冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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波打ち際バレー

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波打ち際でジャンケンをする。ビーチバレーのチーム分けだ。

「グッパー出ーして、ほーいっ」

「パー二人……」

「なってーないっ、なってーないっ」

「お、半々じゃないか?」

チーム分けの結果、俺、ハル、リュウ、レイが同じチームになった。歌見、シュカ、ネザメ、アキが敵チームだ。

「決まったか。ではミフユはネザメ様と同じチームに入るぞ」

「五対四になってまうやん」

「しぐ入れよーよ」

「サン殿を一人にするのは危ない。彼もビーチバレーには乗り気でないようだったしな」

サンは泳ぎたいからとビーチバレーに不参加だ。カンナも彼に便乗して不参加。

「カンナは球技あんま好きじゃないですからねー……」

「ってかしゅーとアキくんが居るって時点で強いのに~、フユさんうち来てよ~」

「何を言うか、こちらにはネザメ様が居るのだぞ」

ネザメってデバフ扱いなんだ。

「ハル、アキは多分ビーチバレーのルール分かってないぞ。本来それを教える役のヤツは今へばってるしな。俺達の動きを見てそのうち覚えるだろうけど時間がかかる、前半に点取るぞ」

俺達とは違って長時間はしゃいでいられるような体力のないセイカは今、テントの下でぐったりしている。

「でもぉ~……」

「人数差が不服であれば貴様らの方に強力な助っ人をやろう。いや、助っ犬か」

「すけっけん……?」

ミフユが指笛を吹くと波打ち際を走り回っていた犬が彼の前でピタリと止まった。

「メープル、あちらのチームで頑張れ」

ミフユが俺達の方を指差すと犬は俺の隣にちょこんと座った。

「えぇ~、犬ぅ~? まぁいいか、りゅーよりは役に立ちそうだしね~」

「なんやと!?」

「なんだ天正一年生、まさか貴様ビーチバレーにおいてメープルよりいい働きが出来ると思っているのか? とんだ思い上がりだ」

「年積はんまでそないなこと言わはるん……!? 見返したる! 水月! 俺が全ボールさばいたるわ!」

やる気が出たなら何よりだ。

「ところでミフユさん、ビーチバレーって言うならネットとか必要だと思うんですけど」

「そんな物はない」

「砂浜じゃなくて波打ち際だしな。ま、落としたらアウトでいいんじゃないか?」

「線は引いておくか」

ミフユは足でまっすぐに線を引いた。何度目に打ち寄せた波で消えるだろう。

「ルールはバレーと同じでいいんですか?」

「そうだな、三回以内に相手に返すこと。掴んで投げ返すのは禁止。線より内側の地面にボールが触れたら失点だ。足や頭でボールに触れても構わない」

「分かりました、ありがとうございます」

ビーチバレーと呼んでいいのだろうか、これ……その筋の人に叱られるのでは?

「人数差のオマケだ、先手はそちらに譲ろう」

ボールを投げ渡された。今まで触れてきたどのボールよりも柔らかい、思いっきり当たっても当てられても痛くはなさそうだ。

「頑張りましょーっすせんぱい!」

「アタックは基本みっつんね~、一番パワーありそうだし~」

「せやな、頼むわ」

「……よし」

コートの端を狙うのが鉄板だよなと足元の線を見てみるも、こちらのチームとあちらのチームを分ける一本の線しかない。

「あの、ミフユさん」

「何だ? 早く投げろ」

「コート……囲う線がないと遠くに打てば勝ちみたいになっちゃいます」

「むっ……そうだな。少し待て」

ミフユは左足を引きずりながら俺達の周りをグルリと回った。少々歪みはあるものの、まぁ満足の行く出来のコートになった。海側は波ですぐに消えそうだけど。

「ありがとうございます。じゃ、行きますよー」

まずは様子見。ぽんと打ち上げて、右手でボールを叩く。

「緩いボールだなぁオイ。歌見行け!」

俺のアタックをあっさり止めたシュカはボールを打ち上げ、歌見に指示を出した。

「だから何でお前は俺だけ呼び捨てなん……だっ!」

疑問と多少の苛立ちが混ざったアタックはそれなりの強さだったが、レイが何とか受け止めてくれた。

「わっ……!」

しかし狙って打ち上げるほどの余裕はなく、ボールは明後日の方向へ飛んでいく。俺は当然、一番傍に居たリュウも間に合わない。ボールの打ち上がりが低過ぎた、人間に打てる高さではない。だが──

「……! ナイスメープルちゃん!」

──犬になら可能だ。彼は鼻先でボールを打ち上げた。しかも俺の居る方へ向かって。ルールが分かっているのか? 俺がアタック役だというのも理解しているのか? 偶然? 本能? あぁもう大好きだこの天才犬!

「っしゃ、行けぇ!」

境界線ギリギリを狙ったアタック。点を取れたと確信したが、ミフユがボールを上手く蹴り上げた。そうだ、足も使っていいんだった。

「惜しい! みっつん上手いよ!」

「ありがとな!」

ハルの声援に親指を立てて応える。

「僕に打たせて!」

ボールが落ちてくる。ネザメの意思を組んでミフユ達は彼にボールを打たせた、いや、ネザメの手はボールの少し横を通過した。

「……あれ?」

「スカりよった! やったで水月、一点や!」

「達成感ないなぁ」

あまり喜んではネザメが落ち込んでしまう。

「ごめんね、みんな……」

「大丈夫だ、一点なら取り返せる。アキくん、ルール分かったか? 打ってみるか?」

「だ!」

歌見にボールを渡されたアキはきっと満面の笑みで応えた。ウェットスーツに首から下を包み、ゴーグルを着け、ネックウォーマーのような物で顔を隠し、皿につば広の帽子まで被った彼の視界は相当悪いはずだ。動きもかなり制限されるはず。アキはかなり強いとハルは踏んでいたが、俺はそうは思わない、屋外のアキは驚異では──

「きゃっ!?」

──な、い……? 何が起こった? 俺の斜め後ろにボールがめり込んでいる。その一瞬前にパァンッと弾けるような音が鳴った、アキがボールを叩くモーションに入ったのは見た、でも腕を振る過程は見えなかった。振り始めと振り終わりしか認識出来なかった。

「タァーイム!」

俺は気付けば腕でTを作っていた。

「待って待って待って今の何今の何!? 何したの今!」

「弟のアタックに何か文句でもあるんですか?」

「パァンッて言ったよ!? 速すぎたよ!? そのうちボール割れるよ!?」

「そんなヤワなボールを買うものか!」

なんか怒られた。ミフユの怒りのポイントが分からない。

「クソっ、あんなカッコしてりゃ弱くなってると思ってたのに……そ、そうだ、セイカを仲間外れにするのはよくない! アキはセイカを背負え!」

「めちゃくちゃなハンデ背負わせようとしてくるな……お前それでも兄貴か?」

「せんぱいそれは流石に……」

「せーかバテてるから休んでるっつったのみっつんじゃーん、おぶって動き回ったら気持ち悪くなったりしちゃうんじゃな~い?」

「アキくんの背中でもどしたら悲惨やな……」

半分ボケのつもりの提案は大顰蹙を買った。そりゃそうだ、冗談にしてもタチが悪い。

「クソ……出来るだけアキを避けるべきだな」

「歌見殿、鳥待一年生、ネザメ様、アタックは秋風に任せましょう」

俺とアキがアタックを任されたということは、これは兄弟対決だ。アニメや漫画なら胸熱展開だが、実力差があり過ぎる。俺に活路はあるのだろうか。
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