冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

番外編 シュカの過去

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※本編でシュカが決して語ることのない、シュカの過去編です。暴力・宗教・差別その他様々な人を選ぶ表現が含まれますので、閲覧注意です。現行の本編と直接的な関わりはないため、いつ読んでも、読まなくても問題ありません。




鳥待家は親類の結び付きが強く、周りの家にも口が利く、都会ではまず見ないその地域でだけ権力を持つタイプの一族だった。田舎のそういう名家モドキに父は産まれた、生まれつき知能に障害があり親類から「アレ」と呼称されていた。母はその遠い親戚、その家で考えられている結婚すべき年齢までに結婚相手を見つけられず、半ば無理矢理父と婚姻を結ばされたそうだ。そんな母も障害と認められるほどではないが頭が弱かった。

親戚の工場で仕事をもらっていた父は、不満や不機嫌を言葉に変えることが出来ず、よく暴力を振るった。父の顔はよく覚えていないけれど、痛みと母の泣く声は何とか思い出せる。
父は俺が小学校に上がる前に死んだ。同僚と酒を飲んだ帰り道、道端で寝てしまってドブ川に落ちたそうだ。

父が死んでも母の不幸は終わらなかった。直系の男児を産んだことで俺を育てるために必要な程度の仕送りはあったが、母は公共料金の支払いが苦手でしょっちゅう電気が止められたりしていた。鳥待家の男が顔だけはいい母を性のはけ口にしていた。

そんな母は出来たてホヤホヤの宗教にハマった。大義名分すらもなく、単に宗教ビジネスは儲かるらしいとどこかで聞いた地元のチンピラが思い付きで始めただけの、誰が引っかかるんだと呆れ返るようなツッコミどころだらけの組織だった。金をじわじわ搾り取られ、母も俺もどんどんと痩せていき、母も俺も組織の幹部に何度も犯されたが、母は幸せそうに笑っていた。
忌まわしい初体験の時、組み敷かれた俺の横で正座をして念仏モドキを唱えていた母の姿は脳裏に焼き付いている。

小学校高学年の頃には、食事は幹部の男にねだるようになった。
中学生になった頃にはもう家に帰ることはほとんどなくなった。一人都会に出て、不良グループに入れてもらって、喧嘩や抗争で戦果を上げて、成り上がった。そんな中、目を切られた。視力を失いはしなかったがかなり下がってしまい、メガネが必要になった。メガネは仲間が買ってくれた。
家を離れてから宗教組織と関わることもなくなって、それまで男に抱かれるのが日常となっていたせいか、身体が疼いた。冗談交じりに舎弟を誘ったら食いついてきたので、寝た。噂が広がって他の舎弟も「童貞を捨てたい」とか言って頭を下げてきたので、寝た。

「シュカ、お前最近アイツらにヤらせてるらしいな」

「女襲ってサツに目ばつけられたっちゃ嫌やろ」

「そんな理由なのか?」

「……俺とヤりたかと?」

「どっちかっつーとヤられたい」

不良グループ内の同期にあたる男はそう言った、そいつが童貞卒業の相手だった。抱かれる方が好きだなーと腰を振りながら思った。その後、自分も抱いて欲しいと言ってきた舎弟が何人か居たので、全員抱いた。喧嘩や抗争でいい戦果を上げたヤツを優先的に、熱烈なセックスを楽しんだ。

