986 / 1,971
美味しいおにぎり
しおりを挟む
おにぎりというのはシンプルでありながらとても難しい料理である。他の料理の味の決め手は調味料の量や加熱時間、しかしおにぎりの出来を決めるのは力加減。レシピなどの文章では伝わらず、隣に立って教わってもその通りに作ることはまず不可能、美味しく作ろうとすればかなりの練習とセンスが必要となる。
「んんん……! めっちゃくちゃ美味しい、美味しいよサン!」
口に入れた米がほどける心地よさ、おにぎりの厚み、塩加減、全てが理想に近い。
「そう? よかった」
「流石サンだよ、こんなに美味しいおにぎり初めて食べたかも」
「言い過ぎだよ、おにぎりなんか誰が作ってもこんなもんだろ?」
「……!? こ、こんなに美味しいおにぎりを作っておきながら、おにぎりを舐めてる!?」
「食べてる」
俺はおにぎりの作成難易度を熱弁した、サンにはあまり伝わらなかったがミフユやレイはうんうんと頷いていた。体液を練り込もうとするようなストーカー気質変態野郎は料理上手ヅラしないで欲しい。
「握り過ぎれば硬く、米の量によっては食べにくい厚みに……そもそも初心者は三角にするどころか米を固めることすら難しい! それをサン! サンのおにぎりはこんなに綺麗な三角で、形が全部同じで具がこぼれてる物なんて一つもない。完璧だよ、すごすぎるよ」
「大袈裟だなぁ、水月が不器用なだけじゃないの?」
「サンが器用なんだよ」
「ふーん……? まぁ目明の君達よりはその辺上手い自信があるよ」
酷い言いようだ、まぁこんなおにぎりを苦労なく作れるサンからすれば俺は目垢みたいなもんか……
「カツサンドもめっちゃ美味いで」
「だな。こんな分厚いカツ食べたの初めてかもしれん」
たまごサンドを食べていたミフユの表情が目に見えて明るくなった。可愛い人だ。
「ミフユが作ったんだから、美味しいのは当然だよ。秋風くんはどうだい? 美味しいかな?」
「……! おいしい、するです」
ネザメはゆったりと優雅に話す。聞き取れたのだろう、アキは嬉しそうに日本語で返事をした。
「狭雲、今から話すことは翻訳しなくて構わない」
「え、ぁ、うん、分かった」
「鳴雷一年生、秋風の誕生日当日の食事についてだが……どうする? チキンやステーキなどの用意も、彼の故郷の料理を作る用意もあるが……どちらの方が喜ぶと思う?」
「生まれ故郷を離れて早数ヶ月……後者の方がいいと僕は思うね」
「しかし作り慣れていない料理を自分が再現出来るか不安なのです、少し違うとなれば期待した分盛り下がるのではと」
「うーん……セイカ! アキにご馳走と言えば? とか聞いてみてくれ、誕生日とか関係なさそうな感じで」
「責任重大だな……」
セイカは嫌そうな顔をしつつもアキに何やら聞いてくれた。
「デカい肉、だってさ」
「少年漫画の主人公の飯の趣味じゃん」
「む、では故郷の料理でなくてもいいのか。大きな肉……鳥の丸焼き、Tボーンステーキ、うぅむ……」
「用意があるってことは、誕生日にどれ食べるにしろそれ全部旅行中に食うってことだよな?」
「む? うむ、その予定です、歌見殿」
「ワォ……!」
欧米風味な驚き方をしている歌見の口角の上がり方から、普段は食べられない豪華な食事を取れることへの喜びが察せる。分かりやすくて可愛い人だ。
「考えておこう。狭雲、生魚は平気かと聞いてくれ。刺身やカルパッチョなども出したいと考えている」
「海外では生食の文化はないことが多いよね」
「前生魚食べてた……よな、鳴雷」
「うん。ミフユさん、アキは基本何でも物怖じせずに食べますよ。文化の違いとか気にしなくていいと思います」
「そっすね、真横でズルズルラーメン啜っても文句言わなかったっすし」
「……母親が料理下手だったらしい。これまで何食っても不味かったから、今は何食っても美味いんだってさ」
葉子さん……
「そうか、分かった。感謝するぞ狭雲」
