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美味しいおにぎり
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おにぎりというのはシンプルでありながらとても難しい料理である。他の料理の味の決め手は調味料の量や加熱時間、しかしおにぎりの出来を決めるのは力加減。レシピなどの文章では伝わらず、隣に立って教わってもその通りに作ることはまず不可能、美味しく作ろうとすればかなりの練習とセンスが必要となる。
「んんん……! めっちゃくちゃ美味しい、美味しいよサン!」
口に入れた米がほどける心地よさ、おにぎりの厚み、塩加減、全てが理想に近い。
「そう? よかった」
「流石サンだよ、こんなに美味しいおにぎり初めて食べたかも」
「言い過ぎだよ、おにぎりなんか誰が作ってもこんなもんだろ?」
「……!? こ、こんなに美味しいおにぎりを作っておきながら、おにぎりを舐めてる!?」
「食べてる」
俺はおにぎりの作成難易度を熱弁した、サンにはあまり伝わらなかったがミフユやレイはうんうんと頷いていた。体液を練り込もうとするようなストーカー気質変態野郎は料理上手ヅラしないで欲しい。
「握り過ぎれば硬く、米の量によっては食べにくい厚みに……そもそも初心者は三角にするどころか米を固めることすら難しい! それをサン! サンのおにぎりはこんなに綺麗な三角で、形が全部同じで具がこぼれてる物なんて一つもない。完璧だよ、すごすぎるよ」
「大袈裟だなぁ、水月が不器用なだけじゃないの?」
「サンが器用なんだよ」
「ふーん……? まぁ目明の君達よりはその辺上手い自信があるよ」
酷い言いようだ、まぁこんなおにぎりを苦労なく作れるサンからすれば俺は目垢みたいなもんか……
「カツサンドもめっちゃ美味いで」
「だな。こんな分厚いカツ食べたの初めてかもしれん」
たまごサンドを食べていたミフユの表情が目に見えて明るくなった。可愛い人だ。
「ミフユが作ったんだから、美味しいのは当然だよ。秋風くんはどうだい? 美味しいかな?」
「……! おいしい、するです」
ネザメはゆったりと優雅に話す。聞き取れたのだろう、アキは嬉しそうに日本語で返事をした。
「狭雲、今から話すことは翻訳しなくて構わない」
「え、ぁ、うん、分かった」
「鳴雷一年生、秋風の誕生日当日の食事についてだが……どうする? チキンやステーキなどの用意も、彼の故郷の料理を作る用意もあるが……どちらの方が喜ぶと思う?」
「生まれ故郷を離れて早数ヶ月……後者の方がいいと僕は思うね」
「しかし作り慣れていない料理を自分が再現出来るか不安なのです、少し違うとなれば期待した分盛り下がるのではと」
「うーん……セイカ! アキにご馳走と言えば? とか聞いてみてくれ、誕生日とか関係なさそうな感じで」
「責任重大だな……」
セイカは嫌そうな顔をしつつもアキに何やら聞いてくれた。
「デカい肉、だってさ」
「少年漫画の主人公の飯の趣味じゃん」
「む、では故郷の料理でなくてもいいのか。大きな肉……鳥の丸焼き、Tボーンステーキ、うぅむ……」
「用意があるってことは、誕生日にどれ食べるにしろそれ全部旅行中に食うってことだよな?」
「む? うむ、その予定です、歌見殿」
「ワォ……!」
欧米風味な驚き方をしている歌見の口角の上がり方から、普段は食べられない豪華な食事を取れることへの喜びが察せる。分かりやすくて可愛い人だ。
「考えておこう。狭雲、生魚は平気かと聞いてくれ。刺身やカルパッチョなども出したいと考えている」
「海外では生食の文化はないことが多いよね」
「前生魚食べてた……よな、鳴雷」
「うん。ミフユさん、アキは基本何でも物怖じせずに食べますよ。文化の違いとか気にしなくていいと思います」
「そっすね、真横でズルズルラーメン啜っても文句言わなかったっすし」
「……母親が料理下手だったらしい。これまで何食っても不味かったから、今は何食っても美味いんだってさ」
