冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

おまけ 分かりやすいのが好き(アキ×セイカ)

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※セイカ視点 ※水月がフタと初デートをした次の日、水月が帰って来るまでのセイカとアキの様子。



長袖長ズボンは当然、手袋やサングラス、日傘があるとはいえ帽子も必須。外に出る時は肌を露出してはいけない。そんな厄介な体質だからだろうか、窓のない私室ではほとんど裸で過ごしているのは。

《……っ、ふぅ……頭に血ぃのぼるぜ》

と、片手逆立ち腕立て伏せといういつもの筋トレメニューを一つ片付けた秋風を眺めながら思う。

《次はスクワット……》

片足スクワットを始めた秋風は肌着と下着だけを身に付けている。今日はまだ肌着を着ているだけマシだな、と思っていたら右足の分を終えた秋風は肌着を脱ぎ捨てた。

《やべ、今何回目だっけ……》

下着を脱がない理由は陰茎がぶらぶら揺れて邪魔だから、だそうだ。以前聞いた。そうそう、今秋風が履いているのはジョックストラップと呼ぶらしい陰茎の動きを封じるものだ。

(ケツ丸出し……鳴雷が見たら咽び泣きながら襲いかかりそうだな。鳴雷が居る時は短パンとかトランクスとか履いてんのは筋トレ中断セックス開始になるって察してるからなのかね)

ジョックストラップは外性器を完全に包むが、尻は丸出しだ。腰と、尻と太腿の境のところには帯がある。そのため尻が強調されるデザインとなっているのは…………ジョックストラップ自体は真面目なスポーツ用の製品だから、機能を追求した結果尻が丸出しになっただけで、鳴雷のような人間を喜ばせる目的はないはずだ。

(……こいつ人前でケツ丸出しで筋トレして恥ずかしくないのかな)

筋トレ中以外に、外出時にも秋風はジョックストラップを着用している。上からトランクスを履いているみたいだけれど。緊急時に動きやすい格好をしておきたいそうだ、だから服もタイトなものばかり着ているし、帽子にゴムは付けない。帰ってきたらジョックストラップだけ脱ぐらしい、アレを履いて跨ってやれば鳴雷は喜ぶだろうに……秋風はそういうことは分からないのかな?

(言ってやったらやるのかな、そしたら鳴雷喜ぶし……アドバイスしたのは俺だって言ったら、鳴雷俺のこと褒めてくれるかも)

でももしかしたらスポーツ用品としてある種の神聖視をしているのかもしれない、だから鳴雷とのプレイに使わないだけかも。だとしたら俺がそんな提案をしたら秋風に軽蔑されかねない。

(鳴雷が喜ぶ可能性、秋風に軽蔑される可能性……プラスとマイナスだから、マイナスを避けとくべきだな、うん)

何も言わないでおこう。

(沈黙は金、だ)

ちなみに俺は今、秋風の筋トレを時折見つつ、鳴雷に勧められた漫画を読んでいる。鳴雷は「紙の良さも分かっていただきたいのですがセイカ様にはこちらの方が使い勝手が良いかと」とタブレットを渡してきた、漫画やアニメを楽しむにはスマホの画面サイズでは物足りないからと何年も前に購入した物だそうだ。

(秋風の言葉を借りるなら、ボンボンだよな鳴雷って。紅葉とかのせいで霞むけど、漫画用にってこんな機械……アニメグッズとかも結構高いみたいだし。本当に俺一人飼うくらい、大したことないのかなぁ……十二薔薇にも通わせてくれるし)

娯楽にあまり触れてこなかった俺にとって、漫画は少し難しい。受験対策に読んだ小説とは違い、情報量が多い。小説は文字を順番に読むだけだけれど、漫画はコマの流れを掴まなければならないし、絵で何が起こっているか読み取らなければならないし、俺には馴染みのない擬態語や擬音語というのも頻繁に使われている。

「鳴雷いいヤツだけどドスケベだから筋斗雲乗れないんだろうな……」

《プール入ってくる~》

《あ、いってらっしゃーい》

昨日、最近漫画を鳴雷に借りて読んでいるとグループチャットで話したら、他の彼氏達の何人かがオススメを教えてくれた。鳴雷が買っていたら読んでみようかな。特に霞染とはもう少し打ち解けないと学校で空気を悪くして、鳴雷を困らせてしまいそうだし。

「霞染のオススメは……えっと…………あ、あった。流石鳴雷」

似合うからと言うだけで女装をしている霞染のオススメだけあって可愛らしい絵柄だ。



プールのついでにサウナも済ませた秋風が部屋に帰ってきた。

《ただいまスェカーチカ》

「……霞染が、分からなくなった」
 
《スェカーチカ? ロシア語で頼むぜ》

《…………漫画読んでたんだ、霞染……あー、ハル、のオススメ。好きなキャラも聞いててさ、それの話出来たらもう少し打ち解けて、鳴雷に気まずい思いさせずに済むかと思って……そしたらさ》

《うんうん》

《そのキャラがすっごい酷いヤツだった……どういうことなんだろう。霞染が好きって言うからてっきりファッション系の漫画かと思ったら冒険ものだし……霞染が好きならオシャレで強い女って感じかと思ったら……ド外道! 俺を受け入れられない潔癖な正義感持つヤツが好きになるキャラかこれ……何なんだ霞染》