「用事は終わりかい? ミフユ。なら次は僕の番だね、えぇと……秋風くんは、僕のことをどう思っているのかな?」
《秋風、紅葉のことどう思ってる?》
《鈍臭ぇボンボン》
アキの短い返事を聞いたセイカは眉をひそめた。顎に手を当てて数秒考え込んだ後、口を開いた。
「どっ、ど……」
「……ど?」
「動作が、ゆっくりで、なんか、余裕があるというか大人っぽいというか……いや、えっと、優雅? そう優雅! です」
「そうなのかい? あぁ……嬉しいよ、翻訳ありがとうね狭雲くん、日本語に言い替えるのが難しい表現だったのかな? お疲れ様。君のおかげで秋風くんの本当の言葉を聞けて、とても幸せだよ」
頬を桃色に染めて喜んでいるネザメに対し、セイカは顔面蒼白だ。
《スェカーチカ? 顔色悪ぃぜ、肉食え。カツサンドかローストポーク。ツナマヨも……まぁ、肉だわな。魚の肉と、将来的には肉になるもんの加工品だしよ。鰹節って魚乾かして削ったヤツなんだっけ? ならこれも肉だな》
セイカの異常事態に気付いたのか、アキがサンドイッチをセイカの口に押し込んだり、おにぎりを持たせたりしている。
(ここはアキきゅんに任せて大丈夫でしょう)
たまごサンドを齧り、足の上のカンナの顔を覗き込む。おにぎりを持つ両手を、はむっと噛み付く唇の尖りを、もぐもぐと動く頬を、楽しむ。
「……?」
俺の視線に気付いたカンナはおにぎりをもう一口齧り、もきゅもきゅと口を動かしながら俺を見上げて首を傾げた。
「ンンッ……! ガワイイ……」
カンナが可愛くて食べ物が喉を通らない、心臓がバクバク騒ぎ出した。これ以上カンナを見るのは危険だと視線を逸らす。
「鮭が切り身じゃなくてフレークなの俺好みでいいっす」
俺の視線に反応してレイが今食べているおにぎりの感想を言ってくれた。その口元には米粒がついている。
「きゃわわ……!」
「せんぱい?」
「……ついてるぞ」
「へっ? あ、ありがとうございますっす。恥ずかしいっす……」
すぐにカッコつけてレイの頬についた米粒を取り、食べる。はしたないところを見せたとでも思ったのか、照れというこれまた可愛らしい表情に俺はトドメを刺された。
「んんん……! めっちゃくちゃ美味しい、美味しいよサン!」
口に入れた米がほどける心地よさ、おにぎりの厚み、塩加減、全てが理想に近い。
「そう? よかった」
「流石サンだよ、こんなに美味しいおにぎり初めて食べたかも」
「言い過ぎだよ、おにぎりなんか誰が作ってもこんなもんだろ?」
「……!? こ、こんなに美味しいおにぎりを作っておきながら、おにぎりを舐めてる!?」
「食べてる」
俺はおにぎりの作成難易度を熱弁した、サンにはあまり伝わらなかったがミフユやレイはうんうんと頷いていた。体液を練り込もうとするようなストーカー気質変態野郎は料理上手ヅラしないで欲しい。
「握り過ぎれば硬く、米の量によっては食べにくい厚みに……そもそも初心者は三角にするどころか米を固めることすら難しい! それをサン! サンのおにぎりはこんなに綺麗な三角で、形が全部同じで具がこぼれてる物なんて一つもない。完璧だよ、すごすぎるよ」
「大袈裟だなぁ、水月が不器用なだけじゃないの?」
「サンが器用なんだよ」
「ふーん……? まぁ目明の君達よりはその辺上手い自信があるよ」
酷い言いようだ、まぁこんなおにぎりを苦労なく作れるサンからすれば俺は目垢みたいなもんか……
「カツサンドもめっちゃ美味いで」
「だな。こんな分厚いカツ食べたの初めてかもしれん」
たまごサンドを食べていたミフユの表情が目に見えて明るくなった。可愛い人だ。
「ミフユが作ったんだから、美味しいのは当然だよ。秋風くんはどうだい? 美味しいかな?」
「……! おいしい、するです」
ネザメはゆったりと優雅に話す。聞き取れたのだろう、アキは嬉しそうに日本語で返事をした。
「狭雲、今から話すことは翻訳しなくて構わない」
「え、ぁ、うん、分かった」
