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最下位決定!!
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後残っている組み合わせはシュカチーム対ミフユチーム、俺チーム対アキチームの二つだけだ。俺の作戦でミフユは疲れていたので、ミフユチームの対決は後回しとなった。
「……作戦が完全に裏目に出た。ちょっと疲れてる状態で一休みした後のアキとか無理じゃん」
「まぁまぁ、とにかくやれるだけやってみよう」
「どこ狙う~?」
アタッカーの一人が前列、残り二人は後列。俺達も他のチームもそうやって二列に分かれているが、アキのチームは違う。アキが前列、サンが二列目、セイカがコートギリギリの三列目だ。ちなみに犬は角に居る、全体を見渡せる位置だ。
「サンが普通に動くからなぁ、やっぱりサンが間に合わなさそうな位置を選ぶべきじゃないか?」
「前の試合じゃサンちゃん基本ド真ん中立ってたじゃん、どこでも間に合うんじゃない?」
「そうなんだよなぁ、メープルちゃん周りは……もし当たったら可哀想だしな」
「犬にボールぶち当てるとか最低だもんね~、やったら嫌いになるからねみっつん!」
「分かってる、狙うとこは決まってるよ。どうにか先攻取りたいな……点入れたら次は向こうのボールだ、アキのボールが防げないならこっちが先攻取って、アタック全部点入れるしかない」
唯一の勝ち筋はそれだけだ、上手く行けば三対二で勝てる。
「鳴雷一年生、もういいか?」
「ちょっと待ってください、喉乾いたんでちょっと飲んできます」
俺はテントへと走り、ジュースを飲みながらスマホを弄った。音量を上げ、翻訳された文章を何度も聞いた。
「よし……! いいですよミフユさん、ボールお願いします」
「うむ」
《対戦ヨロだぜ兄貴》
アキと向かい合って立ち、アキ越しに歌見を見つめる。ミフユが俺達の間に高くボールを打ち上げる。
「Cейка подвергается нападению морских птиц!」
覚えたばかりの知らない言語をおそらく拙い発音で叫ぶ。これがただのカタカナの羅列ではなくロシア語として聞けるレベルになっていたのなら、俺が先攻を取れるはずだ。
《……っ!? スェカーチカ……!》
アキはボールに向かって跳ぶことも手を伸ばすこともせず、慌てて身体を横にズラした。
「もらったぁ!」
《騙したなクソ兄貴!》
俺はボールを叩き、歌見へと飛ばした。すぐに自陣へと戻り、ハルのトスでアタックを決める。狙いは犬でもサンでも、もちろんアキでもない。セイカだ。
「いっ、けぇっ!」
威力や速さではなく、高度を意識したアタック。サンの頭上を越えて、このボール取ろうとすればサンはセイカを踏んでしまうだろうという位置へ、セイカの傍へ落ちるはずのアタック。
「……? セイくん?」
サンはセイカからの指示がないことを不審に思いつつも動かず、自分の傍に向かって落ちてくるボールを見たセイカは不敵に笑った。
「何……だと……!?」
セイカは倒れ込みながら左手でボールを弾いた。
「舐めてんなよ落ちこぼれぇ! お前のかつてのメシア様をよぉ!」
《報復だ兄貴ぃっ!》
犬が華麗なトスを決めたボールはアキによって俺の顔面へ叩き込まれた。
「な、鳴雷一年生……! あっ、い、一点! 鳴雷一年生大丈夫か! 無事か!?」
「だ、大丈夫です……クソ、そういえばセイカは運動神経抜群なんだった」
額に当たったから鼻血は出ていないし大したダメージもないが、騙し討ちや全ての策が通用しなかったショックは大きい。
「ひっどいじゃんアキくん! 今のわざとでしょ!」
《なんて?》
《わざとだろ、酷いぞって》
《弟を騙すような悪ぃ兄貴は鼻血出しちまえばいい、上手く当たんなかったみてぇだけどな》
「……せーか、なんて?」
「鳴雷が先に騙したのが悪い的なこと言ってる」
やはりわざとか。
「みっつんアキくん騙したの?」
「……先攻取るためにセイカが海鳥に襲われてるってロシア語で叫んだ、飲み物飲むって言ってスマホで翻訳して音覚えてきたんだよ。無駄だったけどな」
騙して先攻を取り、身動きが取れないセイカの周りを狙ってアタック。まず一点を取るための俺の策はあっさりと破られた。まさかセイカが倒れ込んでボールを取りに行くとは……
「ここからは真剣勝負で行くぞ」
