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ホラー映画の絵面

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サンが髪を洗い終え、ようやく全員が湯船に浸かった。しかしハルがサンの髪持ちからカンナを解放するため、サンの髪をまとめるためのタオルを取りに一旦脱衣所へ戻った。

「巻くよ~、サンちゃん。痛かったら言ってね」

「うん、ありがとうハルちゃん」

ハルは手際よくサンの髪をまとめてタオルに包んだ。サンの頭の上のタオルの膨らみはハルよりも大きく、少々不自然に見えた。

「カンナちゃんもありがとうね、持っててくれて」

「……!」

無遠慮に肩を組まれたカンナは小さく首を横に振る。どういたしまして的なことを伝えたいのだろうか。

「……? カンナちゃん、ボクはアンタの様子見えてないから声出してくれないと分かんないよ」

「ぁ……ごめ……な、さい」

「なんで謝るの? ボクありがとうって言ったんだよ、さっき頭動かしたよね? 振動は伝わってきたよ、なんて返事してくれたの?」

「ぇ、と……気に、しな……で。って……」

「気にしないで? そっか、いい子だね。水月の次に可愛い」

サンはカンナを抱き寄せ、手の甲で頬をふにふにと弄んだ。髪をまとめたことで厳つい刺青が丸出しになっており、ハルとは別の緊張感を周りに与えているが、密着されているカンナは比較的リラックスしているように見える。服が湯の浮力でめくれてしまわないかを気にしつつも、サンのスキンシップに応えている。

「え~、サンちゃん俺はぁ?」

「じゃあその次」

「えぇ~」

「ふふっ、冗談だよ。水月の次はほぼ横並びかな~、みんないい子だよね。フユちゃんとかも」

突然話題に出されたミフユは大きな丸い瞳を更に大きく見開いた。

「ミフユ……ですか?」

「色々お世話してくれただろ? ちっちゃいのにえらいよねぇ」

「……ミフユは十六歳ですよ」

「水月と同い歳?」

「いえ、一歳上のはず……ぁ、鳴雷一年生はもう誕生日を迎えたのだったな。むぅ……同い歳です」

不満げな顔だ。誕生日を迎えたから半年くらいは同い歳だなんて細かく考えなくてもいいと思うのだが……それだけミフユの中で俺よりも歳上というのは大切なことなのだろうか。

「ボクからしたら十歳も下なんだからちっちゃいって言ってもよくない?」

「…………はい」

釈然としていない顔だが、身長ではなく年齢が理由だと言われてはそう答えるしかないだろう。

「あ、そうそう。ナナくん」

「はい」

「さっきハルちゃん女の子っぽくて緊張するって話してたよね」

「聞こえてましたか……後半みっともない話になったので聞かなかったことにして欲しいんですけどね」

「ボクは?」

「……へっ?」

「ボクのが髪長いよ、ボクにも緊張する?」

サンは女性というより怪異レベルの長髪だし、ガタイが良過ぎるのでハルと違ってあまり女性らしくは見えない。裸になると髪より刺青の方が目立つから、そっちの意味でなら緊張する。

「えっと……あんまり。背が高いからですかね」

「女の子っぽくない? そう……別にそういうの目指してる訳じゃないけど、違うって言われるとそれはそれで、なーんかなぁ~……」

「俺も結構背ぇ高くな~い?」

「俺よりは小さい」

ハルと歌見の差は十センチちょっとだったかな。

「まぁそだけど……ぁ、言っとくけどさぁ、俺も別に女の子目指してる訳じゃないよ~? 姉ちゃん多いからセンスが女子寄りで~、メンズよりレディースのが似合うってだけで~……でもみっつんにはお姫様扱いして欲しいかも~?」