《ふーん? ちょっと読ませてくれよ》

《お前俺にセリフ全部読ませるから嫌だ》

《ロシア語版ねぇの?》

《少なくとも鳴雷は買ってねぇ》

大した興味はなかったのか、秋風は「ちぇー」なんて言いながらスマホを弄り始めた。また動物動画かエロ動画でも漁るのだろう。

(……でも、鳴雷がこないだ最推しって言ってたの、気の強い女キャラだったしな……アニメ版が特に好きなんだっけ。アニメって漫画を映像にしたヤツじゃないのか? 内容変わるのかな……その辺もまた鳴雷に聞かないと)

鳴雷は現実なら気の強い女なんて絶対相手にしたくないだろうし、キャラの好みはリアルな納得感のあるものではないということだろうか。

《秋風、お前映画は何個か見たんだよな。一番好きなキャラって何だ?》

「ガッズィーラ」

「発音がアメリカン……火を吹く怪獣、ね……秋風らしい…………あぁ~もうやだ! 全員秋風くらい分かりやすくあって欲しい! 鳴雷も霞染も訳分からん……」

叫びながら抱きつくと秋風はスマホを置いて抱き締め返してくれた。

「イジメ加害者許せないくせに子供を箱詰めするキャラが好きとかぁ! ゴリッゴリのゲイのくせにプライドの高過ぎる女キャラが好きとか! 意味分かんないよぉ……漫画好きってそういうもんなのか? 秋風は違うよな、秋風は漫画読んでも派手に戦う最強キャラしか好きにならねぇもんな」

《ロシア語で頼むぜ》

「秋風は分かりやすい……安心する、あー安心する。秋風の腕の中最高……やっぱゆりかごだなこれ……好き……」

《ロシア語で……ん? 今好きっつったか? へへ……何だよ急にぃ、照れるぜ。俺もスェカーチカが大好きだぜ》

《乗せて》

《あいよ》

胡座をかいた秋風の足の上に座り、彼の肩に頭をもたれさせる。顔は見にくくなってしまったけれど、秋風が頭を撫でてくれるのが代わりになる。

「学校……楽しみだけど、やっぱちょっと怖いな……鳴雷と同じクラスに入れてもらえるらしいけど、怖い…………鳴雷に、いっぱい迷惑かけるだろうし、そしたらまた霞染とかに嫌われるだろうし…………勉強はしたいけど……でも、迷惑かけたり、嫌われたり……したくない」

《スェカーチカ? お話してくれるのは嬉しいんだが、ロシア語で頼むぜ……マジで》

俺が学校に通うようになったら、秋風は一人でこの部屋で過ごすことになるのか。俺が居候を始める前はそうだったのだから、問題はないのかもしれないけれど……秋風が寂しがるのも、秋風には俺が居なくていいと分かるのも、どっちも嫌だな。

《ずっとここに居たい、ずっと……今がいい。学校楽しみにして、鳴雷帰ってくるの待って……でも、今で止まっていい、止まって欲しい…………全部、怖い……学校も、鳴雷も、鳴雷の他の彼氏も、お前らの母親も……全部…………いいこともあるんだろうけど、やなことの方が多そうだし、何より怖いから……秋風と、ずっと一緒に……こうしてたい》

《…………そうかい》

《秋風は違うんだろ》

《拗ねるなよ。まぁ確かに俺は兄貴にケツ掘られてぇが……スェカーチカと二人っきりっつーこの時間はお気に入りなんだぜ? 可愛い可愛いスェカーチカを独り占めだ、ははっ……》

俺を愛でている秋風の顔が曇って見える。

《……秋風? 何だよ、お前らしくない……何か嫌なことあるなら話せよ》

《聞いてくれるか俺のプリンセス。親父が……近々、日本に来るかもって》

《え……そ、そっか。お父さんが……》

俺を抱き締める力がいつもより強い。俺が手足を失った日目の前に広がっていた赤よりずっと美しく鮮やかな赤色に恐怖が宿っている。

《…………スェカーチカ、スェカーチカ……俺のお姫様、可愛い可愛いスェカーチカ……さっきの話やっぱり俺も乗らせてくれ、時間を一緒に止めようぜ》

ずっと二人きりがいいという俺の考えに反する秋風を、俺とは違って常に前を向いていられる秋風を、俺は好んでいた。憧れていた。頼っていた。

《秋風……》

ここまで落ち込んだ秋風は見たことがない、鳴雷が何日も留守にして寂しがった時だってこんな頼りない顔はしなかった。ぐすぐす泣いていただけで強さも凛々しさもそのままだった。

《…………悪い、スェカーチカ……少し、少しだけ、いつもの俺は営業中止だ……ごめんな》

《……好きなだけ休んでていい。謝るなよ》

《うん……ありがと、スェカーチカ…………》

来るかもしれない。ただそれだけの情報で秋風をここまで落ち込ませる秋風の父親に対して、俺を車道に飛び込ませた高校の連中にも俺を買った変態親父達にも抱かなかった憎悪が、かつて見当違いにも鳴雷に向けて自ら幸せを壊した不幸の種である憎悪が、久しぶりに芽を出した。
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