冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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猫をたずねて

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俺が土下座しながら泣き喚いたのを見て思い詰めたり、ハルに叩かれて落ち込んだりしてどこかへ行ってしまったと思っていた。最悪、海に向かっているかもしれないと思っていた。

「セイカっ!」

セイカは駐車場で倒れていた。すぐに見つかってよかったけれど、庭を離れた動機や倒れている理由を知るまで安心は出来ない。

「待て水月! 頭を打ってるかもしれない、確認するまで起こすのは危ない」

「あ……そ、そうですよね」

歌見に肩を掴まれて止められ、深呼吸をしたその時、腕立て伏せをするようにセイカが顔を上げた。

「鳴雷、と……歌見」

「セイカっ! 無事か? 頭打ってないか?」

「え? うん……」

思い詰めているようには見えない。

「狭雲、なんでこっちに来たんだ? 気付いたら居なかったから俺達は驚いたし心配したんだぞ」

「え、ごめん……猫が居たから……猫、ほら」

セイカが指しているのは車の下だ。俺と歌見はその場にしゃがんで車の下を覗き、車の下でくつろいでいる猫を見つけた。

「……お前ら地面に手もつかずに覗けるのか」

「義足って膝曲がらないのか?」

「曲げれはするけど曲げようとしなきゃ曲がらない」

生身の足しか持たない俺は普段膝を曲げようと意識したことはない、そういうことを言いたいのだろうか。

「下ちょっと粒大きめの石だろ、バランス崩してコケて……ちょうどいいからそのまま四つん這いで覗いてた」

立ち上がらせたセイカの服の砂埃を払ってやり、傷の有無を確認する。無事だ、セイカが長袖長ズボンを好む性格でよかった、でなければ擦り傷くらいはあっただろう。

「狭雲、お前そんなに猫が好きなのか?」

「秋風が好きって言ってたから、連れてこれたら喜ぶかなって……」

「アキに教えればよかっただろ。セイカ、前に約束したよな。どこかへ行く時は俺に目的地と同行者と帰る時間を言うって! 近くに俺が居なかったら周りのヤツに伝言を頼むとかしろ! 心っ配……したんだからなぁ……このっ、バカぁ……」

「…………ごめん。でも、コテージの裏側回っただけでそんな……どこか行くとかじゃ、ないし」

「お前は自分がどう思われてるか自覚しろよ! 入水自殺しに行ったんじゃないかと思ったんだからな!?」

「鳴雷に許可取らずに死ぬ訳ないだろ」

「そんな許可一生出さぁーん! 不死身でいてくれマイハニー……」

真面目な雰囲気になり過ぎないようにおふざけを無理矢理足していたが、セイカを抱き締めると安堵が涙となって溢れ出した。

「……え、鳴雷……泣いてる?」

「よ、よがっだ……大したことっ、ない理由でぇ……勝手に、離れないで……せぇかさまぁ……」

「…………うん、ごめん」

「バーベキュー終わるまで義足は取り上げます……」

「こら」

ぽこんっ、と歌見に頭を叩かれた。



歌見に叱られたので義足はそのままにし、セイカには自らの足で庭に戻ってもらった。彼と共に歩くまで気付けなかったことだが、砂利や芝生の上は彼にとって歩きにくい場所らしい。しょっちゅうバランスを崩していた、俺が隣に居なければ何度か転んでいただろう。

「危ないからやっぱり足取りたい……」

「ダメだ」

「これは俺の身勝手な独占欲とかじゃなくて安全を考慮してのアレなんですけども」

「だ、め、だ」

歌見に額を強めにつつかれた。三回も。

「狭雲が付けっぱなし辛いなら外させてもいいし、狭雲が自分でこの辺は歩きにくいとかお前が心配するとかで歩かないならそれでいい。お前が勝手に外すな!」

「ド正論……セイカぁ、転びそうで危ないし、付けっぱじゃ疲れるだろうから外しとこ? 肉とかは取ってやるから……なっ?」

「う、うん……」

チラッと歌見の方を見ると彼は深いため息をつき、肉を焼いていたシュカに話しかけてトングを受け取った。肉を焼く役を交代したらしい。

「ここ置いとくからな」

カポッと義足を外しても歌見は何も言いに来なかった。俺はセイカの義足を彼が座っている椅子に立てかけ、彼の紙皿を持ってコンロの傍に立った。

「狭雲のか? 野菜串も渡してこい、最低でも一人一本って年積が言ってたぞ」

セイカの椅子の隣に小さな机を押して動かし、肉と野菜串が乗った紙皿を乗せた。ちなみに野菜串は紙皿から半分以上はみ出している。

「タレと塩どっちがいい?」

「……どっちが好き?」

「俺か? この肉はタレがオススメだぞ」

「じゃあそれ……」

調味料は野外キッチンにある。それを取りに向かい、帰ってくると机にオレンジジュースが置かれていた。

「あれ、これ……」

「時雨が運んできてくれた」

「カンナたんマジ天使」
(そうか、よかったな。お礼言ったか?)

おっと、本音と建前が逆転してしまった。セイカは快適に過ごせているようだから、少し離れてもいいだろう。

「リュウ~? 大丈夫か? 米」

「水月ぃ、おこげどや……? 好かん……?」

「おこげ? あぁ、焦げたとこか。ばっかじゃ嫌だけどちょっとくらいなら好きだぞ」

飯盒炊爨はやはり失敗していたのかとリュウが頑張って飯盒から大皿に移した米に視線を移す。焦げの範囲は広いもの炭化と呼べるまで焦げた箇所はほとんどなく、おこげとして楽しめそうに見えた。

「めっちゃ焦げ茶……まぁでも、美味そうだな」

「せやんなっ? ええやんなっ? よかったわぁ~」

安心したように笑ったリュウは他の彼氏達を呼び集めた。文句を言う者は誰も居らず──

「この人数で分けると少ないですね……」

──訂正。焦げたことに文句を言う者は誰も居なかった。

「もっと食べたいです。もっと炊きましょう」

「俺もう米当番嫌やで、とりりんやりぃや」

飯盒炊爨から開放されたリュウは大きく伸びをし、これまで食べそびれていた肉などを食べに向かった。

「水月はご飯食べないんですか?」

「焼肉の時は肉をより多く食べたいから肉だけ食べたい派なんだ」

「炭水化物ないと腹持ち悪いですよ、やっぱり」

「まぁ、そうだな。おこげなんて普段食べられないし、一口くらいいいかもな」

そう言って口を開けて「あーん」をねだったが、シュカは俺の目を見つめておこげを食べた。

「おこげを意図的に作れる炊飯器とかありますけど」

「……うちのにはそういう機能あったかなぁ。あの、シュカ? 一口欲しいんだけど」

いつでも何杯でもおかわり出来る状況ならともかく、おかわりの完成までに時間がかかる今、シュカに寛容はなく、彼は俺の目をじっと見つめたまま分配された米を一粒残らず食べ尽くした。
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