「シュカさん! 知ってますか、最近シュカさん博多の修羅って一部で呼ばれてるんすよ!」

「ふぅん……」

ある時、相手グループのリーダーを倒した舎弟と寝た後、そんな話をされた。博多なんて都会の生まれではないのに、滑稽な話だな。

「宇佐の狂犬に並んだんじゃないですか?」

「……?」

不良グループが根城にしている廃ビルの、ボロいマットレスの上、薄いタオルケットを腰にかけ、拾ったタバコを吸いながら首を傾げた。

「あれ、知らないんすか? 宇佐の狂犬……何年か前に暴れ回ったヤツですよ。俺も聞いた話なんですけど、たった一人で暴走族壊滅させたとか……事務所潰したとか」

「へぇ……?」

「そのせいで何個かあるグループの勢力図がめちゃくちゃになって、北九州は今魔境なんすよ」

暴力とセックス漬けの日々は気に入っていた。膠着状態じゃつまらなかっただろうから、その昔の不良には感謝だな。

「で? そいつは今どっかんヤクザにでもなりよーと?」

「いや……なんか、行方不明らしいですよ」

「……伝説でも最期はしけとーもんね」

色んなグループを敵に回せばそうなるか。他人事ではないな、事実何度も刺されている。汚い身体になったものだ。



そうやって日々を過ごす中、童貞卒業の相手が死んだ。ナイフを胸に突き立てられて川岸に流れ着いていた。グループの者達は報復に燃え犯人探しに躍起になったが、俺はなんだか冷めてしまって二年少しぶりに家に帰った。

「…………だぁれ?」

久しぶりに会った母は俺のことを忘れていた。

「君……いくつ? シュカ知っとぉ? うちん息子……小学……四年生……? 五年……? 賢うて、優しか、よか子……」

「…………知りません」

「そう……」

「……あの、行くあてがなくて……一晩泊めてくれませんか?」

「え? んー……あ、シュカん部屋使うて」

元々あまり母への情はない、忘れられていても大して悲しくもなかった。久しぶりの自分の部屋で、教科書をパラパラと捲った。家とは違い、中学校には時々顔を出していた。行方不明だなんて騒いで警察に届けられてはたまらないから。

「…………高校」

進学も就職も考えたことがない。けれど、月日は否応なしに流れていく。このまま暴力の日々を過ごせば俺は何になるのだろう。たまに警察にしょっぴかれていくのを見かける半グレ? よくアパートの扉を叩いているのを見かける闇金?

「…………」

鞄を開けて中学校でもらったチラシを眺めた。進学先や就職先が載っている。今更真面目に戻っても、どこかで刺されて死ぬのがオチだ。アイツみたいに。

「………………ここじゃ大人になれんな」

少し暴れ過ぎた。このまま地元に居てはいつか殺されてしまう。九州を出よう。もっと都会に行きたい、東京とかどうかな。

「金が足りん……」

交通費、住居費、その他諸々。グレていたせいで鳥待家から進学費用だなんて言って借りることも出来なさそうだ。
考えた末、俺は我が家に金がない原因を思い出した。母がハマった宗教組織のことだ。俺は一晩を家で過ごした後、グループに戻った。

「シュカさん! どこ行ってたんですか、あなたまで殺られたんじゃって心配してたんですよ」

「……一人で調べとった」

死んだアイツの青ざめた肌の冷たさを思い出した。そのすぐ後、俺の下で喘ぎ鳴いたアイツの赤らんだ肌と体温を思い出した。

「そうなんすか……無理しないでくださいね。もう俺らにはシュカさんしか……シュカさん?」

「……?」

「…………どうぞ。使ってください」

ハンカチを渡されて初めて自分が泣いていたことに気付いた。アイツは良い奴だった、世間一般的にはとんでもない悪ガキだけれど、俺が同じ場所で眠れたのはアイツだけだった。

「……で、分かったんすか? 犯人」

俺の腕の中でアイツが語った夢を思い出した。いい高校に入って、いい大学に進んで、偉い政治家になって、自分と同じ肥溜めみたいな境遇の子供を救う法律を作るんだと──暴力で奪い合わなくても生きていける社会にするんだと──その日暮らしの生活を気に入っていた俺には何の興味もない夢を、将来の夢ではなく夢物語を、聞き流していたはずのアイツの夢を、思い出した。

「……あぁ」

俺はグループのバカ共を騙して宗教組織を襲撃した。バカが運営しているからバカしか騙せず大して大きくなっていなかったから、中学校の不良グループ数十人でもどうにかなった。俺は単独行動をした、俺を犯し続けた幹部の男を窓から突き落とし、ボスらしき男を脅して金庫を開けさせ、金を全て奪った。

「…………」

俺はその金をグループの連中には隠して一人で全て持ち帰り、引っ越しと進学の準備をするため家に帰った。仇が打てたと思っているグループの連中は宴代わりに俺とヤりたがったが、今回の怪我が治ったらなと適当にあしらった。