葉子さん……
「そうか、分かった。感謝するぞ狭雲」
「用事は終わりかい? ミフユ。なら次は僕の番だね、えぇと……秋風くんは、僕のことをどう思っているのかな?」
《秋風、紅葉のことどう思ってる?》
《鈍臭ぇボンボン》
アキの短い返事を聞いたセイカは眉をひそめた。顎に手を当てて数秒考え込んだ後、口を開いた。
「どっ、ど……」
「……ど?」
「動作が、ゆっくりで、なんか、余裕があるというか大人っぽいというか……いや、えっと、優雅? そう優雅! です」
「そうなのかい? あぁ……嬉しいよ、翻訳ありがとうね狭雲くん、日本語に言い替えるのが難しい表現だったのかな? お疲れ様。君のおかげで秋風くんの本当の言葉を聞けて、とても幸せだよ」
頬を桃色に染めて喜んでいるネザメに対し、セイカは顔面蒼白だ。
《スェカーチカ? 顔色悪ぃぜ、肉食え。カツサンドかローストポーク。ツナマヨも……まぁ、肉だわな。魚の肉と、将来的には肉になるもんの加工品だしよ。鰹節って魚乾かして削ったヤツなんだっけ? ならこれも肉だな》
セイカの異常事態に気付いたのか、アキがサンドイッチをセイカの口に押し込んだり、おにぎりを持たせたりしている。
(ここはアキきゅんに任せて大丈夫でしょう)
たまごサンドを齧り、足の上のカンナの顔を覗き込む。おにぎりを持つ両手を、はむっと噛み付く唇の尖りを、もぐもぐと動く頬を、楽しむ。
「……?」
俺の視線に気付いたカンナはおにぎりをもう一口齧り、もきゅもきゅと口を動かしながら俺を見上げて首を傾げた。
「ンンッ……! ガワイイ……」
カンナが可愛くて食べ物が喉を通らない、心臓がバクバク騒ぎ出した。これ以上カンナを見るのは危険だと視線を逸らす。
「鮭が切り身じゃなくてフレークなの俺好みでいいっす」
俺の視線に反応してレイが今食べているおにぎりの感想を言ってくれた。その口元には米粒がついている。
「きゃわわ……!」
「せんぱい?」
「……ついてるぞ」
「へっ? あ、ありがとうございますっす。恥ずかしいっす……」
すぐにカッコつけてレイの頬についた米粒を取り、食べる。はしたないところを見せたとでも思ったのか、照れというこれまた可愛らしい表情に俺はトドメを刺された。
「んんん……! めっちゃくちゃ美味しい、美味しいよサン!」
口に入れた米がほどける心地よさ、おにぎりの厚み、塩加減、全てが理想に近い。
「そう? よかった」
「流石サンだよ、こんなに美味しいおにぎり初めて食べたかも」
「言い過ぎだよ、おにぎりなんか誰が作ってもこんなもんだろ?」
「……!? こ、こんなに美味しいおにぎりを作っておきながら、おにぎりを舐めてる!?」
「食べてる」
俺はおにぎりの作成難易度を熱弁した、サンにはあまり伝わらなかったがミフユやレイはうんうんと頷いていた。体液を練り込もうとするようなストーカー気質変態野郎は料理上手ヅラしないで欲しい。
「握り過ぎれば硬く、米の量によっては食べにくい厚みに……そもそも初心者は三角にするどころか米を固めることすら難しい! それをサン! サンのおにぎりはこんなに綺麗な三角で、形が全部同じで具がこぼれてる物なんて一つもない。完璧だよ、すごすぎるよ」
「大袈裟だなぁ、水月が不器用なだけじゃないの?」
「サンが器用なんだよ」
「ふーん……? まぁ目明の君達よりはその辺上手い自信があるよ」
酷い言いようだ、まぁこんなおにぎりを苦労なく作れるサンからすれば俺は目垢みたいなもんか……
「カツサンドもめっちゃ美味いで」
「だな。こんな分厚いカツ食べたの初めてかもしれん」
たまごサンドを食べていたミフユの表情が目に見えて明るくなった。可愛い人だ。
「ミフユが作ったんだから、美味しいのは当然だよ。秋風くんはどうだい? 美味しいかな?」
「……! おいしい、するです」
ネザメはゆったりと優雅に話す。聞き取れたのだろう、アキは嬉しそうに日本語で返事をした。
「狭雲、今から話すことは翻訳しなくて構わない」
「え、ぁ、うん、分かった」
