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足への永住権

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俺が抜け、セイカが入った後、ビーチバレーは接戦を演じていた。アキに回った時点でアタックを決められて終了なんてものではなく、丁寧にボールを打ち合い、試合が途切れることなくボールが何度も境界線上を超えている。コートに寝転がったセイカにボールが当たらないかを気にしてアキが全力を出せずにいるからだ。

(……わたくしが戻ったらアキきゅんはまたスパァーンスパァーンとアタック打ってくるんでしょうな)

寝転がっているだけとはいえ遊びに参加し、俺よりもチームに貢献出来ているセイカは楽しそうに笑っている。アキは歯がゆいだろうが、アタックがあまり役に立たず相手のミスを狙うのが主となったバレーの方が、みんな楽しそうにしている。

(わたくしが居ない方がみんな楽しい……い、いやいや違いますぞ! わたくしが参加してても今と同じような感じになりまそ、セイカ様が居てアキきゅんがアタックを躊躇するか否かが重要なのですから、わたくしが居てもみんな楽しんでくれまそ! それはそれでわたくし居ても居なくてもいいみたいな感じでわ……?)

自分で自分を励ましたり、再び落ち込んだりしているとスマホが鳴った。

「もしもしっ? フタさん?」

『もしもし……けほっ、みつきぃ? じゅう、ごにち……休み取れたぁ』

「本当ですかっ? よかった……あ、あの、なんか……苦しそうですけど」

電話の向こうでフタは時折咳き込んでいる。絞り出すような声も苦しそうに聞こえる。まさか──

「──ヒ、ヒトさんに……何かされました?」

『んー……ま、大したことないよ』

「そ、そんなっ、他人居れば大丈夫だって……読み違えたっ? 嘘、ごめんなさいっ、俺が余計なこと言ったからっ!」

『だいじょぶだいじょぶ、気にしないでみつきぃ。休み取んのはどーせヒト兄ぃに言わなきゃだし、今回大したことなかったしぃ……みつきのおかげかも。ありがと~』

満面の笑みで礼を言うフタの顔が瞼の裏に浮かぶ。忘れっぽいフタが、俺と付き合ったことすら忘れていたフタが、「今回……」なんて言うほど暴力に慣れているのが悔しい。

「俺ぜった…………はい、すいませんでした……じゃあ、十五日にデート……さよっ、ばいばいフタさん」

電話の向こうの「ばいばーい」と楽しげな声に合わせて「さよなら」をやめ、挨拶を合わせる。フタはきっと手を振っていたんだろう、そんな光景が容易に想像出来る。

(絶対何とかするとか、簡単に言っちゃいけません。でも心には決めますぞ、絶対何とかしまっそ!)

ぎゅっと拳を握り、フタを救う決意をする。

「ぁ……みぃ、くん」

「水月居るの?」

手のひらに爪の跡が残るほど強く握った拳を開き、俺を呼んだ愛おしい彼氏達に笑顔を向ける。

「どうした? サン、カンナ」

ぐっしょりと濡れた髪を長身に張り付かせ、まるで海底から現れた怪異のような姿になったサンの背後にカンナが隠れている。

「何か飲み物欲しくて。海の水ってしょっぱいよね、余計喉乾いちゃう」

「海水飲んだの? 汚いよ……?」

「飲んではないよ、ちょっと舐めただけ。今度海描くつもりだから味知っとかないと」

「もー、病気にならない程度にしてくださいね」

衛生的には題材を舐める癖は治して欲しいが、芸術家としてのアレコレに素人が下手なことを言うのもなぁ……

「水とお茶とジュース、どれがいい?」

「ジュースもらおうかな」

クーラーボックスからオレンジジュースを引っ張り出し、サンに手渡す。

「カンナは?」

「ぁ……ぼく、りん、ご」

「リンゴジュースな。はいよ。ここ座るか?」

自分の太腿をぽんと叩いてみると、カンナは半分だけ見えている顔を真っ赤にして頷き、身体を微かに震わせながら俺の足の上にゆっくりと腰を下ろした。

「おも、く……な……?」

俺の太腿にちょこんと座り、垂れたウサギの耳をきゅっと握って引っ張り、唯一見えていた口元まで隠し、首を傾げて俺の顔を見上げ、遠慮がちに尋ねた。

「……ッ、ハァーッ」

「……! 酒飲んだ中年男性!」

何のモノマネしたでしょう、じゃないんだよ。

「永住して……俺の足の上に永住して」

「水月の足土地として認められてるの?」

「ぇ、じゅ……むり」

「可愛いよ~カンナ可愛いよぉ! 可愛すぎるだろふざけんなよお前……住めよ俺の足に」

「意味分かんないキレ方するね水月、題材になるかも。メモっとこ」

どんな絵を描くつもりなんだ?

「ふぅ……ごめんなカンナ、変なこと言って。ちょっとテンションおかしくなっちゃって」

「うう、ん……だ、じょぶ」

カンナは俺の胸に頭を預けて心地よさそうに口元を緩めた。

「隣座るよ。他の子達は?」

サンは濡れた髪を身体の前に抱えてテントの下に敷いたシートを濡れないようにして俺の隣に腰を下ろした。

「みんなはビーチバレー中」

「ふぅん……? 水月とカンナちゃんはしないの?」

「ぼく、足……引っ張っちゃ、から」

「俺もあんまり上手く出来ないし、いいかなって」

「……遊んでるだけなのに上手い下手気にするの?」

素朴な疑問を向けられ、言葉に詰まる。

「い……いや、ほら、だってさ、同じくらいの実力の相手じゃなきゃつまんないだろ? 遊びでも片方に手加減させっぱなしとか、片方負けっぱなしとかは……面白くないよ」

「ふぅん……? ま、好きにすればいいけどさ。ボクは参加してくるよ、泳ぐのにも飽きたし」

「えっ」

「声がするから……あっちかな? 合ってる? じゃあね、水月、カンナちゃん」

サンはみんなの声を頼りにコートへ向かった。何も見えていないはずなのに、彼の歩みに迷いや恐れはない。

「……カンナ、俺らも行くか?」

「で、も」

「面白くなかったらすぐ抜ければいいよ。ちょっとだけ、な?」

「……ぅん」

下手だからとか、居ても居なくても変わらないからだとか、そんな理由で参加を渋るなんてバカらしくなった。俺はカンナを連れてみんなの元へ戻った。
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