「大丈夫か? 鳴雷一年生」
「大丈夫ですよ、こんな柔らかいボールでどうにかなりませんって」
「そうか……不調を感じたらすぐに言うんだぞ、では再開!」
「兄より優れた弟なんて存在しねぇってことを教えてやるぜアキぃ!」
なんて啖呵を切った俺は善戦することもなく、一方的に点を取られ、負けた。
アキチーム三勝、シュカチーム一勝、ミフユチーム一勝、そして俺達がゼロ勝。シュカチームとミフユチームの対戦を見るまでもなく、最下位が確定した。
「罰ゲーム勘弁してください!」
俺は負けた瞬間すぐにミフユに向かって土下座をした。
「ミフユは罰ゲームなどというものは嫌いだ。しかし鳴雷一年生、罰ゲームは貴様が言い出したのだ。貴様が自チームの者達のやる気を引き出すために、自分が最下位にならないと信じ、他チームがやる分には構わないと、身勝手に罰ゲームを提案したのだ。ミフユは別に罰ゲームを強制しようなどとは思わないが……他の者はどう言うか、貴様自身はそんな身勝手な自分に満足なのか、ミフユ達が試合をする間ゆっくり考えるんだな」
ちゃんと叱られた。
「…………俺罰ゲームやるよ……ごめんなハル、歌見先輩……お前らは許してもらってくれ」
「……何言ってるんだ水月、俺もやる。チームだろ? 最下位になったのは俺の責任でもあるしな」
「え……えぇ……もうこれ俺だけやらないとか出来ないじゃん……分かったよちくしょー! みっつんのばーか! 後でいーっぱい甘やかしてもらうからね!」
ハルはそう言いながら頭で殴るように俺の肩に頭を乗せた。二人の覚悟に目頭が熱くなる。
「いや、お前はいいんだぞ。俺も水月と一緒に頼んでやるし」
「や! る! 虫ちょっと触るくらい余裕だから!」
「そうか? お兄ちゃん先にやるからダメそうだったらやめるって言うんだぞ」
「……先輩、ハルを妹扱いしてません?」
「え? あっ、お兄ちゃんとか言っちゃった……」
頬を赤らめて照れた歌見を見て、目頭に集まっていた熱が一気に股間へ向かう。
「悪い、ギャンギャン喚くところが妹に似てて」
「俺ギャンギャン喚いたことないし男だし!」
「あぁ、お前はアイツよりずっと頭も性格もいい。そうか……妹に似てるからじゃなくて、騒がしさも面倒臭さもお前くらいだったら可愛かったのになぁって願望から間違えたのかもしれないな……」
疲れ切ったような声に、これまで歌見は一体どれだけ妹に困らされてきたのだろうと想像させられた。
「……作戦が完全に裏目に出た。ちょっと疲れてる状態で一休みした後のアキとか無理じゃん」
「まぁまぁ、とにかくやれるだけやってみよう」
「どこ狙う~?」
アタッカーの一人が前列、残り二人は後列。俺達も他のチームもそうやって二列に分かれているが、アキのチームは違う。アキが前列、サンが二列目、セイカがコートギリギリの三列目だ。ちなみに犬は角に居る、全体を見渡せる位置だ。
「サンが普通に動くからなぁ、やっぱりサンが間に合わなさそうな位置を選ぶべきじゃないか?」
「前の試合じゃサンちゃん基本ド真ん中立ってたじゃん、どこでも間に合うんじゃない?」
「そうなんだよなぁ、メープルちゃん周りは……もし当たったら可哀想だしな」
「犬にボールぶち当てるとか最低だもんね~、やったら嫌いになるからねみっつん!」
「分かってる、狙うとこは決まってるよ。どうにか先攻取りたいな……点入れたら次は向こうのボールだ、アキのボールが防げないならこっちが先攻取って、アタック全部点入れるしかない」
唯一の勝ち筋はそれだけだ、上手く行けば三対二で勝てる。
「鳴雷一年生、もういいか?」
「ちょっと待ってください、喉乾いたんでちょっと飲んできます」
俺はテントへと走り、ジュースを飲みながらスマホを弄った。音量を上げ、翻訳された文章を何度も聞いた。
「よし……! いいですよミフユさん、ボールお願いします」
「うむ」
《対戦ヨロだぜ兄貴》
アキと向かい合って立ち、アキ越しに歌見を見つめる。ミフユが俺達の間に高くボールを打ち上げる。
「Cейка подвергается нападению морских птиц!」
覚えたばかりの知らない言語をおそらく拙い発音で叫ぶ。これがただのカタカナの羅列ではなくロシア語として聞けるレベルになっていたのなら、俺が先攻を取れるはずだ。
《……っ!? スェカーチカ……!》
アキはボールに向かって跳ぶことも手を伸ばすこともせず、慌てて身体を横にズラした。
