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時間のかかる髪

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レイが怖がるし、リュウが嫌がっている。心霊系の話はここまでにしよう。

「話変わるけどさ、お腹空いたよな」

「空いた~。もういっぱい泳いだもんね~、バレーもしたしぃ……超楽しかった! 改めてだけど~、マジでありがと~ザメさんフユさん!」

「どういたしまして」

にこやかにハルの感謝を受け入れたネザメとミフユに俺も他の彼氏達も礼を言った。

「大勢の友達と旅行したいと現当主様に相談したネザメ様への感謝は忘れるな。ミフユへの感謝など必要ない。さて、ところで……食事はどうする? 腹が減っているならパッと作れる物にするか」

「俺も手伝いますよ」

「ボクも~」

「料理の手間をいくら省こうと量が多いからな、助かる。ミフユは身体を洗い終えたらすぐに出る、水月とサン殿はある程度温まってから来てください。残りの料理が出来ない者共はメープルを洗い、乾かせ」

そう話しながらミフユはウォッシュタオルを置き、シャワーを浴びて泡を洗い流した。

「ではなメープル、続きは他の者に洗ってもらえよ」

犬に向かって手を振り、ミフユは脱衣所へと出ていった。その瞬間ハルが立ち上がる。

「俺がやる! 一回やってみたかったんだよね~」

「犬の洗い方分かるんかいな」

「人間よりずっと繊細なんだぞ、大丈夫か?」

「素人の俺達に任せるくらいなんだからそんな難しくないって。飼い主まだ居るし、ねっザメさん」

風呂に浸かっていたネザメは恥ずかしそうに「メープルを洗ったことはないんだよね」と答えた。俺は騒ぐ彼氏達を尻目にサンの元へ向かい、髪を洗うのを手伝った。

「ミフユさんはちゃんと温まってからとか言ってたけど、夏だし別にいいよね?」

「そうだね、暑いし」

「サンの髪乾かすのには時間かかりそうだなぁ……」

海に長時間浸かっていたので、多く長い髪を普段よりも念入りに洗った。砂や泥も絡んでいた。

「わぁ~毛柔らか~い! すごい、最高!」

「おぉ……温かいな」

「よぉ泡立つわぁ~、楽しいなぁコレ」

「大人しいっすね、可愛いっす」

楽しそうだ。俺も犬を洗ってみたいな、まぁ明日も明後日もチャンスはいくらでもある。今日は洗いたて乾かしたての彼をモフるくらいで我慢しておこう。

「OK、洗ったよ。前髪の方はどう?」

「終わったよ」

泡を流し、軽く搾って脱衣所を出る。バスローブを羽織って足を拭き、髪を拭いているサンを置いて部屋に戻り、着替えを持って戻った。

「サン、着替え持ってきたよ。今日どれ着るつもりか知らないから適当に持ってきたけど、これでいいかな?」

「何でもいいよ」

「着替え終わったら俺髪乾かすの手伝うからね」

「ありがと」

着替えを終えた俺はサンの髪を乾かすのを手伝った、今日はサンもドライヤーを持っている。二台使用だ。

「サン、ドライヤー近過ぎるよ、髪焦げちゃう」

「このくらい? 疲れるんだよね~腕ずっと伸ばして上げてるの……」

サンの髪を乾かしている最中、ハル達が浴場から出てきた。

「あれ、みっつん。フユさん手伝うんじゃないの? まだ行ってないの?」

「サンの髪全然乾かなくて……」

「長い上に毛量もヤバいもんね~。ガンバ!」

足に湿った毛の塊が触れる。驚いて見下げれば、犬が俺を見上げていた。

「メープルちゃんこっちおいで」

犬は俺の足元でくるんと回り、バスタオルを広げた歌見の腕の中へ飛び込んだ。

「よしよし……」

「兄さん先バスローブでも着た方がええんちゃいます?」

「おぅ、ありがとな」

犬を拭いている歌見を尻目にサンの髪をかき分けて後頭部に触れる。

「……まだ湿ってる」

「もうよくない? ボクもう立ってんのやだ……」

「いつも何時間も立ちっぱで絵描いてるくせに」

「それとこれとは違うんだよね~」

つくづく長髪に向いていない性格をしているな、とため息をつく。

「よし、もう拭くのはこのくらいでいいだろ」

「犬用乾燥機あるんだよね? 入ってるだけでいいやつ。これだっけ」

「あ、ハル、その中には……」

「何~?」

乾燥機を開けたハルは首を傾げている。俺はドライヤーをサンに渡し、中を覗いたが、カンナのカツラは既になかった。

「……あれ? もう取ったのか。や、何でもない。悪い」

「何なの~? まぁいいや、メープルちゃんおいで~」

犬は素直に乾燥機の中へと入り、ハルがスイッチを入れると静かにブォオ……と音が鳴り始めた。

「ドライヤーよりだいぶ静かだね、話してりゃ聞こえないレベル~」

「動物はデカい音苦手な子が多いからな。風もそんなに熱くないんじゃないか?」

「え~羨まし。人間用も作って欲し~」

「肌すごい勢いで乾燥しそうじゃないっすか?」

「じゃあいらない……」

ようやくサンの髪が乾いた。冷風を浴びせながらブラシを通し、ツヤツヤサラサラになったので彼氏達に手を振って脱衣所を出た。

「やっとコンセント空いた~」

「自分髪長うて時間かかんねんから後にせぇや」

「アンタら髪短くてあんま水飛ばないんだから部屋で乾かせば~?」

そんな会話を背にダイニングへ。キッチンにはミフユとカンナが居た。ちゃんとカツラを被ったいつもの可愛いメカクレヘアのカンナだ。

「ミフユさん、すいません遅れました」

「ボクの髪が手こずってさ~。遅くなってごめんね」

「まだやることありますか?」

「……ないな。時雨一年生が手伝ってくれた。なかなか筋がいいぞ」

「ぁ、りが、と……ござ……ますっ」

手伝うと宣言しておいて間に合わないなんてカッコ悪い、明日はこんな醜態は晒さない。しかしそのためにどうするべきかはまだ思い付いていない。

「鳴雷一年生、ボーッとしてないで皿を並べるのを手伝ってくれ」

「あ、はい!」

ひとまずは今、ミフユよりもカンナよりも多くの皿を運ぶのだ。
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