその後吐いて、なんでお母さんの作ったの吐いちゃうのお母さんのこと嫌いなのって泣かれるのまでがワンセットな》

《スーパーで買った弁当とか惣菜とかパンとか食えてただけ俺マシだったんだな》

《料理やる気はあるクソドジ他責癖ババアと料理やる気のねぇ虐待系ババアか……》

《ホムラにはちゃんと美味しそうな料理作ってたぞ。あと人の母親のことはババアって言うな》

《マジかよクソだな。あぁ悪ぃ、これからはちゃんとクソババアって言うことにするぜ》

なんか話してるな。

「セイカー? アキなんて? なんか長々話してない?」

「……母親の料理が如何に不味かったかをつらつら語ってる」

葉子さん……

「そ、そっか。じゃあいいや」

アキが長々と話している間に他の彼氏達にも聞いたが、やはり駄々を捏ねているのはレイだけだった。

「木芽、口に合わんのならそれはもう食べなくていい。こちらを食べるといい」

ミフユは別のカスクートを取り出した。こちらの具はハムとクリームチーズだけのようだ。

「一つでは足りない者のために別の味も用意してあったのだ。初めからこちらも出して選ばせればよかったな」

「わ……! ありがとうございますっす! ぁ……こっちどうしましょう」

三分の一ほど食べた野菜たっぷりカスクートをレイは気まずそうに見つめる。彼は自分にとって不味いものだからとポイと捨てるような性格はしていない。

「せんぱい食べるっすか?」

「俺一個でいいかなぁ……ハムチーズも気になるけど一個でお腹いっぱいになると思う」

デブは大食いではない、延々と食べ続けられるだけなのだ。って俺はもうデブじゃないんだった。

「シュカ、いらないか?」

「ください」

既に一つ目を食べ終えていたシュカは俺の言葉を待っていたとでも言うようにレイのカスクートを素早く取り、齧り付いた。

「ありがとうございますっすシュカせんぱい! いやぁワガママ言って申し訳ないっすねぇ……改めていただきます。んっ、んん……! めちゃくちゃ美味いっすねチーズ最高っす!」

「不健康だなぁ……晩飯野菜多めに食えよ」

「年積、秋風に二個目……いい?」

「あぁ、もちろん。好きに取るといい」

《二個目取っていいってさ》

アキは笑顔で二つ目のカスクートに手を伸ばした。ハムとクリームチーズほど相性のいい食材も珍しい。余程美味しかったのだろう、アキはキラキラと目を輝かせた。どんなベテラン芸能人の食レポよりも人間の食欲に訴えかける瞳だ。

《うっっま! やべぇスェカーチカこれ食え、食え食え》

アキがはしゃいだ様子でセイカの口に二つ目のカスクートを押し付け始めた。美味しい物は共有したいという至極真っ当な思考だろう、しかしセイカは素直に共有されてはくれない。

《いいよ……一個目まだ食べてるし。それは秋風のだろ》

《一口でいいから食えよ、一個目食えなくなったらお前も食うの手伝ってやるからさ。とにかく二個目の食えってめちゃくちゃ美味いんだから》

さぁ、アキはセイカの強い遠慮を突破することは出来るのかな?

《食えってほら食えって》

《んん……分かった分かった分かったから口に押し付けんな》

力づくの突破だった。セイカが口を開くまで押し付け続けた。無理矢理ハムチーズのカスクートを食べさせられたセイカは渋々といった表情で咀嚼し、途中で一瞬動きを止めて表情を緩めた。

《お、美味い顔した。美味かったろ、美味かったんだろ》

《うるさい……》

セイカは鬱陶しそうに何か話し続けるアキの顔を押す、まるで前足を突っ張る猫だ。押されたアキは拗ねることも怒ることもなく、くすくすと笑ってセイカを抱き締め直す。

「…………なぁレイ、一口くれないか?」

「いいっすよ」

アキ達の戯れが羨ましくて、俺も今日もカンナ辺りを足に座らせればよかったなぁなんて思いつつ、楽しそうな彼らを少しでも再現するためハムチーズのカスクートをねだった。
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