冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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デートのお誘い

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セイカは電話がかかってきたと俺のスマホを持ってきてくれたが、俺が受け取った時にはもう切れていた。コートで寝転がってアキのアタックの範囲を狭めているセイカを心配しつつ、着信履歴を確認する。

「やっぱみっつんの代わりのアタッカーはりゅーじゃない? 俺よりは力あるっしょ」

「頭ではイメージ出来とんねんけど、なんやその通り身体動かへんねんなぁ」

「そんなのみんなそうっすよ、筋金入りのインドア派の俺よりは体育の授業受けてる皆さんの方が向いてると思うっす」

「ほなやるけどやな……」

代理アタッカーはリュウに決まったようだ。さて、俺に電話をかけてきたのは誰かな? まぁ母だろうけど……いや、違う、フタだ。

「行くでー……そらっ!」

「水月より数段弱いですね」

折り返し電話をかけながらバレーの様子を見る。リュウのへなちょこアタックはシュカにあっさり止められた。シュカはポンとボールを上げてアキにアタックを任せる。

《……ォラァッ!》

今までの三発よりも弱いアタックは境界線を越えなかった。サッカーで言うところのオウンゴールだ。まぁバレーにゴールはないんだが。

「む……! これは、失点だな」

「何やってるんですか秋風さん! 今まで威力だけでなく狙いも申し分なかったじゃないですか、狭雲さんが居るくらいで狂わないでください」

「ごめんなさいです……」

失敗してしまったアキはしゅんと落ち込んだ、多分。顔が見えないから声色一つだけでの判断だ。

「まぁまぁ鳥待くん、責めないであげてよ」

「……そうですね、スカったあなたよりはマシですし」

「無礼だぞ鳥待一年生!」

アキはシュカ達に背を向け、セイカを見下ろした。サングラスのように濃い色のゴーグルで目元が分からないから想像でしかないけれど。

《ありがとな秋風》

《……うるせぇ。邪魔なんだよ》

《俺に当たらないようにしてくれて嬉しかった》

《そりゃ……そうするだろ》

《今後ともミス頼むぞ》

耳元で響いていたコール音が終わり、もしもしと低い男の声が聞こえた。俺はコートから離れながら返事をする。

「もしもしっ、フタさん?」

フタからの電話が嬉しくて声が弾む。彼はサンに負けたくなくて、恋人が欲しかったから来る者拒まずの俺を選んだだけで、俺を好きになってくれた訳じゃない。だから、そんな彼からの電話はとても嬉しい。

『えーっとぉ……みつきー?』

「はい! あなたの恋人水月ですよ」

『お、マジで恋人なんだ?』

「……へっ?」

『水月が恋人ってスマホにメモっててさぁー』

メモをしていなかったら俺達の関係はフタの中でなかったことになっていたのか? 忘れっぽいにしても、恋人になったことを忘れているなんて酷い……いや、まだ口約束のようなものだし、恋人らしいことなんて一つもしていない。ショックを受けるな、俺。

『んでぇ、恋人出来たんだぜーって自慢したらさぁ、チケットもらってさぁ、行こー』

「え……? えっと、誰にもらったんですか?」

『……? 何を?』

「チケット、もらったんですよね? 誰ですか?」

『俺がもらった』

「誰にもらったんですか?」

『何を?』

「…………」

イラつくな、俺。言葉を抜かした俺が悪いんだ、そう思え。落ち着いて文章を組み立てろ。

「フタさん、チケット、誰にもらったんですか?」

『あー、誰だっけこれくれたん……田中? 田中だってさ』

知らない人だ。興業の従業員の誰かだろう。

『なんかぁ、抽選で当たったんだって。でもなんか、なんだっけ、トカゲ嫌って』

ヤクザって抽選とか参加するんだな。

「トカゲ……? そのチケット何のチケットなんですか?」

『えーっと……なんか、漢字、なんて読むんだっけこれ……見たことある、ちょっと待って………………ねぇコレなんて読むの。とーきょー? とーきょーね……とーきょージュラむらだってさ』