「シュカ……? シュカと?」

以前帰った時には俺が俺だと分からなかったくせに、母は今度は俺に気付いた。

「シュカぁ……! シュカ、シュカ……! どこ行っとったと、うちん一番大事な宝物……」

俺はその後、上京のためにすべきことや進学する高校決め、受験勉強などで忙しくした。酒やタバコを我慢した。だから気付けなかった、母が若年性の認知症を患っていたことに。俺のことが分かる日の頻度が段々と下がり、凶暴性が増し、被害妄想が増え、暴れて食事を取らないから衰弱していった。

「…………母さん」

眠る母の寝顔をボーッと眺めるのが日課になった。父の暴力から庇ってくれたことはなく、俺が犯されていても宗教的儀式なのだと納得して拝み、俺が人並みの生活を送るためにあったはずの金を奇妙な札や壺に注ぎ込んだ母。俺のたった一人の家族。

「母さん……」

寝顔は母だった。俺を誰だと言う時の表情も、暴れている時の顔も、母ではなかった。認知症は母を母でなくしてしまった。でもそれでも寝顔は母だった。

「……おやすみ」

夫に殴られ、チンピラに騙され、息子はグレて家に帰らなくなって、病のせいで色々なことを忘れて何もかも分からなくなって──この人の人生は一体何だったんだろう、幸せを感じたことなんてあったのだろうか。

「シュカ」

「……今日は正気の日ですか」

ある日、勉強をしていると母が部屋に入ってきた。もう歩くのも覚束無い彼女は真っ直ぐ俺の方へやってきて、俺を背後から抱き締めた。

「お勉強中? シュカはえらかね、賢かね。うちにはもったいなかくらいんよか子……大好きよシュカ、愛しとぉよ。シュカが居ってくれて、お母さん幸せばい」

「…………母さん」

「んー?」

「……私、も。私も……同じ、気持ちです」

「んふふー……シュカは愛らしかぁねー」

俯いていたからか、アイツが買ってくれたメガネのレンズに涙の粒がたくさん落ちた。




ダメ元で受けた高偏差値のお坊ちゃま学校に合格した。この高校はたくさんの政界人を生み出している、夢を叶えられるかもしれない。
引っ越して、色んな書類を片付けて、スマホを買った。飛ばし携帯を奪ってグループ内の連絡手段として使ったことはあったが、正式に自分の物を手に入れたのは初めてだった、

「……おやすみ、母さん」

眠る母に就寝の挨拶をするのが日課になった。入学からしばらくして母はベッドから起き上がれなくなってしまった。暴れた後の部屋の片付けが必要なくなった。

「…………母さん」

毎朝、登校前に母に朝食を食べさせた。上手く食べてくれないことはしょっちゅうで、正気に戻る日も──俺に気付いてくれる日も、ほとんど来なくなった。

「シュカ」

けれど俺の名前を呼ぶ者は居る、彼は愛おしそうに俺の名前を口にする。彼は喧嘩なんて出来ない、刺されて川に流されてしまうことはまずないだろう。

「シュカ、シュカ? どうしたんだ」

認知症にはならないだろうか、俺のことを忘れてしまいはしないだろうか。

「なんか元気ないな、何かあったのか? シュカ……俺に出来ることなら何でも言ってくれ、何も出来なさそうだったら……んー、傍に居る! 絶対傍には居るからな」

出会って数ヶ月で母やアイツが俺の名前を呼んだ回数を彼は超えた、彼はしょっちゅう俺の名前を呼んだ。彼が俺を忘れていないことが分かるから、よく名前を呼ぶ癖は好ましい。

「…………水月」

「んー? どうしたシュカぁ」

心を許した男は死んだ。唯一の家族は少しずつその人らしさを失っていった。

「水月は……」

「ん?」

生まれて初めて恋人と認めたこの男は、どうなるのだろう。

「ずっと………………お腹空きました」

「えぇ? 今何か別のこと言おうとしてただろ?」

「してないです、お腹空きました」

「納得いかないけど……まぁ、それは話す気になった時にまた言ってくれよ。ご飯な、どうしようか」

ずっと、ずっと、怪我も病気もせず、ずっと傍に……なんて、素面では言えない。
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