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言いなりになるリスク

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ミフユの身体が軋む音が聞こえる。今度こそ気のせいなんかじゃない。本当に大丈夫なのか?

「あっ、ぐ……ぅゔっ! ふ、ふぅ……ぁあ……きもちいいぃ……最高だ、鳴雷一年生……もっとぉ……もっと締めて」

気持ちよさそうだ、人間の身体は案外頑丈なんだな。

「ここを、結べばっ……完成! です。どうですか? ミフユさん……」

「んっ……気持ち、いい……身体が、ギシギシ、鳴ってる……ふふ……あぁ、すごいっ、身動ぎ一つで、こんなにっ、苦しい……!」

手足の拘束はなく、胴を締め付けるだけの緊縛。キツく締め上げた結果、ミフユは身体を曲げたり反らせたり、左右によじったりする度にギチギチと身体を締め付けられるようになった。

「だ、大丈夫ですかっ?」

「だい、じょうぶだ……鳴雷一年生、プレイを続けろ」

「え、続けろって……でも、俺縛り方これしか知らなくて……」

「……プレイは縛って終わりではないだろう。何かミフユに言うことがあるだろう?」

「え……と」

苦しくないか、痛くないかはもう散々聞いたし、ミフユは気持ちいいと答えてくれている。言うこと、言うこと……ミフユは苦痛を受けるのがイイと言っていたが、耐えた先解放された瞬間に褒められるのもたまらないと話していた。

「……お疲れ様、苦しいのによく頑張りましたね」

「まだ早い! まだ苦しい最中だぞ! ぅあっ……大声、出すと……は、ぁ、あぁ……たまらない…………ほどいてから言うんだ、そういうことは……」

「あっ、そ、そうですよね。すいません……」

少し考えれば分かることだ、焦っていたとはいえ恥ずかしい。

「……痛めつけるんだ。とはいえ、ミフユは痛いのは好きではない……苦しいのはまぁまぁ好きだが」

「叩くのはなしってことですよね」

自分で少し身体を動かすだけで苦痛を覚えるのなら、俺がちょっと手を掴んで引っ張ったり──

「うっ、ぁ、あああっ! きもちぃっ……もっとぉっ!」

──抱き締めたりすれば──

「んっ、んんぅっ……は、ぁ……たまら、ない。鳴雷一年せぇ……もっとぉ」

──いい感じだ、なるほど。

「口も使え、なじるんだ……ミフユをもっと、貶めてくれ」

「……キツく縛れって言ったり痛めつけろって言ったり、ミフユさんって変態だったんですね」

軽く抱き締めたまま肩を掴んで揺らしたり、身体を丸めさせたり反らせたりしながら、言葉で責める。言葉責めは一番苦手だ……

「乳首ビンッビン、下も……ですね。緊縛初心者の縛りはそんなにイイですか?」

「ぁ、あ……ネザメ様と違って、ミフユの言った通りに締めてくれたからな……ぁあんっ!」

背中の結び目を掴み、グッと引っ張る。更に身体が締め付けられるはずだ。悦んでくれるだろうか? ネザメよりも俺がいいと心の底から思ってくれるだろうか?

「言うこと聞くヤツがいいんですか? 酷い先輩……毅然としてて、成績も良くて、尊敬してたのになぁ……縛られて悦ぶ変態だなんて、幻滅です」

「ん、んゔぅ……ふ、ぐ……苦し……ぎも、ちぃ……」

「制服の下はずーっとこうなってたんでしょう? あの立派な生徒会副会長が、学校に居る間ずっとSMプレイの最中だなんて……あなたを尊敬する生徒達が知ったらどう思うでしょうね」

「はぁっ、ぁああ……息が、出来なっ……なる、かみ…………もっとぉ」

「もっと締められたいんですか? お顔真っ赤ですよ。ホント、変態……」

「水月くんっ!」

結び目を引っ張りながらミフユの耳元で必死に考えた罵倒を囁いていると、同じようにリュウを責めていたはずのネザメに名前を呼ばれた。意図せずスワッピングのようになっていたんだな、俺達は。

「何をしてるんだい!」

ネザメは焦っているように見える。何故だ?

「離してっ……ミフユ! ミフユ!」

ネザメは俺の手からミフユを奪い取るとすぐに結び目を引っ掻き始めて、指を真っ赤にしながら硬い結び目をほどいた。

「ミフユ……!」

「あ、あの……ネザメさん? ミフユさん……」

しゅるしゅると俺が着せた麻縄が脱がされていく。俺が縛った跡が小さな身体にくっきりと残っている。

「はぁ……はぁ…………ぁ? ネザメ様……?」

「ミフユ! 君は水月くんに何をやらせているんだい! 水月くん……すまないね、説明し忘れていた。ミフユの言う通りに縛ってくれたんだよね? ダメなんだよそれは……ミフユは欲しがり過ぎる、危ないんだ」

「え……」

「まぁ、この縛り方なら命の危険はないんだけれどね。少し過敏だったかな、怒鳴ってすまない」

「い、いえ……すいません。俺……ちゃんと加減しようって、思っては、いたんですけど……」

「ミフユはおねだり上手だからねぇ……」

言い訳をするつもりはないが、その通りだ。ミフユの顔を見て、声を聞いているうちに頭がぼんやりとし始めて、縄を掴む手に俺の意思以上の力が働いた。縄を着せていく手の動きは俺が意識して出来るものではなかった、俺はあんなに手際よく出来ないはずだった。

「よいしょっ……と」

ネザメは縄を脱がせたミフユを床に敷いた布団の一つに寝かせた。

「ミフユ、自分の欲望を満たすために水月くんを……歳下の恋人を利用するなんて最低だよ。反省しなさい」

「も、申し訳ありませんっ、気持ちよくて……ネザメ様と違ってミフユが望むままに縛ってくれるものですから、つい……欲望のままにねだってしまいました」

「しばらくそこで正座していなさい」

「……はい」

起き上がったミフユは正座をし、ネザメはベッドに戻ってきた。

「また今度加減の仕方をしっかり教えてあげるよ。M側のおねだりを無視するコツもね。言われるがままに痛めつけていたんじゃご主人様じゃなくて奴隷だよ、主人に被虐趣味があるだけの……ね。ちゃんと主導権を握らないと」

「すいません……」

「まぁまだ経験が浅いし、ミフユは歳上だしねぇ……仕方ないよ。落ち込まないで」

正座を続けるミフユに視線を向けると、彼は申し訳なさそうに微笑んだ。その身体には痛々しい跡が残っている、誘われるがままに調子に乗った俺が付けた傷だ。俺が、俺は──

「水月くん」

「は、はいっ」

「……反省は必要だけれど、落ち込み過ぎてはいけないよ? 自罰的なのは君の美しいところではあるけれど、良くないところでもある」

「はぁ……」

「ミフユのことは一旦忘れて、まだまだ君には可愛がるべき彼氏が居るじゃないか。今回の反省点はまた後で僕とゆっくり話そう。さぁ、歌見さんのところへ行っておいで」

ネザメにぐいぐいと背を押されて歌見の腕の中に倒れ込む。ミフユの次は歌見だと決めていたことまで分かっているなんて、案外と周りを見ているんだな……最近ポンコツなところばかり見ていたから嘗めてしまっていたけれど、ネザメにはちゃんと上に立つ人間らしいところもあるんだ。

「……大丈夫か? 水月」

いつもいつもドジばかりする情けない俺とは違って。
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