冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ヘアケアは俺の役目

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カンナが出やすいようにと俺達はさっさと脱衣所から退散し、髪を乾かすのは別の部屋で行うことにした。

「みーつきぃ、髪してくれるよね?」

「わ、サン……もー、デカくて重いんだから急に抱きつかれたら俺コケちゃうよ。道具持ってくるからそこ座ってて」

サンの長い髪はくりんっと先端が巻いたくせっ毛によって普段はギリギリ地面に擦らずに済んでいるが、水分を含んだ今はその巻きが弱くなり、床に擦れてしまっていた。なのでドライヤーを当てる前に毛先を丁寧に濡れタオルで拭い、サンが座った椅子の後ろにバスタオルを広げて髪が直接床に触れないようにした。

「水月の彼氏はいい子ばっかりだね、水月ほどじゃないけどみんな可愛いよ。顔の話じゃなくて、中身ね」

「顔も可愛いよ」

「うん、美形ばっかり。水月ってば面食い、ふふ」

髪を傷めないようドライヤーは遠くから当てているので、ドライヤーの騒音の中でも声量で会話出来る。

「……ボクの髪可愛くしてくれるし、ボクが目が見えないって分かったらずっと手引いてくれるし、髪洗うの手伝ってくれた上に引きずらないように持っててくれたりするし……本当、いい子ばっかり。今までの人生であんないい子達に会ったことないよ」

ハル、ミフユ、カンナのことかな?

「刺青もみんな冗談レベルでしか怖がってないしね。最近の学校では教えてないのかなぁ、暴力団関係者と関わっちゃいけませんってさ」

「……タトゥーは反社会的だってのはよくない偏見だって方が強いかな。サンだってもうヤクザじゃないわけだしさ」

「多少の彫り物ならともかく、ボクのこれは筋モン確定でしょ」

「いやぁ……タトゥー好きな人は顔にまで入れるし……」

背中全面、尻に太腿の一部、肩から手首まで、胸の半分……サンの刺青はかなり広範囲ではあるが、それ以上の人間は居る。昔テレビで特集されているのを見た。

「見た目で判断するなってこと? ふふっ、大変だねぇ今の子は。見た目で判断しなきゃ遅いんだよ、ボク達みたいなのは。少しでも関わったらおしまいなんだからさ。地元なら誰がどこのヤツかっての分かってても、ちょっと離れたとこだと分かんなかったりするだろ? 水月がそうだったよね、ボクがどういう人間か知らずに助けて好かれて執着されて……もうおしまいだよ、水月は。一生ボクから離れられないよ」

「離れるつもりないよ、そんなに好きになってくれてるんだね……すごく嬉しい」

「…………ふふふっ、可愛いねぇ水月は。みんなも可愛いよ。警戒心がない生き物って本当に可愛い、可愛くてたまらないよ。仰向けで寝る仔猫とかハムスターとかさ……プチッといきたくなっちゃって困るよね、しないんだけどさ、ふふ、したくなっちゃう、分かる?」

キュートアグレッション、かな? 俺はカミアに対しては起こってしまうな。仔猫やハムスター……直接触れ合った経験がないから何とも言えないが、やりたくなるのはせいぜいつっついたり餌を遠ざけたり程度のイジワルで、プチッなんてそんな……そんな恐ろしいこと想像すらしたくない。

「水月、水月……可愛いね、水月は。大事にしなきゃ、ちゃんと大事に……可愛いからね、ふふふ」

サンは少々攻撃衝動が強めな人間のようだ。ヤクザっぽいし芸術家っぽくもある。環境のせいなのか生来なのか、どちらにせよ俺は見せかけの筋肉を付けるだけではなくちゃんと使える筋肉を身に付けるべきなのだろう。

「……よし、乾いたよ。サラッサラ、完璧」

「ありがと~…………ねぇ水月」

「ん? なぁに、サン」

「……髪洗うの手伝ってくれたカンナちゃん、髪の毛ないんだよね?」

「…………うん、火傷でね」

「ボクの髪洗わせたり持たせたりってさぁ……無神経だったかな?」

カンナにサンを手伝うよう言ったのは俺だ。サンにそう言われて初めて思い至った。無神経だったのは俺だ。

「ぁ……どう、なんだろ。言っちゃったの俺なんだけど」

「うーん……難しいね~。ボクはさぁ、水月が視力3.0だって言ってきても別に何とも思わないし、すごーいって言うけどね~。カンナちゃん大人しいしなぁ、分かんないなぁ」

「うん……サン、上がった後に約束してるんだろ? 直接聞かずに適当に話して様子とか見てみてよ」

「それしかないね~。機嫌損ねてないといいなぁ、仲良くしたいんだよ、表面的なのじゃなくさ……ぬか床に手ぇ突っ込んで壺の底触るみたいな感じでさ、心の奥深くまで確かめたいんだ。どんな人間なのか、全員、調べたい。好奇心が止まらないよ」

「頑張って止めてね、そういうの嫌な子も居るから」

カンナやセイカがそうだと見せかけて、一番嫌がるのはシュカかもしれない。彼はまだ何か俺に闇を隠している気配がする。

「うん、頑張る。じゃ、水月、ふかふかのソファまで案内してよ。カンナちゃんが喜ぶように居心地いいとこね」

「分かった。肩掴んでて」

サンに肩を掴ませ、飾り暖炉のあるリビングへ。高級そうなソファにサンを座らせ、辺りを見回す。ミフユが何やらキッチンで作業をしている、リュウとシュカが先程のセックスの感想を話し合っている、他の彼氏達はここには居ない。

(アキきゅんとセイカ様どうしているのでしょう。ワン様と遊んでいると思ったのですが)

犬のオモチャはこの部屋に散らばっているが、彼らの姿はない。庭で遊んでいるのだろうか。見てみよう。

(お庭お庭~。お、居ましたな)

二人と一匹の姿は庭にあった。暗い中でもアキの白髪はよく目立つ、しかし黒い長袖長ズボンを身に付けた身体は溶け込んでいる。こっちにも生首かと苦笑いが漏れた。

(どういう遊びなんでしょう、これ)

犬にボールを投げているだけではなく、セイカが投げたボールを犬とアキが競うように取りに走っている。

「……犬が二匹に増えてる」

楽しそうにセイカからのボールへと走るアキも犬のようだと思ってしまい、思考はそのまま声となった。

「ひょわぁああっ!?」

口に出したかどうかも出した瞬間に忘れるような無意識の呟きは、俺が背後に立っていたことに気付かなかったらしいセイカを驚かせた。

「ぬぁああ!?」

セイカが驚いたことに俺も驚き、間抜けな大声を上げて飛び退いてしまった。
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