「してるつもりだよ、ハル姫様」

「や~ん超王子な顔面~、好きぃ~」

また俺の腕を抱き締める手足の力が強くなった。ヤバい、勃つ……昔見たアニメの拷問シーンでも脳内再生しておくか。

「…………目指してなかったのか、めちゃくちゃ意外だ」

「やはり歌見殿は固定観念が強いのでは?」

「そ、そうなのか? これがジェネレーションギャップか……」

世代はあまり関係ないと思う、俺もハルは女性的なところが多いと感じているから。見た目だけの話ではなく、セイカへの対応とかも。

「……そういえばレイは髪まとめないんだな」

レイは後ろ髪だけは腰まで届く長さがあるが、ハルやサンのようにタオルを使ってまとめたりはせず首にくるんと巻いて湯船に浸からないようにしている。

「頭にタオル巻くと菌繁殖するって前どっかで聞いたんすよね」

「えっ……!?」

「ゃ、誰がどこで言ってたか覚えてないんでそんな気にしなくていいと思うっすよ。俺は伸びてるとこ少ないっすし、そんなしっかり巻かなくても大丈夫ってだけっすから」

「上がったらヘアケア調べ直そ……」

ハルはすっかり落ち込んでしまったが、サンは全く何も気にしていないように見える。聞こえていなかったのかと思えるくらいに。

「……そ、そろそろ上がろうか? のぼせちゃうしな」

早く調べ直したいだろうハルを気遣ってそう言うと、全員が頷いてくれた。

「ぼ、く……残る、ね」

「あ、そっか。カンナちゃんまだ頭とか洗ってないんだっけ。ごゆっくり~、上がったらボクのとこ来てね。水月どうせ来てくんないだろうし、もうしばらくアンタ可愛がりたい」

「……ぅん」

脱衣所へと向かう彼氏達を見送り、全員出ていってから立ち上がるカンナに手を貸した。

「俺は居てもいいだろ?」

「ぅん……で、も……み、くん、ふや……ちゃ……」

「ふやけないよ」

「…………みぃくん、先に……れ、乾か……て、くれ……な……?」

カンナはそう言いながらズルンと頭皮を剥──いや、カツラを外した。頭皮から再現されたこのリアルなカツラは外している姿が心臓に悪い。

「分かった。ドライヤー当てていいのか?」

「ぅん……あと、ね……ぼくの、かば……から、けしょ、す……とか……持って、き……欲し……」

「化粧水? 保湿用か? 分かった、すぐ持ってくるよ」

「……ろ、いろ……ごめ、ね?」

「いいよ、カンナに頼られて嬉しい。じゃ、ゆっくりしておいで」

焼け爛れた跡が目立つ額にキスをして、カツラ片手に浴場を出た。脱衣所で悲鳴が上がったのは言うまでもないだろう。

「びっ……くりしたわぁ、それヅラやんな?」

「すごいですね、ちゃんと毛穴から髪が生えてますよ。本物の人間の頭の皮みたいです」

「だからびっくりしたんだよ~」

「皮剥ぎ系の殺人鬼……」

「時雨一年生のウィッグか? 何故持って出てきたんだ」

俺は濡れたカツラを先に乾かしておいて欲しいとカンナに頼まれたことを説明した。多分、俺に浴場で待たせるのを申し訳なく思っての行動だろうとも。

「ふむ……ペット用乾燥機を使うか? ここに運び込んであるんだ。高温過ぎも低温過ぎもしないし、普通のドライヤーを使うよりいいと思うぞ」

「いいかもですね、使わせてもらっていいですか?」

「うむ、しかし適当に置いては型崩れなどの恐れがあるな……型崩れをするような物なのかは分からないが、分からないからこそ慎重にならねば」

考え抜いた俺とミフユはタオルを人間の頭サイズに丸め、カツラをそれに被せてペット用乾燥機に入れるという結論を出した。

「生首が乾燥機に……」

「日常系サイコホラー」

「こんな絵面放送禁止やろ」

いいアイディアのはずなのに、他の彼氏達には好き放題言われてしまった。
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