さっきから誰に聞いているんだ? 部下でも傍に居るのかな。

「あー、なんか聞いたことあるような……遊園地でしたっけ? ジュラ紀がモデルとかいう、あんま流行ってない遊園地……あぁ、トカゲが嫌って恐竜の人形とかそこらに置いてるんですかね?」

『……? さぁ?』

「はいはいなるほど、遊園地のチケットを田中さんにもらったんですね。恋人出来たって自慢したら……えっ、そ、それってまさかフタさん、俺をデートに誘ってます!?」

弟分だろう人に勧められてのことだろうとはいえ、まさか彼からデートに誘われるなんて! 旅行が終わったら誘おうと思っていたのに、先を越されてしまったな。

「嬉しいです……! すごく嬉しい!」

『おー……? よかったね』

「行きます行きます! いつですか? チケットに日にち書いてません?」

『日にち……? 八月の、じゅうにちから三十一日までって書いてる』

「とおかって読むんですよ~。じゃあ旅行が終わってから……フタさんいつ空いてます? 日曜日じゃないとキツいです?」

『ゃ、俺あんま仕事してねぇからいつでも空けれると思う』

遊園地なら平日の方が空いているだろうか。夏休み中なら混雑具合は平日も休日も変わらないか? だが、旅行が終わってすぐの土日はコミケだから、その前の平日に予定を組んだ方がよさそうだ。

「じゃあフタさん、十五日の木曜はどうですか?」

『おー、ヒト兄ぃに休めるか聞いてみる』

「お願いします! あ、待ってください。ヒトさんに聞く時は誰か連れて行ってください、他人の前ならそんなに酷いこと出来ないと思うんです」

『……そうかな』

立場の弱い者に、抵抗出来ないのをいいことに暴力を振るうようなヤツは、実際大したヤツではないのだ。他人の目があるだけで暴力を控える可能性は高い、それこそが問題の露見が遠のく厄介な性質ではあるのだが。

「きっと大丈夫です、ヒトさんには誰かと一緒に会ってください」

『んー……うん! 恋人の言うことは聞いとくもんだもんな。そうする。おい、今からヒト兄ぃんとこ行くから来い』

『えっ、俺っすか? えぇー、めっちゃ嫌ぁ……』

別の男の声だ。やはり部下か何かが傍に居たらしい。

『来い。じゃね~みつきぃー、まったねー』

一瞬、低く冷たい声に変わった。俺への声はあんなに緩くて可愛いのに、部下へ命令を出す際にはあんなにも冷酷に喉を震わせるのか。なんというギャップ、流石はヤクザ。ゾクゾクする、ますます惚れた。

「……あっ、はい! 休めるか分かったらまた連絡っ……電話! 電話してください!」

『おっけー、またねみつきぃ』

電話が切れた。さて、そろそろ彼氏達のところへ戻ってやらなければ。寂しがっているだろうし、俺が抜けてチームはボロボロだろう。まぁ、フタからもう一度電話がかかってくるまでではあるが、また唯一のアタッカーとしてチームを導いてやらなければな。

「ん……?」

なんか、いい勝負してない? そうか、セイカが寝転がっているからアキが本気でアタックを打てず、その結果実力差が縮まったのか。

(……えっじゃあわたくし戻ったらまた負け始める感じですか?)

全力でぶつかってこそのスポーツだ、セイカを気にしてアキが実力を発揮出来ないなんて、よくない。俺のチームメイトだってたとえボロ負けだとしても本気のアキと戦いたいはずだ。

(…………いやわたくしが戻った途端に負け始めたら、負けの原因アイツやんってなりますぞ。嫌でそそんなの)

俺は対等な試合を楽しむ彼氏達を眺めながら、フタからの電話をテントの下で待つことにした。
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