「鳴雷一年生、秋風の誕生日当日の食事についてだが……どうする? チキンやステーキなどの用意も、彼の故郷の料理を作る用意もあるが……どちらの方が喜ぶと思う?」
「生まれ故郷を離れて早数ヶ月……後者の方がいいと僕は思うね」
「しかし作り慣れていない料理を自分が再現出来るか不安なのです、少し違うとなれば期待した分盛り下がるのではと」
「うーん……セイカ! アキにご馳走と言えば? とか聞いてみてくれ、誕生日とか関係なさそうな感じで」
「責任重大だな……」
セイカは嫌そうな顔をしつつもアキに何やら聞いてくれた。
「デカい肉、だってさ」
「少年漫画の主人公の飯の趣味じゃん」
「む、では故郷の料理でなくてもいいのか。大きな肉……鳥の丸焼き、Tボーンステーキ、うぅむ……」
「用意があるってことは、誕生日にどれ食べるにしろそれ全部旅行中に食うってことだよな?」
「む? うむ、その予定です、歌見殿」
「ワォ……!」
欧米風味な驚き方をしている歌見の口角の上がり方から、普段は食べられない豪華な食事を取れることへの喜びが察せる。分かりやすくて可愛い人だ。
「考えておこう。狭雲、生魚は平気かと聞いてくれ。刺身やカルパッチョなども出したいと考えている」
「海外では生食の文化はないことが多いよね」
「前生魚食べてた……よな、鳴雷」
「うん。ミフユさん、アキは基本何でも物怖じせずに食べますよ。文化の違いとか気にしなくていいと思います」
「そっすね、真横でズルズルラーメン啜っても文句言わなかったっすし」
「……母親が料理下手だったらしい。これまで何食っても不味かったから、今は何食っても美味いんだってさ」
葉子さん……
「そうか、分かった。感謝するぞ狭雲」
「用事は終わりかい? ミフユ。なら次は僕の番だね、えぇと……秋風くんは、僕のことをどう思っているのかな?」
《秋風、紅葉のことどう思ってる?》
《鈍臭ぇボンボン》
アキの短い返事を聞いたセイカは眉をひそめた。顎に手を当てて数秒考え込んだ後、口を開いた。
「どっ、ど……」
「……ど?」
「動作が、ゆっくりで、なんか、余裕があるというか大人っぽいというか……いや、えっと、優雅? そう優雅! です」
「そうなのかい? あぁ……嬉しいよ、翻訳ありがとうね狭雲くん、日本語に言い替えるのが難しい表現だったのかな? お疲れ様。君のおかげで秋風くんの本当の言葉を聞けて、とても幸せだよ」
頬を桃色に染めて喜んでいるネザメに対し、セイカは顔面蒼白だ。
《スェカーチカ? 顔色悪ぃぜ、肉食え。カツサンドかローストポーク。ツナマヨも……まぁ、肉だわな。魚の肉と、将来的には肉になるもんの加工品だしよ。鰹節って魚乾かして削ったヤツなんだっけ? ならこれも肉だな》
セイカの異常事態に気付いたのか、アキがサンドイッチをセイカの口に押し込んだり、おにぎりを持たせたりしている。
(ここはアキきゅんに任せて大丈夫でしょう)
たまごサンドを齧り、足の上のカンナの顔を覗き込む。おにぎりを持つ両手を、はむっと噛み付く唇の尖りを、もぐもぐと動く頬を、楽しむ。
「……?」
俺の視線に気付いたカンナはおにぎりをもう一口齧り、もきゅもきゅと口を動かしながら俺を見上げて首を傾げた。
「ンンッ……! ガワイイ……」
カンナが可愛くて食べ物が喉を通らない、心臓がバクバク騒ぎ出した。これ以上カンナを見るのは危険だと視線を逸らす。
「鮭が切り身じゃなくてフレークなの俺好みでいいっす」
俺の視線に反応してレイが今食べているおにぎりの感想を言ってくれた。その口元には米粒がついている。
「きゃわわ……!」
「せんぱい?」
「……ついてるぞ」
「へっ? あ、ありがとうございますっす。恥ずかしいっす……」
すぐにカッコつけてレイの頬についた米粒を取り、食べる。はしたないところを見せたとでも思ったのか、照れというこれまた可愛らしい表情に俺はトドメを刺された。
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