「もらったぁ!」
《騙したなクソ兄貴!》
俺はボールを叩き、歌見へと飛ばした。すぐに自陣へと戻り、ハルのトスでアタックを決める。狙いは犬でもサンでも、もちろんアキでもない。セイカだ。
「いっ、けぇっ!」
威力や速さではなく、高度を意識したアタック。サンの頭上を越えて、このボール取ろうとすればサンはセイカを踏んでしまうだろうという位置へ、セイカの傍へ落ちるはずのアタック。
「……? セイくん?」
サンはセイカからの指示がないことを不審に思いつつも動かず、自分の傍に向かって落ちてくるボールを見たセイカは不敵に笑った。
「何……だと……!?」
セイカは倒れ込みながら左手でボールを弾いた。
「舐めてんなよ落ちこぼれぇ! お前のかつてのメシア様をよぉ!」
《報復だ兄貴ぃっ!》
犬が華麗なトスを決めたボールはアキによって俺の顔面へ叩き込まれた。
「な、鳴雷一年生……! あっ、い、一点! 鳴雷一年生大丈夫か! 無事か!?」
「だ、大丈夫です……クソ、そういえばセイカは運動神経抜群なんだった」
額に当たったから鼻血は出ていないし大したダメージもないが、騙し討ちや全ての策が通用しなかったショックは大きい。
「ひっどいじゃんアキくん! 今のわざとでしょ!」
《なんて?》
《わざとだろ、酷いぞって》
《弟を騙すような悪ぃ兄貴は鼻血出しちまえばいい、上手く当たんなかったみてぇだけどな》
「……せーか、なんて?」
「鳴雷が先に騙したのが悪い的なこと言ってる」
やはりわざとか。
「みっつんアキくん騙したの?」
「……先攻取るためにセイカが海鳥に襲われてるってロシア語で叫んだ、飲み物飲むって言ってスマホで翻訳して音覚えてきたんだよ。無駄だったけどな」
騙して先攻を取り、身動きが取れないセイカの周りを狙ってアタック。まず一点を取るための俺の策はあっさりと破られた。まさかセイカが倒れ込んでボールを取りに行くとは……
「ここからは真剣勝負で行くぞ」
「大丈夫か? 鳴雷一年生」
「大丈夫ですよ、こんな柔らかいボールでどうにかなりませんって」
「そうか……不調を感じたらすぐに言うんだぞ、では再開!」
「兄より優れた弟なんて存在しねぇってことを教えてやるぜアキぃ!」
なんて啖呵を切った俺は善戦することもなく、一方的に点を取られ、負けた。
アキチーム三勝、シュカチーム一勝、ミフユチーム一勝、そして俺達がゼロ勝。シュカチームとミフユチームの対戦を見るまでもなく、最下位が確定した。
「罰ゲーム勘弁してください!」
俺は負けた瞬間すぐにミフユに向かって土下座をした。
「ミフユは罰ゲームなどというものは嫌いだ。しかし鳴雷一年生、罰ゲームは貴様が言い出したのだ。貴様が自チームの者達のやる気を引き出すために、自分が最下位にならないと信じ、他チームがやる分には構わないと、身勝手に罰ゲームを提案したのだ。ミフユは別に罰ゲームを強制しようなどとは思わないが……他の者はどう言うか、貴様自身はそんな身勝手な自分に満足なのか、ミフユ達が試合をする間ゆっくり考えるんだな」
ちゃんと叱られた。
「…………俺罰ゲームやるよ……ごめんなハル、歌見先輩……お前らは許してもらってくれ」
「……何言ってるんだ水月、俺もやる。チームだろ? 最下位になったのは俺の責任でもあるしな」
「え……えぇ……もうこれ俺だけやらないとか出来ないじゃん……分かったよちくしょー! みっつんのばーか! 後でいーっぱい甘やかしてもらうからね!」
ハルはそう言いながら頭で殴るように俺の肩に頭を乗せた。二人の覚悟に目頭が熱くなる。
「いや、お前はいいんだぞ。俺も水月と一緒に頼んでやるし」
「や! る! 虫ちょっと触るくらい余裕だから!」
「そうか? お兄ちゃん先にやるからダメそうだったらやめるって言うんだぞ」
「……先輩、ハルを妹扱いしてません?」
「え? あっ、お兄ちゃんとか言っちゃった……」
頬を赤らめて照れた歌見を見て、目頭に集まっていた熱が一気に股間へ向かう。
「悪い、ギャンギャン喚くところが妹に似てて」
「俺ギャンギャン喚いたことないし男だし!」
「あぁ、お前はアイツよりずっと頭も性格もいい。そうか……妹に似てるからじゃなくて、騒がしさも面倒臭さもお前くらいだったら可愛かったのになぁって願望から間違えたのかもしれないな……」
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