「鳴雷一年生、秋風の誕生日当日の食事についてだが……どうする? チキンやステーキなどの用意も、彼の故郷の料理を作る用意もあるが……どちらの方が喜ぶと思う?」
「生まれ故郷を離れて早数ヶ月……後者の方がいいと僕は思うね」
「しかし作り慣れていない料理を自分が再現出来るか不安なのです、少し違うとなれば期待した分盛り下がるのではと」
「うーん……セイカ! アキにご馳走と言えば? とか聞いてみてくれ、誕生日とか関係なさそうな感じで」
「責任重大だな……」
セイカは嫌そうな顔をしつつもアキに何やら聞いてくれた。
「デカい肉、だってさ」
「少年漫画の主人公の飯の趣味じゃん」
「む、では故郷の料理でなくてもいいのか。大きな肉……鳥の丸焼き、Tボーンステーキ、うぅむ……」
「用意があるってことは、誕生日にどれ食べるにしろそれ全部旅行中に食うってことだよな?」
「む? うむ、その予定です、歌見殿」
「ワォ……!」
欧米風味な驚き方をしている歌見の口角の上がり方から、普段は食べられない豪華な食事を取れることへの喜びが察せる。分かりやすくて可愛い人だ。
「考えておこう。狭雲、生魚は平気かと聞いてくれ。刺身やカルパッチョなども出したいと考えている」
「海外では生食の文化はないことが多いよね」
「前生魚食べてた……よな、鳴雷」
「うん。ミフユさん、アキは基本何でも物怖じせずに食べますよ。文化の違いとか気にしなくていいと思います」
「そっすね、真横でズルズルラーメン啜っても文句言わなかったっすし」
「……母親が料理下手だったらしい。これまで何食っても不味かったから、今は何食っても美味いんだってさ」
葉子さん……
「そうか、分かった。感謝するぞ狭雲」
「用事は終わりかい? ミフユ。なら次は僕の番だね、えぇと……秋風くんは、僕のことをどう思っているのかな?」
《秋風、紅葉のことどう思ってる?》
《鈍臭ぇボンボン》
アキの短い返事を聞いたセイカは眉をひそめた。顎に手を当てて数秒考え込んだ後、口を開いた。
「どっ、ど……」
「……ど?」
「動作が、ゆっくりで、なんか、余裕があるというか大人っぽいというか……いや、えっと、優雅? そう優雅! です」
「そうなのかい? あぁ……嬉しいよ、翻訳ありがとうね狭雲くん、日本語に言い替えるのが難しい表現だったのかな? お疲れ様。君のおかげで秋風くんの本当の言葉を聞けて、とても幸せだよ」
頬を桃色に染めて喜んでいるネザメに対し、セイカは顔面蒼白だ。
《スェカーチカ? 顔色悪ぃぜ、肉食え。カツサンドかローストポーク。ツナマヨも……まぁ、肉だわな。魚の肉と、将来的には肉になるもんの加工品だしよ。鰹節って魚乾かして削ったヤツなんだっけ? ならこれも肉だな》
セイカの異常事態に気付いたのか、アキがサンドイッチをセイカの口に押し込んだり、おにぎりを持たせたりしている。
(ここはアキきゅんに任せて大丈夫でしょう)
たまごサンドを齧り、足の上のカンナの顔を覗き込む。おにぎりを持つ両手を、はむっと噛み付く唇の尖りを、もぐもぐと動く頬を、楽しむ。
「……?」
俺の視線に気付いたカンナはおにぎりをもう一口齧り、もきゅもきゅと口を動かしながら俺を見上げて首を傾げた。
「ンンッ……! ガワイイ……」
カンナが可愛くて食べ物が喉を通らない、心臓がバクバク騒ぎ出した。これ以上カンナを見るのは危険だと視線を逸らす。
「鮭が切り身じゃなくてフレークなの俺好みでいいっす」
俺の視線に反応してレイが今食べているおにぎりの感想を言ってくれた。その口元には米粒がついている。
「きゃわわ……!」
「せんぱい?」
「……ついてるぞ」
「へっ? あ、ありがとうございますっす。恥ずかしいっす……」
すぐにカッコつけてレイの頬についた米粒を取り、食べる。はしたないところを見せたとでも思ったのか、照れというこれまた可愛らしい表情に俺はトドメを刺された。
0
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる